勇者に滅ぼされるだけの簡単なお仕事です

天野ハザマ

文字の大きさ
634 / 681
連載

アルヴァ戦役19

しおりを挟む

 世界は、混乱に陥っていた。
 だが……そんな状況で何故連合軍が気がつかないのか。
 それは単純で、次元の狭間の入り口が一時的に閉じているからである。
 ヴェルムドールとルーティが闇の鍵と光の鍵に魔力を込める事で開いた入り口も、永遠というわけではない。
 戦闘が開始してよりしばらくの後に入り口は閉じ、しかし最初より予定されていた事なので何も問題は無かった。
 いざという時の撤退用として闇の鍵はファイネルに、光の鍵はトールに貸与されていたし、今こそ決戦の時と逸る連合軍にそんなものを気にする者はほとんどいなかったからだ。
 そしてそれ故に、連合軍の進む道は前にしかなかった。
 進む先に餌のように鎮座するアルヴァの城。
 其処へ向けて、隙あらば一番槍と士気は旺盛。
 少しでも戦果をあげようと選りすぐりを各国投入しているだけあって、アルヴァの大軍相手にもそこそこは戦えるし、何よりファイネルと「新たな勇者」トールが尋常ではない。

電撃砲ボルテニクス!」

 ファイネルの電撃砲ボルテニクスが飛来してきた巨大アルヴァを到達前に消し飛ばし、追随していた他のアルヴァ達もザダーク王国軍の放つ魔法で羽虫か何かのように落ちていく。
 空を飛べるという生物の中では優位に立てる能力を持っているアルヴァは、空からの対地攻撃手段としての魔法をも使用可能だ。
 そして、その肉体は半魔力体という魔力の通わぬ攻撃に対して強い耐性を持った反則的な性能だ。
 これだけ生物として有利に立っているアルヴァが、何故こうもバタバタと落とされていくのか。
 ザダーク王国軍相手であれば、攻撃のエキスパートである魔族相手では分が悪い……という理由も捻り出せる。
 だが実際には、人類軍相手にもそれなりにアルヴァ達は落とされている。

「正面上方、長杖構え! 撃てぇ!」

 指揮官の指令に従い一斉に火撃アタックファイアが空に向かって放たれていく。
 一個一個はアルヴァを落とすに至らずとも多数の騎士達による同魔法の一斉射撃はその二段階も三段階も上の威力を叩き出し、結果としてアルヴァは落ちていく。
 
「ギアアゲウオアアアアアア!」
「右、来るぞ! 弓隊、撃て! 盾は急げ! 陣を崩すな!」

 対アルヴァでは牽制にしかならない矢も、しかし牽制でいい場面では魔法より速い遠距離攻撃手段となりうる。
 実際無数の矢に狙われたアルヴァの速度は僅かながら遅くなり……その間に盾持ちの防御陣が構築され、その裏から魔法騎士による攻撃魔法が放たれていく。

「意外にやるもんですのう、人類連中も」
「そうだな。私はそう意外でもないが」

 よくルーティの家に勝手に遊びに行っているファイネルは、ルーティから人類に関する話についてはよく聞いていた。
 その中には現代における騎士の話も含まれていた。

「連中は実戦が少ない分想像が好きなんだそうだ。「もしこういう敵が来たら」を考えて、訓練でそれを練り上げるんだとルーティは言っていた。それがハマってるんだろうさ」
「ほお」

 実際にはもう少しニュアンスが違うんだろうな、と思いながらアルムは相槌を打つが、その通りである。
 人類は人類同士での戦争をやめて久しく、騎士の仕事は盗賊やゴブリンやビスティア、あるいはオウガ退治となっていた。
 ゴブリンは然程強くないが尋常ではないほど数が多く、オウガは数は少ないが尋常ではないほど強い。
 そうしたものを相手にしている中で人類は「もしオウガがゴブリンほどの数で闊歩していやら」という想像をし、ソレに対する解決策を出そうとするのである。
 騎士にもそれを想定した訓練をやらせ、アルヴァの存在が確認されてからはソレに対する戦術構築にも余念が無かった。
 今回の戦いはいわばその「予習」に対する答え合わせのような側面すらあるというわけだ。
 無論、彼等の予習内容に巨大アルヴァや特殊アルヴァなどというものはないが……ファイネルやトール、ザダーク王国軍といった規格外の存在がそれの埋め合わせとなっているが故に、なんとか形になっているというわけだ。

「まあ、我等の助力なくば被害甚大な箇所もあったでしょうがな」
「想像が足りん奴もいるだろうよ。アルヴァを「ちょっと強いオウガ」程度に考えている馬鹿とかな」

 具体的には一部の中小国家のことだが、的確なザダーク王国軍のフォローでそうした彼等もどうにかなっている。
 何しろ、今回のテーマは「協調」だ。
 目立ちすぎるつもりはないが、わざわざ被害を大きくするつもりも無い。
 むしろ目立ってアルヴァクイーンのところまで「勇者」を届けるよりは、ヴェルムドール達がアルヴァクイーンを倒すまでのんびりとお守をしているのが正解というモノだ。
 そこに「もしヴェルムドールが負けたなら」という心配は無い。
 魔王ヴェルムドール。
 魔族の勇者サンクリード。
 最も魔王に近い魔族ラクター。
 冷血メイドナイトのイチカに、ついでに魔人イクスラース。
 これだけ揃っていて、負ける要素がない。

「まあ、我等はこのま、ま……」

 言いかけたその瞬間、ファイネルは何かを感じる。
 それは、巨大な魔力を持つ何か。
 よく知っているような、違うような……そんな魔力の気配。

「うわあああああああああああ!」
「ば、化け物があああ!?」

 その次の瞬間、前方に転移されるようにして出現した巨大な「何か」に最前線の部隊から絶叫にも似た声が上がった。
 
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

お父さんのお嫁さんに私はなる

色部耀
恋愛
お父さんのお嫁さんになるという約束……。私は今夜それを叶える――。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)

MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。