5 / 13
第4話
しおりを挟む
「よし、次は武器だな」
武器庫から引っ張り出した剣は、ほとんどが細剣のレイピア。男の兵士が使わないので余っているらしいが、だいぶ錆びてるな。
その一本を手に取った戦士は、
「ほう、これは良いレイピアだ。かなり古い型だが、研げば鋭い切れ味があるに違いない」
さすが武器マニア、ひと目で業物だとわかるらしい。ならばレイピアを研ぐのは戦士に任せよう。
「俺が全部やるのか!?」
「そういうの好きだろ? 武器といえば戦士、戦士といえば武器。レイピアも戦士に研いでもらえば嬉しいだろう」
「そ、そうだな。武器は俺の専門だ、仕方ない。勇者に言われたからやるのではないぞ、レイピアのためにやるのだ」
なんだ、そのツンデレのテンプレみたいなセリフは。男のお前が言うと最高にキモチワルイぞ。
それにしても戦士はやはり脳筋だな。ついでに自分の頭の中も研いだほうがいいんじゃないか?
「わたくしは、これをつかってもよろしいでしょうか」
山積みされたレイピアの中に一本だけ、両手持ちの大型剣を見つけたのはクイーン・オブ・ナイスバディな兵士、ナノだ。
「それは大型剣のクレイモアだな」
目利きの戦士が言う。
「威力は高いが、刀身が長くて扱うのは難しいぞ」
「つかってみてもよろしいでしょうか」
ナノはひょいと大型剣を持ち上げると、構えらしい構えを取ってみせた。
試しに戦士に相手をさせてみると、粗削りではあるが太刀筋がいい。長い刀身を不器用に振るいながら、戦士の武器「斧槍ハルバード」に何度も打ちかかる。
幾度となく金属がぶつかり合うのを、他の兵士たちも黙って見ていた。
ナノが裂ぱくの勢いでクレイモアを振り下ろし、戦士がハルバードを旋回させて弾く。遂にナノの手からクレイモアが吹き飛ばされ、刀身が地面に突き刺さった。
「まいりました」
戦士の槍捌きに完敗したナノが、丁寧に頭を垂れた。これには打ち負かした戦士の方がおたおたしてしまい、
「な、なかなかのセンスだ。大型剣は扱いが難しいが、初めてでこれだけ振れるのは大したもの。だよな、マーヤさん」
などと照れ隠しにマーヤに意見を求める始末。
「はい。ナノさんがよろしければ、兵士長を務めてみませんか? 他の皆さんもきっと納得すると思います」
ナノの戦いを眺めていた兵士たちも、その力強い太刀筋を称えている。
「そうだ、それがいい。彼女には兵士長をやってもらおう。俺も大賛成だ」
という戦士の強い後押しもあって、ナノには大剣クレイモアと兵士長の任を与えることになった。
おい戦士よ。やけにナノを推すじゃないか。まさかホレたんじゃないだろうな。
「な、なにを言う!? あんな美人が俺に似合うはずないじゃないか!」
おっと、美人だと認めるんだな。言われたナノも照れてるぞ。
「少し手合わせをしただけでホレるなんて、俺はそんなヤワな男じゃ……」
「はいはい、それじゃあ兵士たちは戦士が鍛錬してやれよ。ヤワじゃないところを見せてやれ」
「む……そ、それは構わんが」
なに嬉しそうな顔してるんだよ。ナノと二人で目を合わせて、同時に照れてんじゃねえよ。
くそ、リア充爆発しろ。
「なあマーヤ」
「なんです?」
「兵士の中から何人か、オレの近衛兵をもらってもいいか?」
「ダメです」
即答かよ。
「オレの身辺警護がいてもいいだろ? オレの命に危機が迫ったら、どうしてくれるんだよ」
「勇者は死なないから大丈夫です」
しまった、オレは不死身だった。チートなスキルが仇になったか。
「し、しかしだ。王宮の中で働くのも、兵士の立派な仕事だぞ」
オレは食い下がってみる。
「近衛兵なんて言いながら傍に置いて、可愛い兵士たちを眺めて頭の中でスケベな想像をするんでしょう?」
「なぜわかる!?」
「顔に書いてあります」
「なに!?」
オレは戦士の武器、ハルバードを引ったくり、刃の部分に映る自分の顔を覗き込む。「ムッツリ」とも「スケベ」とも書いてはいないが、いかにもムッツリスケベそうな顔がそこにあった。
「なんてこった。勇者という職業よりも、不死身というスキルよりも、ムッツリスケベという性格が勝るのか」
ガクっとうなだれるフリをしているオレを見て、マーヤは浅いため息を吐く。
「もう……仕方ありませんね。勇者が集めた兵士です。一人くらいなら、近衛兵にしてもいいですよ」
「おお! マーヤさん最高。オレの扱いをわかってる。さすが美人の賢者様」
「勇者に褒められても嬉しくありません」
マーヤはツンとそっぽを向いてしまう。今のはデレてもいいところなんだがな。美人で賢くてペッタンコでツンツンしてるけど、デレたらマーヤが一番だと思うぞ?
ということでマーヤ様の許しも出たことだし、オレの独断と偏見と希望と願望と欲望に従って近衛兵を指名する。
「アオイ、お前を近衛兵に任命する」
選ぶのはやはりツンデレキャラのアオイだ。オレの傍でもう一度、デレたところを見てみたい。
「このえへいって、おうきゅうのなかでずっとけいごするんだよね」
「そうだ。王宮の警護というよりは、むしろオレ専属の警護だ」
常にオレの傍に立ち、オレを気遣い、オレを護る。そして次第に心の距離を縮めていき、オレは「苦しゅうない、ちこうよれ」と、こうなる。
そこから先は、オレの想像力では表現し難いな。何しろオレは「ムッツリ」だ、妄想はできるが実戦経験がない。
「え、ずっととなりにいるとか、たえられないし」
「おい! 兵士募集条件の第四項、オレを愛し~ってやつはどこにいった?」
ぐぬぅ、面接での条件を反故にするとは。ちゃんと労働契約を結んでおくべきだったか。
「な、ならばユッカだ。魔女っ子兵士ユッカ、お前を近衛兵に任命する!」
「はい、いいですよぉ」
ポワンとした顔でうなずくユッカ。
「このえへいって、なにをすればいいんですかぁ?」
「オレの傍に立ち、オレを気遣い、オレを護るのだ。苦しゅうない、ちこうよれ」
「はい、わかりましたぁ」
言われたとおりにオレの隣にぴったりと密着してくるユッカ。警戒心とかないのかよ、素直すぎてオレがドン引きだ。
「あはっ、わたしてんねんなんです」
コイツは天然の意味、わかっとるんか。
武器庫から引っ張り出した剣は、ほとんどが細剣のレイピア。男の兵士が使わないので余っているらしいが、だいぶ錆びてるな。
その一本を手に取った戦士は、
「ほう、これは良いレイピアだ。かなり古い型だが、研げば鋭い切れ味があるに違いない」
さすが武器マニア、ひと目で業物だとわかるらしい。ならばレイピアを研ぐのは戦士に任せよう。
「俺が全部やるのか!?」
「そういうの好きだろ? 武器といえば戦士、戦士といえば武器。レイピアも戦士に研いでもらえば嬉しいだろう」
「そ、そうだな。武器は俺の専門だ、仕方ない。勇者に言われたからやるのではないぞ、レイピアのためにやるのだ」
なんだ、そのツンデレのテンプレみたいなセリフは。男のお前が言うと最高にキモチワルイぞ。
それにしても戦士はやはり脳筋だな。ついでに自分の頭の中も研いだほうがいいんじゃないか?
「わたくしは、これをつかってもよろしいでしょうか」
山積みされたレイピアの中に一本だけ、両手持ちの大型剣を見つけたのはクイーン・オブ・ナイスバディな兵士、ナノだ。
「それは大型剣のクレイモアだな」
目利きの戦士が言う。
「威力は高いが、刀身が長くて扱うのは難しいぞ」
「つかってみてもよろしいでしょうか」
ナノはひょいと大型剣を持ち上げると、構えらしい構えを取ってみせた。
試しに戦士に相手をさせてみると、粗削りではあるが太刀筋がいい。長い刀身を不器用に振るいながら、戦士の武器「斧槍ハルバード」に何度も打ちかかる。
幾度となく金属がぶつかり合うのを、他の兵士たちも黙って見ていた。
ナノが裂ぱくの勢いでクレイモアを振り下ろし、戦士がハルバードを旋回させて弾く。遂にナノの手からクレイモアが吹き飛ばされ、刀身が地面に突き刺さった。
「まいりました」
戦士の槍捌きに完敗したナノが、丁寧に頭を垂れた。これには打ち負かした戦士の方がおたおたしてしまい、
「な、なかなかのセンスだ。大型剣は扱いが難しいが、初めてでこれだけ振れるのは大したもの。だよな、マーヤさん」
などと照れ隠しにマーヤに意見を求める始末。
「はい。ナノさんがよろしければ、兵士長を務めてみませんか? 他の皆さんもきっと納得すると思います」
ナノの戦いを眺めていた兵士たちも、その力強い太刀筋を称えている。
「そうだ、それがいい。彼女には兵士長をやってもらおう。俺も大賛成だ」
という戦士の強い後押しもあって、ナノには大剣クレイモアと兵士長の任を与えることになった。
おい戦士よ。やけにナノを推すじゃないか。まさかホレたんじゃないだろうな。
「な、なにを言う!? あんな美人が俺に似合うはずないじゃないか!」
おっと、美人だと認めるんだな。言われたナノも照れてるぞ。
「少し手合わせをしただけでホレるなんて、俺はそんなヤワな男じゃ……」
「はいはい、それじゃあ兵士たちは戦士が鍛錬してやれよ。ヤワじゃないところを見せてやれ」
「む……そ、それは構わんが」
なに嬉しそうな顔してるんだよ。ナノと二人で目を合わせて、同時に照れてんじゃねえよ。
くそ、リア充爆発しろ。
「なあマーヤ」
「なんです?」
「兵士の中から何人か、オレの近衛兵をもらってもいいか?」
「ダメです」
即答かよ。
「オレの身辺警護がいてもいいだろ? オレの命に危機が迫ったら、どうしてくれるんだよ」
「勇者は死なないから大丈夫です」
しまった、オレは不死身だった。チートなスキルが仇になったか。
「し、しかしだ。王宮の中で働くのも、兵士の立派な仕事だぞ」
オレは食い下がってみる。
「近衛兵なんて言いながら傍に置いて、可愛い兵士たちを眺めて頭の中でスケベな想像をするんでしょう?」
「なぜわかる!?」
「顔に書いてあります」
「なに!?」
オレは戦士の武器、ハルバードを引ったくり、刃の部分に映る自分の顔を覗き込む。「ムッツリ」とも「スケベ」とも書いてはいないが、いかにもムッツリスケベそうな顔がそこにあった。
「なんてこった。勇者という職業よりも、不死身というスキルよりも、ムッツリスケベという性格が勝るのか」
ガクっとうなだれるフリをしているオレを見て、マーヤは浅いため息を吐く。
「もう……仕方ありませんね。勇者が集めた兵士です。一人くらいなら、近衛兵にしてもいいですよ」
「おお! マーヤさん最高。オレの扱いをわかってる。さすが美人の賢者様」
「勇者に褒められても嬉しくありません」
マーヤはツンとそっぽを向いてしまう。今のはデレてもいいところなんだがな。美人で賢くてペッタンコでツンツンしてるけど、デレたらマーヤが一番だと思うぞ?
ということでマーヤ様の許しも出たことだし、オレの独断と偏見と希望と願望と欲望に従って近衛兵を指名する。
「アオイ、お前を近衛兵に任命する」
選ぶのはやはりツンデレキャラのアオイだ。オレの傍でもう一度、デレたところを見てみたい。
「このえへいって、おうきゅうのなかでずっとけいごするんだよね」
「そうだ。王宮の警護というよりは、むしろオレ専属の警護だ」
常にオレの傍に立ち、オレを気遣い、オレを護る。そして次第に心の距離を縮めていき、オレは「苦しゅうない、ちこうよれ」と、こうなる。
そこから先は、オレの想像力では表現し難いな。何しろオレは「ムッツリ」だ、妄想はできるが実戦経験がない。
「え、ずっととなりにいるとか、たえられないし」
「おい! 兵士募集条件の第四項、オレを愛し~ってやつはどこにいった?」
ぐぬぅ、面接での条件を反故にするとは。ちゃんと労働契約を結んでおくべきだったか。
「な、ならばユッカだ。魔女っ子兵士ユッカ、お前を近衛兵に任命する!」
「はい、いいですよぉ」
ポワンとした顔でうなずくユッカ。
「このえへいって、なにをすればいいんですかぁ?」
「オレの傍に立ち、オレを気遣い、オレを護るのだ。苦しゅうない、ちこうよれ」
「はい、わかりましたぁ」
言われたとおりにオレの隣にぴったりと密着してくるユッカ。警戒心とかないのかよ、素直すぎてオレがドン引きだ。
「あはっ、わたしてんねんなんです」
コイツは天然の意味、わかっとるんか。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
1
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる