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連載
その正体は4
しおりを挟むその言葉の意味を、一瞬誰もが理解できなかった。
ヴェルムドール達が言葉を失う中、サシャだけが首を傾げる。
「えーっと……私、何か変なこと言いました?」
「変っていうか……えーと、これってつまり」
「常識の違い、だな」
ロクナの呟きを、ヴェルムドールが補足する。
そう、これはシュタイア大陸とレザリカ大陸という二つの大陸の差だ。
最果ての海によって長く分断されてきた二つの大陸の間に交流は無く、それ故に築いてきた文化や歴史、常識といったものは当然異なる。
「魔王」という存在も言ってみればシュタイア大陸の人類史に残る重要事項ではあるが、レザリカ大陸にとっては「そんなものは知らん」となるというわけだ。
「あの……」
「要は、俺がこの辺り一帯を支配する王だということだ」
「あ、なるほど……」
頷いているサシャを見ながら、ヴェルムドールは思う。
レザリカ大陸は、「魔王」を知らない。
これは今後に繋がる重要な情報だ。
魔王を知らないということは、つまり無用な偏見や恐れがないということでもある。
無論その分、余計な軍事衝突を招く可能性がないわけでもないが……「知らない」を前提とすれば、最初のアプローチは大分違うものとなるはずだ。
「あっ! それじゃ王様ってお呼びしたほうがよかったんですよね……」
「いや、構わん。お前の待遇は「俺の客人」だ。くだらん礼節を強要するつもりはないし、時間の無駄だ」
何より、サシャは自分の出身を「村」だと言っていた。
所謂「王」に対する態度や作法というものは国によっても異なるものだが、先程のサシャの挨拶一つをとってみてもザダーク王国とはかなり違うとみていいだろう。
村では王に謁見する機会は無いだろうし、最上位で精々その辺りの支配階級の者だろう。
そうしたものに対する礼儀と王に対する礼儀が異なるのは常識であり、サシャがそれを完璧に知っているとは思えない。
もし知っていたとしても、それは「失礼をしないようにする為の最低限のもの」であり、ヴェルムドールが望む情報を引き出すには不適格なものだ。
……そして何より、そうした堅苦しいものはヴェルムドールは大嫌いだ。
「一般的な最低限の礼儀で構わん。今はたいした時間もとれんが、今後お前には色々と聞きたいこともある」
「はあ。助けていただいたわけですし、それは勿論ですが……そんなことでいいのですか?」
「ああ。だが……それはそれとして気になる物言いだ。他に何かできるのか?」
ヴェルムドールの問いにサシャは「うーん」と呟きながらふよふよと移動し……じっとサシャを見つめていたイクスラースに両手で珠ごと掴まれる。
「あっ! な、何するんですか!?」
「やっぱり。貴女、半魔力体ね?」
「ふへ? そ、そうですけど……それが何か?」
半魔力体。魔力体と肉の体の中間のような身体の事を指し、完全なる魔力体と違い物理的な干渉を可能とする肉体である。
しかしその分、魔力体のような自由な変化は出来ず元の形に縛られやすいのが特徴でもある。
シュタイア大陸ではアルヴァがそれにあたるが……このサシャもそれであるとイクスラースは言っているのだ。
「半魔力体……? 俺はてっきり、魔力体だと思っていたが」
「中に「いる」のはそうでしょうね。でもそれで全部だと考えると、コイツの言動は変だもの。たとえば……ほら」
「はふんっ!?」
イクスラースが珠を撫ぜると、珠の中のサシャがビクリと反応する。
続いてコツンと叩くと不安気にその方向に視線を向け……ギリギリと両側から手で押し潰すように力を込めると、バタバタと慌ててイクスラースの手の中から飛んでいく。
「ひ、ひっどいですっ! 乱暴にしないでくださいって言ったじゃないですかあ!」
「見ての通りよ。大分鈍そうだけど、「珠」の側に外部を感知する何らかの感覚があるのよ。この部分が物理的な干渉を行う身体の一部と見て間違いないわ」
「へえー……なるほどね。ヴェルっちがソレを出した時は確か、中は白く濁っていた。内部にあるのが人間でいう意識、あるいは魂のようなものだと仮定すれば、あの状態はそれが「混濁」していた状態ともとれるわね?」
少し興味が出てきたらしいロクナにイクスラースは「そんなところでしょうね」と答える。
ニノのほうは全く興味はなさそうだが、ヴェルムドールはそれを聞いて成る程と思う。
「中々に面白い種族だな。だが他の人類と比べれば少々違いすぎる外見にも思える」
「あ……えっと、ですね? ひょっとしてなんですけど」
新たな発見に満足そうに頷きあう三人を見ながら、サシャはおそるおそる、といった風に声をかける。
「ひょっとして……ルスペリオ見るのって初めてだったり……します?」
そんなサシャの問いかけに、ニノが「そうだね」と即答する。
「知識としてそういう連中がいるのは知っている。見るのも会うのもお前が初めてだ……というよりだな、お前のいたレザリカ大陸の正確な位置すら分からん。故にお前の要求を満たすにはまず、所在不明のレザリカ大陸に行かねばならんということになるな」
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今回考察されているルスペリオの生態は、あくまでイクスラースの「推測」です。あしからず。
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