青春〜或る少年たちの物語〜

Takaya

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第一章 それぞれの出逢い

第十三話 託された夢

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 桃子による折檻の後、バレー部全員が部室に集められた。麻耶はボロボロにやられた状態で全員の前で晒された。

「2年生3人、前に出なさい。」

 3人とも、桃子から強烈なビンタをされた。連帯責任だ。麗子は泣いている。

「何泣いてんのよ!1番泣きたいのは香織の方でしょうが!あんたたちがちゃんと見てないからこんなことが起こるんでしょ?」

 桃子は麗子を怒鳴りつける。さらに、鈴美は追加で2回ほど叩かれた。それを見た真咲が言う。

「私も叩いて下さい。鈴美にだけこんな思いさせたくありません。」
「言ったわね?」

 真咲は3回叩かれた。だが、真咲と鈴美は決して涙を見せなかった。次は朱里の方に目をやる。

「分かってるわ。私の監督責任よ。」

 次の瞬間、桃子は朱里をグーで殴った。

「かっこつけてんじゃねぇよ!馬鹿女!」

 再び2年生の方に目をやる。

「あんたたち、麻耶はもうこんな格好になってるんだからさ、シャワー室で体洗ってあげなさいよ。いくらなんでも、こんな格好男子に見られちゃかわいそうでしょ?」
「....はい!」

 3人は麻耶を連れてシャワー室に行く。

「今日の部活はこれでお開き。明日はこんなことがないようにね。あと、香織!」
「はい。」
「今日は私と一緒に帰るわよ?いいわね?」
「....はい。」

 その後、2年生以外は部室で制服に着替え解散した。

 少し、2年生の様子を見てみよう。彼女たちは着替えを持って体育館のシャワー室に移動した。シャワー室でボロボロになった麻耶の体を麗子と真咲が洗い、アンモニア臭の漂うユニフォームと下着は鈴美が洗う。麻耶は2年生だけになってからずっと泣いていた。突然、鈴美が立ち上がった。目に一杯の涙を溜めている。

「泣いてんじゃないわよ!クソアマ!私たちがどんな思いでおしっこ臭いあんたの体と下着洗ってると思ってんの!?」
「鈴美、やめなよ。もうこの子責めないであげて。」
「真咲、あんた悔しくないの?私たちぶたれたんだよ?このアバズレの為に!ぶたれたんだよ!泣くことも許されなかったんだよ!悔しくないのかよ!」
「....悔しいよ....私だって悔しいよ!でも、これ以上責めたってどうにもなんないじゃん。」
「....この馬鹿!」

 鈴美が麻耶を蹴り飛ばした。真咲が立ち上がる。

「やめて!....お願い、もうやめてよ....」

 真咲も堪えきれなくなったものが溢れでてきた。シャワー室に、4人のすすり泣く声だけが響く。

 一方、部室の方では全員が着替え終わった。麗花、鈴飛、貴夜は姉たちを待つつもりだったが桃子に帰るよう促されてそれに従った。桃子はシャワー室で何が起こってるかの想像はついていたからだ。

「香織、あんた家遠かったっけ?」
「いえ、そうでもないです。」

 2人はそんな会話をしながら学校を出る。学校の前の自販機まで来て、桃子が財布を取り出す。

「お姉さんが奢ってあげるよ。何がいい?オレンジジュース?」
「いや、あの....」
「冗談よ。」

 桃子はフフっと笑ったが香織は苦笑いが精一杯だ。適当にジュースを買ってまた歩き始めた。

「あんた、実は今のバレー部の現状に不満タラタラでしょ?」
「いえ、そんな....」
「嘘おっしゃい、あんた部活中心から笑ったことないでしょ?」
「....」
「大丈夫、責めたりしないわ。私だって今のバレー部は嫌よ。」
「えっ?」
「私もね、1年の頃はあんたみたいに尖ってたんだから。」
「そうだったんですか?」
「ええ、今の現状変えてやる!とか本気で思ってたんだから。私は本気でバレーがやりたいのに、まるで不良の溜まり場みたいで、これじゃ野球部と変わらないわ。」

 いやいや、あなたも煙草吸って後輩にあんなことしてるじゃないですか、と言いたくなるが、助けてもらった手前そんなことは言えない。

「私が1年の頃はね、あんなもんじゃなかったのよ。誰も助けてくれなかったし、さんざん悔しい思いしたわ。」
「そうなんですか。」
「えぇ、今の2年生たちもかなり酷いことされてたわよ?麗子なんて下の毛燃やされてたし。」
「どうしてそんなこと....」
「辞めようとしたのよ。そしたらあの時の3年が激怒しちゃった。そんだけ。」
「そんな酷いことが....」
「最初は下に根性焼きするとか言い始めたのよ。私が庇ったら、じゃあ、代わりにお前にやるか?とかいい始めてさ。望むところです!って言って自分でやってやったわ。」

 若干、香織はひいてる。

「それなのに結局麗子の毛は燃やされるし辞められなかったし、あの時はさすがに泣いたね、悔しくて。」
「桃子先輩、あんなに強いんだから殴っちゃえばよかったのに。」
「殴るのは造作ないわよ。でも、バレーも続けたかったから。」
「....」

 なぜ部活を続けるのにこんな辛い思いをするんだろう。香織は悲しくなる。

「自分が部長になったら、絶対変えてやる!って思ってた。でも、さんざんいじめられてた2年生が、後輩ができた途端にこうなるんだもん。」
「それは、桃子先輩は悪くないですよ。」
「そんで、私もさ、さっき麻耶のこと怒る時、先輩たちからされてきたのと同じことしちゃったし。結局、自分たちがされてきたことしかできないのよ。」
「桃子先輩....」
「私、それが悔しくて....」

 桃子の声が震える。しかし、桃子は自分の顔を叩いた。決して泣くもんかと言わんばかりだ。

「香織、あんたにお願いがあるわ。聞いてくれる?」
「はい。」
「お願い、一緒にバレー部を変えていこう!私もできることは全部するから!私が間違ってるなら、あんたはいつでも文句言ってちょうだい!」
「そ、そんな....」
「お願い!約束して、」
「....分かりました。私たちでバレー部変えましょう!そのかわり、私も結構はっきり物言いますよ?」
「望むところよ!」

 桃子はようやく笑った。しばらく歩いた信号の所で、

「じゃ、私あっちだから、明日からまた頑張ろうね!」
「はい!お疲れ様です!」

 2人は別れる。香織は信号を渡り、しばらく歩いた電柱の所で立ち止まる。そして、

「おぇーーーーっ!」

 いきなり嘔吐し始めた。

(あの女、よりによってリンゴジュースなんか奢るなんて....オレンジジュースよりリアルじゃないの!どういう神経してんのかしら?でもまぁ、現状に不満なのは私だけじゃなかったのね。)

 香織はまるで飲み会帰りのOLの如く嘔吐し、その場を立ち去った。

つづく
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