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傷痕4
しおりを挟む「……どういう意味だよ」
「言葉通りさ」
カインの言葉は淡々としていて、しかし冗談の類ではないことは明らかだった。
「トールはさ。勇者の力について真面目に考えた事はある?」
「え? いや……」
勇者の力。トール風に言えば「チートな力」だが、それでは随分胡乱とした話だ。
カインの「勇者の力」は、カインが上手く生きていく上では随分と都合がいいように出来ていた。
だからこそ「封印」したのだが……。
そして恐らくトールの「勇者の力」はカインのと似て非なるものだろう。
それはサンクリードと比較してもそうであろうとカインは考えている。
勇者の力とは「複数の能力の複合して出来た能力」というのがカインの予想であり、それ故に迂闊には使えないと思っていた。
本人にすら効果の分からない力など、どうやって爆発するか分からない爆弾で殴りかかっているのと変わりないからだ。
だがまあ……それはあくまでカイン自身の考えであって、トールにまでそれを押し付ける気は無い。
勿論、トールの持つ「勇者の力」がカインのものと同じであれば意地でも説得していただろうが……クゥエリアを見る限り、トールの言動に振り回されている様子は全く無い。
むしろトールを暴走し過ぎないよう操縦していた姿を見るに、トールにはカインのような「根拠の無い説得力」は持っていないと考えていいだろう。
……となるとカインが実は「勇者」であることがバレていない現状、それをわざわざ言うつもりも必要もなかった。
実際、トールもスキルではなく「勇者としての力」とかそういう風に捉えているだろうし、カインもそちらの意味で話している。
「……ちょっと見渡してみれば、気付けたはずなんだ」
この世界には、勇者伝説がある。
魔王を倒し、世界を平和にした勇者の伝説。
誰もがそれを寝物語に聞き、誰もが勇者に憧れる。
そしてそれ故に、人々は「勇者とは何か」のイメージを確定させている。
こうあるべきという姿に導いてはくれるが、それ以外のものを知らずそれ以外のものを理解などできない。
故にそれに疑問などなく、「そうあるべき」とすら思ってしまうのだ。
「誰もが、そう思ってる。勇者は誰もが敵わないような敵を倒す人で、勇者はそういう力を持ってる人だ……って」
「でも、実際そうだろう。普通の人じゃ敵わないような力を俺は持ってる」
だからこそ、だ。
だからこそ、アインが先程語った「単体の力の無力さ」に誰も気付かない。
そうしたものを超越したモノだと……そう考えてしまうのだ。
そして勇者伝説の輝かしさは勇者に「正義」という錦の旗を与えている。
だからこそ……力で何もかもを退ける事の恐ろしさに、誰も思い至らないのだ。
「だから、気付かない。「皆がそう言っている」から、勇者には分からない。異邦人が異邦人のルールで動く愚かさを知っているから、疑わない。疑って何かを理解したとして……そんな勇者は、誰も望んでない」
そうして望まれない勇者になったとして、その勇者は何を成せるというのだろう。
その世界の理も知らず、どうすれば理想の姿になるのかも分からないままに。
「で、でもさ。それを最初から分かっていて、誰かにも分かってもらおうとすれば……それも出来たんじゃないのか?」
「かもしれない。でもきっと、何処かで歪む。歪まないものを造れたのなら、それはきっとマトモな集まりじゃない」
それが組織というモノで、組織が必ず腐る理由でもある。
ヴェルムドールのような徹底管理とヴェルムドールへの本能的な絶対忠誠がザダーク王国が歪まない理由であるが、同じものを人類社会に導入したならばそれは「洗脳」と呼ばれるだろう。
更に言えば望まれた流れを変えようとする勇者を神輿として担ぐ者は既存のものに不満のある何者かであり、そこには何らかの利益への欲望がある。
それは極めて健全な事であり、それ故に組織が通常成り立つとも言える。
本来はソレを全体の大義で抑え込むのだが……世界を知らぬ勇者という異邦人に、それが何処まで出来るだろうか?
「勇者が勇者として振るえる力の範囲は、思ったより狭い。トールだって、クゥ先輩に随分「助けられた」んじゃない?」
「……それは、俺が異世界人で何も知らないから」
「そうさ。異邦人である限り何も出来はしない。「お客様」には、何も見えはしないんだ」
カインは……カイン・スタジアスは転生者だ。
前世の記憶を持って生まれ、それ故に天才などとも呼ばれた。
異界の知識は役に立ったものもあれば立たなかったものもある。
必死で生きて、必死で学んで。
何処かズレていた歯車がキッチリと嵌ったのは結局、「前世の自分」を捨て去れた時だっただろうか。
そうして初めて「世界」が見えてきたのをカインは覚えている。
この世界で、どう生きるのか。
自分は、どう在りたいのか。
「目的」から始めてしまう勇者には、それは絶対に見えはしない。
「なら、俺はどうしたらいいっていうんだ? 俺は結局異世界人なんだ。そこから抜け出せるわけが無い」
「抜け出せるさ」
それは、とても簡単な事だ。
「勇者」のままであるなら出来ない事だが、それに疑問を覚えたトールならば。
「この世界で生きる。どういう風に過ごして、将来どうなりたいのか。まずはそれから始めようよ。折角異世界から遥々引っ越してきたんだ。そうしなきゃ損だろ?」
どうなりたいか。
どういう風に過ごすか。
そんなことをトールは考えた事は無かった。
いや……考え始めたからこそ、不安に思ったのだろうか?
世界が平和に……「めでたし」になって勇者がいらなくなりそうな、このタイミングだからこそ。
「……俺に、出来るかな」
「さあ。やってみないと何とも、ね」
カインが肩をすくめるとトールは「それもそうか」と苦笑する。
どう歩むにせよ、挑戦してみなければ始まらない。
すでに有名人のトールは恐らく神殿と王宮が取り合いをするだろうから神殿騎士か、あるいは王宮騎士の道が待っているだろうが……それもまた「この世界で生きる」事に変わりはない。
「やってみるか。そうだな、やってみなくちゃな」
トールは自分に言い聞かせるように呟くと立ち上がり、身を翻す。
「ありがとな、二人とも。俺、今からクゥの所に行ってくる!」
そのまま慌しく駆けていくトールを見送り、アインは溜息を一つつく。
「……とんだ茶番だ。どんな深い事を言うかと思えば、どう生きるかだと?」
「意外と見えないものだよ。僕だって、ちょっと前までは見えてなかった」
「ほう?」
カインの言葉にアインは面白そうに口の端を笑みの形に吊り上げると、椅子を動かしてカインの近くへと移動する。
「……ということはお前は、すでに将来の絵図が見えているというわけだ。聞かせてみろ、この女たらしが。いっそ、あのエリア王女とかいうのと結婚して王にでもなってみるか?」
「え……いや、それは、えーと。そういうのじゃなくてさ」
「お前の目下の問題はそれだろうが。いつまでも「いい友達」で逃げ切れると思うなよ?」
楽しそうに言うアインにカインは「ううっ」と頭を抱え……外の木の上の黒鳥が、馬鹿にしたようにニヤリと笑った。
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