うちの冷蔵庫がダンジョンになった

空志戸レミ

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ダンジョンに感謝

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今日は瑠羽からのメッセージに混じって、仁菜さんからのメッセージも届いていた。

『コォチ、瑠羽ちゃんと付き合うようになったんやてなぁ。おめでとー。うらやましいわぁ、ついでにうちとも付き合うてんかぁ♪』と。普通の文体で書かれているのに、仁菜さんからだと思うとなぜか関西風味に見えてくるから不思議だ。

しかし『うちとも付き合うてんかぁ♪』とは、絶対そばで瑠羽と瀬来さんが見ているな。そしてオレがどう返事をするかチェックするつもりだろう。それにもし仮に仁菜さんが本気だとしても、それは本気でオレをATM代わりにするという意味だ。怖い怖い。

故にオレは『ありがとうございました。本日の営業は終了いたしました』と、丁寧な文章で返事をしておいた。


そして毎度おなじみの魔石売り行脚。

でも毎日の如く魔石を売りに行き、用紙に名前を書いていれば自然とお店の人間にも顔と名前を憶えられてしまう訳で、顔見知りの店員に話しかけられるようになってしまった。

「江月さんみたいに稼ぐには、どうしたらイイんすか?」
「怪我をしないよう慎重にコツコツとだね」

次の店でも。

「あ、江月さん今日もですか。ちょっとボクにも強くなるコツ教えてくださいよ」
「モンスターをよく研究することだな」

オレはそんな店員とのやり取りを、一流の冒険者気取りで受け答えする。

なんだか少しだけいい気分だ。そんな会話の中で魔石以外のドロップ品の買取についても訊いてみるが、魔石以外のドロップについては欲しがる企業が少ないそうであまりないようだ。

なにせ政府が自衛隊を使ってダンジョンを駆除できないか試している最中なので。ああ、これは仮定の話ではあるが、『ダンジョンには最深部にダンジョンの中枢があり、それを壊せばダンジョンを破壊できる』という空想作家たちの意見をいれ行なわれている。

その際にやはり多くのドロップ品も回収してきているようで、国の研究機関や様々な企業にそれらが回り、研究されているそうだ。

「じゃあオレ達みたいなのは、今まで通り魔石を売るほかないか」
「そうですねぇ、詳しくは知りませんけど魔石だけは供給が足りないようなんで」

「わかった。また来るよ」
「ありがとうございましたぁ」

オレはその足でバイクを走らせ、電気街に向かった。欲しかったのはカメラ。小型で軽く、頭につけられるようなヤツ。今まではモンスターを通信端末のカメラ機能を使って撮影していたが、それだといつ通信端末が戦闘で壊れてしまうかわからない。

モテないコミュ障オタだったオレに瑠羽という可愛い彼女が出来た今、彼女と連絡が取れない日があるなんて考えられないのだ。

いやぁ、良いんだ彼女…瑠羽ちゃん。癒される。

自暴自棄モードに入った時の瑠羽は結構アレだったけど、普段の彼女はものすごく良い子よ。可愛くて素直で、素朴で純情っていうの?まず嘘とかつかなそうだもん。

オレが自分のことを結構秘密にしているのも、気にしてはいるんだろうけどアレコレと訊いてきたりはしない。そういうとこも健気ですごく可愛いと思う。

…。

そして部屋に戻ってからも、ネットであれこれと注文していく。

彼女が出来た今、急にデートのお誘いなんかもあるかもしれない。そんな不測の事態にも対応できるよう、オシャレ衣類を買い求めていくのだ。

身体の厚みが増したので、服は前々から買おうと思っていた。のだが、ダンジョンに潜るのが楽しかったり蟲王スーツを作るのに夢中になったりで、後回しになっていた案件だ。

そんな訳で瑠羽のお見舞いに行く時にも、慌てて前日に買い物に行ったりする羽目に。

「う~ん、とりあえず4.5着揃えておけばいいか。瑠羽の好みもあるだろうし、例えばそういうお互いの服を選んだりする、お買いものデートも楽しそうだ♪」

うんうん、夢が膨らむ。

『ん~…コーチにはこの服が似合うと思いますよ』
『お、そうかな。じゃあ瑠羽にはこの〇麗のコスプレ衣装を』

『ヤですよぉ!そんな恥ずかしい恰好ぅ~ッ!』
『いやいや、瑠羽なら絶対似合うと思うんだ。オレは瑠羽が春〇のコスプレしてる姿、すごく見てみたいなぁ』

『…うぅぅ、どうですか?すごく恥ずかしいですよぉコーチ…』

くぅ!堪らない!そんな瑠羽に膝まくらしてもらって、耳かきとかして欲しい。


……。


午後はダンジョン前室で身体を鍛える。

頑張った分だけ結果に繋がる現状は、まさに理想的だ。その為にも、自分の伸び代は常に伸ばして確保しておきたい。なのであれこれと工夫し身体により負荷をかけようとした結果。片手逆立ち腕立て伏せという、訳わからん筋トレになってしまった。

しかし肢を開いた状態や閉じた状態だけでも重心が大きく変わり、筋力というよりも体幹がものすごく鍛えられる。これはすごい。

その後は自分の手足をスキル【粘液】で縛る。別に自分で縛ってハァハアするわけではない。いや、ハァハァはするけど、性的な意味ではない。

粘液で造り出されたロープが、ダンジョンの壁に繋がっているのだ。

つまりはチューブトレーニングと同じ。高い粘性を持つゴムのような粘液ロープで壁と手足を繋ぎ、パンチやキックを繰り出そうとした時に負荷として働くのだ。

「ぐぅ~ッ!(うにょ~ん…)むぅ~ッ!(ぐにょ~ん…)」

そう、今日は筋力強化の日。

力を籠めた筋肉にピリピリとした痛みが走るくらいに、負荷をかけて鍛える。このピリピリとした痛みは、負荷により筋繊維が裂けていく痛みだ。しかしこれが修復される時に、以前よりも負荷に耐えられるよう太く強く修復される。

これが筋肉肥大の秘訣、超回復。この現象がしっかりと筋肉で起きるように、でも傷め過ぎて筋断裂などの大きな怪我にならないよう慎重に身体を鍛えていく。


「ハァ…ハァ…、フゥ~~~ッ!」

火照って疲れた身体を横たえる。クールダウンだ。だがダンジョンの床に直接寝るのは、冷たすぎるし硬い。そこで身を横たえる場所は、ダンジョン前室に設えた簡易拠点。

ダンボールを敷いただけの拠点だが、オレは気に入っている。なのでこの拠点のことを『オヤッさん』と呼ぶことにした。癒しスポットの名としてこれほど相応しい名前も、そうないだろう。

「………」

静かに横になっていると、心臓がバクバクと鼓動を打ち、血が身体中を駆け巡っているのを感じる。あまりに強い脈拍のせいで、耳が音を聞き取り難いくらいだ。

ふと、身体を休めながら自分の身に起きたことを振り返る。可愛い彼女が出来た。身体は驚くほど強靭になった。ご飯は美味しいし、いつでも好きな食事を気兼ねなく摂れるくらいの収入を得ることもできた。

元を辿ればそれはみな、うちの冷蔵庫がダンジョンになったからだ。

「ありがとうダンジョン。オレはおまえのおかげで、大きく変わることが出来た」

見上げた青白いダンジョンの天井に向け、感謝の言葉を告げる。だからといって何が変わるという訳でもないが、気持ちの問題だ。

そんなオレをダンジョンの天井の青白い光は、いつもと変わらずに照らしていた。
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