ワケあり上司とヒミツの共有

咲良緋芽

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偶然知ったヒミツ➁

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―― 事の発端は、一週間前のある夜の事。


私はある事でムシャクシャしていて一人、ヤケ酒を呑んでいた。

酔いたくて入った居酒屋なのに、全く酔えない。日本酒をコップに4杯ほど呑んでいるのに、なぜだろう。普段はこの位でベロベロになれるのに、どんどん意識が冴えて行く感覚さえ覚える。

「はぁ……」

せっかく美味しい鯛の煮付けをアテに食べているのに、こんなんじゃ気分転換にもならない。

私はお酒をグイっと煽り、残りの鯛を食べきって帰ろうと立ち上がった。

「キャッ!」

後ろから短い女性の叫び声と、ドサッ!と何かが落ちる音が聞こえる。

え?と振り向くと、手の甲を押さえて一人の長身女性が立っていた。

何の確認もせずに立ち上がった為に、後ろを通りかかった彼女にイスがぶつかってしまったらしい。

そしてその拍子に、彼女の手からバッグが落ちてしまったみたいだ。

「ご、ごめんなさい!」

私は急いでバッグを拾い上げる。

「後ろを見ていなかったもので!お怪我ありませんか!?」

私はバッグに付いた土埃を叩き落とし、それを手渡した。

「いいえ、大丈夫ですよ」

彼女は、私が差し出したバッグを慌てて受け取る。

受け取る、と言うか、奪い取る、に近かった。

その行動にちょっとムッとしたけど、悪いのは私なのでそれは顔に出さずに何度も頭を下げた。

「本当にごめんなさい」

「大丈夫ですから」

女性にしては少し重低音の声に頭を上げる。

しかし、その低い声色が気にならないほど綺麗な人だった。

(綺麗な人……)

少しの間、見惚れてしまう。

(……あれ?)

私は彼女を見て、何か違和感を覚えた。

(ん?なんだろう。この人、どこかで見た事がある気がする……)

確実に初対面のハズなのだが、そんな変な感覚に囚われる。

「あの、突然で失礼なんですが、どこかでお会いした事あります?」

私は思いきって尋ねてみた。

だって、なんだか妙に気になる。

「えっ!?」

彼女は、私の唐突な質問に動揺を隠せないでいる。

まあ、そりゃそうか。突然、初対面の人にこんな事聞かれたら、誰でも警戒するだろう。

「い、いいえっ!?今日が初対面です!では、失礼っ!」

彼女がそそくさとお店を出ようとパッと顔をそむける。その拍子に綺麗な黒髪ロングヘアーがフワッとなびいた。

(あっ……!)

その瞬間、私の頭の中のモヤモヤが、一瞬でパッと明るく鮮明になった。
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