勇者に滅ぼされるだけの簡単なお仕事です

天野ハザマ

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世界会議の前に11

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「なんで、って言われてもなあ……」
「あのクソゴブリンは俺の事を「勇者の仲間」だと言いやがった。ついでに言えば、どうにも俺を狙ってた気がしてならねえ」

 これに関しては、勘違いではないという確信がキースにはある。
 あのゴブリンアサシン達は、レンファをほぼ無視してキースへ向かってきていた。
 その理由は分からない。
 だが、どうにもこの男が何かを知っているような気がしてならなかったのだ。

「……ケッ、知らねえよ」
「そうかい。なら別にいいさ。お前を此処に放置して、俺たちゃ騎士団にこの件を伝えるまでだ」

 そう、それで終わりだ。
 予定外の仕事にもならない雑用も、それで全て終わる。
 だが、アインのぽつりと呟いた言葉がそんな目論見を打ち砕く。

「……残念だが、そうはいかないようだ」
「あ、あああ……あ、あれって……」

 振り返る。
 開け放ったままであった、扉の向こう。
 その向こうに立つ、黒い異形の群れ。
 人のような形をしていて、そうではない。
 蝙蝠のような翼を持つ、理解不能の「全ての生物の敵」。
 一体で小さな村なら滅ぼすという、化け物じみた戦闘力を持つという生き物。
 アルヴァの群れが、そこに居た。

「ヒッ……」
「下がっていろ」

 レンファが怯えるように後ずさり、アインがレンファを庇い開けたままの入り口から少しずつ離れていく。
 閉めようと思えば出来るのにやらないのはアルヴァ相手では扉を閉めても意味など無いし、それだったら開け放ったままで入り口を意図的に限定した方が良いという判断である。

「アルヴァ……だが、あの数は……!?」
「どうやら、ハメられたようだな」

 アインの言葉にキースはメタリオの男の方へと振り向き……するとメタリオの男は卑屈な笑みを浮かべて笑い出す。

「へ、へへへっ……なんだよ。俺は何もしてねえよ。ただ話をしてただけだろ? 俺が何をしたってんだ」
「……そうか。お前、よりにもよってアルヴァと取引してやがったのか」
「まあ、そういうことになりますね」

 アルヴァの群れの中から、体格の違うアルヴァが一体進み出る。
 他のアルヴァと違い、より「人に近い」均整のとれた身体。
 そのせいか、より奇妙と成り果てたそのアルヴァはまるで執事か何かのような美しい一礼をし……キースへと、その視線を向ける。

「初めまして、勇者の仲間キース様。ワタクシ偉大なるアルヴァクイーンに仕えておりますゼグラノギアでございます。本日は私共の用意いたしました舞台にご参加頂き感謝致します」
「舞台だあ……? 招待状を受け取った覚えは無いがな」

 キースが剣をゼグラノギアへ向けると、ゼグラノギアは軽く首を傾げてみせる。

「はて、確かに送ったはずなのですが……行き違いになりましたでしょうか?」
「ハッ! アルヴァからの招待状なんざゾッとしねえ。行き違いになって正解だぜ」

 何処に送ったのかは知らないが、それが宿であるならば其処にはトール達がいる。
 もはや丸く収めることが不可能な以上、一刻も早くトール達に来てもらったほうがいい。
 それまでは、エリア王女の護衛だというアインと……精神的には頼りないが、レンファとの三人でなら時間を稼げるだろう。
 そう考えてアイン達のほうへと視線を送ると……アインの腹から、剣が生えているのが見えた。

「なっ……」
「ぐっ……くあっ!」

 剣を無理矢理引き抜くように前方へとダッシュしたアインが、背後に誰も居ない壁を背にしてキース、レンファ、ゼグラノギアを順に睨みつける。
 だがキースには何が何だか分からない。
 見えるのは口元から血を流し腹の傷口から血が染み出ているアインと……血に塗れた剣を握っている、レンファだけだ。

「え、お、おいレンファ。お前何やって……」
「あ、え、あ。え? ご、ごめんなさい! 私ったら、なんて……」

 キースの呼びかけに顔を真っ青にしたレンファは自分の仕出かしたことを悔いるかのように顔を下に向ける。

「なんて、なん……て……」
「おいレンファ! しっかりしろ!」

 冗談ではない。
 アインが傷ついてレンファまで使い物にならないどころか足手まといになるのでは、実質キースが一人で戦うことになってしまう。
 それでは控えめに言っても、命をかけたところで勝ち目は無い。
 なんとかレンファを正気に戻すべくキースは何が面白いのかニヤニヤしているゼグラノギアを警戒しながらレンファに近づいていく。

「レン……」
「なぁーん……ちゃって」
「!?」

 ゆっくりとあげられたレンファの顔は、どうしようもなく邪悪な笑顔に彩られていて。
 無音のまま振り抜かれた剣が、一瞬早く気付いたキースの肩を浅く薙ぐ。
 バックステップで下がったキースをきょとんとした目で見たレンファは、残念そうに息を吐く。

「なぁーんだ。避けちゃったんですかキースさん」
「お、お前……なんで……」
「なんで? なんで斬ったのか、ですか? それともなんでアインさんを刺したのか、ですか?」

 全くどもらずスラスラと言葉を紡ぐレンファ。
 その様子に絶句しながらも、キースは言葉を探す。
 いや、ただ言葉にするだけなら簡単だ。

 何故、裏切ったのか。

 そう言ってしまえばいい。
 何故、人類を裏切ったのか。
 だが、そう言ってしまったが最後……レンファが完全に敵になってしまうような気がしたのだ。
 だが、キースが言葉を紡ぐ前に無数のナイフがレンファに向かって放たれ……しかし、その全てをレンファの剣が弾く。

「そいつは……偽者、だ」

 傷などなんでもないというかのようにナイフを両手に構え再度投擲するアイン。
 だが、二度目の投擲も……ほぼ時間差なしで放たれた三度目の投擲もレンファは弾く。
 その恐ろしいまでの剣の技術は、キースが知るレンファよりも更に上だ。
 だが、その剣筋はキースが知るレンファそのものだ。
 ここまでの才能を持つ「偽者」など、いるはずがない。
 それであるが故に、キースは叫ぶ。

「ふざっけんな……こんな、こんな……本人そのものな偽者がいるかよ!」
「そうですよね、キースさん。私は本物のレンファ。キースさんなら、分かってくれますよね?」

 そう言って、レンファはキースへと剣を振るう。
 その剣撃をキースが受け止めると、レンファは「ほら」と言って笑う。

「私がどう動くか分かってる。他の誰が何と言おうと、キースさんの剣は私が本物だって言ってます」
「う、お……」

 レンファの剣を弾き離れると、キースはゼグラノギアに向かって叫ぶ。

「何をした……てめぇ、レンファに何をしたぁ!?」
「さあ? っとお!」

 短剣を握り斬りかかってきたアインの斬撃を、ゼグラノギアは爪で防ぐ。
 だが、アインの蹴りがゼグラノギアを外へと吹き飛ばし……アインは、ソレを追いかけ外へと飛び出していく。
 迷わず殺せ、と。そんな言葉だけをその場に残して。

「……キースさん」
「レンファ、レンファ! 目を覚ませ!」
「ふふふ、キースさんってば。私はちゃんと目が覚めてますよ?」

 剣を構えなおすレンファに剣を向ける決心がつかず、キースは震える手で盾を向ける。
 そんなキースを見てレンファはクスクスと笑い……キースへと、艶っぽい笑みを向ける。

「……ねえ、キースさん。知ってました? 「私」は、ずっと……キースさんのこと、好きだったんですよ?」

 キースは、それに答える術をもたない。
 どうすればレンファが正気に戻るのか。
 そればかりを考えて、しかし考えが纏まらない。

「優しいキースさん。憧れだったキースさん。私と同じになって、また会いましょう?」
「お、おおおおお!」

 そして再び……二人の姿は、交差した。
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