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連載
傷痕6
しおりを挟むキャナル王国。一般的にはアルヴァ戦役におけるアルヴァ一斉襲来事件を少ない傷で乗り越えたとされる国。
だがその裏には、一つの超魔法の存在があった。
極光殲陣。「エルアーク、あるいはキャナル王国に対し害意を抱く者」を滅ぼしつくす、エルアーク全体に及ぶの攻撃魔法。
いわばカウンター的な側面のあるこの魔法はアルヴァに対し絶大な威力を発揮し、エルアークを滅ぼすべく動き始めた融合型……そしてやってくる通常型をことごとく焼き尽くした。
内乱から数え二度目の奇跡じみた魔法の行使にエルアークの住民達はセリスを称え、エルアークの結束は高まり……しかし、エルアークの喧騒を余所に城の玉座の間はシンとしていて……その主の姿は無かった。
ならば何処にいるのかというと……王たるセリスの姿は、歴代の国王の為に用意された寝室……ではなく、王妃の為とされてきた寝室のベッドにあった。
これはセリスが「この部屋がいい」と主張したからだが……この国を建国した女王ネルの部屋であり本来の「王の部屋」であった事を考えると、今後はこの部屋こそが「王の部屋」として扱われていくことになるだろう。
「……もう大丈夫なんですけど」
「ダメです。ライドルグ様からもしっかり静養させるように言われてますから」
ベッドに寝ているセリスを横に座って看ているのは光の神殿騎士であるルビアであり……その斜め背後にいるレイナが、それをクスクスと笑って見ている。
「ルビアの言うとおりにしておくといいですよ、セリス。魔法の行使というものは、本人が思っているよりも疲れるものなのですから」
そう、魔法とは使用者の体内にある魔力を変換し放つ魔法だが……大魔法は自分の魔力を自然の魔力と反応させ制御下に置き「個人で実現できる範囲よりも上の魔法的現象」を発現させるものだ。
この分類にセリスの極光殲陣を当てはめると大魔法よりも更に上の超魔法と呼ぶほか無く、それ故に神器アルトルワンドによる補助が必要となってくる。
だがアルトルワンドを使ったとしても魔法を行使するのは魔法の使用者本人である事実に変わりはなく、それ故に魔法の行使に伴う「魔力」の面以外での疲労は軽減などできない。
そして当然だが、極光殲陣は人類の行使できる限界を遥かに超えた魔法であり……それを比較的短い期間で二度も制御してみせたセリスの身体と精神に尋常ではない疲労が溜まっているのは明白だった。
「でも……」
「ダメです。貴女にはこれからのキャナル王国を導く役目があるのでしょう?」
ルビアに言われ、セリスは黙って「はい」と頷く。
その様子を見守りながらレイナはそっと部屋を出て……そこに立っていた鎧姿の女……もとい第二王女にして現在は宰相となったエルトリンデに視線を送る。
「おや、エルトリンデですか」
「未だ私をそのように呼び捨てにするのはお前くらいだよ、レイナ」
多少の皮肉を込めてエルトリンデは返すが、レイナは何処吹く風だ。
王族にして宰相、武勇にも優れるエルトリンデは新王セリスを支える後ろ盾の一つであり、この国では実質ナンバー2の権力者でもある。
ちなみに復興に関連し様々な「金の匂い」がし始めたキャナル王国に目をつけて暗躍しようとする他国の悪徳商人が取り入ろうとするのもまた「神に選ばれた」セリスではなく「その下で不満を持っている」と勝手に推測しているエルトリンデであり、エルトリンデはそういう連中を場合によっては牢獄に叩き込むのも仕事である。
まあ、その結果「恐怖の鉄人宰相」などと呼ばれたりしているのだが……暗殺者対策にだとか常在戦場だとか言って鎧と剣を手放さないエルトリンデにも多少の理由はあるだろう。
「セリスの様子はどうだ?」
「ええ、元気ですよ。お見舞いしてはいかがですか?」
「……知ってるくせにそういう事を言うか」
日に何度も何度もお見舞いに来て一日中入り浸るが故にルビアにエルトリンデが追い出されたのは城の者の記憶に新しく、かといって流石のエルトリンデも光の神殿騎士たるルビアに文句を言えるはずもない。
それでも此処に居たのは、レイナに呼ばれていたから……である。
「それで、学園については?」
「徹底的に調べさせた。まさか遺髪なんてものに保存魔法をかけてまで保管しているとは思わなかったが……あとは衣服が数点に杖が数本、著書が多数……といったところだな」
キャナル王国の魔法知識の殿堂たるアールレイ魔法学園の地下に保管された「賢者テリア」の遺髪にアルヴァが融合したのは、ついこの間の事。
「この世界に召喚される「前」のリューヤを召喚する」という魔法を発動させようとしていたテリアはその発動前にレイナに討たれ、それが発動されることはなかった。
だが今後アルヴァの生き残り、あるいはアルヴァのような存在が現れ同じ事を繰り返さないという保証は無い。
それ故に「テリアの復活を起こしうる」ものを徹底的に処分することにしたのだが……まあ、この様子では問題なさそうではある。
「だが、他の国にも通達せねばならんな。万が一同じように遺髪でも保存していたら、今後同じ事になる可能性がある」
「その辺りは、ご自由に。政治の領域でしょうから」
「ああ……」
言いながらじっとレイナの顔を見るエルトリンデに気付くと、セリスは首を傾げてみせる。
「……何か?」
「お前、本当にこの城を出て行くつもり……なのか?」
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