うちの冷蔵庫がダンジョンになった

空志戸レミ

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A Brief Circumstance Between Two Young Ladies

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この日、波利井梓沙と堀田美奈の姿が洒落た六本木のカフェテラスにあった。 するとその整った容姿に惹きつけられ、また誰かという事も特定できた男性が彼女たちのふたつ名を口にする。

「あ…、おいアレ。水の巫女とファイヤーナイトじゃないか?」
「え、マジで??」

しかし彼女たちに興味を持ち声をかけようとした者は背後から軽く肩を叩かれ、振り向くと背広姿の屈強な男性に無言で首を左右に振られるといった態度で弾かれる。なぜならふたりともそうした護衛の者がつくほどに、いいとこのお嬢様だったからである。

波利井梓沙は建設大手・波利井建築の社長令嬢。堀田美奈も大手不動産会社の経営者一族。そのため幼い頃から親交があり、今も友人兼気の置けない競い相手といった関係。

「それで、梓沙の方は最近どうかしら?」

艶のある黒髪ストレートに青のメッシュを入れた美奈が、指先でつまんだ小ぶりなティーカップをソーサーに戻すと梓沙に視線を向ける。美奈は今日も水をイメージする涼しげなドレスを身に纏っている。

「ん~…、悪くはないが、パッともしないかな」

一方で対面に座る梓沙は、カーキ色のスーツ姿。その理由は、自身のイメージカラーである赤を着る時は戦う時と決めているからだ。無論スーツは上等な物であるが、短く整えた髪と相まってどこか学生服を思わせる。

事実ふたりは大学生であるが、一般的な大学生のように就職に困るといった心配はないのでそういった精神的不安とは無縁といえた。

「そお?でも子会社の波利井建機がダンジョン用重機の運用試験の為とかで、新しくダンジョン委託管理の権利を確保したそうじゃない?」
「ああ。でもあそこは重機の試験目的だからね。火のスキルオーブを落としてくれるようなモンスターはいないよ。美奈の方こそ、グループの警備会社が水のスキルオーブが出るダンジョンを持ってるんだろ?」

ふたりは大企業の経営者一族という立場を利用し、企業で管理を任されたダンジョンで活動を行なっていた。一般開放されているダンジョンでは他者の眼が在り過ぎて、自由に行動できない為である。

安全と、スキルトーナメントで名も顔も売れているので、作り上げたイメージを壊したくはないのだ。

「そうね、オーブが出たら買い取っているわ。けれどそうそう出るモノでもないし、最近は連絡もないわ」
「そうか…。オークションに出されるオーブはどれも高額になるし、講演を頑張ればその辺を優遇してくれるかもと思ったけど、そこは当てが外れてしまったようだ」

梓沙はそう言って肩を竦めてみせるが、講演では毎度同じ話しかしていない。

ダンジョン発生初期。現場から会社に連絡が入り、父親が重役たちも連れその確認に向かうというので便乗させてもらった。入るとおかしな生物たちが襲いかかってくると報告はあったが、下請けの社員たちは建築現場で働く者達。力も有り戦う為の武器にも事欠かなかった。

その際に変な球を拾ったというので梓沙も見せて貰うと、オーブが発動し火のスキルを手に入れたのだ。あとはその力を武器に努力して成長したと、講演の内容は美奈もそう大差ない。

「ほかの人達から比べれば有利には違いないでしょうけど、わたくし達の場合は強くなるために狩場がふたつ以上必要ですものね」
「まったくだ。強くなるにはスキルのレベルを上げるのが一番だが、オーブを落とす相手には通じにくい。頭の痛い話だよ」

梓沙や美奈のように後衛魔術師タイプだと、有利に戦える状況は限られる。しかも火や水といったスキルを用いて攻撃してくるモンスターは当然それに耐性も持っている。つまりオーブを集めようとすれば狩りに手間取り、自身のレベル上げにはまた別のダンジョンかモンスターが必要となるのだ。

どこぞの誰かのようにドアトゥドアでダンジョンに入り浸り変態的にモンスターを研究しているのでもない限り、経済的優位性を持った彼女達でも自身を強化するのはなかなか思い通りとはいかなかった。

「梓沙もでしょうけど、初めに潜ったダンジョンはその価値に気付く前に潰されてしまいましたものね」
「ああ、あれは惜しい事をしたよ。こんな事になるのなら父に頼んでおけばよかった」

「ふふ、言ってもしょうがない事ですけど、後の祭りですわね」

伸び悩みに困ってはいるが、苦境に立たされている訳ではない。そんな余裕がふたりの会話には感じられた。

「と、そうだ。祭りといえばスキルトーナメントの後で、GIジャングの話をまるで聞かないな。ボクたちのように講演も行ってはいなかったようだし」
「もしかしてダンジョンで消息を絶ってしまったのかしら…?」

そこでふたりは通信端末でゴールドインセクトについて軽く調べてみる。が、スキルトーナメント時の悪評しかヒットしない。これは一部彼と接触しトラブルとなった者達も大抵が豚箱行きとなったので、情報を発信する者が本人を含めまるでいなかった為。

であるが事情を知らないふたりは、本当に死んでしまったのかもと顔を見合わせた。

「…ま、まあもうすぐドリームアイランドの開園セレモニーがある。その時くらいはGIジャングも顔を出すんじゃないか?」
「そうね、素顔を知っているのはわたくし達くらいのものでしょうし…」

そうこの話題を終わらせると、ふたりはどちらともなく晴れた空に視線を向ける。そして、なんとはなしにその青空にGIジャングの姿を思い浮かべたのだった。
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