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アルム、頑張る8
しおりを挟む「その書類は?」
ヴェルムドールの掴み上げた書類にアルムが視線を送ると、ヴェルムドールはつまらなそうにヒラヒラと振ってみせる。
「これか。これはナナルスを通じて届いた、サイラス帝国からの書状だ」
「ほう、内容を伺っても?」
伺っても、も何もヴェルムドールから切り出したのだから話す気ではあるのだが、そこは会話としての礼儀といったものである。
とにかく、その書状とやらが今回のこの集まりの理由の一つであろうことはアルムにも想像がついた。
「会場についてだそうだ」
「会場?」
「ああ、同じような書類が色んな国から届いているぞ」
会場。
そう聞いてアルムが思い浮かべるものは「会議の会場」だ。
ザダーク王国の旗振りと呼びかけで各国で準備が始まっているものの、「会議」を一回もやったことがない。
というのも、各国が牽制しあって「話し合いをしようという状況」に中々至らないからだが……つまり、そうした腹の探りあいが終わったということなのかもしれない。
「なるほど。つまり、言い出したのはザダーク王国なのだから場所を提供しろと。で、それに乗じた各国の諜報が入り込むことが考えられると。そういう危機感を抱いておられると?」
「ならまだいいんだがな」
ヴェルムドールはそう言うと、その書類を山の一つに重ねる。
恐らくはその山が「書状」なのだろうが……ヴェルムドールは忌々しそうにそれをバンと叩く。
「どの国も、自分の国を会場にしようと言ってきている。実にくだらん話だ。そう思わんか?」
「それは……ああ、なるほど」
「へ? どういうことです?」
苦い顔で頷くアルムとは逆に、モカは良く分からないといった顔でヴェルムドールとアルムを交互に見る。
「自分のところを会場にしたいって言ってるんですよね? やる気があっていいですし、言わばザダーク王国……魔族の代表者も招き入れたがっているというのは、えと……革新的なんじゃ?」
「そうだな。やる気があるのは素晴らしいことだな」
「変な色気が付随していなければもっと良かったのですがのう」
「へ?」
ヴェルムドールとアルムの返答に、モカは更に疑問符を浮かべてしまう。
だがまあ、分からないのも当然だろう。
これは、人類の政治的な事情に深く関わる話であるからだ。
「そうだな……ここでいう会議とは、つまり侵攻戦に参加する国々が参加する会議になるわけだ」
「そうですね?」
「そしてこれは人類全体に関わる問題であり、もっと言えば「魔族」も関わる世界的問題であるわけだ。つまり、世界会議というわけだな」
「はぁ」
そう、これは世界の未来の為の世界会議である。
その会場であるということは、主導権を握りたがっている国の中で一歩先んじるということでもあるのだ。
なにしろ、自分の国が会議の主催者となるのだ。
旗振り役はザダーク王国に取られはしたが、会議の主催国という立場を取れば少なくとも人類国家の中では「より積極的で中心的」立場をアピールできる。
「んん……、そこら辺がよく分からないんですけど。なんで話し合いの会場になったら中心的立場になれるんですか?」
「ああ、そうか。そこが分からないのか」
そもそも魔族に「話し合い」などという文化が生まれたのは最近の事だ。
どうやっても遺恨の残る「話し合い」など無用というのがその理由だが……つまり、そんなものの会場になったところでどれ程のものかというのが魔族的思考なのだ。
「要は積極性の問題じゃな。我が国が主導した、我が国が導いた……言い方はなんでもええが、要は「世界を主導した」という称号が欲しいのじゃよ」
「主導したのは魔王様じゃないですか」
「そんな事はどうでもええんじゃよ」
アルムは言いながら、手をパタパタと振る。
「会議を主催した場所」というものは、その国に歴史的な場所として残る。
そして会議の主催者としての地位を勝ち取れば、その後の方向性にも多少の有利を得られるかもしれない。
……まあ、実際にはもう少し各国なりの事情は絡むが、基本としてはそんなところだ。
簡単に言えば様子見の期間は終わり、一気に主導権をとりにきた……ということだ。
そしてその為に、現状旗振り役として「主導権」をもっているザダーク王国宛に「是非ウチで開催しよう」と持ちかけてきている……というわけだ。
「見ろ、この書状など聖アルトリス王国からだぞ? 他の国同様にジオル森王国を経由して送ってきているが……まさか送ってくるとは思わなかったぞ」
「聖アルトリ……ああ、あの亜人論とかいうアホ話の発祥国ですな」
聖アルトリス王国からの書状の内容は、纏めれば簡単だ。
この世界の危機を前に、あらゆる誤解や偏見を越え団結するべきである。
我が国も、亜人論などという暴論は望んではいない。
その姿勢を明確にする為にも、真の団結のためにも我が国を会場とすることに意味はある。
……まあ、こんな感じのことがゴチャゴチャと書いてあるわけだ。
「正論ではあるが、な。だが同時に暴論でもある。万が一全て本気で言っていたとして、現時点で国内を制御できていないなら会議の当日も制御できるわけがない」
理想は美しい。それを追う事をヴェルムドールは絶対に否定しない。
だが、「理想」に至るのに「理想の道」を通れることはまずない。
何故ならば、必ず「現実」がそれを阻むからだ。
それが見えていない者を、ヴェルムドールが肯定する事は絶対にない。
「……まさか、本気でこんな書状を送ってきているとは思えんがな。そうだな、ジオル森王国を経由することを前提にした実績作りというところか」
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