勇者に滅ぼされるだけの簡単なお仕事です

天野ハザマ

文字の大きさ
592 / 681
連載

世界会議4

しおりを挟む

 そうして集まる視線に心の中で舌打ちをしたのはアルムである。
 しばらくは様子を見ているつもりが、援護射撃付きで話を振られてしまった。
 先鋒だか何だか知らないが、そんなものはやりたい連中に任せるつもりだったのだ。
 しかしながら、こうして話を振られてしまったからには反応せざるを得ない。

「そうですのう……我が国としては、先鋒である事に固執するつもりはありませんな。他に希望する国々があるとすれば尚更ですわい……我が国よりも、この大陸の四大国の方々の希望はどうなのでしょうかの?」

 故に、アルムは無難な台詞で居並ぶ四大国……すなわち聖アルトリス王国、サイラス帝国、ジオル森王国、キャナル王国の代表者へと話を投げる。
 いずれかの国がやりたいと言えば、それを後押ししようという腹積もりであるが……一番最初に口を開いたのは、キャナル王国の代表者である光杖騎士団長のアンナという女であった。

「我が国としては、ザダーク王国の方々が先鋒というのは良い事なのではないかと考えています」

 内戦で疲弊しているとはいえ四大国の一角であるキャナル王国側の発言に中小国がざわめき、先ほどから威勢のいい発言を繰り返していたアルスレイが慌てたように叫ぶ。

「な、何を言っているのだ! 栄えある先鋒を簡単に譲るなどと……臆したか!」
「そちらこそ何を言っているのですか。先鋒であるということは祈国の方の仰るとおり「盾」であり「露払い」であるということです。当然、それを切り払い押し返す戦力が求められます。貴方方に、それが可能なのですか?」
「そ、そんなもの。我が国の闘士達の力を持ってすれば……」
「なるほど。では、アルヴァ相手に一対一で勝てる兵士が揃っていると。それは素晴らしい事ですね?」

 アンナの皮肉じみた賛辞にアルスレイは悔しそうな顔で黙り込み……しかし、今度は別の男が声を上げる。

「どの国が行くかはともかく……我が国はザダーク王国が先鋒というのには反対ですな」

 すっかり禿げ上がった頭の壮年の男は、中小国の一つ「デルサエル皇国」の代表者であり外務大臣であるという男である。
 何の特徴もない帝政国家であるが、ここに居並ぶ国々の中ではそれなりに大きいほうである。

「そもそもの話になりますが、我等が皇帝はザダーク王国をそこまで信用しておられない。万が一……ええ、万が一の話ですが、ザダーク王国の魔族達とアルヴァ共が繋がっていたら如何されるおつもりか」
「む、確かに……。我が国の王も同じような懸念を抱かれておりました」
「そうですな、罠でも仕掛けられたら……」

 別の国の代表者がそんな事を言えば、中小国の代表者達の間でざわめきが広がっていく。
 そんな面倒くさい小芝居をするよりは纏めて魔法で吹っ飛ばしたほうが余程話が早いのだが、どうせ会議が荒れるだけだとアルムは溜息をついて議論の様子を見守ることにする。
 何やら向けられる視線に敵意じみたものが混じっている気もするが、ゴブリンの癇癪のほうがまだ怖いというものだ。

「何やら盛り上がっているようですが、発言してもよろしいですか?」

 だが、そんな喧騒も一人の女が立ち上がった事でピタリと止まる。
 お団子に纏め上げた金色の髪が特徴的なその女は、ジオル森王国の代表者の一人であり……確か政治屋ではないはずの「英雄」ルーティ・リガスである。
 そんな彼女が「発言する」と宣言してまだ喋り続ける事が出来る者はどうやらこの場には居なかったようで……議場はしんと静まり返る。

「感謝します。さて、ザダーク王国の事について随分と噂話で盛り上がっているようですが」

 噂話、という単語にルーティは力を込めて口にする。
 そう、証拠の無い話は所詮噂話である。悪口と言い換えてもいい。
 そんな無責任な話で盛り上がっている中小国の面々にまずは遠まわしに釘を刺したわけだ。

「当然、ジオル森王国がザダーク王国と友好関係にあると知った上での発言なのですよね?」
「ああ、キャナル王国もまだ限定的ではありますが友好条約を結んでいますね。サイラス帝国も交渉中だと伺いましたが?」
「……確かに。我が国も交渉中である」

 アンナがサイラス帝国の代表団に話を振ると、むっつりとした顔の「銀の第一席」シャイアロンドがそう答える。
 何がそんなに不満なのかはアルムには分からないが、この前会った「銀の第二席」のトルクレスタはこの場にはいないようだった。

「さて、このような状況下でザダーク王国の悪意ある噂話とは、我々を無能と侮辱しているも同然ですが……まさか、遠回しに我々三国にケンカを?」
「え、あ、いや! そんなつもりは……」
「ええ、ええ! あくまであらゆる可能性を……!」

 一斉にそんなつもりはないと繰り返す中小国に、ルーティとアンナは呆れたような目をして、シャイアロンドはむっつりとした顔で小さく溜息をついて立ち上がる。

「ルーティ殿もそのくらいでよかろう。多数の国が一同に集まれば揉めるは必定というもの。ザダーク王国の方々は気を悪くされるかもしれんが、魔族絡みの話にナーバスになるのも仕方の無いことでもある」

 そう言うと、シャイアロンドはアルムへと視線を向けた。
 
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。