うちの冷蔵庫がダンジョンになった

空志戸レミ

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「まったくもう!ホント嫌んなっちゃうわよ!」

草津に居た時から、「営業を再開したから、また食材をヨロシクね!」と連絡をくれていた紫の大将。

そこで卸すためのダンジョン食材と草津のお土産を手にお店を訪れると、いつも明るく陽気な大将の機嫌が今日はすこぶる斜めだった。

「はぁ、いない間にそんな事になってたんだ…」
「そうなのよもぉ~!この辺りじゃ、ウチのお店が元祖ってもんなのにねェ~!」

得体の知れないダンジョンモンスターを材料に料理を提供したという咎で、保健所から営業停止処分をくらっていた居酒屋紫。

だがその間に大幅な規制緩和があり、一部安全の確認のとれたとされるモンスター食材が流通を始めていた。そしてなんと居酒屋紫休業中に、その真正面に元祖モンスター料理を謳ったお店がオープンしてしまっていたのだ。

これにはその件で営業停止をくらった大将も、納得いかないと臍をかんでいる。

「うん。でもまぁ、タイミングが悪かったとしか…」

木枠の擦りガラス越しに外を覗けば、向かいの店先には幟がたてられている。そしてそこには『元祖!モンスター料理』や『異世界珍味!』などといった文言が風に揺れ踊っている。

「でもさ、やっぱり悔しいじゃない。…グズッ、ウチはそれでお客さんにも喜んでもらって、真っ当に商売してたっていうのに…。これじゃまるで、手柄を横取りされたみたいじゃない!」

うん、大将はオレが卸したモンスター食材で、料理をとても安く提供していた。

それも物価の上がり始めた最中だったから、お客さんにはさぞ喜ばれたはず。ただ問題は、使っていた食材が世間的にはまだ未認可のモンスター食材だったこと。

そして今現在はかろうじてだけど、ちょっぴりだけ輸入量が増えた。

オレ達が草津にいた間に、なんかお相撲さんが神を降ろしたり女子高生がUFO呼んだりしたことで、『やっぱあの国ヤベェ!』と、世界からの締め付けもやや緩和されたのだ。

とはいえダンジョンスタンピードで大きな被害を蒙ったのは、日本だけではない。

それにより輸入量は以前よりも少ないし、国内の農業・畜産業・漁業と食糧生産の現場で被害を受けていないところは、ひとつもない。なので今の日本には、圧倒的に食料が足りていないのだ。

そこで目を付けられたのは、ダンジョンにいるモンスター。

そのなかには巨大カマドウマや巨大カニ、それに巨大ムール貝にピラゴロウと食えるヤツはたくさんいる。いや、まぁそれはオレたちが食ってるだけで、世間的に流通してるのはまた別のモンスター食材ではあるが。

「ふぅむ…。とするといよいよ、特異迷宮能力者たちの出番という訳か」
「ハァ…、まぁそうね。江月ちゃんもお疲れ様。この間やってたトーナメントに出てたんでしょ?」

「え?」
「あらヤダ、あんなに目立つ格好してて、解らない訳ないじゃない。タケちゃんといっしょに、テレビで応援してたのよ」

「ああ、なんだ。そうだったのか。そういえば大将はオレのスーツ姿、知ってるんだもんな」
「そうよ。命の恩人ですもの、そんなに薄情じゃないわよ」

そうだ。スタンピードの時にヤクザ風味なタケちゃんさんがプチリザードマンと戦ってて、そこへ瀬来さんといっしょに助けに入ったのが縁だったんだもんな。

「でもそうなると厄介だな。コッチの店で元祖を謳っても向かいも同じじゃ、二番煎じと思われるし変な諍いにもなりかねない」
「でしょ~!困っちゃうわよねェ~ホント」

オレは淹れてもらったお茶を飲みながら、大将は今晩の仕込みを始めながら、なにかいい手がないかと思案する。

と、再び視線を外へと向けたとき、向かいのお店の扉が開き、なかから白い板前姿をした店主と思しき人物が現れた。

その風貌は、いかつく屈強な黒人スキンヘッドのおっさん。

で、そんな人物が通りの左右を見回し、営業開始のためか店の暖簾をセットすると、店内へ戻っていく。そしてかけられた白い暖簾には、黒で大きく『ぼぶ』の文字。

(あ~、あれは確かに。いかにもボブって感じだったな…)

居酒屋ぼぶ。どうやら大将の営む居酒屋紫に、強力なライバル店が出現してしまったようだ。
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