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第2話

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 えっと、どこまで追想すればいいんだっけ。こんなんだからセーブはこまめにしておかないといけないなとか、ゲームとリアルをごっちゃにしながら、

「今日はバイトが終わってから休憩室で光莉ひかり先輩と話し込んでいたんだった」

 くらいから思い出してみよう。あ、俺は深夜勤務でバイトの時間は夜十時から朝の七時までね。
 ということで仕事が終わって休憩室でバイトの先輩と話していたら、店長に「早く帰れ」と追い出されたわけ。朝七時までの仕事だったのに、すでに時計は十時を過ぎていた。どんだけ話し込んでいたんだっての。

 十時といえばゲームショップが開いている――か。

「んじゃ、ショップに寄って新作のエロゲチェックでもしますか」

 エロゲーマーたる者、新作のチェックは欠かせない日課であります。毎月発売されるエロゲの新作、でも俺にはすべてを手に入れる金銭的余裕はないわけで、つまり吟味に吟味を重ねて購入しなければならない。
 とはいえ『新作』と名のつくタイトルに安易に飛びつくのは愚の骨頂だ。それに騙されて『クソゲー』を掴まされた経験は数知れないからな。
 だから自分の目で見て、感性を研ぎ澄まして、ハートで選ぶのが大事。

 俺はギラリと、鷹が獲物を狙うような鋭い眼光を放った。獲物は――そう、新作の棚にある三つのエロゲだ。


『下級生といちゃループ! ~体操着コレクション~』
 作画 ★★★☆☆
 シナリオ ★★★☆☆
 音楽・声優 ★★★☆☆
 システム ★★★★☆


 ふむふむ、ありきたりな学園モノか。ターゲットとなるヒロインは下級生、悪くない。コレクション要素があるのもグッドだ。しかも体操着をコレクションするとか斬新なアイデアを持ってくる。ま、全体的なバランスは普通だな。


『グリンガムの妖艶大戦』
 作画 ★★★★☆
 シナリオ ★★☆☆☆
 音楽・声優 ★★☆☆☆
 システム ★★★★☆


 パッケージには能力系エロゲと書いてある。ということは、バトル要素を盛り込んだ育成型のゲームと見た。グラフィックは素晴らしい。だがシナリオと音楽評価が低いのはマイナスだ。ジャンル的に仕方ないか。


『ハイスペック妹くらぶ』
 作画 ★★☆☆☆
 シナリオ ★★★★☆
 音楽・声優 ★★★★☆
 システム ★★☆☆☆


 いわゆる妹萌え。妹ハーレムとでも呼ぶべきか。お兄ちゃんひとりに妹が寄ってたかってエロゲという、ある意味無謀な展開が気になるが……如何せん作画がこれじゃあな。シナリオと音楽評価が高いだけに、もったいない。
 この三つのタイトル、どうしても選ぶなら評価バランスの良い『体操着コレクション』だが、ちょっと待ってほしい。その買い方は失敗の元だ。

 なぜか――

 それはな、

「そのエロゲ、心の底から欲しいと思うエロゲなのか?」

 っていう問いかけで分かるだろう?
 本当に欲しいエロゲなら、他のすべてのタイトルを置き去りにしてでも手を伸ばし、たとえそれが今の所持金をはたいてしまうほど高価でも躊躇わずに買ってしまうモノなんだよ。
 給料日まで三度のメシがなくなろうとも構いやしない。そんなエロゲに……俺はまだ巡り合ってないけどな。

 俺は新作ソフトを棚に戻すと、旧作販売のワゴンを漁り始めた。

 年代を感じさせるパッケージや、伝説のクソゲーと評されるものまでが数百円という価格で叩き売られている。その中にひとつ、有名なタイトルが埋もれていた。

 これは――

『らぶ☆ほたる ~二人の同棲日記~』

 ――らぶ☆ほたる、だと!?

 しかも『初回限定版』!?

 次の瞬間、俺はそのソフトを握りしめてレジへとダッシュしていた。『らぶ☆ほたる』、コレはもうどこの店にも売ってない。ダウンロード販売も終了して、通常版もネットオークションで数万円はくだらないプレミアが付いてる逸品。
 しかも『初回限定版』なんて、オークションにも出回っていないレア中のレア品だ。もちろん俺もプレイしたことはない。
 それがゲームショップのワゴン販売にあるなんて、何かの間違いか? そんなことよりも、コレは一体いくらなんだろう?

 俺は財布を取り出し、所持金を数える。

 千円札が七枚と、小銭が少々。オークションなら門前払いレベルの所持金だが、ここは寂れたゲームショップ。果たして『らぶ☆ほたる』の値段は……。

「値札が貼られていない! まさか、回らない高級寿司店のように『時価』とか言われるんじゃないだろうな」

 しかし、このゲームはたとえ時価だろうが相場だろうが買わなくてはならない。
 言っただろ? 他のすべてのタイトルを置き去りにしてでも手を伸ばし、例えそれが今の所持金をはたいてしまうほど高価でも躊躇わずに買いたくなるのが、本当に欲しいモンなんだよ。

「これ、値段が登録されていないですね」

 レジのお姉さんが困ってしまった。どうやらバーコードをスキャンしても、金額が表示されないみたいだ。

「あの、いくらでもいいんで買いたいんです! 売ってもらえませんか?」

 俺は大袈裟に言えば土下座する勢いで頼み込む。血走った眼で熱意を伝える。エロゲを買うのにここまで必死さをアピールする俺は、まあ大概にキモかったことであろう。レジのお姉さんはドン引きしていた。
 しかし、ここのゲームショップの常連である俺の熱意は伝わるもんだ。奥から出てきた店長さんに懇願して、なんとかそのゲームを売ってもらった。
 さすがにショップの店長は『らぶ☆ほたる』の価値をわかっていたけど、ワゴンセールに入れてしまった売り物を断るわけにはいかず、俺の所持金すべてで譲ってくれたのだ。

 初回限定版はネットオークションで十万円はくだらない幻のタイトル。

 俺は大袈裟に言わなくても土下座する勢いでお礼を言い、今生、ここのゲームショップ以外でゲームを買わないと誓い、急いで家に向かった。
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