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8巻
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槍を構えたセイラの纏う空気が研ぎ澄まされていき、仮面の男は明らかに動揺した様子を見せる。
「お、おい。ちょっと待てよ。流石に普通の女の子相手ってのは……」
「問答……無用ォ!」
セイラの槍が突き出され、仮面の男は慌ててそれを迎撃した。
だがその次の瞬間には、新たな一撃が仮面の男に襲いかかる。
次から次へと繰り出される槍の連撃。段々と速度が上がっていくものの、仮面の男はギリギリでそれを迎撃し続ける。
仮面の男が徐々に速度に慣れ始めた、その瞬間――突如槍の連撃は途絶え、横薙ぎの一撃が襲いかかってきた。
いくら刃がない部分とはいえ、総金属製のセイラの槍で殴られるのは棍棒で殴られるのと同じだ。
「ぐがっ!?」
不意を突かれた一撃に、仮面の男は思い切り地面を転がる。
「いってえ……って、うおっ!?」
自分を突き刺そうとするセイラの追撃を転がって避けながら、仮面の男は何とか立ち上がって体勢を整えた。
「ちょ、ちょっと待て!」
「何さ、命乞い?」
「そうじゃない! お前、事情を分かってないだろ!?」
仮面の男の言葉に、セイラは何を言っているのかと言いたげに首を傾げる。
「事情も何も。そんな変態丸出しの格好で言い訳のしようがあるの?」
「こ、これは別に俺の趣味じゃ……って、そんなのはどうでもいい! そこの男は、邪悪な魔族に騙されて俺と戦ってたんだ! 俺はそれを救うために……」
「ちょい待ち」
仮面の男の台詞を、セイラが遮る。そして槍を仮面の男に向けたまま、んー、と唸った。
まずはカイン、そしてアインに視線を向け、最後に仮面の男に視線を戻す。
「何処に邪悪な魔族ってのがいるの?」
「そこの女だ!」
「セイラ、それは……!」
仮面の男の言葉に声を上げたカインを手で制すと、セイラは再度、んー、と唸る。
それを説得の見込みありと感じた仮面の男は、力一杯、身振り手振りを入れながら叫ぶ。
「そこの邪悪な魔族がこの町で何を企んでいたかは、まだ分からない! でも、何かが起こってからじゃ遅いんだ! 俺に協力してくれ! それが最終的にはその男のためにもなるんだ!」
「うん、大体分かった」
「なら……!」
近づいて来ようとする仮面の男に、セイラは槍先を向ける。
「やっぱり君が悪いんじゃん。つーか、何企んでるか分からないけど、邪悪とか意味分かんないし。僕、そういう神殿の考え方って嫌いだな」
「な、何を言って……」
「君が君の正義で動いてるのは分かったよ。でも、君が何も考えてないのも分かった。これ以上やるなら僕はセイラ個人じゃなくて、ネクロス公爵家の娘として戦わなきゃいけなくなるよ?」
「それは困りますね」
セイラに答えたのは仮面の男ではなく……路地から出てきた、一人の少女だった。
柔らかな笑みを浮かべた桜色の髪の少女に最初に反応したのは、カインだった。
「……先輩?」
「こんばんは、カイン君」
クゥエリア・ルイステイル。アルトリス大神殿の神官長の娘にして、エディウス冒険者学校でのカイン達の頼れる先輩だ。
その姿を目にして、カインはほっとした顔をする。クゥエリアならば、この場を収めてくれると思ったのだ。
「どうでしょう、セイラさん。この場は私に免じて、お開きにするというのは」
「……お開き?」
「ええ。こちらの方はそこの魔族を今日のところは諦めて、カイン君達も今日のことはなかったことにする。それが、一番静かに終わる解決方法だと思うのですが」
何かを言おうとするカインの口をセイラが素早く塞ぎ、クゥエリアへ向けて笑いかける。
「随分と神殿側に都合良く聞こえますけど。わざと言ってます?」
「あら、気に入らないところがありました?」
「ええ、ありましたね。カインとアインの怪我損じゃないですか」
「勿論、カイン君の怪我は神殿で責任を持って治療しますよ?」
「……ふーん?」
クゥエリアと笑顔を向け合っていたセイラはカインへと振り向くと、ニコリと笑う。
「カイン、帰ろっか。アインは背負える?」
「あ……うん。でも……」
「いいから、いいから」
セイラはカインを促しながら帰る支度を始め、その様子を仮面の男は悔しそうに見守っている。
やがてカインがアインを背負い終わると、セイラが先導して仮面の男の横を通り過ぎた。
そしてクゥエリアの横を通りかかった瞬間、セイラはボソリと囁きかける。
「クゥ先輩が黒幕でしょ?」
「何のお話でしょう?」
再度笑みを交わし合い、セイラはそのまま通り過ぎて、アインを背負ったカインも後に続いた。
二人は人のいない大通りを進んでいき、やがてセイラが口を開く。
「で、僕まだ状況を全部分かってるわけじゃないんだけど。アインが魔族ってのは本当なの?」
「ん……んー、本人から聞いたわけじゃないけど」
「ふーん。まあ、色々と納得できる部分はあるかな?」
言いながら自分の前を歩くセイラに、カインは躊躇いがちに声をかける。
「あの、さ」
「何?」
「もしアインが本当に魔族だったら……セイラはどうする?」
その言葉に、セイラはピタリと足を止めて振り返る。
「別に何も? 僕だって魔族の知り合いくらいなら、いないこともないし」
「え? いるの?」
「知ってるだけだけどね。なんかルーティ先生とかネファスとかと仲いいみたい」
「え、ええっ!? 初耳だよそれ!」
かつて魔王シュクロウス、そして大魔王グラムフィアを討った勇者パーティの一人であり、エディウス冒険者学校の前理事長ルーティ・リガス。
そして、自分達と同じくエディウス冒険者学校に通っていたのに、突然、風の神殿騎士になったネファス・アルヴァニア。
その二人が魔族と仲がよく、セイラも知り合いということに驚愕するカインへ、セイラはニヒっと笑う。
「まあねぇ。女の子は秘密が多いのさっ」
「ええー……」
不満そうなカインに、セイラはニヤニヤと笑みを返した。そしてその笑みを、ふっと消す。
「けど、どうすんの? たぶんあの白変態、明日以降もアインを狙ってくるんじゃないかな」
「や、やっぱりそうかな……」
「そりゃそうでしょ」
カインはうーんと唸りながら、それでも歩みを止めない。
次第にポツポツと大通りに人が戻り始め……ザワザワと喧騒も広がっていった。
「封鎖も解いたみたいだね。一応約束は守ったわけだ」
セイラがつまらなそうに鼻を鳴らし、カインはほっと息を吐く。
「とにかく、まずは僕の家に……」
「あー、カイン見つけた!」
カインの台詞を、突然聞こえてきた声が遮る。
それと同時に、冒険者学校の友人シャロンが正面から杖を抱えて走ってくるのが見えて、二人は足を止めた。
「もう、私を置いていったらヤダって言って……って、ええっ!? アイン!? え、何、どうして!? ねえ、何があったの!?」
カインに困ったように見られ、セイラは肩を軽く竦める。
「え、えっと。シャロン、後で説明するから。とにかく、僕の家に行こう?」
歩き出したカインに宥められ、シャロンはアインを心配そうに見つめながらついていく。
さらにその後ろを続いていたセイラはピタリと足を止めて、独り言のように呟く。
「それ以上ついてきたら、本気で政治問題にするからね。まあ、その前に僕が大騒ぎするけど。いいのかな?」
言い終わると同時に、セイラの感じていた複数の気配は遠ざかっていった。
そのまましばらく何かを確かめるようにすると、セイラはふっと笑い、独り言ちる。
「……アインのことで手一杯なのかもしれないけど。カインもまだまだだよねえ。やっぱり、僕がついててあげなくちゃ」
「あれ? おーい、セイラー?」
前方から聞こえてきたカインの声に、セイラは精一杯の笑顔を向ける。
「あ、うん! ごめんごめん!」
パタパタと走ってセイラはカイン達に追いつき、隣りを歩き始めた。
4
額に冷たいものが載せられる感触。
覚醒した意識は気絶する直前の状況を思い起こし、素早い状況把握を脳に要求する。
結果、アインは飛び起きた。
「きゃあっ!?」
「うおっ!?」
自分の顔を覗き込むようにしていたシャロンとぶつかり、視界に火花が散る。
一方のシャロンも、ぽてんと尻餅をついた。
「っつ……シャロン? くそ、此処は何処だ。今はいつだ?」
「え? えーと……アインがベッドで寝てから一刻も経ってないよ?」
「……そう、か」
つまり、さほど時は経っていないことになる。
身体を見ると、傷は完全に塞がっていた。誰かが魔法で治してくれたのだろう。
「で、此処は何処だ」
「ん、と。カインの家、かな」
言われてみれば、見覚えがある。確か、カインが何か人助けをして手に入れた小さな家だったか。
「あの、馬鹿者め……! そういえばシャロン、お前はどうして此処にいる」
「え? えっと……アインが心配だったから」
「そんなことを言っている場合か! 私が此処にいては、お前まで巻き込んでしまうんだぞ!」
「ちょっと、何騒いでんのさ」
言い合いを耳にしたセイラが扉を開けて姿を見せると、アインは脱力してベッドに座り込んだ。
「お前もか……いや、カインの家という時点で予想はできたか」
「心配しなくても、僕達四人だけだよ。カインは下でご飯作ってる」
「え!? て、手伝わなきゃ!」
パタパタと部屋を出て行くシャロンを見送ると、セイラはアインへと視線を向ける。
「ま、今さらだと思うよ。僕なんか、あの白変態にがっつりケンカ売ったしね」
「……そうか」
「あ、ひどっ。シャロンの時と全然反応違うし」
冗談めかすセイラに、アインはふっと笑った。
「それより、私が気絶した後に何があった」
「んーと、白変態が神殿の力で道を塞いでカインを虐めてたから、僕が割って入った。あとは色々あって、めでたしめでたし。つーか、僕だって途中参加なんだってば。何があって、ああなってたの?」
それを聞いて、何となくアインは事情を理解する。
つまり、アインが気絶した後に戦いか、追撃か……どちらかがあったのだろう。
そして、どうやらセイラも巻き込んだようだ。
「……そう、か」
「つーかさ」
考え込むアインの顔を、下からセイラが覗き込む。
「あの白変態が、アインを魔族だの何だのって言ってたけど」
「それ、は……!」
言葉に詰まるアインの耳に、再び扉を開ける音が響く。
「あ、アイン。目が覚めたとは聞いてたけど……大丈夫?」
湯気の立つ皿をトレイに載せて入ってきたのは、カインとシャロン。
カインは手に持っていたトレイを近くの机に置き、アインに近寄っていく。
「……まずは、礼を言う。ありがとう」
「いや、別に礼を言われるほどの……うわっ!?」
言い終わる前に、アインはカインの胸倉を掴み引き寄せた。
「……だがな、私は言ったはずだぞ。これ以上私に関わるなと。それが何だこの状況は。セイラを巻き込んで……シャロンまで危険な目に遭わせる気か?」
「いや、でも……」
「ちょ、ちょっとアイン……」
止めようとするセイラを睨んで黙らせると、アインはカインを正面から見据える。
「いいか、カイン。遠回しに言って分からんようなら具体的に言ってやる。私は魔族で、仕事でこの国に潜入している。だから狙われた。ヒロイックな理由などないし、ある意味で狙われて当然だ」
「アイン、それは……」
「カイン、私とお前の付き合いもこれまでだ。神殿の奴らに何か聞かれたら、私とは初対面だったと押し通せ。それでお前の……」
「あー、ちょい。それ、無理。僕が政治問題寸前にしたもん」
「はあっ!?」
セイラの突然の爆弾発言に、アインが驚愕した目を向ける。
「つーか、大体事情理解できてきたけど。つまりアインってザダーク王国の魔族なんでしょ?」
「う……ま、まあ……な」
「サンクリードっていう知り合い、いる?」
知り合いどころか、サンクリードはザダーク王国トップクラスの重鎮の一人である。
魔王軍西方将にして魔族の勇者、つまり機密を山ほど抱えた重要人物だ。
何故セイラがその名前を知っているのかは分からないが、下手なことは言えない。
「……ノーコメントだ」
「ふーん。あの人、個人的にはそんなに悪い人じゃないようにも感じたけど……まあ、魔族イコール悪じゃないってことくらいは僕にも分かったよ」
「そ、そうなの?」
セイラの肯定的な反応に、シャロンが少し戸惑ったような様子を見せる。
アインから見ればシャロンの反応が当然で、セイラの感想が革新的過ぎるのだ。
人類領域であるシュタイア大陸の国々の子供達は皆、勇者伝説を聞いて育つ。
吟遊詩人も勇者伝説を好んで謡うため、大人になってからも耳にすることが多い。
勇者リューヤが前魔王を滅ぼしたとはいえ、ゴブリンやビスティア、オウガにアルヴァといった魔族達に怯える日々は続いている。しかし勇者という希望はかつて確かに存在し、神々の加護もまたこの地上にあるのだと、その正義を継いで生きることの大切さを、勇者伝説は説いているのだ。
そして、聖アルトリス王国は勇者リューヤが召喚された聖地でもある。
だからこの国の人々は勇者に恥じないように正義を胸に生きていかねばならぬという自負が強く、魔族は悪だと信じて生きている。
その認識はそう簡単に変わらない。
ジオル森王国のシルフィド達が魔族と仲良く暮らしている現状も、かつての魔王がしたような洗脳の力によるものではないかと疑う者すらいる。
あるいは人間以外の人類種族――シルフィドやメタリオ、獣人――を命の正しい営みから外れたものとみなす亜人論を拡大解釈し、魔族に近い種であるシルフィドが魔族に与するのは当然と唱える過激な者もいる。
シャロンがそういう考えを持っているとは言えないが、彼女の戸惑いは明らかだった。
「で、でも。アインはいい人、だもんね……。他の魔族の人は知らないけど、アインなら信じられる……」
「……」
アインはあえて言わないが、シャロンはすでにロクナという魔族の重鎮と知り合っている。
いや、それだけではない。この場の三人とも、今は魔王直属の配下となっているイクスラースとかなり深く関わっているのだ。
アインは自分との関係のみで考えてしまったが、今後の展開を思うと、三人ともかなり微妙な立場にいるといえるだろう。
そこにきて、今回の事件。もしかすると、本気で何らかの騒動に発展する可能性もある。
特に問題なのは、カインだ。
後ろ盾が強いセイラと、今回の騒ぎに直接関わっていないシャロンはまだいい。
だが、カインは違う。いくら各方面に繋がりがあるといっても、地方貴族の息子を擁護しようという者は少ない。むしろ、今回の件を材料に弱体化させようとする者が出てくるかもしれない。
「……アイン? どうしたの?」
「少し待て」
シャロンに短く答え、アインは考える。
今回の件は、端的に言えばアインが原因だ。
さらに命を救われた恩も考えれば、アインが何か手を打つ義務がある。
しかし、どうすればいいのか。
聖アルトリス王国内にこのままいるという手もあるが、事態が好転する望みは薄い。
ザダーク王国に連れて行くというのは、さらに弱みを作ることになりかねず、悪手にも程がある。
ジオル森王国でもいいが、カインには彼の国に行く正当な理由も伝手もないだろう。サイラス帝国も同様だ。
「あの、さ。いいかな、アイン」
「何だ」
「実はさ、アインをパーティに誘った理由なんだけど……」
「ええーっ、何ソレ!?」
「カイン、それ本当!?」
響く叫び声に、アインの耳はキーンとなった。
カイン達はまだ学生の身分なので「学生パーティ」という制度の中にいるのだが、冒険者学校を卒業し、一人前の冒険者として登録すると正式なパーティを組むことができる。
その一番にアインを誘ったとあって、セイラとシャロンも聞き逃せなかったらしい。
「あ、いや、その、ね!?」
「当然僕も誘う気だったんだよね!?」
「わ、私もだよねカイン!」
詰め寄られるカインに、アインは視線だけを向ける。
「で、理由とは何だ」
「い、いや。その前に助けてくれない?」
「お前の業だ。きちんと受け止めろ」
「ちょっとカイン!?」
「カイン、ちゃんと私達の話聞いてる!?」
二人にたじろぐカインを見て、小さく溜息をつくアイン。
話とやらを聞くには、もう少しだけ時間がかかりそうだった。
5
「キャナル王国だと?」
顔に二つのビンタの痕をつけたカインに、アインは聞き返す。
キャナル王国に行く予定がある――カインはそう言ったのだ。
「キャナル王国って今、内乱が凄い国だよね?」
「うん。気軽に行くような場所じゃないよ?」
戸惑うシャロンにセイラが頷き、アインも無言でそれを肯定する。
キャナル王国は、アイン達諜報部隊でも現状を掴めていない国だ。
彼の国に潜入した諜報部隊は何故か即座に把握され、迎撃を受けてしまう。
よって伝聞でしか内情を知る術はないが、簡単に状況をまとめるなら、こうだ。
まず当時の王の罪を第三王女が暴き、打倒したことから全ては始まる。
王の罪が何であったかは国民に対しても伏せられているため、明らかになっていない。
しかしそれ故に、数々の噂が流れた。
曰く、王は禁じられた呪法に手を出していた。
曰く、王には夜な夜な捕らえてきた者を拷問する趣味があった。
……曰く、全ては第三王女を唆した何者かの仕業である。
様々な憶測を呼んだ政権交代劇で王は死に、王位は空位となった。
しかし、第三王女がそのまま王位につく……ということはなかった。
第三王女は国に巣食った悪を全て排除すると誓い、成し遂げるまで王位は空位とすると宣言した。
それは、王座の奪取が目的ではないという高潔な宣言ではあっただろう。
しかし最高指導者の不在は、仮の最高指導者である第三王女を認めない勢力にとってはつけ込みやすい状況でもあった。
かねてより第三王女と反発し合っていた第一王女は、全ては第三王女の策謀であると断じ、キャナル王国四騎士団のうち、近衛騎士団と光盾騎士団を率いて第三王女を征伐すると宣言した。
それに際し、キャナル王国の副首都であるカシナートを仮首都と制定。義勇軍を募り、正しき道を取り戻せと訴えた。
対する第三王女側も、首都はあくまでエルアークであり第一王女の仮首都宣言は認められないと反論。そもそも第一王女の主張そのものが出鱈目であり、王位奪取を目的とした愚かな戦に過ぎないと非難し、残った光剣騎士団と光杖騎士団に内乱の鎮圧を命令した。
こうなると、混乱するのは国民である。
一体誰が正しいのか、サッパリ分からないのだ。
そんな状況の中、第一王女側に「実は生きていた前王」が現れることになる。
前王は、全ては第三王女の企みであると宣言し、これにより状況は第一王女側に傾くと思われたのだが、そうはならなかった。
その理由は不明だが……結果として、今に至るまで内乱は続いている。
「実はね……この国の第二王女とキャナル王国の第三王女って、友達なんだよ」
「ほう?」
聖アルトリス王国の第二王女エリア。回復魔法の天才とも言われる彼女は、キャナル王国の魔法学園に留学していたことがある。その時に、キャナル王国の第三王女と仲良くなったらしい。
「内乱が起こるまでは文通もしてたそうなんだけどね」
戦が始まってからはそんな余裕もなくなり、すっかり連絡も途絶えてしまった。
聞こえてくるのは、断片的な状況ばかり。
その中には第三王女を悪し様に罵るものもあり、エリア王女は心を痛める日々が続いていた。
しかしそんな中、第三王女から久方ぶりの手紙が届いたのだという。
エリア王女はそれを喜んだが、手紙の内容を見て驚愕した。
「……何かがおかしい。しかし、調べるには信用できる人間が足りない。エリア王女が個人的に頼れる人間で動ける者はいないか、と聞いてきたそうなんだ」
「何かがおかしい……って、何が?」
「分からない。でもエリア王女曰く、向こうの第三王女様の勘はよく当たるらしいんだ」
納得できない様子のセイラと、イマイチ状況をよく理解できていない様子のシャロン。
そんな中で、アインは静かに口を開く。
「まあ、大体理解した。つまりお前、そのエリア王女に頼まれてホイホイ引き受けたわけだな?」
「うぐっ!? い、いや違う! 引き受けてないから!」
「まあ、お前のことだからエリア王女に涙目で懇願されて、断りきれなかったってところだろうが……本当に面倒事に巻き込まれるのが好きな奴だな」
半目でカインを見るアインに、カインは冷や汗を流しながら後ずさる。
「だ、だからまだ受けてないんだって! 考えさせてくださいって答えただけで!」
「そうか、エリア王女はお前が決意の表情とともに来るのを心待ちにしてるだろうよ。ついでにバラの花束でも抱えて行ったらどうだ」
「ちょっとアイン、やめてよ。そんなことしたら、本気でカインとエリア様の婚約が決まりかねないじゃない」
「別にいいんじゃないか? 地方貴族の息子の成り上がりの終着点としてはなかなかだと思うぞ」
シャロンにそう返すも、今度はセイラから抗議される。
「ダメだってば。カインには、うちのネクロス公爵家を継いでもらうんだから」
「え、え!? そ、そうなのカイン!?」
再び二人に詰め寄られるカインを見ながら、アインは考える。
キャナル王国――未だ内部に諜報員を送り込めていない国。
しかし、魔王ヴェルムドールが人類国家の全てと友好条約を結ぼうというならば、この件に関わることは将来への布石となる可能性がある。
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