うちの冷蔵庫がダンジョンになった

空志戸レミ

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店員さんダンジョンへ

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店内で話すのもなんだからということで近くのファストフード店へと場所を移動。1階のカウンターで注文した品を受けとり、2階のテーブル席で向かい合って座る。



彼女の名は瀬来万智(せらい まち)さんというらしい。道すがらの簡単な自己紹介で彼女はそう名乗った。漢字も教えてくれたので間違ってはいないだろう。それに対しオレも江月(えげつ)とだけ名乗った。

話すこと自体得意でないし、あまり詳しく自分の事を話したりすれば現在無職なのもバレてしまう。まだ会ったばかりの彼女に無職と蔑まれた目で見られるのは、さすがに辛い。

なのでここはひとつ、言葉少なめのハードボイルドちっくな男性を心掛けて話すことにした。うん、気持ちそんな趣で…。今の風貌でなら、そんなスタイルでいってもそう無理はないはず…と思いたい。

「で、瀬来さんはダンジョンについて何か相談があると?」
「ええ、そうなんですよぉ、聞いてもらえますかぁ」

瀬来さんは話し好きらしく、自分の身の上話を明るい口調で面白おかしく話し出した。軽妙なトークというヤツだな。オレにはちょっと真似できないので、その人を惹きこむ話しぶりには少々目を見張ってしまう。

で、その話を纏めると…。

瀬来万智(せらい まち)さんは女子大生。ダンジョンショップは夏季休講の合間だけのバイトだそうだ。大学生になってから独り暮らしを始め、ネットの動画配信者に影響を受けてファンタジーロールプレイングゲームのネトゲにハマったらしい。

その後は世界にリアルダンジョン発生騒ぎが起きて、自分でもダンジョンに潜って冒険してみたいと考えるようになったそうだ。すると事態が推移して一般人も試験的にダンジョンに潜れるように。そこでこれはチャンス!と思ったが、いかんせん女の細腕でダンジョンに挑むのは当然無理。そこで誰かと協力して、つまりパーティーを組んでダンジョンに挑むことにしたそうだ。

しかしここで問題が発生。

ダンジョンにパーティーを組んで潜るにしても、女性ではモンスターと戦うのにたいして役に立たない。するとその分はパーティーメンバーの男性に頼る事になる訳だが、男性たちも何も慈善事業で我が身を盾にするわけではない。

そうなるとドロップ品の分配で揉めたり、パーティーを組んだ男性からしつこく言い寄られるようになったそうな。

まぁ、守ってやるから俺の女になれという話だな。

だがオレも男であるからして、彼女とパーティーを組んだ男性の言い分にも頷ける。自分の身を盾に護る女性が恋人なのか赤の他人なのかで、当然やる気も変わってくるだろう。

うん、オレも嫌だな…。赤の他人を必死で守り、地上に戻ったらその女性が恋人とイチャついてるのを見せつけられたりなんかすれば、きっと「こんなのやってられるかッ!」とグローブを地面に叩きつけたりすることだろう。

だが、彼女の話はまだ終わらない。でもこちらは聞き役に徹すればいいだけなので、話も面白いし非常にありがたい。

その後も瀬来さんはそんなこんなでパーティー結成と解散、ないし脱退を繰り返したそうだ。理由は要するに「盾役はやってほしいけど、言い寄られるのはイヤ」という非常に解りやすく現金なもの。あと彼女を取り合ってパーティーメンバーの男同士で勝手に揉めたりもあったそうだ。

なんだよ、モテないオレにモテ自慢か?

なら彼氏でも誘ってダンジョンに潜ればいいじゃないかと思うのだが、現在彼氏はおらず、上京してきたので近くに屈強な親類縁者もいないという。

で、そこで彼女は考えた。

ダンジョンショップで働きつつ、そこでダンジョンに潜れる強い人を見つけそういう人から戦い方のレクチャーを受ける。そうすれば自分も強くなって、パーティーを組んでも足手まといにならずダンジョン探索ができると。

なるほど、まぁそれならばパーティーを組んでも多少は男性たちから言い寄られる心配も減るだろう。で、そんな彼女の前に連日けっこうな量の魔石の買取を頼むオレが現れた。そこで彼女は興味を持ち、オレに声を掛けたのだと締めくくった。

さて、どうしたものか。


………。


結局、彼女の申し出を受けることにした。

但しその条件として彼女に、『教えたことは他言しない・指導中は指示に従う・答えたくない質問には答えない』などを約束させた。

いずれにしてもダンジョンには潜るつもりでいたし、レベルアップと能力値上昇の関係を調べるのに自分以外のデータも欲しかったところ。

説明し終えると残っていたハンバーガーとポテトを口に放りこみ、ストローを咥え炭酸で流し込む。うむ、酸を操る男の飲み物といえばやはり炭酸だろう。で、向かいの席では瀬来さんも話すのに夢中で手のつけていなかったハンバーガーを急いでパクついている。

今日はこれからダンジョンに潜るつもりだと告げたら、オレの気が変わらぬうちにと慌ててハンバーガーを口にしだしたのだ。


………。


瀬来さんはお店のロッカーにダンジョンに潜る装備が入っているとのことで、ダンジョンの受付で合流することにして一度着替えの為に別れた。

そして向かった先は、スチールのフェンスで囲まれた工事現場。これからビルが建てられるといった更地にダンジョンが出来た為だ。通りに面した入り口から敷地内に入ると、右手の中ほどがダンジョンの入り口らしく厳重にフェンスで囲まれている。その奥には防災テントが張られていて、警察官が何人か詰めていた。

(さて、瀬来さんの話だと、左手のプレハブ小屋がダンジョンに潜る人達の為の貸しロッカーになってると言っていたな)

その話通り左手には二階建てのプレハブ小屋があった。いかにも工事現場の事務所といった感じだが、なかにはコインロッカーが運び込まれているらしい。

まぁオレは着替えができればそれでいい。スキル【空間】により空間庫を構築できたので、カツオくんバットや蟲王スーツは全てその中。着替えた服も空間庫に入れておけばいい。つまり空間庫があればロッカーいらずだ。

とはいえ空間庫を他人に視られる訳にはいかないので、プレハブ小屋に入ると空いているロッカーの扉を開け、そこから荷物を出し入れしている態で着替えを終えた。


そして別れてから15分後。瀬来さんと再び合流。

オレは自分より年下の女性でも、さん付けで呼ぶことにした。彼女がオレに声を掛けた理由の一つに、言葉使いが丁寧だったからという事も口にしていたからだ。DQNなお客相手に、けっこう困らされたとも話していたし。

「エェ!?江月さん、なんですかその格好ぉ!?」
「え、瀬来さんこそ、その格好でダンジョンに潜るの??」

だが再会したオレと瀬来さんは、互いの姿にビックリ。

オレの姿はいわずもがなの、キングゴキの外殻を魔力で加工し全身鎧にした蟲王スーツ。見た目は実に蟲っぽいしかなりアレだとは思うけど、その防御力は安心の一語に尽きる。

一方でダンジョンに潜る為に着替えて現れた瀬来さんは、黄土色したキャンプ場なんかで着るようなフード付コートを着ていた。足元は厚手のブーツにジーパン、膝パッドもつけているが…それだけ。それに武器なのか、手には先端が金属で補強された長い棒を持っている。

「それ…ちゃんと視えてるんですか?」

瀬来さんが蟲王マスクの目玉を指差して問う。しまったな、まだマスクは外しておけば良かった。

「ちゃんと視えてるよ。ミラー加工のようになってるから、外からは覗けないけどね。それより瀬来さんこそ、身体を守る防具はつけてるの?」
「ハイ、ちゃんと身に着けてますよ!」



そう言うと瀬来さんはコートの前を開いて見せてくれた。するとたしかに腹部には厚手のコルセットみたいなのを巻いている。が、大事なおっぱいが守れていない。それに頭部を守るヘルメットも無いようだ。

「え~と、頭と胸は…?」
「それは…これで…」

そう言うと、瀬来さんはコートをしっかりと身に着けフードを頭に被った。

「うむむ…それでは防具とは言えないだろう?」
「え、江月さんのほうこそ、そんな恰好で本気ですか??」
「まぁ気になるなら触ってみてよ…」

瀬来さんが蟲王スーツに触れやすいように、両腕を開いてみせる。

「わ…とっても硬い」

女の子に触られて硬いなんて言われると嬉しくなってしまうが、これは鎧の話。瀬来さんは蟲王スーツの胸の外殻に指先で触れ、その硬さに驚いたようだ。柔らかそうで硬い、硬そうで非常に弾性もあるのが蟲王スーツだ。

「全身をコレで覆われているから、大抵の攻撃は痛くはないよ」
「コ…コレ何で出来てるんですか…?」

触り心地が気に入ったのか、腹部の外殻をさわさわしながら瀬来さんはスーツの材質を気にしている。魔力を通して飴色の艶が出た後は、表面がつるつるになったからね。銀杏の葉みたいなざらざらが消えて、触り心地が非常に良くなっている。

「約束した事に含まれるから、コレも秘密で」
「はぁ…、じゃあ受付に行きましょうか」

瀬来さんはまだ納得できなかったようだが、ひとまずは考えないことにした様子。ともあれ並んで歩き、ダンジョンの入場受付をしている防災テントへと向かったのだった。
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