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4. 二人まとめてかかってきなさい。

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 翌日。お見合い用メイクに余念がないクロエは、そばかすを描いていた手を止めて振り返った。
「え? 二人一緒に来るの?」
 ユーゴは不思議そうに眉を寄せて頷き、「そうみたい」と答える。
「お見合い、じゃないの?」
「友達同士らしい」
「よくわかんないけど……仲がいいのね、ということで良いのかしら。わたしはいつも通りでいいのかしら」
 ちりちり髪の毛を頭に乗せて、丁寧に整えていく。不衛生なイメージを与えないようなブスを作り上げるのはなかなかに難しいのだ。日々之研鑽なのだ。
 
 呆れたような微笑ましいような複雑な顔で、ユーゴは笑った。
「いいんじゃない? 成功させる気もないんでしょ?」
「何を成功というか、よね。金目当ての失礼男を撃退するってことが成功なら、成功させる気しかないわ」
「でも、いつもいつもそううまくいくのかな」
 心配性な兄に、クロエは胸を張った。
 
「いくのかな、じゃない。いかせるのよ」
 
 
 
 没落貴族の息子と、成金ドラ息子。
 二人相手って言うのは初めてだけど、どういう反応が返ってくるか楽しみ。
 すでに、当初の目的よりもいたずら気分になっている。気合の入ったメイクの顔を見た瞬間の男たちの顔を思い出すと、自然と笑みが浮かんでくる。
 
 二人が待っている応接の前で一つ息をつき、静かにノックした。
「はい」
 中から、優しい声が応えたのを聞いて、
「失礼いたします。クロエ=ゴドルフィンでございます」
と恭しくお辞儀をし、ゆっくりと顔を上げた。
 
 目の前には、こちらを向いて立っている青年たち。
 一人は青みがかったプラチナの髪の、柔和な顔の青年。
 もう一人は赤茶の髪をした、活発そうな顔をした青年。
 
 白金髪の青年が丁寧に会釈して名乗ろうとした瞬間、
「っぷー!」
 と赤茶が噴き出した。
 びっくりした青年が慌てて肩を叩き、たしなめようとするがすでに遅い。成人男性がこんなにも、というほどの爆笑。
「ちょ、ちょっと! イーサン!?」
「はは、だ、だって、あはは! ブスとかってレベルじゃ、あははは!」
 
 今まで100人の男に会ってきた、けれど初対面でこんなにあっけらかんと笑われたのは初めてだ。
(これ、どうするのが正解なの……つられて笑いそうになるけど、怒って出て行った方がいいのかしら?)
 心の中で葛藤しているクロエをじっと見つめ、ふっと表情を緩めて、白金髪の青年が一歩前に出た。
 
「友人が失礼しました、クロエさん。僕はラインハート=ノヴァック。こちらが」
「っ、けほ、ごめん。ふふ、ちょっと待って。……イーサン=アドル。よろしく」
 
 貧乏貴族と成金息子。
 笑われはしたけれど、ひきつった顔で開口一番「このご縁はなかったことに」にならなかったのは、珍しい。友人同士だから、けん制しあっているのかしら。

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