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第12話
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初陣での勝利に沸く兵士たち。みんな無傷とまではいかなかったけど、誰も死なずに魔物を倒せたのは上出来だ。
もし誰か死んでしまっても、マーヤの蘇生魔法で生き返らせることはできる。でも蘇生魔法はやたらと魔力を使うからな。魔力の使い過ぎは身体によくない。マーヤの胸がペッタンコなのは、あいつは魔力を使いすぎなんだろう。
玉座に座るオレの前に、アリエテ大臣のジイさんが二人の少女を連れてきた。
「勇者殿、こちらはコオリとメグリという双子の姉妹でございます」
「うおっ! めっちゃカワイイ」
目玉をひん剥いたオレを、マーヤがジロリと睨む。だって見ろよ、あの二人。ピンク色の髪が触り心地よさそうに肩まで伸びてて、綺麗な髪に引けを取らない透き通った瞳。なによりも、メイドさんのような服装からはみ出した白い胸の膨らみが……!
「この娘たちは昨年に両親を亡くしてしまい、王国に侍女として雇ってほしいと言ってきておるのです」
「そうか、それは可哀想だな」
マーヤに頼んで、蘇生魔法で生き返らせてあげようか。あ、でも去年の話か。もう火葬されちゃってるな。
「いかがですかな勇者殿、このピチピチした若い娘たちを侍女として仕えさせるのは」
ジイさん、真面目な大臣のフリして相変わらず口調がハレンチだな。
「ふむ……王国の侍女か。オレは構わんが」
などとクールに言いながらも、オレの頭の中ではこうだ。
「侍女!? 侍女ってオレに食事を運んだりオレのお世話をしたり、お風呂で『お背中をお流ししましょうか』とかそんなジョブ?」
おっと、いかんいかん。妄想に鼻が咲いて、花から皿が出そうだ。間違えた、鼻から血が出そうだ。
「身寄りがないのは寂しいだろう。よし、侍女として仕えてもらおう」
「勇者、偉そうなこと言ってますが、目つきがエロいですよ」
「だって見ろよ、あの二人」
あんなに胸がムネムネしてるんだぞ!
オレのハーレムが、また進化を遂げた瞬間である。
「わたくしたちの最初のお給仕でございます」
と言って、侍女のコオリが食事を運んでくる。うむ。苦しゅうない、ちこうよれ。
「メグリはお飲み物を持ってきたのです」
今度は妹のメグリが、グラスに入った果実ジュースを手渡してくる。うむ。苦しゅうない、ちこうよれ。
王宮の食殿には他に、偉大な女賢者様のマーヤと、ロリっ子使い魔のリフレア、天然魔女っ子近衛兵のユッカ、そして元気ハツラツ乱暴娘のパインと、食事よりも豪華な面々が顔を揃えていた。
みんな可愛いね。
んで食殿の隅には、ゴリマッチョな男が一名と、しょぼくれたジジイが一名。あそこだけ空気が澱んで見えるぞ。
「食事はわたくしたちが作りました。どうぞお召し上がりくださいませ」
コオリの口調はなんとも丁寧なものだ。いかにも侍女。勇者オレ、気分はすでに「ご主人様」だぞ。最高かよ。
「しかし、この食事は……」
並んだ食事はやたらと質素で、硬いパンとふかした芋、肉まんらしき塊を食べてみれば中身はキノコが丸々入ってるとか、これ全部炭水化物じゃん。
「これらはすべてアリエテで作っているのか?」
「そうでございます。食料は城壁の中で育てられるものに限られておりますので」
城壁の外には魔物がいる。狩りに出るには危険が伴う、か。
ここはヨーラシアの王都なのに、食料は常に不足気味らしい。質素で簡素な食事は、まるで「弥生時代」のようだ。
「いや、よいのですぞ。これが我らの文化ですじゃ」
アリエテ大臣が硬いパンをふがふがと咀嚼しながら言う。それを聞いた賢者マーヤ様が、
「大臣さんは、いや、よい……と仰いますか」
どうしたマーヤ、難しい顔をして。食事が口に合わなかったか?
「大臣さんは、いや、よい……と仰いましたね」
マーヤはさらに目を伏せ、心の内から込み上げるものを耐えるように震えている。
そうだな、良くはないな。王都なんだからもっと美味しくてゴージャスな食事があってもいいよな。
「いや、よい……いやよい……やよい……弥生?」
プフっと噴き出すマーヤ。
そこかよ! こんな低レベルのダジャレに反応するなよ、お前は「賢き者」と書いて「賢者」だろ!
とはいえ、こんな質素な食事では国は豊かにならないな。食は「人を良くする」と書く。豊かな国には、豊かな食があるべきだ。
「そうだろ、マーヤ」
「プフ……いや、よい……やよい……プフフッ」
天才賢者様は、まだ笑っていた。
「よし、ならば次は食文化を一新するぞ。安全で安心な食材を自給自足するんだ。ウマイ食事があればみんな元気になる」
となれば、今回も適任者を選ばなくてはな。言葉はマーヤが教え、兵士は戦士が訓練した、とくれば……
「パイン、お前が適任だ」
オレは立ち上がると、食事を豪快に頬張っているパインを指名した。
「どうしてあたし?」
「食べ物といったらパインだろ。ガツガツムシャムシャと食べ尽くしてる食いしん坊さんめ」
まったく、お前は他の人の分まで食べるんじゃない。そのちっこい身体のどこに入っていくんだ。
「まあ、いいけど」
果実ジュースを飲み干したパインは、ケプっと息を吐く。
「ならば、まずは農耕だな」
「農耕? 農耕って何かを育てればいいの? アサガオ? ヘチマ?」
「お前は小学生か! 夏休みの観察日記を書くんじゃないぞ、アサガオで腹は膨れない」
そうだな、農耕といえばまずは主食となる……
「米だ、米を作るぞ」
「コメってなに?」
あれ、この世界に米ってないんだっけ?
「米はイネ科の植物ですね。穀物として食べることができる――と聞いたことがあります」
博識なマーヤがパインに説明してくれる。そうそう、それだよ。コシヒカリとか、ササニシキとか。
「パインちゃん、私も協力しましょう」
そうだな、マーヤにも手伝ってもらおう。パインだけに任せたらゲジゲジしたあれ、服に付くやつ、なんだっけ。
「オナモミですね」
そうそう、それ。間違えてオナモミを育ててしまいそうだ。
「それから畜産だ。牛や豚なんかの家畜を飼育して肉や乳を加工する。ついでに皮製品も作れば商売にもなるぞ」
「あ、それなら簡単だね。野生の牛をボコって捕まえてくればいいんでしょ?」
待てパイン。お前の「ボコる」は息の根を止めるだろ。それじゃ捕まえた時点で食肉だ。家畜にならん。
「私の睡眠魔法で眠らせて捕まえましょう」
そうだな、これもマーヤの手助けがいるな。マーヤは知恵と魔法で、パインは馬鹿力で活躍したまえ。
もし誰か死んでしまっても、マーヤの蘇生魔法で生き返らせることはできる。でも蘇生魔法はやたらと魔力を使うからな。魔力の使い過ぎは身体によくない。マーヤの胸がペッタンコなのは、あいつは魔力を使いすぎなんだろう。
玉座に座るオレの前に、アリエテ大臣のジイさんが二人の少女を連れてきた。
「勇者殿、こちらはコオリとメグリという双子の姉妹でございます」
「うおっ! めっちゃカワイイ」
目玉をひん剥いたオレを、マーヤがジロリと睨む。だって見ろよ、あの二人。ピンク色の髪が触り心地よさそうに肩まで伸びてて、綺麗な髪に引けを取らない透き通った瞳。なによりも、メイドさんのような服装からはみ出した白い胸の膨らみが……!
「この娘たちは昨年に両親を亡くしてしまい、王国に侍女として雇ってほしいと言ってきておるのです」
「そうか、それは可哀想だな」
マーヤに頼んで、蘇生魔法で生き返らせてあげようか。あ、でも去年の話か。もう火葬されちゃってるな。
「いかがですかな勇者殿、このピチピチした若い娘たちを侍女として仕えさせるのは」
ジイさん、真面目な大臣のフリして相変わらず口調がハレンチだな。
「ふむ……王国の侍女か。オレは構わんが」
などとクールに言いながらも、オレの頭の中ではこうだ。
「侍女!? 侍女ってオレに食事を運んだりオレのお世話をしたり、お風呂で『お背中をお流ししましょうか』とかそんなジョブ?」
おっと、いかんいかん。妄想に鼻が咲いて、花から皿が出そうだ。間違えた、鼻から血が出そうだ。
「身寄りがないのは寂しいだろう。よし、侍女として仕えてもらおう」
「勇者、偉そうなこと言ってますが、目つきがエロいですよ」
「だって見ろよ、あの二人」
あんなに胸がムネムネしてるんだぞ!
オレのハーレムが、また進化を遂げた瞬間である。
「わたくしたちの最初のお給仕でございます」
と言って、侍女のコオリが食事を運んでくる。うむ。苦しゅうない、ちこうよれ。
「メグリはお飲み物を持ってきたのです」
今度は妹のメグリが、グラスに入った果実ジュースを手渡してくる。うむ。苦しゅうない、ちこうよれ。
王宮の食殿には他に、偉大な女賢者様のマーヤと、ロリっ子使い魔のリフレア、天然魔女っ子近衛兵のユッカ、そして元気ハツラツ乱暴娘のパインと、食事よりも豪華な面々が顔を揃えていた。
みんな可愛いね。
んで食殿の隅には、ゴリマッチョな男が一名と、しょぼくれたジジイが一名。あそこだけ空気が澱んで見えるぞ。
「食事はわたくしたちが作りました。どうぞお召し上がりくださいませ」
コオリの口調はなんとも丁寧なものだ。いかにも侍女。勇者オレ、気分はすでに「ご主人様」だぞ。最高かよ。
「しかし、この食事は……」
並んだ食事はやたらと質素で、硬いパンとふかした芋、肉まんらしき塊を食べてみれば中身はキノコが丸々入ってるとか、これ全部炭水化物じゃん。
「これらはすべてアリエテで作っているのか?」
「そうでございます。食料は城壁の中で育てられるものに限られておりますので」
城壁の外には魔物がいる。狩りに出るには危険が伴う、か。
ここはヨーラシアの王都なのに、食料は常に不足気味らしい。質素で簡素な食事は、まるで「弥生時代」のようだ。
「いや、よいのですぞ。これが我らの文化ですじゃ」
アリエテ大臣が硬いパンをふがふがと咀嚼しながら言う。それを聞いた賢者マーヤ様が、
「大臣さんは、いや、よい……と仰いますか」
どうしたマーヤ、難しい顔をして。食事が口に合わなかったか?
「大臣さんは、いや、よい……と仰いましたね」
マーヤはさらに目を伏せ、心の内から込み上げるものを耐えるように震えている。
そうだな、良くはないな。王都なんだからもっと美味しくてゴージャスな食事があってもいいよな。
「いや、よい……いやよい……やよい……弥生?」
プフっと噴き出すマーヤ。
そこかよ! こんな低レベルのダジャレに反応するなよ、お前は「賢き者」と書いて「賢者」だろ!
とはいえ、こんな質素な食事では国は豊かにならないな。食は「人を良くする」と書く。豊かな国には、豊かな食があるべきだ。
「そうだろ、マーヤ」
「プフ……いや、よい……やよい……プフフッ」
天才賢者様は、まだ笑っていた。
「よし、ならば次は食文化を一新するぞ。安全で安心な食材を自給自足するんだ。ウマイ食事があればみんな元気になる」
となれば、今回も適任者を選ばなくてはな。言葉はマーヤが教え、兵士は戦士が訓練した、とくれば……
「パイン、お前が適任だ」
オレは立ち上がると、食事を豪快に頬張っているパインを指名した。
「どうしてあたし?」
「食べ物といったらパインだろ。ガツガツムシャムシャと食べ尽くしてる食いしん坊さんめ」
まったく、お前は他の人の分まで食べるんじゃない。そのちっこい身体のどこに入っていくんだ。
「まあ、いいけど」
果実ジュースを飲み干したパインは、ケプっと息を吐く。
「ならば、まずは農耕だな」
「農耕? 農耕って何かを育てればいいの? アサガオ? ヘチマ?」
「お前は小学生か! 夏休みの観察日記を書くんじゃないぞ、アサガオで腹は膨れない」
そうだな、農耕といえばまずは主食となる……
「米だ、米を作るぞ」
「コメってなに?」
あれ、この世界に米ってないんだっけ?
「米はイネ科の植物ですね。穀物として食べることができる――と聞いたことがあります」
博識なマーヤがパインに説明してくれる。そうそう、それだよ。コシヒカリとか、ササニシキとか。
「パインちゃん、私も協力しましょう」
そうだな、マーヤにも手伝ってもらおう。パインだけに任せたらゲジゲジしたあれ、服に付くやつ、なんだっけ。
「オナモミですね」
そうそう、それ。間違えてオナモミを育ててしまいそうだ。
「それから畜産だ。牛や豚なんかの家畜を飼育して肉や乳を加工する。ついでに皮製品も作れば商売にもなるぞ」
「あ、それなら簡単だね。野生の牛をボコって捕まえてくればいいんでしょ?」
待てパイン。お前の「ボコる」は息の根を止めるだろ。それじゃ捕まえた時点で食肉だ。家畜にならん。
「私の睡眠魔法で眠らせて捕まえましょう」
そうだな、これもマーヤの手助けがいるな。マーヤは知恵と魔法で、パインは馬鹿力で活躍したまえ。
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