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プロローグ
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(ほ~ら、あなたにとって、大事に人ほど~、すぐそ~ばに居るの)
「ふふふ…」
壁中が画鋲で穴だらけになるほど、女の子のアニメキャラクターやアイドルの色々なポスターが取っ替え引っ替えに貼られ、部屋の角には安っぽい木製のシングルベッドが置かれ、小学生の頃から置かれた使い古された茶色い勉強机と、その上にギチギチに詰めて置かれたモニターとゲーミングPC、そしてキーボードマウス。
それを取り囲み、ワンルームをさらに強制的に区切るような配置の五つの白や黒、茶色の統一感のない本棚。中には無数の漫画やライトノベル、そして3次元アイドルの写真集や夏のコミケで買ったちょっとエッチな同人誌が詰め込まれ、それでも入りきらないものは縦置きの単行本のさらに上に乱雑に置くという鬼畜さ。
誰もがパッと見で『オタク部屋』だと言うに違いない。まあ偏見ではなく事実だし、否定はしない。ガキ臭いと言われればガキ臭いし、良く言えば趣味に忠実とも捉えられる。
そんな空間に俺、立花 光(29)は住んでいた。そう、俺はこう見えて29歳。いや、もうあと3分ほど経てば20の代を卒業して、立派な30歳の仲間入りだ。
そんなめでたい誕生日に、俺は実家の一室で1人孤独にヘッドホンをつけてMONGOL800の『小さな恋の歌』を流しながら口ずさんでいた。
当時13歳の時にテレビで大ヒットした時をかける恋愛ドラマ『プロポーズ大作戦』の主題歌だったこの歌を、中学1年だった頃はよくカラオケに行っては歌い込んだもんだ。何せ中学生といえば恋愛にうつつをぬかす年頃だからな。
好きな子ができて、恋愛漫画を読み込んだり、恋愛ドラマを見込んではそれに沿って妄想したりなんてのは日常茶飯で、それでも現実はそう上手くも行かず、好きな子に気持ちを伝えられないまま刻一刻と時は過ぎて、ちきった子供はそのまま想いを伝えられず卒業。想いを伝えたとしても恋は実らず玉砕。中学生の甘酸っぱくて苦い恋愛体験なんて大体がそんなもんだ。
「初恋…かぁ。」
小さな恋の歌を聴いていたからだろうか。30歳の大切な節目となる誕生日をあと2分もしないうちに訪れようとした今頃、何故かふと頭をよぎる初恋の思い出。そして、俺は1枚のハガキを手にしていた。それは結婚式の招待状であり、もう4年も前に送られてきたものだった。
初恋相手、青紗 奈々美から送られてきた結婚式の招待状。友人…と呼んでもよかったのか、ただ一方的に俺が好意を抱いていただけで、恋が実るわけでもなかった淡い青春。まさか26歳で顔も名前も知らないどこぞの馬の骨と恋に落ちて結婚して、その式にまるで当てつけかのように招待して…もちろん行かなかったし、もはや出席欠席の連絡すらしなかった。何故かって、それは、今のこんな自分を堂々と見せれなかったからだ。
29になって、実家暮らしで、フリーター。手取りは12万を切っていて、さらには携帯代や通信代は全て親持ちで、毎日朝晩の食事は用意され、家に入れたお金なんて、入れろと約束した最初の月と…多分2、3回くらいかな。額もそれほど多くなかったと思う。そんな親の脛をかじり、自堕落な生活を送っていた半ニート生活みたいな人生を送っていた自分が恥ずかしくて、昔の知り合いたちに顔向けができなかった。きっとあの一件で非常識な人間だということはバレたはずだ。それでも構わない。だってもう関わることはないから。
3次元なんて息苦しいだけだ。いつからかそう思うようになって、2次元を好きになった。2次元は俺を裏切らない。だってずっとそばに居てくれるから。
今の推しは『この世はハーレムパラダイス』の負けヒロイン、金平 玲奈。愛称『レッチ』。
文武両道で容姿端麗、二次元特有の化け物みたいなチチではなく、リアルよりな華奢でおとなしめな印象の体つきに、何より薄金髪で長髪、シチュによっては高めのポニーテール!!結んでも最高!おろしても最高!何より最終話手前でメインヒロインとデッドヒートを繰り広げ、最終的には負けヒロインとなってしまった恋愛に従順だが報われないその人生に強く感銘を受け、俺はぞっこんしてしまった。主人公がレッチを選ばないなら俺が選んでやる!そう強く心に決め、単行本やアニメ円盤も買い、レッチのグッズは、フィギュアやコースター、写真にぬいぐるみ、この世にある全てのものを買い揃えた。総額160万はくだらないか。誰がなんと言おうと俺の嫁だ。そして、俺に黒髪ボブではなく薄金長髪の良さを教えてくれた救いの天使だ。
どうしてここまで俺が執心するのか。それは多分、初恋相手の青紗 奈々美が対照的な黒髪ボブだったからだろうな。
と、そうこうしているうちに時計は0時を差していた。
「ハピバ…光。」
いつからだろうか。誕生日を人と過ごさなくなったのは…。勿論自分のはそうだが、他人の誕生日にも20を超えたあたりから行かなくなった。いや、呼ばれなくなったか。親に祝われなくなったのは、もう高校生くらいからだったか。まだ一年の頃は居たっけか。まあどうでもいいか。だって俺が人の誕生日に興味がないから。そりゃあ逆も然りだろう。当然だ。幸せを求めるならそれだけの対価を差し出さなきゃ返ってくるわけがない。
「自己満で人生うまく行ってたら、俺は今こうしてないよな。ヘヘヘッ。さっ!仕事仕事。今日は夜勤なんだよなぁ~」
できる限り長く働きたくない。けどレッチに貢ぐ金は欲しい。オタ活以外にも金は消えていく。だから余計に金がいる。でも働きたくない。でも金は欲しい。二つの思考がぶつかり合い出した結論は夜勤だった。夜勤バイトは時給が高いから同じ時間で昼勤の1.5倍は稼げる。短くとも同等の給料が稼げるんだから、できることなら誰だって効率のいい夜勤を選ぶだろう。こんな生活をもう10年も続けてれば、体だって魔改造されて、慣れたもんさ。
「いっそのこと魔改造されまくって魔法使いにでもなりたいもんだねぇ~」
『お前の願いは魔法使いになることか?』
「そうそう。魔法使いになって、金持ちになって、女侍らせて、一日中ゲームして、好きな時に好きなだけ寝て…そんで…童○捨てたい。」
『ドーテー?』
「そう。エッチしたい。そうだよ、俺まだ未経験じゃん。人生の9割損してるじゃん!気持ちいいらしいんだ!あったかいらしいんだ!締め付けられて、クネクネしてて、あの世に行きそうになるんだ!って………え?」
実家の一室で1人寂しく誕生日会を終え、夜勤に行く支度をしていたはずの光は、何者かと対話する。両親?いやいやそんなわけない。友達?もういないし。幽霊?幽霊…、ユウレイ………。
パッ!!
思わず声のする方へ振り返ると、そこにいたのは、一言で言うならば『悪魔』だった。
青白い肌に黒い衣装、そしてツノや尻尾が生えた生物。完全に二次創作の悪魔そのものだった。でも大きさは小型犬くらいか。対して大きくはない。
「って冷静に分析してる場合かよ…。俺疲れてんのかな。疲労?ストレス?見えちゃいけないもん見えてるやん」
まぁ驚くほど怖くないから何とも思わないけど。てか夢だろこれ。さっさと目覚せー、現実の俺。
『何ボケーーッとアホみたい顔して突っ立ってんだよお前』
「あん?アホみたいな見た目のやつに言われたくねーよ」
『何だと、この人間風情が!せっかく30年にわたる苦悩から解放してやろうと馳せ参じてやったってのに』
「30年にわたる苦悩?」
ーー苦悩…ねぇ。別に実家ぐらしで、飯は用意されてて、電気ガス水道代、一銭も払わず自由に使えて、周りの同期に比べれば苦悩なんて…ないだろ。
「別に苦悩なんかねーよ。」
『本当かな~?お前は欲望と煩悩にまみれた大の苦悩者だぞ~。何かあるんだろ?叶えたい夢が』
「そもそも、何なんだよお前!夢の中の架空の生物がやけにリアルに接してくるじゃねーの」
『これが夢なわけねーだろーがよー。お前アホだなぁ。俺様は正真正銘の"魔法使いの遣い"ユーメ様だ』
「夢じゃねーかよ」
『ユーメだっての!』
ーー何かよくわからないやつに絡まれたもんだ。ここが夢じゃないとか、魔法使いの遣いとかジジくさいギャグを吐き捨てて、本当に何者なんだこいつは。
『魔法界の決まりでな!生まれてこの方30年、自分の初体験を守り抜いた者たちには、ご褒美を与える決まりになってんだ!だから俺様はここへ来た。立花 光。何でも好きな要望を口にせい。一つだけ叶えてやる』
ーー30年間、初体験を守り抜いた代わりの褒美。まさか、30歳になるまで童○だったら魔法使いになれるって噂は、本当だったのか?!。いや、正確には魔法使いになるんじゃなくて、"魔法使いの遣い"って役職の悪魔に願いを叶えてもらえるみたいだけど。
「急に言われてもパッと思いつかないな…あ…」
そこで光はふと机に無造作に投げ捨てられた結婚式の招待状に目を落とす。
青紗 奈々美…。初恋…。
そして、光は夜勤の出勤時間など頭の中から捨て去り、実家の別室にある屋根裏部屋へ足を運ぶ。そして、屋根裏部屋に置かれた多くの荷物をかき分け、一冊のアルバムを手に取り、自室へ戻ってくる。
中学校の卒業アルバム。1ページ目には小水学院という名前と校章の印字がされ、2ページ目から中学時代の思い出深い全体の行事ごとなどの写真が敷き詰めて印刷されており、後ろの方へ行くと、クラスごとの個人写真と集合写真のページが出てくる。
しかし、光の持つ卒業アルバムの個人写真と集合写真の欄は、油性のマジックペンで生徒や教師の顔写真がぐちゃぐちゃに塗り潰されていた。若気の至りか。確か卒業式の後に帰ってきてから自分で塗り潰したんだったか。
ただ一点、青紗 奈々美の顔写真と集合写真の一部だけは油性マジックの線が避けられていた。
「好き…だったんだよな。ずっと…クッ…」
中学時代の淡い青春の日々が脳内に蘇り、青紗 奈々美の顔を思い出す。そして、現在、他の男と結婚してしまったことが受け止めきれず、思わず目から大粒の涙が流れ落ちる。
「クッ…ゥウウ…。もし、やり直せるなら…もっと上手くやれるだろうか。奈々美と付き合って、結婚して、エッチできるだろうか…。いや、ただ好きなことを素直に伝えれたらそれだけで…」
(ハレルヤーチャーーンス!!)
「ハレルヤ…チャンス…。」
ふと、光は学生時代にどハマりしていたプロポーズ大作戦のワンシーンを思い出す。結婚式場のプロジェクターに映し出された思い出の写真、一枚一枚に指を刺して、ハレルヤチャンスと叫ぶことで、それが撮られた前の時間軸にタイムスリップして、やり残したことをやり遂げるあの有名なシーンを、この悪魔に頼めば、学生時代をやり直せるだろうか…。
「悪魔…俺は、学生時代に戻りたい。戻って、初恋の相手に、このムズムズした気持ちを伝えたい…。伝えたいんだ!好きだって!!!」
『それがお前の真の願いか?』
「あぁ!!俺は…俺は!!…は~ぁぁぁ…」
悪魔・ユーメに願いを告げたはずの光だったが、ふと部屋中に貼られたレッチのちょっと過激なポスターや、写真集、この世はハーレムパラダイスの単行本やぬいぐるみが視界に入り込む。
ーー今の俺の推しって、レッチだよな。推しって言うか、もう嫁だよな。嫁がいるのに初恋どうこうはさすがにやばいか?てか俺って今どっちが好きなんだ?奈々美か?レッチか?。いや、さすがに薄金髪ロングだよな…。黒髪…ボブか…。いや、髪型の問題じゃないだろ。内面、内面は…。
『それじゃあ行くぞ!お前を学生時代へ飛ばしてや…』
「ちょっと待ったーーーーーーー!!!!!!!!!!!!やっぱり童○捨てさせてーーーーーーーーー」
30年間、童○を守り続けた男の最後の願いは、最愛の人との卒業だった。
『…る!!』
シュパーーーーーーーーーーーーーーーン!!!!!!!!!!!!!実家にある光の部屋は、一瞬にしてひかりに包まれ遠き異国の地へと飛ばされるのであった。
「ふふふ…」
壁中が画鋲で穴だらけになるほど、女の子のアニメキャラクターやアイドルの色々なポスターが取っ替え引っ替えに貼られ、部屋の角には安っぽい木製のシングルベッドが置かれ、小学生の頃から置かれた使い古された茶色い勉強机と、その上にギチギチに詰めて置かれたモニターとゲーミングPC、そしてキーボードマウス。
それを取り囲み、ワンルームをさらに強制的に区切るような配置の五つの白や黒、茶色の統一感のない本棚。中には無数の漫画やライトノベル、そして3次元アイドルの写真集や夏のコミケで買ったちょっとエッチな同人誌が詰め込まれ、それでも入りきらないものは縦置きの単行本のさらに上に乱雑に置くという鬼畜さ。
誰もがパッと見で『オタク部屋』だと言うに違いない。まあ偏見ではなく事実だし、否定はしない。ガキ臭いと言われればガキ臭いし、良く言えば趣味に忠実とも捉えられる。
そんな空間に俺、立花 光(29)は住んでいた。そう、俺はこう見えて29歳。いや、もうあと3分ほど経てば20の代を卒業して、立派な30歳の仲間入りだ。
そんなめでたい誕生日に、俺は実家の一室で1人孤独にヘッドホンをつけてMONGOL800の『小さな恋の歌』を流しながら口ずさんでいた。
当時13歳の時にテレビで大ヒットした時をかける恋愛ドラマ『プロポーズ大作戦』の主題歌だったこの歌を、中学1年だった頃はよくカラオケに行っては歌い込んだもんだ。何せ中学生といえば恋愛にうつつをぬかす年頃だからな。
好きな子ができて、恋愛漫画を読み込んだり、恋愛ドラマを見込んではそれに沿って妄想したりなんてのは日常茶飯で、それでも現実はそう上手くも行かず、好きな子に気持ちを伝えられないまま刻一刻と時は過ぎて、ちきった子供はそのまま想いを伝えられず卒業。想いを伝えたとしても恋は実らず玉砕。中学生の甘酸っぱくて苦い恋愛体験なんて大体がそんなもんだ。
「初恋…かぁ。」
小さな恋の歌を聴いていたからだろうか。30歳の大切な節目となる誕生日をあと2分もしないうちに訪れようとした今頃、何故かふと頭をよぎる初恋の思い出。そして、俺は1枚のハガキを手にしていた。それは結婚式の招待状であり、もう4年も前に送られてきたものだった。
初恋相手、青紗 奈々美から送られてきた結婚式の招待状。友人…と呼んでもよかったのか、ただ一方的に俺が好意を抱いていただけで、恋が実るわけでもなかった淡い青春。まさか26歳で顔も名前も知らないどこぞの馬の骨と恋に落ちて結婚して、その式にまるで当てつけかのように招待して…もちろん行かなかったし、もはや出席欠席の連絡すらしなかった。何故かって、それは、今のこんな自分を堂々と見せれなかったからだ。
29になって、実家暮らしで、フリーター。手取りは12万を切っていて、さらには携帯代や通信代は全て親持ちで、毎日朝晩の食事は用意され、家に入れたお金なんて、入れろと約束した最初の月と…多分2、3回くらいかな。額もそれほど多くなかったと思う。そんな親の脛をかじり、自堕落な生活を送っていた半ニート生活みたいな人生を送っていた自分が恥ずかしくて、昔の知り合いたちに顔向けができなかった。きっとあの一件で非常識な人間だということはバレたはずだ。それでも構わない。だってもう関わることはないから。
3次元なんて息苦しいだけだ。いつからかそう思うようになって、2次元を好きになった。2次元は俺を裏切らない。だってずっとそばに居てくれるから。
今の推しは『この世はハーレムパラダイス』の負けヒロイン、金平 玲奈。愛称『レッチ』。
文武両道で容姿端麗、二次元特有の化け物みたいなチチではなく、リアルよりな華奢でおとなしめな印象の体つきに、何より薄金髪で長髪、シチュによっては高めのポニーテール!!結んでも最高!おろしても最高!何より最終話手前でメインヒロインとデッドヒートを繰り広げ、最終的には負けヒロインとなってしまった恋愛に従順だが報われないその人生に強く感銘を受け、俺はぞっこんしてしまった。主人公がレッチを選ばないなら俺が選んでやる!そう強く心に決め、単行本やアニメ円盤も買い、レッチのグッズは、フィギュアやコースター、写真にぬいぐるみ、この世にある全てのものを買い揃えた。総額160万はくだらないか。誰がなんと言おうと俺の嫁だ。そして、俺に黒髪ボブではなく薄金長髪の良さを教えてくれた救いの天使だ。
どうしてここまで俺が執心するのか。それは多分、初恋相手の青紗 奈々美が対照的な黒髪ボブだったからだろうな。
と、そうこうしているうちに時計は0時を差していた。
「ハピバ…光。」
いつからだろうか。誕生日を人と過ごさなくなったのは…。勿論自分のはそうだが、他人の誕生日にも20を超えたあたりから行かなくなった。いや、呼ばれなくなったか。親に祝われなくなったのは、もう高校生くらいからだったか。まだ一年の頃は居たっけか。まあどうでもいいか。だって俺が人の誕生日に興味がないから。そりゃあ逆も然りだろう。当然だ。幸せを求めるならそれだけの対価を差し出さなきゃ返ってくるわけがない。
「自己満で人生うまく行ってたら、俺は今こうしてないよな。ヘヘヘッ。さっ!仕事仕事。今日は夜勤なんだよなぁ~」
できる限り長く働きたくない。けどレッチに貢ぐ金は欲しい。オタ活以外にも金は消えていく。だから余計に金がいる。でも働きたくない。でも金は欲しい。二つの思考がぶつかり合い出した結論は夜勤だった。夜勤バイトは時給が高いから同じ時間で昼勤の1.5倍は稼げる。短くとも同等の給料が稼げるんだから、できることなら誰だって効率のいい夜勤を選ぶだろう。こんな生活をもう10年も続けてれば、体だって魔改造されて、慣れたもんさ。
「いっそのこと魔改造されまくって魔法使いにでもなりたいもんだねぇ~」
『お前の願いは魔法使いになることか?』
「そうそう。魔法使いになって、金持ちになって、女侍らせて、一日中ゲームして、好きな時に好きなだけ寝て…そんで…童○捨てたい。」
『ドーテー?』
「そう。エッチしたい。そうだよ、俺まだ未経験じゃん。人生の9割損してるじゃん!気持ちいいらしいんだ!あったかいらしいんだ!締め付けられて、クネクネしてて、あの世に行きそうになるんだ!って………え?」
実家の一室で1人寂しく誕生日会を終え、夜勤に行く支度をしていたはずの光は、何者かと対話する。両親?いやいやそんなわけない。友達?もういないし。幽霊?幽霊…、ユウレイ………。
パッ!!
思わず声のする方へ振り返ると、そこにいたのは、一言で言うならば『悪魔』だった。
青白い肌に黒い衣装、そしてツノや尻尾が生えた生物。完全に二次創作の悪魔そのものだった。でも大きさは小型犬くらいか。対して大きくはない。
「って冷静に分析してる場合かよ…。俺疲れてんのかな。疲労?ストレス?見えちゃいけないもん見えてるやん」
まぁ驚くほど怖くないから何とも思わないけど。てか夢だろこれ。さっさと目覚せー、現実の俺。
『何ボケーーッとアホみたい顔して突っ立ってんだよお前』
「あん?アホみたいな見た目のやつに言われたくねーよ」
『何だと、この人間風情が!せっかく30年にわたる苦悩から解放してやろうと馳せ参じてやったってのに』
「30年にわたる苦悩?」
ーー苦悩…ねぇ。別に実家ぐらしで、飯は用意されてて、電気ガス水道代、一銭も払わず自由に使えて、周りの同期に比べれば苦悩なんて…ないだろ。
「別に苦悩なんかねーよ。」
『本当かな~?お前は欲望と煩悩にまみれた大の苦悩者だぞ~。何かあるんだろ?叶えたい夢が』
「そもそも、何なんだよお前!夢の中の架空の生物がやけにリアルに接してくるじゃねーの」
『これが夢なわけねーだろーがよー。お前アホだなぁ。俺様は正真正銘の"魔法使いの遣い"ユーメ様だ』
「夢じゃねーかよ」
『ユーメだっての!』
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ーー30年間、初体験を守り抜いた代わりの褒美。まさか、30歳になるまで童○だったら魔法使いになれるって噂は、本当だったのか?!。いや、正確には魔法使いになるんじゃなくて、"魔法使いの遣い"って役職の悪魔に願いを叶えてもらえるみたいだけど。
「急に言われてもパッと思いつかないな…あ…」
そこで光はふと机に無造作に投げ捨てられた結婚式の招待状に目を落とす。
青紗 奈々美…。初恋…。
そして、光は夜勤の出勤時間など頭の中から捨て去り、実家の別室にある屋根裏部屋へ足を運ぶ。そして、屋根裏部屋に置かれた多くの荷物をかき分け、一冊のアルバムを手に取り、自室へ戻ってくる。
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ただ一点、青紗 奈々美の顔写真と集合写真の一部だけは油性マジックの線が避けられていた。
「好き…だったんだよな。ずっと…クッ…」
中学時代の淡い青春の日々が脳内に蘇り、青紗 奈々美の顔を思い出す。そして、現在、他の男と結婚してしまったことが受け止めきれず、思わず目から大粒の涙が流れ落ちる。
「クッ…ゥウウ…。もし、やり直せるなら…もっと上手くやれるだろうか。奈々美と付き合って、結婚して、エッチできるだろうか…。いや、ただ好きなことを素直に伝えれたらそれだけで…」
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「悪魔…俺は、学生時代に戻りたい。戻って、初恋の相手に、このムズムズした気持ちを伝えたい…。伝えたいんだ!好きだって!!!」
『それがお前の真の願いか?』
「あぁ!!俺は…俺は!!…は~ぁぁぁ…」
悪魔・ユーメに願いを告げたはずの光だったが、ふと部屋中に貼られたレッチのちょっと過激なポスターや、写真集、この世はハーレムパラダイスの単行本やぬいぐるみが視界に入り込む。
ーー今の俺の推しって、レッチだよな。推しって言うか、もう嫁だよな。嫁がいるのに初恋どうこうはさすがにやばいか?てか俺って今どっちが好きなんだ?奈々美か?レッチか?。いや、さすがに薄金髪ロングだよな…。黒髪…ボブか…。いや、髪型の問題じゃないだろ。内面、内面は…。
『それじゃあ行くぞ!お前を学生時代へ飛ばしてや…』
「ちょっと待ったーーーーーーー!!!!!!!!!!!!やっぱり童○捨てさせてーーーーーーーーー」
30年間、童○を守り続けた男の最後の願いは、最愛の人との卒業だった。
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