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act.4
しおりを挟む「湊~おーーい!湊~」
「んん…??え?!父さん?!」
そこにいたのは柊木 一郎太。湊の父であり、その後ろには黒いマークエックスが止まっていた。
「父さん、どうしてここに?!」
「迎えに来たんだよ。由貴が心配だ!心配だ!ってうるさくてね」
「そんなこと言ってないもん!!」
「由貴?!」
事前に後部席のドアガラスが下りていて、外の話を聞いていた由貴。そして、父の口から自分の名前が上がるのを聞きつけ、否定する由貴。
「ハハハ…本当に由貴は素直じゃないな。」
「由貴…」
「さぁ、もう夜遅いんだ。早く車に乗って」
「ありがとう父さん」
湊は何の前触れもなく後部席のドアへ手を置くも、開ける前に考え込む。由貴が後ろへ乗っている場合、自分は助手席に座るべきだろうかと。何故なら由貴に『二度と口もききたくない』と言われてしまったからだ。このまま隣に座るのは何だか気まずい。そう思ってか、湊は助手席のドアを開け、そっちへ座ることにした。
「あっ…。お兄…。」
後部席へ乗らなかった湊を見て、まだ自分のことを怒っているのではないかと思い込む由貴。すれ違う二人の兄妹。
一郎太は湊を車に乗せ、家まで走らせる。
「それにしても、助かったよ父さん。あのままじゃ特急に乗らざるおえなかったよ」
「特急バスなぁ~父さんも初めて乗って、吐いて以来は一度も乗ってないなぁ~」
「やっぱ俺の三半規管が弱いわけじゃなかったか」
「あぁ、あれは誰でも吐いちゃうもんさ!ハッハッハッ。」
父も特急バスに乗って吐いた過去があることを共有し、二人で大笑いする柊木親子。そんな中、自分だけ話の渦中に入れない由貴は、終始苛立った表情を見せ、湊はどんどん気まずくなっていく。
「そういえば湊、お前ストームシェード寮に入ったんだって?」
「え?あぁ、うん。特例らしいけど」
「それじゃあお父さんたち、来ないほうが良かったか?これからは寮に住めるんだろ?」
「いや、来てくれて良かったよ。今日は帰ろうと思ってたから。ただ、今日みたいに遅くなっちゃうと連絡できないから…父さんたちと入れ違わなくて良かったよ」
「そりゃぁお前、携帯持たないからだろ。あれほど言ってんのに」
「携帯?!」
ーー携帯って…携帯電話のことか?!だよな?!携帯って他に何もないよな。
「携帯があんの?こっちにも」
「何訳の分からないこと言ってんだ。いつの時代の人間だお前(笑)。これだけ魔法や何だって進歩してきてんのに、電子機器が進歩してないなんて、旧石器時代か!ハッハッハッ」
「は、は、は、は、…。」
ーー正直、意味わかんねーけど。それでもこっちの世界に携帯があるなら、もしやスマホレベルまで完備してたら神回だぞ!!柊木 湊・スマホ買う!!これ以上ない進歩だ!!AIも検索機能もスマホゲーだって、何だってついてくる。
「携帯があれば、父さんたちといつでも連絡し合えるんだよね?」
「勿論」
「結構高いの?」
「たく、子供のくせに。値段なんか気にするな。もっとねだっていいんだぞ、湊。むしろ、今までは親として何もしてやれてないんだから」
「そ、そうかな?」
「そうだろ。小、中共に学費免除で、魔導学論の研究を発表してからは、むしろ固定給がわんさか入ってきて、そのおかげで息子娘を苦なくルミナリエ魔術学院に入れれてるんだ。親としてこれほど誇らしく助かってることなんか無いさ。だからむしろ、もっと子供らしく親を頼ってくれよ、湊。」
ーー湊…。相当出来が良くて、家族に貢献してきて、おまけに15歳で自立して、文句のつけどころもねーじゃん。これじゃあ俺とは全くの正反対だな。
30にして親の脛かじり。夜勤で貯めたお金は全部推しに貢いで、家には一銭も入れない。一生経っても自立できなかった自分とは似ても似つかない柊木 湊。今その努力の結晶を全て我が物顔で奪った自分の心がキュッと締め付けられたのを感じた。
それでも…
ーー買ってもらえるなら願ったり叶ったりだぜ!!この性格だ。今更脛をかじるななんて方が無理な話だぜ。負け犬根性極めれり。それでも生きてく光様ってな!!
立花 光。どこまで行っても脛かじり思考は治らなかった。
「じゃあ、携帯、頼もうかな…」
「はいよ」
一郎太は、初めて息子のねだりを聞けたことで、何だか微笑ましい表情を見せる。一郎太にとっては『あの湊が…』そう思えるほどの体験なのだ。
それからというもの、特筆して何かイベントごとが起きるわけでもなく、1時間かけて、柊木家豪邸に着く一向。庭で二人を降ろし、駐車場へ一人向かう父。
「なぁ、由貴」
「…。」
「どうして由貴が怒ってるのか俺には分からない」
「…?!」
何て白々しいのか。自分の人生をめちゃくちゃにしておいて…由貴はそう思わずにはいられなかった。それでも心のどこかで引っ掛かるモヤモヤは、きっと美香と話したことと繋がっていた。湊の一時的な記憶障害の可能性。もしそうなら、過去を掘り下げて湊を一方的に攻めることは由貴にはできない。由貴は驚きつつも口をつぐむだけだった。そんな状況下で、湊はさらに話を続ける。
「だから、話してくれないかな?由貴の気持ちを…」
「…意味わかんない。本当に本当に意味わかんないから!!!」
仲直りしたかったはずの由貴は、尚更兄を罵倒し、一人玄関へ走っていく。
ーーまじか~地雷だったかな~。てかマジで理由がわかんないせいで一向に話が進まねー。Fランが東大模試受ける並にキツいって…。
「またやっちゃったーーーー。もう由貴のバカバカバカバカバカバカ。どうしよう…このまま喧嘩したままだったら」
プライドなどではない。ただ不器用な性格なだけの由貴は、またしても自分の取った行動が間違いだったと後悔する。すれ違い続ける二人の兄妹の行く末は、一体どうなるのか。
---------------------
「何でスピリッツオーブになんか出るのよ!!」
「色々じゃない!由貴には魔法専攻を辞退するように勧めたくせに、何で自分は今更魔法専攻スポーツなのよ!!!」
「どうしちゃったはお兄の方でしょ!!!!最近本当に変だよ!!!ずっと!!それに、由貴にはもう魔法専攻なんか関係ないから!!勝手にして!!!もうお兄なんか知らない!!!二度と口もききたくない!!」
---------------------
部屋に戻るや否や、湊はベッドに横たわり、天井を見上げながら由貴に言われたことや、ヘレンや玲奈との会話を思い出す。
--スピリッツオーブ…。魔法専攻…。魔導学…。進級試験…。今専攻してるのは魔導学で、それは由貴も同じ。それで、スピリッツオーブは魔法専攻のスポーツ…。由貴の志望を辞退させた…それが魔法専攻だった…。だとすると、俺が犯した罪ってのは、由貴に魔導の道を進ませておいて、自分は魔法学に興味を持っちゃったこと?かな。そうなると何とかなく辻褄が合うような気も…。何せ湊は魔導学の権威らしいしなぁ。由貴が元々魔法学に興味があったってところがミソだよなぁ~。それを否定しておいて自分は魔法学の勉強だなんて、そりゃあ虫が良すぎる話だ。かと言っても俺自身はもう魔法の虜になっちまったもんなぁ~。進級試験の勉強も進んでるし、今更魔導学にシフトチェンジしてたらいよいよ進級試験でヘマこいちまうからなぁ。教えてくれたレッチにも悪いし。うわぁ、どうするべきだコレ。
妹に謝るにしてもその言葉が浮かばず、態度ですら示せない現状。逆に妹の心情を汲み、魔導学一本でやっていくことを決めれば、玲奈の厚意を無碍にすることになる。妹と推し、天秤にかけられない二人。湊の思考はどんどんとドツボにハマっていく。
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