勇者に滅ぼされるだけの簡単なお仕事です

天野ハザマ

文字の大きさ
537 / 681
連載

その正体は4

しおりを挟む

 その言葉の意味を、一瞬誰もが理解できなかった。
 ヴェルムドール達が言葉を失う中、サシャだけが首を傾げる。

「えーっと……私、何か変なこと言いました?」
「変っていうか……えーと、これってつまり」
「常識の違い、だな」

 ロクナの呟きを、ヴェルムドールが補足する。
 そう、これはシュタイア大陸とレザリカ大陸という二つの大陸の差だ。
 最果ての海によって長く分断されてきた二つの大陸の間に交流は無く、それ故に築いてきた文化や歴史、常識といったものは当然異なる。
「魔王」という存在も言ってみればシュタイア大陸の人類史に残る重要事項ではあるが、レザリカ大陸にとっては「そんなものは知らん」となるというわけだ。
 
「あの……」
「要は、俺がこの辺り一帯を支配する王だということだ」
「あ、なるほど……」

 頷いているサシャを見ながら、ヴェルムドールは思う。

 レザリカ大陸は、「魔王」を知らない。

 これは今後に繋がる重要な情報だ。
 魔王を知らないということは、つまり無用な偏見や恐れがないということでもある。
 無論その分、余計な軍事衝突を招く可能性がないわけでもないが……「知らない」を前提とすれば、最初のアプローチは大分違うものとなるはずだ。

「あっ! それじゃ王様ってお呼びしたほうがよかったんですよね……」
「いや、構わん。お前の待遇は「俺の客人」だ。くだらん礼節を強要するつもりはないし、時間の無駄だ」

 何より、サシャは自分の出身を「村」だと言っていた。
 所謂「王」に対する態度や作法というものは国によっても異なるものだが、先程のサシャの挨拶一つをとってみてもザダーク王国とはかなり違うとみていいだろう。
 村では王に謁見する機会は無いだろうし、最上位で精々その辺りの支配階級の者だろう。
 そうしたものに対する礼儀と王に対する礼儀が異なるのは常識であり、サシャがそれを完璧に知っているとは思えない。
 もし知っていたとしても、それは「失礼をしないようにする為の最低限のもの」であり、ヴェルムドールが望む情報を引き出すには不適格なものだ。
 ……そして何より、そうした堅苦しいものはヴェルムドールは大嫌いだ。

「一般的な最低限の礼儀で構わん。今はたいした時間もとれんが、今後お前には色々と聞きたいこともある」
「はあ。助けていただいたわけですし、それは勿論ですが……そんなことでいいのですか?」
「ああ。だが……それはそれとして気になる物言いだ。他に何かできるのか?」

 ヴェルムドールの問いにサシャは「うーん」と呟きながらふよふよと移動し……じっとサシャを見つめていたイクスラースに両手で珠ごと掴まれる。

「あっ! な、何するんですか!?」
「やっぱり。貴女、半魔力体ね?」
「ふへ? そ、そうですけど……それが何か?」

 半魔力体。魔力体と肉の体の中間のような身体の事を指し、完全なる魔力体と違い物理的な干渉を可能とする肉体である。
 しかしその分、魔力体のような自由な変化は出来ず元の形に縛られやすいのが特徴でもある。
 シュタイア大陸ではアルヴァがそれにあたるが……このサシャもそれであるとイクスラースは言っているのだ。


「半魔力体……? 俺はてっきり、魔力体だと思っていたが」
「中に「いる」のはそうでしょうね。でもそれで全部だと考えると、コイツの言動は変だもの。たとえば……ほら」
「はふんっ!?」

 イクスラースが珠を撫ぜると、珠の中のサシャがビクリと反応する。
 続いてコツンと叩くと不安気にその方向に視線を向け……ギリギリと両側から手で押し潰すように力を込めると、バタバタと慌ててイクスラースの手の中から飛んでいく。

「ひ、ひっどいですっ! 乱暴にしないでくださいって言ったじゃないですかあ!」
「見ての通りよ。大分鈍そうだけど、「珠」の側に外部を感知する何らかの感覚があるのよ。この部分が物理的な干渉を行う身体の一部と見て間違いないわ」
「へえー……なるほどね。ヴェルっちがソレを出した時は確か、中は白く濁っていた。内部にあるのが人間でいう意識、あるいは魂のようなものだと仮定すれば、あの状態はそれが「混濁」していた状態ともとれるわね?」

 少し興味が出てきたらしいロクナにイクスラースは「そんなところでしょうね」と答える。
 ニノのほうは全く興味はなさそうだが、ヴェルムドールはそれを聞いて成る程と思う。

「中々に面白い種族だな。だが他の人類と比べれば少々違いすぎる外見にも思える」
「あ……えっと、ですね? ひょっとしてなんですけど」

 新たな発見に満足そうに頷きあう三人を見ながら、サシャはおそるおそる、といった風に声をかける。
 
「ひょっとして……ルスペリオ見るのって初めてだったり……します?」

 そんなサシャの問いかけに、ニノが「そうだね」と即答する。

「知識としてそういう連中がいるのは知っている。見るのも会うのもお前が初めてだ……というよりだな、お前のいたレザリカ大陸の正確な位置すら分からん。故にお前の要求を満たすにはまず、所在不明のレザリカ大陸に行かねばならんということになるな」
************************************************
今回考察されているルスペリオの生態は、あくまでイクスラースの「推測」です。あしからず。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。