エクスハンター 〜天と地の王〜

夢見 鯛

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            act.3

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 ――バババババンッ!!

 乾いた連射音が砂漠に響いた。

 マンハットのミニガンが火を噴き、群れの先頭を走っていた幼体が額を撃ち抜かれる。幼体はそのまま地面に崩れ落ちた。

「一羽ダウン…!」

 マンハットが短く報告を上げる。

 その瞬間、撃ち倒された幼体に気を取られた他の個体が、一瞬だけ動きを止めた。

「今だ!」

 フィリップが素早く踏み込み、鋭い剣の軌跡が砂塵を切り裂く。

 シュバッ!!

 一羽の首が跳ね、ベンサムの槍がもう一羽の急所を貫いた。

「二羽目、討伐!」

「こっちもやったぞ!」

 火熊のヒヅメの連携が光る中、ユリアスも動いた。

 砂を蹴り上げ、重たい砂漠道を駆ける。足元が僅かに沈み込み、まとわりつく砂が思うような加速を阻む。しかし、それでもユリアスは速度を緩めなかった。

「……ッ!」

 烈火昼神を振り抜く。燃え盛る刃が一羽の幼体の首を断ち、その場で絶命させる。

 続けざまに左手の氷真小刀を逆手に構え、踏み込んできたもう一羽の幼体の喉元を狙う。

 シュッ――

 冷気を纏った刃が閃く。

 幼体の息が凍りつくような音がし、そのまま砂地に沈んだ。

 最後の一羽が怯んだ隙を逃さず、ユリアスは素早く距離を詰めた。

「悪いな……」

 低く呟きながら、両手の刃を交差させるように振り抜く。

 ザシュッ――!!

 十字に刻まれた傷口から血が噴き出し、幼体は地に伏した。

 マンハットが一羽、フィリップたちが二羽、ユリアスが三羽――

 計六羽が、すでに討ち取られていた。

 だが、戦いはまだ終わらない。

 親鳥のカルガモンは、子を次々に狩られた怒りに震えながら、鋭い目で生き残った幼体を守ろうと翼を広げる。

「さて……あと四羽か」

 ユリアスが血に濡れた双剣を振り払いながら、静かに言った。

そんな中、六羽の子を狩られた親鳥は、駆ける足を止めた。

 砂漠の熱風が舞い、重く張り詰めた空気が戦場を包む。

 親鳥のカルガモンは、赤く充血した瞳でじっと標的を見定める。

 マンハットの正確な射撃により最初の一羽を失い、その混乱の隙を突かれ、フィリップたちが二羽を屠った。そして、さらに三羽をユリアスが瞬く間に切り伏せた。

 その事実を理解した親鳥の目が、怒りに燃える。

 どちらを狙うべきか――火熊のヒヅメか、それともユリアスたちか。

 カルガモンは鋭いくちばしを打ち鳴らしながら、わずかに首を振る。

 マンハットの銃撃で始まった戦い。それを合図に動いたフィリップたち。だが、もっとも多くの幼体を討ち取ったのは、双剣を手にした男――ユリアスだった。

 親鳥の目が、ユリアスを捉える。

「……来るな」

 ユリアスが低く呟くのと同時に、親鳥が猛然と砂漠を蹴った。

 狙いを定めた獲物は決まった。

 ユリアスだった。

「ッ!」

 砂を巻き上げながら、巨大な鳥が一直線に突進してくる。その速度は、先ほどまでの幼体とは比べものにならない。

 火熊のヒヅメの面々がすかさず反応する。

「ユリアス! 避けろ!」

 ジョセフが叫びながら楯を構えようとするが、距離が遠すぎる。

 ユリアスは静かに息を吸い込み、迎撃の構えを取った。

 目の前に迫る巨大なくちばし――

「ユリアスさん!」
「ユリアーース!」
「逃げろ!!」

 誰もが息を呑み、火熊のヒヅメの面々も思わず身を強張らせた。その瞬間、ユリアスは親鳥の意思を読み取り、一瞬の隙を突いて動いた。

 猛然と迫る突きを、ギリギリの間合いで躱す。

 砂漠の熱風と共に、親鳥のくちばしが彼の頬をかすめる。しかし、ユリアスは恐れることなく、回転しながら両手の双剣を振るった。

 烈火昼神が閃光のように親鳥の側面を斬り裂き、氷真小刀が鋭く冷たい軌跡を描きながら、相手の羽毛を切り裂く。

 ズババババッ!!

 火と氷、相反する力が交差し、親鳥の体に無数の斬撃を刻んだ。切り口からは焼け焦げた羽毛が舞い、凍りついた傷跡が筋を描く。

「グギャアアアッ!!」

 親鳥の悲鳴が砂漠に響き渡った。

 その巨体が激しく揺れ、ユリアスが着地するのと同時に、大きな翼を広げて砂を巻き上げる。

「やるな……!」

 フィリップが驚きの声を漏らし、リリゼはユリアスの無事に安堵する。

 親鳥はバランスを崩し、巨大な体が砂地に沈み込む。暴れようとするが、もがくほどに足を取られ、さらに深く沈んでいく。

 ユリアスはその隙を逃さなかった。

 背負っていたカバンの中から、細長い筒状の注射薬品弾を取り出す。素早く左腕のグラップの器具にセットし、射出準備を整えた。

「これで、大人しくしてもらうぞ」

 ユリアスが照準を合わせ、引き金を引く――

 シュッ――!

 小さな射出音とともに、注射薬品弾が飛び出し、一直線に親鳥の傷口へと突き刺さる。先の斬撃で開かれた傷口に、注射針が深くめり込んだ。

「グギャアア……ッ!」

 親鳥が一瞬苦悶の声を上げるが、やがてその動きが鈍くなっていく。薬が血流に乗り、全身へと回り始めたのだ。

 バサバサと羽ばたこうとするも、力が抜けていくのか、徐々に羽を畳み、荒い呼吸を繰り返す。

「……効いてきたな」

 ユリアスが双剣を下げ、親鳥の様子を確認する。

 それまで警戒していたリリゼや火熊のヒヅメの面々も、次第に親鳥の力が抜けていくのを見て、表情を緩めた。

「ユリアスさん、何をしたんですか?」
「麻痺毒の薬品を投与しました。十分~二十分は動けないですよ」

「すげーな、さすがはポイズンハンターってか」
「凄すぎます、ユリアスさん」
「これで俺たちの勝ちだな…」

 フィリップは麻痺毒によって動けなくなった親鳥に、無情の剣を突き刺し、その息の根を止めた。その無慈悲な光景を、口を紡いで見守ることしかできなかったユリアスとリリゼ…。

「よし、残りの幼体を狩るぞ。目標はあと四羽、さっさと片付けるぞ!」

 ジョセフの号令とともに、再び戦闘態勢へと移る一同。
 程なくして砂漠地帯【イスタンウェイト】に蔓延る《カルガモン》の親鳥、および幼体十羽の討伐が完了し、一行はアトレイオのハンターズギルドに帰還する。

------------------------------------------

 アトレイオのハンターズギルド。

 戦いを終えた一行は、酒場の一角に集まり、『カルガモン討伐』の打ち上げを兼ねた小さな祝宴を開いていた。

 テーブルには豪快に盛られた肉料理やパン、酒が並び、狩猟を終えたハンターたちが笑顔で杯を交わす。

「改めて、お疲れさん!」

 ジョセフが大ジョッキを掲げ、火熊のヒヅメの面々がそれに続く。

「お疲れ様でしたー!」

 マンハットは、両手で持ったジョッキを軽く掲げながら、笑顔で乾杯に加わる。

 ユリアスとリリゼも、それぞれグラスを手にし、静かに杯を合わせた。

 そして、テーブルの中央には、今回の討伐報酬である6000ドルの札束が積まれている。

「これを6人で均等に分けると……一人1000ドルってとこか」

 フィリップが計算しながら、各自の取り分を分配していく。

「6000ドルか……思ったより高かったな」

 ユリアスが報酬を手にしながら、少し驚いたように呟くと、ベンサムが笑いながら肩をすくめた。

「そりゃあな。親鳥まで狩ったんだ、当然だろう」

「それに、ユリアス、お前の貢献がデカかったからな」

 フィリップがニヤリと笑い、酒を一口煽った。

「親鳥を弱らせたのは、お前の薬品弾があったからだし、戦闘中も的確に動いてた。俺たちだけじゃ、もっと手こずってたかもしれねぇ」
「いえ、俺だけの力じゃないですよ」

 ユリアスは肩をすくめ、横に座るリリゼへと視線を向ける。

「リリゼさんの狙撃がなかったら、俺もあそこまでスムーズには動けなかったです」

 ユリアスは素直にそう言いながら、リリゼの方を見やる。

「矢の精度も高かったし、ちゃんと状況を見て撃ててた。助かりました」
「えっ……」

 リリゼの目が大きく見開かれた。

 まるで予想外の言葉を聞いたかのように、一瞬動きが止まる。

「わ、私が……助けに……?」

 ぽつりと呟くリリゼの耳まで、じわじわと赤く染まっていく。

「そうだよ。少なくとも、俺はリリゼの狙撃を頼りにしてた」
「~~~っ!」

 リリゼはユリアスから顔を背けるようにうつむき、両手で頬を押さえた。

 その仕草に、フィリップやベンサムがくすくすと笑う。

「おいおい、まさかの照れか?」
「認められたと思っていいんじゃねぇの?」
「そ、そんな、私なんてまだまだです……!」

 リリゼは慌てて首を振るが、耳まで真っ赤なのは隠しきれない。

 マンハットが「かわいい~!」と小さく声を漏らし、リリゼの肩をぽんぽんと叩いた。

「ユリアスさんがあそこまで言うんだから、自信持っていいんですよ!」
「そ、そんな……でも……」

 リリゼは戸惑いながらも、少しずつ口元に微かな笑みを浮かべていく。

 その様子を見て、ユリアスはふっと小さく笑った。

「……これからも頼りにしてますよ」

 その一言で、リリゼの顔はさらに赤く染まった。

 リリゼはまだ頬を赤く染めたまま、ちらりとユリアスの方を見てはすぐに視線をそらす、という動作を繰り返していた。

 そんな彼女の手の中には、すやすやと寝息を立てるベニの小さな姿。

 ユリアスがリリゼを頼りにしていたと言った瞬間から、ずっと胸が熱くて落ち着かない。

 火熊のヒヅメの面々も、マンハットまでもがからかうように笑っている。

 リリゼは耐えきれなくなり、ベニをぎゅっと抱きしめると、そのふわふわの毛並みに顔をうずめた。

「わ、私はどうすればいいの……ベニ~っ!」

 全力で照れながら、ベニに向かって必死に訴える。

 しかし当のベニは、ふにゃっと気持ちよさそうに喉を鳴らし、リリゼの腕の中で丸まったまま眠り続けるだけだった。

「くくっ、こりゃ完全に落ちたな」
「ユリアス、なかなか罪な男じゃないですか?」

 フィリップとベンサムが肘でユリアスを突きながら、面白がるようにニヤニヤと笑う。

 ユリアスはそんな彼らを適当にあしらいながら、赤くなったままのリリゼを横目で見て、ほんの少しだけ笑みを浮かべた。
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