うちの冷蔵庫がダンジョンになった

空志戸レミ

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春菊天コロッケかけそばと雨上がりは突然に

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「ふははははーッ!風切るぅバールゥ♪チョップ!チョップッ!チョーーップッ!!」

オレはダンジョンの地下4層で『蟲王スーツ姿で両手にバールを持ち、アニソンを歌い叫びながら巨大ナメクジを殺しまくる』といった奇行に走っていた。

ああ、でも大丈夫。安心してください。自分で奇行だと解ってますから。こんなんでも真面で素面です。何をしているのかというと、スキルオーブ寄越せマンとなって巨大ナメクジを狩りまくっているのだ。


           現在    前回
レベル        37      36
種族:       人間

筋力        212      200
体力        218      201
知力        215      202
精神力       240      220
敏捷性       220      208
運         133      103
器用さ       221      200

技能:
【強酸】1.1・【俊敏】・【病耐性】5・【簒奪】・【粘液】2・【空間】2・【強運】1.3・【足捌】

称号:
【蟲王】


レベルは変わらない。30台後半ともなると、なかなかレベルが上がり難くなってきた。そのストレス発散と、「レベルが上がり難いならスキルを強化しよう!」という事で【粘液】のスキルオーブをドロップする巨大ナメクジを狩りまくっているのだ。

あと歌っているのはアレ…ストレス発散と戦意高揚?誰も見ていないし、別にいいでしょそれくらい。それに歌っていると、巨大ナメクジも声に反応して集まってくれるし。

しかしいつの間にかスキル【足捌】が習得出来ていた。たぶんだが、『刃物を持ったゴブリンを足捌で倒した』か、指導している女子大生たち三人に『足捌の技量を認められた』とかが取得条件だったのかなぁ、と考えている。


「でりゃああぁ!」
『ずぶしゃ!ざくぅッ!!(…ぼふんっ)』

すでに巨大ナメクジが酸で一撃なのは解っている。なのでエクスカリバール両手持ちで巨大ナメクジのその身体を引き裂き、その身を裂いたうえで内部の急所に止めを刺すという練習を行っている。

なぜならキングゴキという巨大モンスターを目の当たりにしたオレ。「あんなモンスター倒しようがない!」と、追われながら心臓バクバクで金玉もヒュンヒュンした。

だが、この先もダンジョンに潜っていれば、ああいった大型のモンスターにも必ず遭遇するのだろう。

だからそういった時には、肉を裂き掻き分けるようにして急所に一撃を喰らわせなければならない。幸いキングゴキは体内には酸が有効だったが、それも通用しないモンスターだって現れるかもしれないからだ。


『きゅわ~!ぱわわぁ~!』

技能:
【強酸】1.1・【俊敏】・【病耐性】5・【簒奪】・【粘液】3・【空間】2・【強運】1.3・【足捌】


「う~ん、朝から2時間狩り続けてようやく1個か…。やっぱり一気に数を倒せないモンスターは時間がかかる。スライムみたいにスキルオーブのドロップしやすい方法が解ればいいんだが…」

それでも【粘液】3にできた。筋トレしていても【粘液】2だと負荷を物足りなく感じていたので、やはりもう少し【粘液】のレベルも上げておきたい。

「ま、一旦部屋に戻って、昼を食いに出がてら魔石を売りに行くか。そろそろ雨も止んだだろう」

今日は朝から雨が降っていた。それで午前中からダンジョンに潜っていたのだ。


………。


シャワーで汗を流すと着替えてバイクにライドオン。雨は止んでいたがまだ路面が濡れているので、注意が必要だ。そうして安全運転でダンジョンショップを巡り、途中で腹が減ったので立ち食い蕎麦屋の暖簾を潜った。

安くて手軽に食べられる立ち食い蕎麦、サラリーマン時代には随分と世話になったものだ。

(ん~、食欲をそそる良い香り!)

店内に入ると、だしつゆの甘い香りに空間が満たされている。ああ、だしつゆのあったかい香りって、どうしてこうも食欲をそそるのだろうか。

さて、ではと自販機に向かい注文品をチョイス。

(かけに…春菊天とコロッケ。それにおいなりさん…いや、ここはカレーもいっちゃおうかな!)

うは、なんという贅沢!

サラリーマン時代にはトッピングは一品までとセーブしていたのに、それを二品も頼んだうえにセットメニューでないカレーを別で注文してしまうとは!心なしか自販機から出てきた食券も、どこか神々しく輝いて見える。

そうして食券を店主に渡して、待つことしばし…。

「はいよぅ、かけに春菊コロッケにカレーおまちぃ!」

YES!イッツマイン!それは私のです。注文品の載ったトレーを受けとり飲食スペースへ。

どんぶりになみなみと注がれた真っ黒なだしつゆに浸る蕎麦のうえには、緑が目に優しい春菊天と楕円形がキュートなコロッケの載ったかけそば。そして蕎麦屋風味の美味そうな匂いをさせているカレー。うんうん、実に美味そうだ。

かけそばには盛大に七味をドバ掛けし、まずは真っ黒なつゆから頂く。

「ずずぅ~…(はぁ~!)」

うん!相変わらずのこの塩っ辛さ。関東風と言われる真っ黒なだしつゆ。減塩とかを全く考えてないこの塩分濃度…。だがそれがいい!このパンチの効いた味こそが、疲れたサラリーマンの心と身体に活を入れるのだ。

「(カリッ…)ずぞ、ずぞぞぉ!(もぐもぐ…)ずばぞぞぞッ!!」

これに春菊天のほろ苦さが加わると、なんとも蕎麦の啜りも勢いづいてしまう。

(ああ、やっぱりいいよなぁ…春菊天)

甘酸っぱい青春なんて、とんと縁の無かったオレ。そんな高校生時代に独りサラリーマンに混じって食べた駅そばのほろ苦い春菊天。その味が、当時は酸いも甘いも噛み締めた大人の味に思えたものだった。

(そしてコロッケ…)
「(カリッ…しなっ…)ずぞ、ずぞぞぉ!(もぐもぐ…)ずばぞぞぞッ!!」

かけそばに載ったコロッケは、どこか優しさと憂愁の美を感じさせる。カリカリの衣が汁を吸ってくったりと崩れていく様は、見ていても食べても…甘く切ない。

もうそれだけでも素晴しい芸術作品なのに、今日はなんと、それにカレーまでもがついているのだ!

「カッカッ!(もぐもぐ…)カッカッ!(むぐむぐ…)」

恐ろしい!なんということだ!インド人はなんていうものを発明してしまったのだろうか。それが遠く海を渡ったここ日本で、また別のテイストを持って進化しているのだからまったくもって驚愕に値する。

そんなオレのなかでは遥かなインドと故郷ジャパンが混じり合い、渾然一体となって今まさに美味いぞビームへと昇華され口から溢れ出そうかという時になって、不意に通信端末が鳴りだした。

(ん、だれだこんな時に…?)

『助けて師匠!わたし殺されちゃう!』
「ブフッ…!?」

(なんですとォ!?)

それは瀬来さんからの、SOSメッセージだった。
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