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23.言っていいこと悪いこと

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 その質問は、ラインハートにとって予期していたものだったのか。
 彼はびっくりするようすもなく、にっこり笑った。

「一目惚れです」
「信じません」
「おや、どうして?」

 心底不思議そうにこちらを見つめるラインハートの瞳には、噓を吐いているような揺らぎはなかった。それがひどくクロエをいらだたせる。

「私は、こんなですから。100人の男性に袖にされ続けた容姿です」
「みんなの見る目がなくって良かったな」
「率直に伺います。ゴドルフィンの資産をあてにされておられますか」

 婉曲的に聞いてもかわされるのであれば、と直球で聞いてみた。
 ラインハートは、ほんの少し寂しそうに目を細めて、口元だけ笑んだ。
 
 しばらくの間、彼は何も答えずにじっとクロエを見つめていた。
 視線をそらさないクロエから強い意志を感じたのか、ふっと小さく息をついて、ラインハートはゆっくりと立ち上がった。

「今日は、ここで失礼します。……お渡ししたいものも渡せたので」
「! ラインハート様、」
「お茶、ごちそうさま。……また」

 歯切れの悪い挨拶をし、姿勢の良い礼を取り、彼はテラスを出て行った。
 モスグリーンの上着の背中を見送りながら、クロエは挨拶の言葉を投げることもせず、そのまま長い時間立ち尽くしていた。

 彼は、何も答えなかった。
 それが、クロエの質問に対する何よりの答えだったのか。

 目論見がばれてしまったから逃げたのか、とちらりと思った。
 けれど、去り際の寂しそうな瞳を思うと、どきどきと心臓が痛い。
 あまりにも失礼な物言いをしてしまったのでは、という後悔。今まで、ここに来るお見合い相手たちには感じたことのなかった思い。

 追いかけて行って、ごめんなさいというべきか。
 でも、本当に彼が財産目当ての悪人だったら?
 引き留めてどうするの?
 好きですとでもいうつもり? こんな、人を試すようなことばかりしている私がどんな顔をして言うの!

 ぽろりと涙がこぼれた。ファンデーションはそれでもよれることもなく、滑稽だった。

 ラインハートが、求婚なんてしてくれなければ。
 あの時、街でぶつかったときに、ただ出会ったばかりの何の裏も策略もないままに恋に落ちることができたなら。

 もし、そうだったらクロエだって、資産がどうのなんて思わなかった。
 後で貴族だと知って、こちらの家のことも知ってもらって、そうだったのねって笑えたかもしれないのに。
 家なんて関係ないわ、って手を取り合えたかもしれないのに。

「わたしが、いけなかったのかしら」

 ぱたぱたと涙を流れるままにして、空を見上げた。
 木漏れ日が暖かくて、それがまた悲しかった。
 
 
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