勇者に滅ぼされるだけの簡単なお仕事です

天野ハザマ

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世界会議の前に6

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 さて、当たり前の話だが……鉱山とは無計画に掘ればいいというものではない。
 特に山自体が鉱石という財産の出る財布のようなものである以上、その管理は徹底されなければならない。
 具体的には「最初の入り口」というものがしっかりと定められている。
 そこからの出入りを監視することで、起こるかもしれない様々な問題を事前に防いでいるのだ。
 
「だからこそ、妙なんだよなあ……」
「妙、ですか?」

 鉱山の入り口へと続く高低差の激しい道を歩きながら呟くキースに、レンファは怪訝そうな顔をする。
 レンファからしてみれば、特におかしなことは見当たらない。
 だがキースが言うからには何かを見落としているのかもしれないと思い返すが……やはり分からずに首を傾げる。

「ああ、妙だ。この先にあるのは確か個人所有の鉱山だったと思うが……それでも場所が場所だ。所有には相当厳しい管理義務があったはずだが」

 そう、サイラス帝国が鍛冶などを中心とする国である以上「鉱山」というものは最重要の管理物件である。
 貴重な鉱物の出る鉱山は当然国の管理下にあるが、一般的な鉱物を産出する鉱山はサイラス帝国の国民に管理が任されることもある。
 国の決め事さえ守れば販売権も与えられるとあって、実質的な「個人所有」という形になっているのだ。
 この先にある鉱山も出るのは鉄であり、そうした「個人所有」の中の一つである。
 ただし首都であるドークドーンに近いことから「何か」……つまり盗賊のアジトになることやゴブリンの巣になることを防ぐ為に、一定以上の防衛戦力の配置が義務付けられている。
 平たく言えば冒険者等を雇って常駐させる必要があるわけだが……まあ、色々な理由をつけて冒険者ではなくその辺のチンピラを雇う者も時折いる。
 いるが……王都に一番近い鉱山だ。
 当然騎士団の視察も入るだろうし、そんな真似ができたとも思えない。
 ということは配置されていたのはマトモな冒険者のはずだが、そんな連中が「連絡がつかなくなる」ようなヘマをするだろうか。
 道が塞がった時点か、ゴブリンによる襲撃があった時点。
 どちらかの時点でまともな冒険者なら連絡をつけるべく行動を開始する。
 それが出来ていないということは「出来る状況にない」ということだ。
 まあ、単純に鉱夫達の身の安全の確保を優先して……ということもあるだろうから、それはいい。

 妙なのは、今回の連絡が付かなくなった原因そのものだ。
 マトモな冒険者であれば、命綱とも言える道の確認は必須だ。
 当然、今回崩れた道も巡回ルートに入っていたはずだが……迅速な対応が不可能になるほどの大雨や揺れがあったかといえば、答えは否だ。
 だからこそ、妙なのだ。

「……土砂崩れが意図的なものとして、だがゴブリン共にそんな頭があるとは思えねえ。となるとゴブリン以外の何かの思惑がある事になるが……ゴブリン共を指揮してやがる何かがいるっていうのか?」
「え、で、でも。気をつけていても気付かないってことは、ありますよね?」
「まぁな。だがそれでも「迂回路」くらいは確保してて当然だ。それが出来ねえド素人の集団だったならまだいいが……」

 そう、それなら話は簡単だ。
 さっさと迂回路を通って現地へ行き、ゴブリンを蹴散らせばいい。
 ド素人の集団には物申したいことがないでもないが、出来る範囲でやるべきことをやっていたならば別にキースが口を出すべきことでもない。

 ……だが、そうでなかった場合が問題だ。
 そう、たとえば。

「おっと、隠れろ」

 人の気配がしてきた事に気付きキースはレンファを抱えて物陰に隠れる。
 幸いにも高低差が激しく木々が鬱蒼と生えているこの場所では隠れる場所など幾らでもあり、キースの視線の先にいる人物達はキース達にまだ気付いていないようだった。
 頭から足先まですっぽりと包む頑丈そうな薄く緑色に輝く鎧に身を包んだ騎士が二人其処に立っており、警戒するように辺りを見回していた。

「……緑銀騎士団か。魔法騎士を出すたぁ、この件をそれなりに重く見てるってことか……」

 こちらは怪しいことをしているわけではないのだから堂々と出て行ってもいいのだが、彼等が道で警戒しているのは先に進もうとする者を止めようとしているからなのは明白だ。
 そしてそれは民を守る騎士として当然の義務であり、それに文句をつければこちらがならず者である。
 恐らくは更に先に進めば土砂を撤去しようとしている者達がいるのだろうが……別に会ったからどうというわけでもない。

「此処から道を外れたほうが良さそうだな」
「は、はい」

 音を立てないようにキース達はそっと道を離れ、騎士達から遠ざかっていく。
 ここから先は地図にもない道だが、目的地さえ分かっていれば迷う事もない。
 騎士達がそこを通らないのは、不測の事態に望まなければならないほど事態が切迫していないと考えているからだろう。
 ということは、土砂崩れの先でゴブリンの声が聞こえてくるとか戦闘音が響いているとか、そういうことはないというわけだ。

「行くぞ。道は分かってるんだな?」
「は、はい」
「よし、先導してくれ」

 そう小さな声でキースが囁くと、レンファは緊張したようにごくりと唾を飲み込んで……やがて、意を決したように歩き始めた。
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