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第4話

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「よし、次は武器だな」

 武器庫から引っ張り出した剣は、ほとんどが細剣のレイピア。男の兵士が使わないので余っているらしいが、だいぶ錆びてるな。

 その一本を手に取った戦士は、

「ほう、これは良いレイピアだ。かなり古い型だが、げば鋭い切れ味があるに違いない」

 さすが武器マニア、ひと目で業物わざものだとわかるらしい。ならばレイピアを研ぐのは戦士に任せよう。

「俺が全部やるのか!?」

「そういうの好きだろ? 武器といえば戦士、戦士といえば武器。レイピアも戦士に研いでもらえば嬉しいだろう」

「そ、そうだな。武器は俺の専門だ、仕方ない。勇者に言われたからやるのではないぞ、レイピアのためにやるのだ」

 なんだ、そのツンデレのテンプレみたいなセリフは。男のお前が言うと最高にキモチワルイぞ。
 それにしても戦士はやはり脳筋だな。ついでに自分の頭の中も研いだほうがいいんじゃないか?

「わたくしは、これをつかってもよろしいでしょうか」

 山積みされたレイピアの中に一本だけ、両手持ちの大型剣を見つけたのはクイーン・オブ・ナイスバディな兵士、ナノだ。

「それは大型剣のクレイモアだな」

 目利きの戦士が言う。

「威力は高いが、刀身が長くて扱うのは難しいぞ」

「つかってみてもよろしいでしょうか」

 ナノはひょいと大型剣を持ち上げると、構えらしい構えを取ってみせた。

 試しに戦士に相手をさせてみると、粗削りではあるが太刀筋がいい。長い刀身を不器用に振るいながら、戦士の武器「斧槍ハルバード」に何度も打ちかかる。

 幾度となく金属がぶつかり合うのを、他の兵士たちも黙って見ていた。

 ナノが裂ぱくの勢いでクレイモアを振り下ろし、戦士がハルバードを旋回させて弾く。遂にナノの手からクレイモアが吹き飛ばされ、刀身が地面に突き刺さった。

「まいりました」

 戦士の槍捌きに完敗したナノが、丁寧に頭を垂れた。これには打ち負かした戦士の方がおたおたしてしまい、

「な、なかなかのセンスだ。大型剣は扱いが難しいが、初めてでこれだけ振れるのは大したもの。だよな、マーヤさん」

 などと照れ隠しにマーヤに意見を求める始末。

「はい。ナノさんがよろしければ、兵士長を務めてみませんか? 他の皆さんもきっと納得すると思います」

 ナノの戦いを眺めていた兵士たちも、その力強い太刀筋を称えている。

「そうだ、それがいい。彼女には兵士長をやってもらおう。俺も大賛成だ」

 という戦士の強い後押しもあって、ナノには大剣クレイモアと兵士長の任を与えることになった。

 おい戦士よ。やけにナノを推すじゃないか。まさかホレたんじゃないだろうな。

「な、なにを言う!? あんな美人が俺に似合うはずないじゃないか!」

 おっと、美人だと認めるんだな。言われたナノも照れてるぞ。

「少し手合わせをしただけでホレるなんて、俺はそんなヤワな男じゃ……」

「はいはい、それじゃあ兵士たちは戦士が鍛錬してやれよ。ヤワじゃないところを見せてやれ」

「む……そ、それは構わんが」

 なに嬉しそうな顔してるんだよ。ナノと二人で目を合わせて、同時に照れてんじゃねえよ。

 くそ、リア充爆発しろ。

「なあマーヤ」

「なんです?」

「兵士の中から何人か、オレの近衛兵をもらってもいいか?」

「ダメです」

 即答かよ。

「オレの身辺警護がいてもいいだろ? オレの命に危機が迫ったら、どうしてくれるんだよ」

「勇者は死なないから大丈夫です」

 しまった、オレは不死身だった。チートなスキルがあだになったか。

「し、しかしだ。王宮の中で働くのも、兵士の立派な仕事だぞ」

 オレは食い下がってみる。

「近衛兵なんて言いながらそばに置いて、可愛い兵士たちを眺めて頭の中でスケベな想像をするんでしょう?」

「なぜわかる!?」

「顔に書いてあります」

「なに!?」

 オレは戦士の武器、ハルバードを引ったくり、刃の部分に映る自分の顔を覗き込む。「ムッツリ」とも「スケベ」とも書いてはいないが、いかにもムッツリスケベそうな顔がそこにあった。

「なんてこった。勇者という職業よりも、不死身というスキルよりも、ムッツリスケベという性格が勝るのか」

 ガクっとうなだれるフリをしているオレを見て、マーヤは浅いため息を吐く。

「もう……仕方ありませんね。勇者が集めた兵士です。一人くらいなら、近衛兵にしてもいいですよ」

「おお! マーヤさん最高。オレの扱いをわかってる。さすが美人の賢者様」

「勇者に褒められても嬉しくありません」

 マーヤはツンとそっぽを向いてしまう。今のはデレてもいいところなんだがな。美人で賢くてペッタンコでツンツンしてるけど、デレたらマーヤが一番だと思うぞ?

 ということでマーヤ様の許しも出たことだし、オレの独断と偏見と希望と願望と欲望に従って近衛兵を指名する。

「アオイ、お前を近衛兵に任命する」

 選ぶのはやはりツンデレキャラのアオイだ。オレの傍でもう一度、デレたところを見てみたい。

「このえへいって、おうきゅうのなかでずっとけいごするんだよね」

「そうだ。王宮の警護というよりは、むしろオレ専属の警護だ」

 常にオレの傍に立ち、オレを気遣い、オレをまもる。そして次第に心の距離を縮めていき、オレは「苦しゅうない、ちこうよれ」と、こうなる。

 そこから先は、オレの想像力では表現し難いな。何しろオレは「ムッツリ」だ、妄想はできるが実戦経験がない。

「え、ずっととなりにいるとか、たえられないし」

「おい! 兵士募集条件の第四項、オレを愛し~ってやつはどこにいった?」

 ぐぬぅ、面接での条件を反故ほごにするとは。ちゃんと労働契約を結んでおくべきだったか。

「な、ならばユッカだ。魔女っ子兵士ユッカ、お前を近衛兵に任命する!」

「はい、いいですよぉ」

 ポワンとした顔でうなずくユッカ。

「このえへいって、なにをすればいいんですかぁ?」

「オレの傍に立ち、オレを気遣い、オレを護るのだ。苦しゅうない、ちこうよれ」

「はい、わかりましたぁ」

 言われたとおりにオレの隣にぴったりと密着してくるユッカ。警戒心とかないのかよ、素直すぎてオレがドン引きだ。

「あはっ、わたしてんねんなんです」

 コイツは天然の意味、わかっとるんか。
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