うちの冷蔵庫がダンジョンになった

空志戸レミ

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pepper

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さて、あのスーパー聖力士たちにはメチャクソ驚かされたが、それはそれとして楽しい夕食タイム。さぁ!みな思うさま美味しいバーベキューに舌鼓を打つがいい。

「美味ぁい!」
「コレすごく美味しいね!お姉ちゃん!」

「ふふ、せやろ。ユキもマサも、たくさん食べや」

ふふふ、ユキくんにマサくんは大好きな静お姉ちゃんといっしょでご満悦だな。ここはこのまま仁菜さんに任せておけばいいだろう。

「あの…、万智さん。あそこのお鍋ってなんなんですか?」
「ああアレ?超巨大猪の肢の皮。ま、豚足鍋ってトコね」

ああ。結月ちゃんが興味を持ったのは、ホルモン鍋チックな見た目の超巨大猪の肢の皮鍋だな。

「雛形くん。あれも見た目的にはとっつきにくいかもしれないが、ゼラチン質が豊富だからお肌にはとってもいいんじゃないか?それにお爺さんが丹精込めて育てた香味野菜と一緒に煮てるから、臭みもぜんぜん感じないぞ」
「あ、それじゃちょっとだけ頂いてみます」

「うめぇ!この肉厚な感じがたまんないぜ!でもぶ厚すぎて少し飽きちゃうな。なぁジャング、胡椒ってないのか?」

シャークはシャークで分厚くカットしたトンテキならぬイノテキにかぶりついていたが、味に変化が欲しかったのか胡椒がないかと言いはじめた。

「ああ、そういえば胡椒は品切れだな。最近バーベキューばっかやってたから」
「かぁ~、これだから!もぉ~肉には胡椒がないとダメダメだろ!」

いやいやふざけんな。

この肉はオレのスーパーグレートな塩で念入りに漬け込んで、仁菜さんが日々熟成具合をチェックして今日はコレが一番ねってお出ししたんだぞ。臭みなんてあるわけないんだから、もっと素材の味を堪能しろよ。

「あぁ~無いと思ったら余計に欲しくなった!あ~胡椒、コショ~!今なら倍の値段でも買う~~!」

まったく、胡椒胡椒とウルサイな。

ふむ、でも胡椒か。たしかに胡椒はオレも好きだ。あればついついかけてしまうくらいに。でもさすがに倍の値段を払ってまでは、いらないな。

そうそう、ときに胡椒といえば金と同等の価値があるとされていたのは有名な話。

だが今オレが思ったように、胡椒にそこまでの価値を見出す人は現在にはまずいないだろう。しかし大航海時代のヨーロッパでは、それが通った。

でも、それはナゼか?

無論、流通の困難さから価格が高騰したというのもある。が、天国の種とまで呼ばれ珍重されたのには、他に理由がある。その理由は大航海時代のヨーロッパでは貴族は肉を食すのがステータスとされていて、保存技術のお粗末さから腐った肉もそのまま食べていたから。

うん、まさかお貴族さまが腐った肉を食うなんて…と思うだろう。

でも食ってた。だってそれが、貴族のステータスだったから。

そして希少な動物の肉ほど価値があり、そんな肉を手に入れられた貴族は「ホレみてみい!どないやおまえら!」と、力と食通ぶりを周囲に誇示できたのである。

逆に一般市民や農民なんかは、おまえらなんぞが肉食うなアホ!ニンジン食ってろ!と厳しく縛られていた圧倒的階級社会。

ほかにも地球はたいらで水は毒。さらに病気になるのはぜんぶ悪い血の所為だからって、病人からはバンバン血を抜いちゃう。風呂にも入らないし頭にシラミがいる状態がデフォなのが、当時の貴族さまだ。

そんなことを本気で正しいと信じていた相当にアレな時代だからして、現在の感覚や常識はまったく通用しないのである。

余談だが「それでも地球は回っている」と呟いたとされるガリレオ・ガリレイ。彼はそんなアレな時代に地動説なんか唱えちゃったもんだからさぁ大変。速攻教会に目をつけられ、神をも恐れぬ大罪人として裁判でボッコボコにされた。

まぁでも当時都市部では下水設備のお粗末さからまともな水がほとんど飲めず、代わりにずっと酒飲んでて全員アル中でしたってのなら、それもそう不思議な事でもないだろう。

さらにさらに当時のヨーロッパなんて壺に溜めてた糞尿を窓からぶち撒けてる数軒先で、パンやら肉やらを売ってるような酷い衛生環境。なのでちょっと腐った肉や虫の湧いたパンを食うくらい、どうってことはないのである。

ただ、そうはいっても腐った肉はやっぱり不味いし、食べる時に腐臭がすればオエッてなる。

そこで胡椒よ胡椒の出番。どんな腐肉も胡椒をまぶし、こんがり焼けばアラ不思議。とっても美味しく頂けるということで、まさに天国の種とまで呼ばれるようになったのだ。

そう、これが胡椒の珍重されていた理由。

なのでもし魔法全盛の異世界にそのままこの価値観を持ちこんで、胡椒は金と同等の価値!なんてやると、盛大に地雷を踏み抜くことになる。ま、大抵はよく精製された塩とか砂糖に、置き換えられてるだろうけど。

で、それはなぜかというと、理由は現代と同じだから。

魔法がすこぶる発展した世界ならば、腐った肉など無理して食わずとも氷魔法を使えるヤツにビシャンと凍らせてもらえばいい。それならば大航海時代にあったような胡椒の必要性は消え、現代ほどの価値にまでさがってしまう。

うん、より優秀なヤツならチルドなんて魔法も持ってそうだ。

つまり現代科学における三種の神器のひとつ。シロモノ家電冷蔵庫の代わりを、魔法使いや魔道具にさせるのだ。

例えば魔法を使える人間の数が現代の普通免許取得者ほどもいる世界なら、それこそいくらでもだろう。これが二種免許や大型免許取得者ほどになると少々難しいが、それでも大きな商店ならば大抵冷凍魔法の使い手を雇っているはず。

さらにそれが大型特殊とか専門的な免許クラスになるとお貴族さまくらいしか雇えないかもしれないが。それでも現代の相場でクレーン車を扱う者の賃金程度で雇えるのなら、貴族にとっては安いモノ。

しかしこれがセスナやヘリコプターの操縦免許ほどになると、そこはもう大貴族しか雇えはしないはず。ま、現代でいえば自家用ヘリや自家用ジェットなんてモノを持ってる大富豪クラスなら、そういった冷凍魔法の使える魔法使いを雇ったりできるレベルか。

すると、そんな魔法全盛の異世界では宮廷の晩餐会でこんなやりとりも起こりうる。。。

「はぁ…、たいへんに美味しいお肉ですが、どうもどこか物足りないような…コレに胡椒でもあればまた…」
「なにぃ?卿はいま、胡椒と申したか?あのただ辛いだけでくしゃみばかり出そうになるアレのことか!?ハッ、あんなモノは冷凍魔法使いも雇えぬ貧乏人が、腐肉の臭みをしかたなく誤魔化す為に使うモノであろう?ここにある肉はすべて、ワシが上級冷凍魔法の使い手によって冷凍保存させた最高品質の肉!そんな最高の肉の前で、どうしてそんなモノが必要だというのかッ??」

「う、そ、それは…」

「ハハハ!まさに侯爵のいう通りでございますなぁ!」
「おほほほほ!まぁ嫌ですわ。この魔法全盛のご時世に胡椒ですって…」

すると、今までただ欠伸ばかりでやる気のなさそうにしていたグータラ男爵が、なぜか食い物の話になった途端目の色変えてしゃしゃり出てくるのだ。

「そいつぁ聞き捨てなりませんねェ!この冷凍焼けしたクズ肉の、いったいどこが最高だっていうんですか!?」
「な、なんだとぉ!」

うん、まぁ、あとは推して知るべし。
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