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航路妨害
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「それっ、者ども!駆けろや駆けろ!」
「「「おおおおおッ!!」」」
新生・今川義元は朝早くから波打ち際を駆けていた。それは早朝ランニング。まったく今川義元のイメージとは結びつかぬ光景である。
しかも駿府・遠江の当主自らが身体を鍛えるために駆けているを見ている訳にもいかず、まずは小姓たちが続いた。すると今川館を守っている兵たちもこれは当主様をお守りせねばと続き、今ではその光景は駿府の町の朝の風物詩となっていた。
新生・今川義元。18歳のはちきれん若さで駆け、波を蹴って走る。
相変わらず武芸全般と馬は不得手であったが、顎のした以外その身体には余分な肉などついておらず、実に健康的で力に満ちていた。
「それっ、者ども!総がかりじゃ!得物を取れ!」
「「「おおおおッ!!」」」
川に到着すると、設えた納屋からジョレンや熊手といって道具を手に、兵たちはザンブと水の中に飛び込む。それで身体に籠った熱と汗とを洗い流すと、腰を曲げシジミを掘りだすのだ。
しっかり足腰を鍛えられたうえ、朝の食卓には新鮮なシジミの味噌汁がのぼるといった寸法。新生・今川義元の鍛えには、一切無駄がないのである。
他にも交易の儲けで徐々に常備兵を雇い入れ、訓練と称し川の浚渫や土塁作りに従事させている。そんな様子を目にした領民たちの心服は、またさらに義元へと集まるばかりであった。
…。
「少々困ったことが起きたようにございます」
書院で政務を取り仕切っていると、政務も軍務も熟しつつ寺の住職もやっているスーパー僧侶・太原雪斎がやってきた。
「なに、困り事とな?」
MMOだったら5次職6次職の超絶進化ジョブに就いているだろうし、カードゲームなるものならば虹色キラキラSSRカードであろう雪斎。その口からいったい如何なる問題が飛び出すのかと、義元は筆を置き身構えた。
その間に雪斎は文机を挟んで義元の向かいに座った。
「先ほど着いた報告によると、商船の航行が妨げられているようでございます」
「ふむ…。どうせのことに、尾張近辺であろう?」
「はい、自分達の手の者は使わず、近場の国の船手衆を使って襲わせているようにございます」
「被害は?」
「今のところ、さしたる被害ではありませぬ。しかし、これがこのまま続くとなれば、厄介なことになりましょう…」
「それは困るのう」
「されば、困りごとと申しました」
雪斎はしれっとそう言ってのけると、視線をさげたまま何も言わぬ。これくらいの対策は自分で考えろというのだ。
(ふふん。しかしそれくらいの事。このヨシモーもすでに考えておるわ)
「では、そろそろ領内に居る腕の立つ職人らを、集めてもらうとするかのう」
義元は含みのある物言いでそう言うと、壁に設えた棚に飾られている木の模型を見やる。
「あれはたしか…。文殊菩薩から知恵を授かったという、奇天烈船にございますか?」
「さよう。模型での試しもだいぶ進んだ。そろそろ大きな船を作らせてよい頃合いじゃ。ソレで尾張の虎をビビらせての、手が出せぬようしてくれよう」
「ビビとはまた。恐れによる身体の震えを例えたにございますか?」
「そうじゃ。良い響きであろう?」
「はぁ。なれど拙僧はともかく、みなの前ではもすこし分かる言葉をお使いなされませ」
「ホホホ。うむ、分かっておる。じゃが儂も、師にはつい甘えたくなっての。他の者の前ではよう使わぬ」
「そう心掛けを。文殊の知恵も過ぎれば毒となりましょう」
「そうじゃの、気を付けよう」
現代知識を用いたチート。これは周囲の者からしたら、当然理解の範疇を超えたもの。それ故、義元はそうした知識を知恵を司る文殊菩薩からお告げを授かったとしていた。
義元は4歳で寺に入り17歳まで学僧として修行を積んでいた。なのでそう言われた方が周囲の者にとっては一番納得がいったのである。つまりはヨシモー文殊パワー!メイクアップ。
「では太守として号令を発す。領内にいる職人どもを、あまねくここ駿府に集めよ。儂直々に音頭をとって、新たな船を建造いたす!」
「かしこまりました。ただちに」
こうして領内にいる職人が、駿府へ集められたのだった。
「「「おおおおおッ!!」」」
新生・今川義元は朝早くから波打ち際を駆けていた。それは早朝ランニング。まったく今川義元のイメージとは結びつかぬ光景である。
しかも駿府・遠江の当主自らが身体を鍛えるために駆けているを見ている訳にもいかず、まずは小姓たちが続いた。すると今川館を守っている兵たちもこれは当主様をお守りせねばと続き、今ではその光景は駿府の町の朝の風物詩となっていた。
新生・今川義元。18歳のはちきれん若さで駆け、波を蹴って走る。
相変わらず武芸全般と馬は不得手であったが、顎のした以外その身体には余分な肉などついておらず、実に健康的で力に満ちていた。
「それっ、者ども!総がかりじゃ!得物を取れ!」
「「「おおおおッ!!」」」
川に到着すると、設えた納屋からジョレンや熊手といって道具を手に、兵たちはザンブと水の中に飛び込む。それで身体に籠った熱と汗とを洗い流すと、腰を曲げシジミを掘りだすのだ。
しっかり足腰を鍛えられたうえ、朝の食卓には新鮮なシジミの味噌汁がのぼるといった寸法。新生・今川義元の鍛えには、一切無駄がないのである。
他にも交易の儲けで徐々に常備兵を雇い入れ、訓練と称し川の浚渫や土塁作りに従事させている。そんな様子を目にした領民たちの心服は、またさらに義元へと集まるばかりであった。
…。
「少々困ったことが起きたようにございます」
書院で政務を取り仕切っていると、政務も軍務も熟しつつ寺の住職もやっているスーパー僧侶・太原雪斎がやってきた。
「なに、困り事とな?」
MMOだったら5次職6次職の超絶進化ジョブに就いているだろうし、カードゲームなるものならば虹色キラキラSSRカードであろう雪斎。その口からいったい如何なる問題が飛び出すのかと、義元は筆を置き身構えた。
その間に雪斎は文机を挟んで義元の向かいに座った。
「先ほど着いた報告によると、商船の航行が妨げられているようでございます」
「ふむ…。どうせのことに、尾張近辺であろう?」
「はい、自分達の手の者は使わず、近場の国の船手衆を使って襲わせているようにございます」
「被害は?」
「今のところ、さしたる被害ではありませぬ。しかし、これがこのまま続くとなれば、厄介なことになりましょう…」
「それは困るのう」
「されば、困りごとと申しました」
雪斎はしれっとそう言ってのけると、視線をさげたまま何も言わぬ。これくらいの対策は自分で考えろというのだ。
(ふふん。しかしそれくらいの事。このヨシモーもすでに考えておるわ)
「では、そろそろ領内に居る腕の立つ職人らを、集めてもらうとするかのう」
義元は含みのある物言いでそう言うと、壁に設えた棚に飾られている木の模型を見やる。
「あれはたしか…。文殊菩薩から知恵を授かったという、奇天烈船にございますか?」
「さよう。模型での試しもだいぶ進んだ。そろそろ大きな船を作らせてよい頃合いじゃ。ソレで尾張の虎をビビらせての、手が出せぬようしてくれよう」
「ビビとはまた。恐れによる身体の震えを例えたにございますか?」
「そうじゃ。良い響きであろう?」
「はぁ。なれど拙僧はともかく、みなの前ではもすこし分かる言葉をお使いなされませ」
「ホホホ。うむ、分かっておる。じゃが儂も、師にはつい甘えたくなっての。他の者の前ではよう使わぬ」
「そう心掛けを。文殊の知恵も過ぎれば毒となりましょう」
「そうじゃの、気を付けよう」
現代知識を用いたチート。これは周囲の者からしたら、当然理解の範疇を超えたもの。それ故、義元はそうした知識を知恵を司る文殊菩薩からお告げを授かったとしていた。
義元は4歳で寺に入り17歳まで学僧として修行を積んでいた。なのでそう言われた方が周囲の者にとっては一番納得がいったのである。つまりはヨシモー文殊パワー!メイクアップ。
「では太守として号令を発す。領内にいる職人どもを、あまねくここ駿府に集めよ。儂直々に音頭をとって、新たな船を建造いたす!」
「かしこまりました。ただちに」
こうして領内にいる職人が、駿府へ集められたのだった。
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