うちの冷蔵庫がダンジョンになった

空志戸レミ

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ゲリラバーベキュー

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(うおっ、なんだこの人参!?クソたっか~!!)

スーパーに入ってすぐの野菜売り場で、思いのほか値上がりをしていた人参に驚き思わず二度見をしてしまった。

うむむ…発育不良で手に納まる程度の超ミニサイズ人参が、たったの1本で¥500。うん、一袋じゃなくて、1本の人参でこのお値段ですよ奥さん!まさにブったまげ。

それでも買い物客は渋々といった様子でそれらを買い求めていく。なにせ陳列されている棚がスカスカなのだ。モタモタと買うのを悩んでいれば、それすらも手に入れることができなくなってしまう。

(う~む、なんともこれは参ったな…)

長いこと避難していたせいで、手入れを全くされなかっただろう育ちの悪い人参を手につい悩んでしまうが、野菜が食べたかったのでこんなんでも一応確保しておく。

(ふ~む、野菜はウチのダンジョンでは手に入らないものな~)

植物ダンジョンで高霊人参がドロップしたけど、アレはどっちかっていうと漢方っぽい感じだったし。まぁ煮付けたりすれば美味かったけど。

……。

それにしても金がない。アイハブノーマネー。

まさかちょっとの買い物で万札が飛ぶとは…コレは困った。真田薬品さんからの入金はまだだし、居酒屋紫の食材卸も末締め翌月末払い。よってオレの懐事情はひっ迫しつつあった。

いっそのことストリートマッサージ屋でも始めようかと思ったが、アレってまず日本じゃ受け入れられないか。

それにすぐ警官がやってきて「キミキミなにやってんの?ちゃんと許可とってんの?」な~んて怒られてしまう。うん、露店を出すにしても申請して許可がないと出せないもんな~。

なんてことを考えていたオレは、今回だいぶ悪知恵を働かせてみた…。

色々準備をして出かけると駅近の人通りの多い公園で、ゲリラバーベキューをするという暴挙にでたのだ。

これは警官がやってきて「キミ公園で何やってんの?」などと訊かれても「いやウチ今スタンピードの影響で電気もガスも止まってて、こうしないとメシ食えないんスよ~」などといった感じで、巧みにはぐらかす所存。

炭はホームセンターで買えたし、調味料の類はさほど値上がりしていなかった。そこで公園にて冷蔵庫ダンジョンで手に入れてきたカマドウマの肉を、ひとり華麗にバーベキュー。

串に刺したのは、カマドウマの肉だけ。

うん、だってお野菜が高いんですもの。でもその代わりひと串で200gはある、ボリュームサイズの串焼きでござ~い。これをジャンジャンと炭火の網で焼いては、塩とかタレをかけてはひとりでムシャムシャ。でも何気にお店風味というか、人通りのある遊歩道に向かって焼いているのがミソさね。

すると肉の焼ける香ばしい匂いに誘われて、早速ひとりのおっさんが声を掛けてきた。

「なにやってるんだ?」
「ん~?メシ食おうと思って。いまウチ電気もガスも止まっててさぁ…」

「おい、そんなにたくさんの肉をひとりで食うつもりか?」

なにやらおっさんはクーラーボックスふたつにたっぷりと入れられている肉を指差し、たいへん不服気。

でもまぁさもありなん。

いま買い物に行ってこれだけの量の肉を買おうと思ったら、20万30万じゃ利かないだろう。故にこんなに大量の肉を独り占めしているオレのことが、だいぶ面白くない様子。

「え、なに食べたいの?ん~でもなぁ~、別に商売でやってるわけじゃないしなぁ~」
「ケチ臭い事言うな。こんなにあるんだから、少しくらい分けてくれてもいいだろう!」

「え~…、まぁそこまで言うんだったら、特別に分けてあげないこともないけどぉ?」
「お!いくらだ?」

「じゃあ食材をあげるってコトで、ひと串千円ね」
「安い!じゃあ二本買った!」

「はい、二千円ね、まいどあり~。でも店じゃないんだから、いま食いたきゃ自分で焼いてくれよ。ああ、でも調味料とかは好きに使って良いから」
「お、なら今焼いてるヤツを貰ってもいいのか?」
「いいですよ。どうぞどうぞ」

くひひひ…、うまくいった。

オレが普通に肉焼いて売ってたんじゃ、営業許可証も無きゃ場所代も払ってないからね。通報されたら一発でしょっ引かれてしまう。

でも食材を分けるだけなら、たぶんセーフ。グレーゾーンてヤツだな。ま、公園で火を使ってる時点でかなりアレなんだけど、スタンピード直後という事もあり、ライフラインはズタズタ。なので外で煮炊きをしていても、多少は大目にみてもらえるだろう。

「おい兄ちゃん。コレ、もしかして売ってるのか?」
「ねぇお兄さん、私にも一本貰えるかしら??」

ほら、一度注目を集めると、後は続々と人が集まってくる。

「参ったなぁ~。こまったな~。べつに商売でやってるわけじゃないんだけどなぁ~。でも欲しいならひと串千円ね。はい、どうもまいどあり~」

ま、オレはあくまでも「ひとりバーベキューをしてたら、周りからどうしても食材を都合してほしいとお願いされたのでやむなく」といったスタイルを崩さない。うむ、それがオレのファンタジー。

そうしてしばらく過ごしていると、なんだか血相を変えた感じのおっさんがワタワタと転がり込んできた。

「スマン!その残りの肉、ワシに全部売ってくれ!!」
「おいおい、それはまたずいぶんと強欲だな。どうしてそんなことを言う?」

「今、我が家には年老いた両親のほか親戚が大勢避難していて、みな腹を空かしてるんだ!食べ物を探してあちこち周ったが…どこも満足のいく量が手に入らない!だからどうかこの通り!コレで残りの肉を売ってくれ!」

ああなるほど、そういうことだったのね。

おっさんがオレに向け出した手には、6枚の万札が握られていた。そこでそこから5枚を受けとり1枚返すと、残りの肉はクーラーボックスごと渡してやる。

「い、いいのか…!?」
「ま、そういった話を聞いちゃうとね。ほら、だれかに盗られないうちに急いで帰ったほうが良いんじゃない?」

そう言うと、肉を焼いていた人達も笑っている。

「今時分にそれだけの肉を持ってたら、襲われてもおかしかねぇな~ 」
「そうだな~。そら急いだ方がいいな」

「「「ハハハ…!」」」

「あ、ありがとう…!」

こうしてクーラーボックスを抱きかかえたおっちゃんは、何度も振り返りペコペコと頭を下げながら去って行った。ま、慈善事業って訳じゃないけどさ。オレに出来るのは、こんくらいのモンさね。
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