青春〜或る少年たちの物語〜

Takaya

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第一章 それぞれの出逢い

第七話 未知の領域

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「嘘だろおい...」

 恵弥から語られた内容を聞き、貴哉は愕然としてた。内容を要約するとこうだ。

・かつて伊志凪中の野球部は大所帯の強豪チームで、部室が1つでは足りず3部屋割り振られるほどだった。
・学校の顔としての側面もあるため、教師らも野球部に対して贔屓目に見るようになり、ある程度の不祥事なら揉み消されていた。
・その厚遇にかこつけた野球部の振る舞いは次第に横暴になり、校則違反を繰り返すようになった。
・そしてある時、公式試合で他校の生徒に暴行を加える事件を起こして無期限の出場停止処分を下されるが、学校側が野球部の存続を望んだため廃部には至らず。
・しかし、練習すらしなくなった野球部らの振る舞いはエスカレートし、大将ターリーなどの独自の制度を編み出し学校を我が物顔で闊歩するようになった。3部屋ある部室はそれぞれ学年ごとの部員のたまり場と化した。

「さっきからその、大将ターリーとか強者チューバーとか何なんだよ。」
「まずは言葉の意味からだな。強者チューバーはそれぞれの学年のリーダーで各学年毎に1人、幹部ってのはそれのサポートで2人いる。んで、3年になった時に強者チューバーが野球部の、もとい伊志凪のトップである大将ターリーになる。そして幹部のうち1人が3年の強者チューバーに、空席になった幹部にもまた1人追加ってなるわけだ。」
「へ、へぇ~....」
「そして、野球部の部員になれるのはこの大将ターリー強者チューバー、幹部の役職に着いてる奴らだけだ。」
「そ、それはまたなんでだよ?」
「さすが先生たちも考えるようになってな、ある時、やる気ある奴を10名残して他の奴らは退部するよう言って来たらしい。その時、役職に着いてる10名を部員に残すっていう対抗手段を取ってな、その時の名残って訳だ。」
「いたちごっこかよ。そんな好き勝手されて、先生たち何も言わねぇのかよ。」
「去年、長かった出場停止処分がようやく解けるってなった時にさ、外部から鬼コーチみたいなやつ連れてきたんだけどよ、さっき話した祐士先輩たちがそいつボコボコにしちまってよ、それっきりだ。」
「おい、待てよ、その祐士先輩?って人、さっき今から部活があるとか言ってなかったか?」
他島狩りたしまがしてんだよ」
「た、たしま?」

 本日何度目か分からない、聞き慣れない言葉にもはや狼狽える気力すらない。

「あぁ、2年生になるとな、よその学校のやつらと喧嘩しに行かされるんだ。」
「なんでだよ?」
「さぁ?俺が昔聞いた時は、伊志凪は喧嘩のプロだから負けることは許されないから、とか言ってたぞ。」
「最高じゃねぇか!」

 音也がニヤつきながら口を挟む。

「俺たちの世代で1番つぇのが俺たちだなんて、最高じゃねぇか!いっそのことよぉ、伊志凪始まって以来最強、最悪のメンバーにしてやろうぜ!なぁ、いいだろ!?」

 すると恭典がデコピンしてきた。

「今、恵弥が話してくれてんだからお前は黙ってろや。」

 ぶつぶつ言ってる音也を尻目に恵弥は続ける。

「そんで、3年生のこの時期になるとな、他島狩りのターゲットが変わるんだ。」
「ターゲット?」
「そう、本土ヤマトからの移住者で態度でけぇやつら多いだろ?そいつらとか、あと、アメリカ兵とかもターゲットにするらしいぞ。」
「ア、アメリカ兵?」
「あぁ、宜野湾ぎのわんとかコザまで行くんだ。」

 貴哉は空いた口が塞がらない。かつての沖縄でアメリカ兵と喧嘩する輩がいた、という話なら貴哉も聞いたことはあるが、その輩たちは自分たちよりも遥かに歳上で、しかもヤクザだ。もっと言うなら終戦から昭和中期にかけての話だ。21世紀にもなって、自分と同年代の男たちがそれと同じことをしてるだなんて。目眩もしてきた。だか、それでもどうにか声を振り絞って、1番聞きたかったことを聞いた。

「それで、なんで俺をここに連れてきたんだ?」
「それはな貴哉、お前も仲間に加えたいからだ。」
「はぁ?」
「見ての通り、俺たちは人数がこれだけしかいない。最初は俺と恭典と音也だけだったのを野球部繋がりで人を集めようとしたが、みんなビビってハンドボールだとかバドミントン、あとテニスとかに入って結局集まったのはここにいるメンバーだけだ。」
「いや、だからって...」
「まぁ、聞けよ。昼休みにな、職員室に行く途中3人で話合ったんだ。そしたら恭典がお前のこと、実は結構いい所あるんだとか言い始めてさ、ほんで音也がそんなにいい奴なら仲間にしようじゃないか、っていう話になった。」
「恭典が?...」
  
 貴哉が恭典の方を見ると、恭典は目を反らした。はっきり言って貴哉は満更でもない。この異様な集団の仲間入りについてはともかく、自分のことをそう言ってくれたのが嬉しかった。
 対して恭典が目を反らしたのは照れ隠しなんかじゃない。焦っている。彼があの時貴哉を庇ったのは、貴哉へのイライラと呼び出した教師へのイライラで爆発しそうになってた音也を沈めるために他ならない。

(嫌いじゃねぇが、あんなKYが仲間なんかになったらそれこそ一大事だぜ。)

 和人はむしろ恭典への怒りを募らせていた。

(あの馬鹿、あんなの仲間にしたら俺たちの青春は毎日ヤキだらけでボコボコブレンズだろうが!)

「あ、あの、恭典、ありがとう。」
「え?」
「俺のこと、そんな風に言ってくれてありがとう。」

 貴哉は感謝の言葉を口にした。よっぽど嬉しかったようだ。しかし、従兄弟2人は心の中でズッコケている。他のメンバーも、和人と恭典の様子から何かを察したようだが、それに気付かない貴哉が少々信じられない様子。そんな空気を貴哉は全く察せない。そんな状況で音也がしゃしゃりでてきた。

「お前、1人で感動してんじゃねぇぞ?」
「か、感動?」
「取り敢えず恵弥の話、最後まで聞けや。」

 音也がニヤリと笑ったことに、さすがの貴哉も不安めいたものを感じた。だろう。 

つづく
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