うちの冷蔵庫がダンジョンになった

空志戸レミ

文字の大きさ
6 / 660

初戦闘

しおりを挟む
ようやくダンジョンへと足を踏み入れた。

しかしこの一週間、ダンジョンとの距離をおいて正解だったとも考えている。なぜならば自宅にダンジョンだ。

一度気になるとその緊張と恐怖から眠れないなんてザラ。寝ているうちにガパリと冷蔵庫が開き、ヌルリと大きな化け物が冷蔵庫から這い出てきてオレを頭からガブリ!なんて悪夢にハッと目を覚ますなんてことが幾度もあった。

なにせ6畳一間、冷蔵庫のすぐ隣で寝ているのだから…。

しかしその甲斐あってか次第に恐怖にも慣れ、ダンジョンに潜る心構えもできたような気がする。

さらに戦闘区域には立ち入らなかったものの、すでに先週購入した部材類は前室に搬入済み。ここに物を置いておいても問題ない事もしっかり確認済みだ。

なのでさてと、まずは前室に準備しておいた装備を身に付ける。バイク用のヘルメット類のほかに塩ビパイプで造った下半身を覆う部分鎧も身に付け、屈伸して不具合がないかをしっかりと確かめる。うん、何度も作り直して調整しておいたから、まったく問題はない。

見た目的には貧乏くさくて少しアレかもしれないが、どうせ誰も見ていないのだ。だから何も気にする必要はない。

準備ヨシ!では早速、強くなるためにもモンスターとの戦闘へレッツゴー!

と、扉を開け高さ4メートル幅4メートルほどの石造り通路を進むと、すぐにスライムを発見。すわ戦闘だと、すぐさま戦闘態勢に入る。

具体的には背負って持って来ていた青い蓋付ポリバケツのゴミ箱を降ろし、蓋をあけて置いておく。お次は防鳥ネットを先端に括り付けた2本の物干し竿を両腕に構えてソッと近づき、それでスライムを掬い上げるとゴミ箱に放り込んだ。

そして即、蓋をする。

「ぴゅぎいぃぃ!」

ポリバケツに閉じ込められたスライムが中で激しく暴れる。

ふふふ…スライムを入れたポリバケツのなかには、強力酸性のトイレ洗剤をたっぷり原液で入れておいたのだ。そう、つまりは酸攻撃。しかしスライムは元気に暴れる。うむむ…もしかしたらスライムに対して酸攻撃は効果が薄いのか?

…1分経過。むぅ、やはり2分経っても3分経ってもスライムは元気。依然として健在を保っている。

それでも肉厚なポリプロピレンで出来たゴミ箱をそう簡単には破壊できないようで、その点にはひとまず安心。そうして4分を過ぎたあたりから次第に攻撃が弱まり、静かになっていった。

さてどうなったかとそっとゴミ箱の蓋を取って中を確認してみると、青いスライムが緑色をした強力酸性トイレ洗剤に浸かっていた。だが多少疲れたのか静かにはなっているものの、酸でやられたりはしていないようだ。そして蓋が開いたことに気付くと、また激しく暴れ出してしまう。

「ぬぅッ?ならばコレはどうだッ!」

わずかに開けた隙間から容器を握り潰し塩素系漂白剤をドバドバ流し込むと、強くバケツの蓋を押さえ込む。

『(じゅわぁわぁぁぁ!)』
「ぴゅぎいぃぃ!ぴゅぎぎぃぃ!!」

お、今度は効いたようだ!隙間から洩れた塩素と酸が混じり合った嫌な刺激臭が鼻をつくが、我慢我慢…。

ホントは順番に試したかったけどスライムが暴れるから焦ってつい酸と塩素を混ぜてしまった。これ、混ぜると塩素ガスが発生するから危ないんだよね…。

と…ここでようやくスライムが死んだのか、ポリバケツが静かに。

うん、我ながら非常にエグイ攻撃法。だがなにもモンスターと向こうを張って斬り合ったりする必要は、まったくもって全然ないというのがオレの考え。なにせソロでダンジョンモンスターに挑むのだから、敵は可能な限り効率よく倒すに限る。うむ、これはその為の実験だ。

前もってモンスターは人間を見れば即襲いかかってくるという情報はネットで得ている。

ならば挟み撃ちにされた時にオレがニ対一は卑怯だから待ってくれッなどと頼んでも、モンスターはひとつも待ってくれはしないだろう。だからこれも、ひとつも非人道的な事ではないのだ。

静かになってからも充分に時間を空け、さらに念押しのつんつん確認を終えた後でポリバケツの蓋を開けてみると、スライムの姿は影も形も無くなっていた。代わりにエアーガンの弾に使うBB弾のようなモノが一粒、底に沈んでいるのが確認できた。

「ホッ…。どうやら倒せたか!」

スライム撃破成功だ。

強力トイレ用酸性洗剤にしばらく浸かっていてもピンピンしていたスライムだったが、塩素系漂白剤に含まれる次亜塩素酸ナトリウムには敵わなかったようだ。でもまぁ酸がまったく効いていないようだったし、先に塩素を試すべきだったな。

ただ結果は中和が起きてしまい効果が半減するとは思ったけど入れて正解。それでも充分効果的だったということか。

塩酸と塩素を混ぜたことで塩素ガスも発生したはず。だが原生生物のアメーバみたいな存在のスライムが、肺呼吸をしているとは考えにくい。なのでやはり決め手は、塩素系漂白剤に含まれている強アルカリの次亜塩素酸ナトリウムだろう。コイツは脂肪やたんぱく質を強力に溶かしてしまうからな。

さて、底に沈んだモノをトングで拾い上げてみると、それは赤い半透明な石。まぁ倒したスライムのドロップだろう。用意していたペットボトルの水で漱ぐと、ダンジョン初の戦利品としてポケットに納めた。

……。

「ぴゅぎいぃぃぃぃ!!」

そしてまたスライムを捕まえるとゴミ箱に放り込む。先ほど使用した液体は捨てて、今度は初めから塩素。次亜塩素酸ナトリウム攻撃だ。布巾の消毒やシミ落としの為には、塩素系漂白剤は普通は水で薄めて使うモノ。だが今回は対モンスターということで、原液そのままを使用している。

ゴミ箱の中がすぐに静かになったので蓋を開けてみると、スライムが原型を失い核だけがぷかぷかと漂白剤のなかを漂っている。それをトングでつついて破壊すると、ぽふっ!と煙があがってスライムが溶けた分の液体の体積が減り、また赤い半透明のBB弾が現れた。

「また同じか…」

トングで拾い上げ、洗うのも面倒なので水のペットボトルにそのままぽちょんと落とす。これで2匹のスライムを倒したわけだが、ステータスを確認してみてもレベルは上がってはいない。

「ふむ…もう少し狩らないとダメかな?」

だが2度スライムを倒したことで、だいぶコツは掴めた。スライムに対する次亜塩素酸ナトリウムの攻撃力も申し分なし。ならばジャンジャンと狩って行こう!


……。


こうして…12匹のスライムを倒した。

タモでスライムを捕獲しては、ポリバケツに放り込む簡単なお仕事です。スライムの攻撃によるダメージもまったく受けない完封勝利。精々が自分で扱った薬剤で、鼻と喉をすこし痛くしたくらいだ。

そろそろいいかなとステータスを呼び出して確認してみると、いつのまにかレベルが3になっていた。

特別気にはしなかったが、ゲームみたいなファンファーレによるレベルアップ演出もなければ、システムメッセージ的なモノが脳内に聞こえてくるような事もなかった。ついそうだったらいいなぁなどと考えてしまうのは、すっかりその手のゲームに毒されているせいだろう。

「よし、ではじっくりとステータスを確認する為にも一度戻るとするか…」

うむ、ひとまず初陣を無事飾れたことで良しとしよう。物干し竿を肩に担ぐとゴミ箱をずるずると引き摺り、オレは前室へと引き返すのだった。
しおりを挟む
感想 26

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

至れり尽くせり!僕専用メイドの全員が溺愛してくる件

こうたろ
青春
普通の大学生・佐藤健太は目覚めると、自宅が豪華な洋館に変わり10人の美人メイドたちに「お目覚めですか、ご主人様?」と一斉に迎えられる。いつの間にか彼らの“専属主人”になっていた健太は戸惑う間もなく、朝から晩までメイドたちの超至れり尽くせりな奉仕を受け始める。

ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います

とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。 食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。 もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。 ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。 ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。

異世界帰還者の気苦労無双録~チートスキルまで手に入れたのに幼馴染のお世話でダンジョン攻略が捗らない~

虎柄トラ
ファンタジー
 下校帰りに不慮の事故に遭い命を落とした桜川凪は、女神から開口一番に異世界転生しないかと勧誘を受ける。  意味が分からず凪が聞き返すと、女神は涙ながらに異世界の現状について語り出す。  女神が管理する世界ではいま魔族と人類とで戦争をしているが、このままだと人類が負けて世界は滅亡してしまう。  敗色濃厚なその理由は、魔族側には魔王がいるのに対して、人類側には勇者がいないからだという。  剣と魔法が存在するファンタジー世界は大好物だが、そんな物騒な世界で勇者になんてなりたくない凪は断るが、女神は聞き入れようとしない。  一歩も引かない女神に対して凪は、「魔王を倒せたら、俺を元の身体で元いた世界に帰還転生させろ」と交換条件を提示する。  快諾した女神と契約を交わし転生した凪は、見事に魔王を打ち倒して元の世界に帰還するが――。

痩せる為に不人気のゴブリン狩りを始めたら人生が変わりすぎた件~痩せたらお金もハーレムも色々手に入りました~

ぐうのすけ
ファンタジー
主人公(太田太志)は高校デビューと同時に体重130キロに到達した。 食事制限とハザマ(ダンジョン)ダイエットを勧めれるが、太志は食事制限を後回しにし、ハザマダイエットを開始する。 最初は甘えていた大志だったが、人とのかかわりによって徐々に考えや行動を変えていく。 それによりスキルや人間関係が変化していき、ヒロインとの関係も変わっていくのだった。 ※最初は成長メインで描かれますが、徐々にヒロインの展開が多めになっていく……予定です。 カクヨムで先行投稿中!

現代錬金術のすゝめ 〜ソロキャンプに行ったら賢者の石を拾った〜

涼月 風
ファンタジー
御門賢一郎は過去にトラウマを抱える高校一年生。 ゴールデンウィークにソロキャンプに行き、そこで綺麗な石を拾った。 しかし、その直後雷に打たれて意識を失う。 奇跡的に助かった彼は以前の彼とは違っていた。 そんな彼が成長する為に異世界に行ったり又、現代で錬金術をしながら生活する物語。

無能扱いされ会社を辞めさせられ、モフモフがさみしさで命の危機に陥るが懸命なナデナデ配信によりバズる~色々あって心と音速の壁を突破するまで~

ぐうのすけ
ファンタジー
大岩翔(オオイワ カケル・20才)は部長の悪知恵により会社を辞めて家に帰った。 玄関を開けるとモフモフ用座布団の上にペットが座って待っているのだが様子がおかしい。 「きゅう、痩せたか?それに元気もない」 ペットをさみしくさせていたと反省したカケルはペットを頭に乗せて大穴(ダンジョン)へと走った。 だが、大穴に向かう途中で小麦粉の大袋を担いだJKとぶつかりそうになる。 「パンを咥えて遅刻遅刻~ではなく原材料を担ぐJKだと!」 この奇妙な出会いによりカケルはヒロイン達と心を通わせ、心に抱えた闇を超え、心と音速の壁を突破する。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

MP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

処理中です...