勇者に滅ぼされるだけの簡単なお仕事です

天野ハザマ

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アルヴァ戦役16

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「ヴェルムドール!」
「どうした、ルーティ。空の連中はもういいのか?」
「あんな連中は問題じゃありません。そうでしょう?」
「何故そう思う」
「あんなものは囮だからです。だから貴方達は動いていないのでしょう?」

 ルーティが言い切ると、ヴェルムドールは小さく笑う。
 そう、その通りだ。
 あんなに仰々しく次元城の仲間のようなものを出しておきながら、襲撃をかけてきたのは上空から。
 それも無数というわけではなく、アルヴァとの戦闘経験などないような中小国の騎士を含めた連合軍と「いい勝負」が出来る程度の数だ。
 しかも、少し離れた別働隊には攻撃を仕掛けてこないようなずさんさだ。
 そんな頑張れば対処できる「奇襲」など、ヴェルムドールがアルヴァクイーンであれば絶対にしない。
 ……ならば、もう一段ある。これを仕掛けとした、襲撃が。

「ならば我々はどうしたらいい、ヴェルムドール王」

 意外にもその場に待機していた闘国の「特級闘士」とかいう男がそうヴェルムドールに問いかけてくる。
 キャナル王国の選抜隊やアゾート、そしてカイン達もヴェルムドールに注目しており、彼等を代表するかのようにアゾートが口を開く。

「たぶん、此処じゃ王様が最強さ。つまり結果を出すのが仕事のアタイ達にとって、王様についていくのが一番いい。で、そこの闘国の連中も結果を出さなきゃならないんだろうさ。で、キャナル王国はそっちの国と同盟国……だろ?」
「指揮を執れと?」
「そこまでは言わないさ。責任の類を押し付けるつもりも無い。だが、アンタには何か連中の先手で動く状況を突破する何かがあるんだろ? それに乗らせてくれないかい?」

 アゾートの提案に、ヴェルムドールはフンと鼻を鳴らす。
 確かに、手段はある。
 あの遠くにこれ見よがしに陣取っているアルヴァクイーンに一泡吹かせる、手段が。
 だがそれをルーティやアゾート、ついでにカインはともかく他の者達にも悟られたという事は……それだけヴェルムドールが「期待」され、注目されていたということだろう。

「キャナル王国の連中も……カインも同じ意見か」
「はい、ヴェルムドール王。セリス様からもヴェルムドール様のお力になるようにと厳命されております」
「あ、僕達もいい手段あるならのせてもらえれば……」
 
 すでに結論は出ていると言わんばかりの速さで答える二人に、ヴェルムドールは「そうか」と呟き……黙って巨大次元城の方角を眺めているラクターに視線を向ける。

「ラクター。見えるか」
「おう、集まってきてるな。コソコソしてやがるぜ」
「コソコソ……?」
「アルヴァ共だ。くくっ、そこで本隊と戦ってる連中のざっと十倍ってとこか」

 そう、今奇襲をかけてきた連中は囮でしかない。
「俺達ならアルヴァとも戦える」と……そう思っている所に更なる人数で攻撃を仕掛けてくる。
 相手の心を折るには良い手段だし、ひょっとすると更なる大軍をもすでにスタンバイさせているだろう。
 ならば、まずはその作戦を叩き潰す。
 それが、始まりだ。

「いいだろう」

 ヴェルムドールはそう言うと、別働隊の面々に自分の周りに集まるように告げる。
 事情を理解しているイチカ達以外は不思議そうな顔でヴェルムドールの言うとおりに集まってくるが……そこで、イクスラースが少し不安そうにヴェルムドールの服の裾を引っ張る。

「……ちょっと、ほんとに大丈夫なの? 私達はともかく、人類はヤワだから落ちたりしたら……」
「心配いらん。ラクター、やれ」
「任せな、魔王様」

 イクスラースの心配を一言で切って捨てるとヴェルムドールはそう命令し……ラクターは極彩色に明滅する地面を蹴って飛ぶ。
 正常な大地であれば轟音が響くであろうその跳躍が何の音も振動も起こさなかった事実に、やはり正常な場所ではないとヴェルムドールは考え……しかし、そんな余裕があるのはヴェルムドールを含む魔族達だけだ。
 他の別働隊の面々はいきなり空高く、しかも遠くへ跳んでいったラクターを目で追い……次の瞬間、上空に輝きと共に現れたモノに驚愕する。

「オ……オオ……オオオオオオオオオオオオオオオッッッ!!」

 それは、ドラゴン。
 伝説の中に埋もれ、今となっては英雄譚のラストを飾るだけの怪物。
 黒い鱗に覆われた身体と、一撃で山をも削り飛ばしそうな腕と脚。
 二本の角が巨人を貫く槍であるかのごとく頭部に生え、ずらりと並んだ牙は選りすぐりの名剣を並べたかのようだ。
 そして何より、その体内から溢れ出る魔力。
 魔法の才能に乏しいものでも理解できる、圧倒的な生命としての格の差。
 蹂躙する為に生まれた者が如何なる者であるかを感じさせる絶望の化身が其処にいるのだ。
 だが、そこまで感覚で理解できても彼等は知らない。
 ラクターこそが、その魔族の中でも強力な生物であるドラゴンの中でも最強のドラゴン……魔王に最も近いと謳われし「魔竜ベイルドラゴン」であるということを。

「おうおう、刺激されて出てきやがったぜえ……! 早く乗りな、魔王様よぉ!」

 ラクターの視線の先では、巨大次元城から飛び出してきたアルヴァの大群の姿がある。
 それはヴェルムドールの予想通りの数で……しかし、ラクターには余裕すら透けて見える。

「どのくらいぶりか忘れちまったが……久々の全力だ! 纏めて……死ぃねやぁぁ!」

 息を吸い込んだラクターの口が開かれた次の瞬間、漆黒のドラゴンブレスが放たれる。
 それは飛んで来ていたアルヴァ達に絡みつくように広がっていき……文字通り、跡形も無く消滅させたのであった。
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