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act.3
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3限、長い昼休憩が明け、いよいよ午後からの後半戦始まり!と行きたいところだが、ここで湊は痛恨のミスを犯す。
「うわぁ…やった、」
カバンの中を漁り、奥底までしっかりと目を通して、腕を突っ込み、それでも出てこない何か。湊は体操服を忘れた。
「あれあれあれ~柊木 湊く~~ん!忘れ物ですかぁ~~」
「クソイガグリてめぇーー!!!煽ってんじゃねーぞ!!」
湊は体操服を忘れたことを昂に揶揄われて、少しイラッとしたか教室中を追いかけまわし、怒号する。
「競技に参加するかしないかはさて置いても、体操服を忘れると面倒だね…熊迫は厳しいよ、そういうとこ」
おそらく体育実習の講師の名だろう熊迫。名前からしておっかなさそうだ。
「ダルすぎる…」
「誰かに借りてくれば?」
「誰かって?」
「んーー、分かんない。誰か知り合い、いるだろ」
ーーいるわけないだろ~。俺の知る限り男友達はお前ら二人だけだっつうの。他クラスに友達作ってる余裕ねぇって。
「最悪女子とかね(笑)」
「女子…さすがにそれは…」
同じクラスで3限に体育実習がある女子たちの手元をみると、中等部3年の学年カラーである赤色のジャージと赤色のラインが入った白の体操服を持って更衣室へ向かう姿を見つめる。
「もしかして…男女同じデザイン…。同学年なら…」
ーーイヤイヤイヤ、さすがに女子に体操服借りる男とか聞いたことないだろ。さすがにこれは一線越えるレベルでやばい。
「さすがに今日はサボるかなぁ~」
「そっか。じゃあ昂と先行ってるよ」
「おう。」
ーーかと言っても体育なんて現実世界でもあんま好きじゃなかったしなぁ。嫌々バスケやってただけでサボり癖もあったし…あんまいい思い出ないなぁ。
湊は三階教室の窓側で、中等部生専用の芝校庭へ目を落とす。
続々と集まる同級生たちを見て、一人やりたくない実習をサボっていることの優越感と、それでも忘れ物をし故意にサボっていることへの罪悪感に駆られていた。
(そうだよ、あのサントラックの奥にあったお店、クレープ屋に変わったんだよ)
(本当に?!えぇ~行ってみたい~)
(行こう行こう~奈々美も行くでしょ~?)
(うん!行こうかな。…あっ)
教室の外で飛び交う女生徒たちの話し声や男生徒の笑い声。一人孤独に教室に残る湊には雑音でしかなかったが、そんな雑音を一瞬で色鮮やかに塗り替えてしまう声色が湊の脳裏へ入っていく。
「湊君?」
「ん?…うっ?!」
ーーな、奈々美?!それも体操服コス?!いやいやいや、コスプレじゃねーや。15歳、本物の体操服女子だ!!
「どうしたの?次は体育実習じゃなかったっけ?」
「あぁ…えぇっとね、体操服、忘れちゃってさ。そんで今絶賛サボり中~なんてな…」
「そっかぁ…体操服を…。」
「「…。」」
それ以降、全く話題を膨らませることができず、ただただ授業開始のチャイムがなるまで時間が過ぎつつある。
「あのさ、奈々美…」
「は、はい!」
「行かなくて…いいの?もうそろ3限始まるけど」
「あぁ?!そ、そうだよね!行かなきゃ…。そうだよね…でも、湊君は出席しないんだよね…」
「そりゃぁ…体操服忘れたし、行っても参加させてもらえないだろうな~」
ずっと自分を前にモジモジした仕草を見せる奈々美。
ーー奈々美って、こんな歯切れの悪いようなやつだったっけか。大人しめでもしっかりしてそうだったと思ったけど…。
中学3年間を共にした初恋の相手。そんな人の初めて見る一面に少し戸惑いつつも、それさえ愛おしく思ってしまう自分がいた湊。
「わ、私もいっそのことサボっちゃおうかな~なんちゃって…」
「え?!」
「あんまり運動とか得意じゃないし…私も1日くらい悪い子になっちゃおうかな」
多分嘘なんだろう。もしかしたら、こっちの世界では青紗 奈々美という女の子は運動が苦手で歯切れの悪いおっとりした子なのかもしれない。けど、現実世界での奈々美が陸上をやってて、足が速かったり運動ができることを俺は知ってた。この狂った世界で、奈々美の得意不得意、趣味趣向が変わっていないのだとしたら、今奈々美は嘘をついてる。でもその嘘はきっと、一人教室に残った気まずい俺を気遣ってのことなんだろうと、何となくだけど伝わってくる。
「大丈夫なの?サボって」
「湊君はどう思う?やっぱりイケナイかな?」
「そうだね。イケナイかも。でも、それは俺も一緒だ(笑)」
「フフッ…そうかもね。湊君もイケナイ子、私も」
クスッ///。
奈々美と初めて会った日、中学生でこんな凛々しくて綺麗な人は他にいないだろうとそう思った。それから顔を合わせて、話して、手紙やメールをする仲になって、距離が縮まってきても、笑顔が可愛いやおしとやかだなと思う程度でそれ以上の素顔は引き出せなかった…。でも、今目の前にいる奈々美は、それ以上に、頬を赤らめ、表情を崩しながら笑い、その言葉一つ一つには強い感情がこもっていることが俺にも分かった。
これはきっと、世界線がどうこうなんて話じゃないんだろう。きっと人と人との関係値。ただあの時の俺は、ここまで達していなかっただけの話だ。それでも忘れたくない。俺の青春時代を…。奈々美と交わした言葉の一言一言も、手紙に綴った想いも…会って交わした『おはよう』も、全部忘れずに心の奥にしまっておこう。そして、今目の前にいる奈々美をもう一度愛そう…どんなに辛い結末になったとしても。初恋の匂いは色褪せない。
それから湊と奈々美は3限の授業の間、生徒が全員いなくなった3年A組の教室で、魔法学問題集を開いては奈々美に魔法学について教わりながらも、あることないこと、青春のような会話をして、二人だけの空間を楽しんだ。
実習をサボったイケナイ二人の生徒が語らうその一室は、青春独特の甘酸っぱいライラック香りがした。
(ずるいよ…みんな…。私が最初に好きになったのに…)
3年A組の教室の外で、一人座り込み、壁に寄りかかっては涙する女生徒がいた…。
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今はただ、中学時代の初恋相手と良い感じの雰囲気になれたことが、ただただ嬉しくて、つい顔がにやけてしまう。
「おい、実習サボっといたそのニヤケ面は何なんだよーー」
「うぇえ?!ひょうかぁーー?」
昂は湊の頬を左右に引っ張りながら、腑抜けた態度に喝を入れる。
「何かいい事でもあった?」
「いやぁ~どうかなぁ~ふへへへ」
「湊!!おまえーーー!!一体何が…」
「そおっとしておけよ。こういうのは触れない方がいいんだ」
透は昂の肩を掴み、顔を左右に振る。それをみて昂も湊いじりを止めると、今度は湊から突っかかってきたのだ。
「いや、そこはさぁ!聞きたいだろ?!」
「「イヤーー、ゼンゼンーーー」」
二人は棒読みで湊をスルーするも、湊は余計にこの想いを打ち明けたくて仕方なくなる。
「なぁ!なぁなぁ!聞いてくれよ」
「プッ、プハハハ~本当に湊は面白いなぁ。ずっと言いたくて仕方ないって顔してるよ」
透は構って欲しそうな湊の動物のような顔と瞳についつい笑ってしまう。仲のいい男子と語らう日々。これもまた青春の一ページと言えるだろう。
好きな相手と実習をサボって二人だけで話すことも、先輩となった推しと談話室でイチャつくことも、幼馴染と授業中に騒いで怒られることも、妹と学校をサボって出かけたことも、不思議ちゃんや友達と昼食を食べることも、全部が全部青春の一ページであり、今の自分を構成する大切な思い出。
でも、そんな青春の日々の中で、一つだけ払拭しておきたい出来事があった。それは、妹・由貴との関係だ。このまま喧嘩したままでは終われない。由貴がどう思っているかは分からないが、自分自身は妹と一緒に帰れないことも、ちょっと前みたく楽しく話すことも、できなくなって、そんな日々が長く続けば続くほど、後々関係は修復できなくなっていく気がしてならない。
それでも、由貴との喧嘩は簡単に解決できることじゃない。昔の自分が、いや、湊本人がこれまで由貴に対してしてきたことの償いが、湊を利用してきた自分に返ってきただけの話だ。必ず俺が何とかして見せる。湊と由貴をもう一度仲のいい兄妹に戻すんだ!!。
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