勇者に滅ぼされるだけの簡単なお仕事です

天野ハザマ

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アルヴァ戦役13

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 ヴェルムドールとしては率直な質問に率直な答えで返しただけなのだが、ルーティ含む各国の軍の代表陣は絶句してしまっている。
 まあ、仕方ない事ではある。
 なにしろ一国の王が別働隊に組み込まれていた上に理由を聞けば「俺が一番強いから」である。今時、ワンパクなはねっかえりだってそんな事は言わない。
 しかしヴェルムドールは「魔王」である。
 一番強いというのが誇張でないことは分かるし、それ故に反応に困ってしまうのだ。
 そんな沈黙から一番早く回復したのは流石というべきかルーティであり、言葉を選ぶようにゆっくりと語りだす。

「……な、なるほど。それでヴェルムドール王。貴方が此処にいるということの政治的意味はご存知ですね?」
「気にするな。俺は別働隊の一員という個人の立場で来ているだけだ。正体を隠すのは不義理と思ったからファイネルに発表させたに過ぎん。この場での我が国の軍の最高意思決定者は変わらずファイネルだし、そちらの作戦立案に首を突っ込む気も無い」
「本隊に関してはそれでもいいでしょう。しかし別働隊に関してはどうします? 一国の王を作戦指揮下に組み込む者の身にもなってください」
「なんだそんなもの。別働隊とはそもそも敵中枢目掛けて突っ込む隊だろう? 突撃以外に何の指示を出すというのだ」

 そう、別働隊は決死隊でもある。
 もっとも「死ににくい」者を集めて死にやすい場所へと突っ込んでいくのだ。
 単体でも人類を虐殺できる者達の群れに大人数という利点すら捨てて突っ込む別働隊は活躍できれば確かに花形だが、そうならない可能性も高いのだ。

「全員分かっているはずだぞ。別働隊に選ばれた以上、半端な者程簡単に死ぬ。半端な者でなくともあっさりと死ぬかもしれん。ならばせめて、自分の指揮は自分にとらせてやるべきだろうと思うがな」
「……指揮官を定めるべきではない、と?」
「大損害を約束された部隊の指揮官になる奴が不幸だ。致死毒の沼に飛び込めと言われた方がまだ望みがあるだろう」

 確かに、闘国の件もある。今後我もと参加を熱望してくる国が出てこないとも限らないし……そうなると、別働隊は「国単位」で個別指揮としたほうが後々不都合が無い。
 人類全体の問題に関する処置としては歯噛みするような半端さではあるが、「戦った、勝った、めでたし」では終わらないのが政治の世界というものだ。
 故にテントの中に集まった代表者達は顔を見合わせ頷きあう。

「……では、そのように。ご武運をお祈りします」
「ああ」

 一礼して出て行こうとする代表者達を見送ろうとして……その背中に「ああ、そうだ」と声をかける。

「人員の追加だ。此処にいるイチカも別働隊に参加する」
「……了解しました」

 振り返ったルーティはイチカと軽く視線を交わしあい……しかし、それ以上は何も言わずに身を翻す。
 そうして彼等が出て行ったのを見送ったタイミングで、今度は赤い鎧を纏ったサンクリードが中に入ってくる。

「よかったのか? 随分ぞんざいに扱ったように聞こえたが」
「あんなものだ。向こうがこちらを一国の王として扱う以上、俺もその立場で動かねばならん」
「ですが、問題も発生しましたね」

 イチカの言葉にサンクリードは疑問符を浮かべ、ヴェルムドールは「そうだな」と返す。

「一部の国は自国の王か王族を招聘できぬかと動くかもしれん。今回の連中の対応は正しいが、こうした大規模な国際的連合の場で一国の王権というものが一定の力を及ぼしうると……いや、ある程度の不利益にさえ目を瞑れるならば「やったほうの勝ち」的な側面があるということを示してしまった」

 そうなれば当然、そうした国々は出撃までの時間を稼ごうと会議の引き延ばし工作に出るだろう。
 大国でそうした国があるとも思えないからやろうとするならば中小国だろうが……中小国でも王族が出張ってくればそれなりに面倒な事態になるのは避けがたい。
 大国の代表者の面々もそこは理解しただろうから、引き伸ばし工作は突っぱねるだろうが……ヴェルムドールのせいで面倒事の種が撒かれたと思われる事だけは避けられないだろう。
 しかし、だからといってヴェルムドールが此処に来ないという選択肢は無かった。

「……面倒だ。政治とは実に面倒だ。力で頭から押さえつけたくなる連中の気持ちも分からんでもない」

 国同士の力関係には少なからずそうしたものが絡んでおり、いわゆる「外交的圧力」で要求が通されることも少なくは無い。
 だがそれは当然関係の悪化を招き、以後の火種を生む事になる。
 それ故に「国際協調」をテーマとしたザダーク王国にそういった手段をとるという選択肢はないのだ。

「……王はどう見る。あの会議は長引くと思うのか?」

 鎧を脱いで投げ捨て始めたサンクリードをイチカが睨むが、サンクリードは全く気にせずそんな事を問いかける。
 
「ふむ……いや、そうはならんだろう。むしろ、結論を急ぐと俺は見ている」
「何故だ?」
「簡単だ。長引けば余計な問題が増えるとハッキリしているからな……まあ、2、3日中には全ての準備が整うだろうさ」

 そんなヴェルムドールの予想通り……2日後には全ての調整が終わり、全軍出撃の時がやってきたのである。
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