エクスハンター 〜天と地の王〜

夢見 鯛

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 ユリアスとベニが満足そうに朝食をとっていると、リリゼがぷくっと頬を膨らませながら寄ってきた。

「さっきの話、聞いてましたか!」

 鋭い口調に対し、ユリアスは気の抜けた返事を返す。

「聞いてましたよ。大変そうですね~」

 まるで他人事のようにあしらうその態度に、リリゼはさらに眉をひそめた。しかし、次の瞬間、重厚な装備を身にまとった四人組が近づいてくる。彼らは威圧的な雰囲気を持ちながらも、礼儀正しく声をかけてきた。

「前、いいかな?」

 ユリアスが軽く頷くと、四人はそのまま同じテーブルへと腰を下ろし、次々に自己紹介を始める。

「俺の名前はフィリップ=ナショナリヤ(20)。このパーティ『火熊のヒヅメ』のリーダーをしている者だ」

 銀色の鉄装備をまとい、大楯と長剣を背負う男が名乗る。見た目はまだ若いが、その眼光には狩猟家としての経験がにじんでいた。

「マンハット=プリンシパ(17)。ミニガン使いです…」

 三口の回転式ミニガンを携えた少女が、肩をすくめながら口を開く。軽い口調とは裏腹に、その手には確かな力が宿っていた。

「ジョセフ=サザンクール(24)だ。俺はシールダーをやっている」

 大楯を背負い、腰には特性の異なる二種のピストルがぶら下がっている。無精髭を生やしたその男は、気だるげな口調ながらも油断のない目つきをしていた。

「ベンサム=クローリー(18)。ランサーだ。よろしく頼む」

 近中距離に対応した三節棍を持つ青年が、端的に自己紹介を済ませる。

 こうして、フィリップを中心とする四人の狩猟家パーティが、ユリアスたちと対面することになった。

 フィリップたちは自己紹介を終えると、ユリアスの顔をじっと見つめた。

「お前が……未探家のユリアス、で間違いないか?」

 フィリップの問いに、ユリアスは軽く眉を上げる。

「まあ、そうですね。どこで聞いたんです?」

 ユリアスが適当に返すと、ジョセフが腕を組みながら言った。

「狩猟家の間じゃ、すでに話題になってるぜ。未探家の資格持ちで、しかもあのテデナリアで救援活動の功績があるやつがいるってな」

「しかも、ユリアスさんってば、あのマントライキとも関わったんですよね? すごいですっ!」

 マンハットがぱっと顔を輝かせ、目をきらきらさせながら身を乗り出してくる。彼女はフィリップたちの中で一番年下らしく、可愛らしい雰囲気をまとっていた。

「ふーん。俺たち、今回のマントライキ討伐に参加する予定なんだけどさ──」

 ベンサムが顎をさすりながら言い、フィリップが頷く。

「どうせなら、お前も一緒に来ないか?」

 その言葉に、ユリアスは少し目を細めた。

「……俺を誘うってことですか?」

「そういうこと。未探家の視点での知識が欲しいのもあるし、単純にお前の実力も見てみたい」

 フィリップは率直に言った。その横で、マンハットが手を合わせながら目を輝かせる。

「それに、ユリアスさんみたいなすごい人がいたら、心強いですしっ!」

 ジョセフはニヤリと笑い、肩をすくめた。

「ま、俺たちのパーティに興味があるなら、そのままうちに入るってのもアリだぜ?」

「引き抜きまで考えてるんですか」

 ユリアスは呆れたように言いながら、ちらりとリリゼを見た。彼女は「ダメですよ!」と言いたげな表情でぷくっと頬を膨らませている。

(さて、どう返したもんかね)

 ユリアスはスプーンを口に運びながら、考え込んだ。

(マントライキはどうしても討伐しなきゃならない……だけど、引き抜きは承諾するわけにはいかないな)

 リリゼのこともあるし、何より自分には「ポイズンハンター」としてやるべきことがある。ここでパーティに所属するのは違う。

 ユリアスはそう言いながら、フィリップたちの顔を順に見ていく。

「優秀な未探家は貴重だ」

 フィリップが堂々と言い切る。ジョセフも腕を組んで頷いた。

「そういう意味でも、俺たちと組んだほうがいいぜ? ユリアス、お前の能力は確かにすごいが、単独だと危険も多い。チームで動いた方が利点も多いはずだ」

「そうですよっ! ユリアスさんがうちに来てくれたら、もっと楽しくなると思いますっ!」

 マンハットがぱっと笑顔を弾けさせる。

 ユリアスはそれを聞いて、少しだけ笑った。

「悪いけど、引き抜きはお断りします」

 そう言うと、マンハットが「えぇ~!」と大きく肩を落とし、ジョセフも「やっぱダメか」と苦笑いする。

「そりゃそうですよ! ユリアスさんにはやるべきことがあるんですから!」

 リリゼが腕を組みながら、ぷんすかとした様子で横から口を挟んだ。

「まあ、そういうことです」

 ユリアスは肩をすくめながら、フィリップの方を見る。

「ただ、マントライキの討伐には協力しますよ。あれは確実に倒さないといけないですからね」

 その言葉に、フィリップは満足そうに頷いた。

「それで十分だ。お前の知識と戦闘力が借りられるなら、それでいい」

「ははっ、やっぱ未探家ってのは堅いな。まあいいさ、今回の討伐で一緒にやれるなら、それだけで価値があるってもんだ」

 ジョセフが笑い、ベンサムも「実力が見れりゃ十分」と呟く。

「やった~! じゃあ、ユリアスさんと一緒に戦えるんですねっ!」

 マンハットがぱっと笑顔を咲かせ、ぱちぱちと手を叩く。その無邪気な反応に、ユリアスは思わず苦笑した。

(さて、とりあえずはこれで話がまとまったか)

 マントライキ討伐に向けて、ユリアスたちは『火熊のヒヅメ』と新たな協力関係を築くことになったのだった。

「そんじゃ行きますか!小手調べっと」

 フィリップの軽快な声を合図に、一同はハンターズギルドを後にした。

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 アトレイオから東に6キロ地点ーー

 乾いた風が吹き抜ける、広大な砂漠地帯【イスタンウェイト】。ここはアルルカ大陸の中でも厳しい環境の一つであり、昼は灼熱、夜は極寒となる過酷な土地だった。

 そんな中、今回のターゲットとなるのは、大型の陸上鳥類モンスター《カルガモン》。繁殖期に入り、砂漠の浅い窪地に卵を産み落とし、孵化したばかりの幼体が群れを成して行動している。依頼の目的は、幼体のうちに可能な限り狩猟すること。成体になれば飛行能力を得てしまい、狩るのが一気に困難になるためだ。

 「今回の目標は十羽。幼体とはいえ、相手は群れだから油断は禁物だな」

 ジョセフが大盾を担ぎながら周囲を見渡す。

 「そうですね。幼体はまだ空を飛べないけど、脚力は強いし、親鳥が近くにいたら反撃もあり得る」

 ユリアスが砂を踏みしめながら返すと、ベンサムが笑いながら頷いた。

 「そん時はジョセフが壁になりゃいいだろ?」
 「おい、当然みたいに言うな」

 ジョセフが呆れたように肩をすくめる。その隣で、マンハットがミニガンを構え、じっと遠くを見つめた。

 「……いたっ! 150メートル先、小丘の陰に群れがいるよ!」

 マンハットが指をさす先、砂漠の中にぽつんとした小高い丘があり、その陰で黒い影がもぞもぞと動いているのが見えた。カルガモンの幼体たちだ。

 「よし、火熊のヒヅメ、陣形をとるぞ」

 フィリップの指示が飛ぶ。

 ジョセフが最前線に立ち、大盾を構える。フィリップとベンサムは側面に回り込み、カウンター狙いの体勢をとる。そしてマンハットは後方に位置し、援護射撃の準備を始めた。

 「俺たちはどう動きます?」

 ユリアスが尋ねると、フィリップはちらりと視線を向け、口角を上げた。

 「好きに動いていいぜ。俺たちの戦い方を見せてやる」

 なるほど、まずは実力を示すということか。

 ユリアスはフードの中にいるベニの頭を軽く撫でながら、火熊のヒヅメの布陣をじっと見つめた。

 (さて……こいつらがどこまでやれるか、見せてもらうか)

 砂漠の熱気の中、静かに戦闘の幕が上がろうとしていた。

マンハットが静かに息を整え、照準を合わせる。風の流れ、標的の動き、そして自分の腕のわずかな揺れさえも計算し、指がトリガーを引いた。

――バババババンッ!!

 乾いた銃声が響き、150メートル先のカルガモンの幼体の額に、正確に弾丸が命中した。幼体は一瞬のうちに地面に崩れ落ち、砂埃を巻き上げる。

「ホッ…一羽ダウン」

 マンハットが声を上げた瞬間、幼体のカルガモンは勢いを失い、砂地に転がった。その正確無比な射撃に、ユリアスとリリゼは思わず目を見張る。

「……すごい…」

 ユリアスが感心したように言い、リリゼも驚いた様子でマンハットを見つめる。

「ミニガンであそこまで正確に撃ち抜くなんて……すごいです!」

 褒められたマンハットは、一瞬驚いたような顔をした後、ふふっと小さく笑った。

「えへへ、嬉しいです!未探家の方に褒めてもらえるなんて」

 戦闘時の冷静な姿とは打って変わって、年相応の少女らしさを見せる。その無邪気な笑顔に、ユリアスは苦笑しながらも素直に認めた。

「いや、マジで助かるわ。これなら目標の十羽も順調にいけそうだな」

 しかし、その和やかな雰囲気を切り裂くように、鋭い鳴き声が響いた。

「……!」

 親鳥のカルガモンがこちらに狙いを定め、明らかに怒りを滲ませた目で睨みつけていた。マンハットの攻撃によって幼体を倒されたことで、群れの警戒が一気に高まったのだ。
「来ますよ…」
 
 ユリアスの一言に場が凍る。

「やっぱり来るか……!」

 フィリップが素早く剣を構え、ジョセフが前へ出る。

「陣形を取るぞ! ジョセフ、先頭!」
「任せろ!」

 ジョセフが大楯を構え、ベンサムがその後方で槍を構えながら身構えた。マンハットも再びミニガンを構え、冷静な表情に戻る。

「次…いきます…」

 親鳥の鋭い目がユリアスたちを射抜く。戦いは、これからが本番だった。

親鳥の鋭い鳴き声が砂漠に響き渡ると同時に、幼体たちが一斉に襲いかかる。その数、十を超える。

「数が多いな…。リリゼさん。左に展開します」

 ユリアスはすぐに判断し、リリゼとともに砂漠の砂道を大きく左へ走り出した。

 しかし、砂漠の地形は厄介だった。足を踏み込むたびに、柔らかい砂が足元をさらい、思うように速度が出せない。踏み込みが甘ければズルリと滑るし、強く蹴り出せば逆に砂が沈み込む。

「っ…走りづらい!」

 リリゼが息を弾ませながらも、何とか駆ける。ユリアスは砂の上での走法を心得ていた。かかとを使わず、足裏全体で着地し、踏み込みを浅く。それでも、スムーズに進むには経験が必要だ。

「あの枯れ木のポイントから狙ってください」

 目標である枯れ木に到着し、砂を蹴り上げながら、リリゼは弓を構える。駆けながらの射撃は難しい。しかし、このままでは幼体たちの注意がジョセフたちに集中してしまう。

――シュンッ!

 矢が砂埃を切り裂き、幼体の群れの中央に飛び込んだ。狙いどおり、一羽が怯んで後退する。それにつられ、周囲の個体も意識を分散させた。

…今…。

 ユリアスはその一瞬を逃さなかった。

 双剣を抜く。右手の烈火昼神、左手の氷真小刀。燃え盛る炎と、凍てつく冷気を宿した刃が、陽光を浴びて輝く。

 足元の砂に負けじと重心を低くし、一気に加速。

 ユリアスの足が砂を蹴るたび、粒子のような砂塵が舞う。重たい砂道をものともせず、狩人のように獲物へと迫った。

「――まずは一羽!」

 烈火昼神が炎の軌跡を描く。瞬時に振り抜かれた刃が幼体の首元を断ち、その体が砂漠に沈んだ。

「次ッ!」

 振り向きざま、氷真小刀を横薙ぎに払う。凍気を帯びた刃が二羽目の胴体を切り裂き、鮮血とともに氷の結晶が舞う。

 最後の一羽が驚き、飛び上がろうとした瞬間――

「逃がさねぇよ」

 ユリアスは砂の沈み込みを計算し、一歩踏み込みながら烈火昼神を逆手に構えた。勢いよく突き刺し、熱が幼体の体を焼く。

 砂漠の風が吹き抜ける中、ユリアスは双剣を軽く振り払い、血を弾いた。

ーー三羽、撃破

 その背後では、リリゼが次の矢を番えていた。

「すごい…一瞬で…!」

 驚きの声を漏らすリリゼ。しかし戦闘はまだ終わっていない。
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