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朝礼が終わり、魔導史学の教室へ移動していた湊と透元へ一人の女生徒が合流する。湊の幼馴染である茶竹 美香だった。
「おはよう湊、透」
「おはよう~美香」
「おう…」
確か幼馴染の…茶竹さん…。
「元気ないじゃん湊、どしたの」
「(妹さんと喧嘩したんだよ)」
「あぁ~その事。」
「何か知ってるの?」
「いやぁ、別に何も。」
ーーまだ仲直りしてなかったんだ…二人とも頑固だなぁ。
「それはそうと、え、何で魔法学問題集なんて持ってるの?」
「あぁ。進級試験は魔法学で行こうと思ってな」
「そう…なんだ…。」
魔法専攻と言えば元々は妹の由貴が志望していた専攻科目。それを知っていた美香はどこか複雑な心境でいた。由貴に何か影響を受けたのではないか。それとも、一つ上の先輩である金平 玲奈の差金か。高等部1年の代では常に魔法専攻で主席を取っていた彼女ならあり得ると思っていた美香。
「完全に一からの勉強なんだよね?」
「そうだな。全くわからん」
「私が教えてあげようか?」
「えぇ?!いいんすか?!」
「ま、まぁ、私魔法専攻だから、全然、教えれますけど…」
まさかの幼馴染が魔法専攻だったとは、レッチだけでなく、茶竹さんにまで協力してもらえるなんて。思ったより勉強は捗りそうだ。
「でも、今向かってるのって魔導史学の教室だよな?なんで、取ってんの?」
「そ、それは、ひ、暇だったからよ///単位に余裕があってつい」
「魔導史学なんかかったるい講義を暇だからで取る人はいないと思うけどねぇ~~(笑)」
「もう~うるさいなぁ透~」
美香は透に茶化され透を追いかけて走っていく。
「お、おいちょっと待てよお前ら!!(俺教室しらねぇ~ってぇ~)」
湊は決して二人に構ってもらいたいのではなく、ただただ教室が分からないのと、未だに慣れないこのだだっ広いカレッジを迷いたくなかったために、二人を走って追いかけるのだった。
---------------------
---------------------
『で、あるからして~龍歴1234年に魔導研究者優暗夢=照明日は、初めてハーピィ族と従属関係を築いたのでした。その印として、このハーピィを従える"ハーピィの縦笛"があるわけですね。』
朝9時から1限の魔導史学の講義に出ていた湊、透、美香の3人。ルミナリエ魔術学院は、大学の履修登録同様に、好きな時間に好きな講義を受けられる単位制を導入している。
ーー毎度この世界の英人の名前はどうなってんだ…。めちゃくちゃすぎないか?
「ハーピィの縦笛ねぇ。」
「興味あるの?」
「いやぁ。似たような名前のカードがあったなぁ~って」
「へぇ~湊ってカードゲームとかやるんだ。昂が知ったら喜ぶだろうね」
「そうなのか?」
「昂ってお小遣いの全部を趣味に費やしてるから。カードとか、アイドルとか、ゲームなんかにね」
ーーふーーん。現実世界の俺と似てるんだなぁ。
「にしても、湊にそんな趣味があったなんて意外だね」
「そうか?まぁでもこっちで何が流行ってんのか知らねーんだよなぁー。」
「本当魔導学の事しか興味なかったんだね」
「湊は昔っから魔導学の難しい本ばっか読んでたからね」
こっちの世界のことがあまり詳しくなかった光。それを怪しまれように付与された湊の魔導学オタクという属性。
「じゃあ今日の放課後出かけようよ!」
ユグドラシル大陸の現在の流行りや廃り、男や女で違う趣味趣向に全く無頓着な湊のために、美香は放課後デートなるものを誘う。
「でも今日はレッチと勉強なんだよなぁ~」
「「レッチ?!」」
ーーやべ、つい癖で愛称で呼んじまった。
「レッチって誰よ!」
「まさか…最近噂の金平先輩のことかい?」
「噂?!どんな?!」
「ストームシェード寮でイチャイチャしてるんだってね。」
「「イチャイチャ?!?!」」
思わず湊だけでなく美香も驚いてしまう有様。
全くの冤罪だと言いたいところだが、思い当たる節が無いとは言えない。玲奈に胸元の開いたパジャマ姿で誘惑された事実がある以上、一線は越えてないにしろイチャイチャはしていたかもしれない。
「湊…それは…本当なの…」
「いや、いやいやいや、断じてイチャイチャなど」
「火のないところに煙は立たないよ!!」
『そこ!!!うるさくするなら出て行きなさい』
ギクッ!
講義中に思いの外大きな声で私語をしてしまったことで、教授に注意されてしまい、湊と美香は反省する。
「(勉強くらい私が教えてあげるわよ)」
「(先約なの!仕方ないだろ。)」
美香は机に両手をつき、前屈みに伏せて下から湊の顔を覗き込む。
ーーてか近いし、なんか色々とデケェし。あれがイチャイチャに入るならこれも十分イチャイチャだろ。
「あっ、そういえば…湊がこの前一緒に食事した彼女、浅葱さん。あの子も魔法専攻だったはずだよ」
「やっぱ魔法専攻って多いの?」
「うちの学年は…魔導専攻と魔戦専攻が3:3で、ちょっと魔法専攻が多いくらいかな」
透から、浅葱が魔法学を専攻していた事や学年の専攻割合を聞いた湊。もし浅葱が協力的なら、魔法学の勉強はより捗ることになる。それぞれの自由な時間もあるし、先生は多いに越したことはない。
ただ、浅葱の名前が出た途端、露骨に不機嫌になる美香。
「美香はどうしてそんなに不機嫌なんだい?」
「透が余計なこと言うからでしょ」
ーーフフッ、やっぱり分かりやすいね。
美香の何事にも素直すぎる姿勢についつい笑ってしまう透だった。
魔法学の授業も終わり、二コマ目が空きだった湊は、学食が混む前に済ませてしまおうと、清潔感とフードの種類が多い、北棟1階にある外壁全面がガラス張りの学食、『リズナブール』に来ていた。
ーーリズナブールって、もしかしてリーズナブルから取ってたりすんのかね。
湊が見つめる食券には、30種類以上ものフードメニューが書かれたボタンが並べられ、その多くが300カッパー、つまりは金貨3枚程度で頼める品ばかりだった。
「さすがにハヤシライスがナインティワンのレギュラーダブルの半額って安すぎるよな…」
湊が興味をそそられたのは"デミグライス"という名前のメニューで、カレーライス、ハヤシライスと似たように、ハンバーグなどにかけるデミグラスソースがルーの役目を果たしたメニューだった。
「これがもし美味かったら革命が起こるぞ」
ピッ!!
「あっ…」
あっという間に湊のお金で食券機のボタンを押す少女の影。一体誰なのか、湊は右を向くと、そこには白髪の肩まで伸びた髪に眼鏡をかけた女生徒が立っていた。
「デミグライスでしょ…柊木。」
「あぁ…そうっすけど」
その女生徒は、デミグラスの食券を持ったままカウンターへ足を運んでいく。
「ちょ、ちょっと~食券返してよ~」
ーーえぇ?…普通にパクられただけじゃね?。ちょ、えぇ、ちょっと。
女生徒を追いかけるべきか、もう一枚買って後で請求すべきか、そもそも本当にパクる気だったのか、相手の心理を全く読めずにたじろぐ湊は、結局もう一枚のデミグライスを購入して、女生徒を追いかける。
先にデミグライスをよそわれ、席についていた女生徒の対面に座る湊。
「おい、さっきのデミグライス代返せよ」
ギロッ!!
ーーひぃ?!。ひぃじゃねーよ。犯罪しといて睨みつけてくるとはどういう了見だ!
「はい…これ…」
ーーうん!うん!。案外素直に返すじゃねーか…ってハッ?
「何これ」
湊はその女生徒に、左端をホチキスで止められた3枚ほどのペーパー資料を渡される。
「東部戦線の資料…。気になると思って…まとめておいた。」
女生徒から渡されたのは東部戦線の資料というもので、多くのデータがまとめられており、さらには、湊が倒れた要因であろうこともまとめられていた。
「ドラゴンの…毒性?」
「そう。柊木が倒れた理由は多分"バスティーユ・ポイズンテール種"の赤ちゃんに毒素を喰らったんだと思うよ。」
「バスティ…え?何て」
「"バスティーユ・ポイズンテール種"自分で倒したクイーンでしょ」
ーー倒したかどうかはさておき、あのドラゴンはバスティーユ・ポイズンテール種というのか。ポイズンテール…毒ってわけか。そう言えば何か変な色のガスを吐かれて…吸っちゃったような気がしたっけか。
何の理由もわからずに吐血し、衰弱しながら倒れたわけを今やっと理解する湊。
「にしても柊木…だいぶ老けたね」
「え?」
「まるで30歳のおじさんみたいだよ」
ーーなっ?!なっ?!なにぃいいいいい?!?!お、お、お、お、俺のことを30歳のおじさんだと?!な、な、な、な、何で…いやいや、バレてないだろ。バレるわけがない。
「な、何を馬鹿な…」
「動悸が激しくなってるね…。何か怖れてる?」
「怖れてる?!ハッ!何をいうか」
「じゃあこれも耐えられるよね」
スッ。
女生徒は黒いローブから一本の杖を取り出し、湊の目の前に突きつける。
ーー何?!何?!何?!やめ…
「"クリアレパーメント"」
11010010101101010101
スルルルルルルルッ!!
女生徒の放つ魔法に目を瞑って耐える湊。再び目を開け、手足や顔、何も異常がないかを確認する。
ーー特に…代わり無しかな?腕もついてるし、目も鼻も口も…。
「おい、お前!俺に何したんだよ」
「クリアレパーメント…。解呪呪文だよ。どんな魔法でも解除しちゃう…。てっきり誰かの成りすましかと思ったんだけど…勘違いだったみたい」
クリアレパーメント。女生徒は湊の顔や体型をそっくり真似た別人か、湊の体を魔法で乗っ取った者じゃないのかと疑いの目を向け、どんな魔法でも解ける解呪呪文をかけるも、湊の体には何の変化も無し。疑いの目は晴れる。
ーーどんな魔法でも解けるって?ハッタリじゃねーか。俺が湊の体を乗っ取っても解けやしないんだから…。それとも、もはや俺と湊は同化とか融合でもしたのかね。それなら乗っ取りとは別だし、解呪とやらも出来ないのでは…。
「ねぇ、柊木…」
「ん?」
「魔法は好き?」
「あぁ、絶賛興味津々さ」
「あっそ…」
ーーやっぱり柊木じゃないかもね…。
「ご馳走様…」
「早、いつの間に」
ほぼ同じタイミングでデミグライスを食べ始め、湊が資料を読んでいる間に全て平らげた女性はお盆を下げに立ち上がると、湊は急いでポケットからスマホを取り出す。
「なぁ、LAIN、友達になってくんない…」
「へぇ~。スマホ買ったんだ。いいよ」
謎の白髪メガネ少女の正体、LAINの登録名は『白波 百合(15)』だった。
ーーシラナミさんかぁ。なんか根暗で不思議ちゃんぽそうだけど、この資料といい、俺が倒れたことを調べてたり、何だかんだで関係は持っといた方が良さそうだよな。それに何を根拠か、俺の正体を的確に言い当てやがったからな。目を離した隙に変な噂立てられても困るぜ。
こうして湊は謎の白髪メガネ少女・白波 百合と友達になり、その動向に注意することにした。自分の正体の一端に触れたその少女を放っておけなかった。
ーーそれにしても、このデミグライス、アホうめーな。今後もリピートしていこ。
「おはよう湊、透」
「おはよう~美香」
「おう…」
確か幼馴染の…茶竹さん…。
「元気ないじゃん湊、どしたの」
「(妹さんと喧嘩したんだよ)」
「あぁ~その事。」
「何か知ってるの?」
「いやぁ、別に何も。」
ーーまだ仲直りしてなかったんだ…二人とも頑固だなぁ。
「それはそうと、え、何で魔法学問題集なんて持ってるの?」
「あぁ。進級試験は魔法学で行こうと思ってな」
「そう…なんだ…。」
魔法専攻と言えば元々は妹の由貴が志望していた専攻科目。それを知っていた美香はどこか複雑な心境でいた。由貴に何か影響を受けたのではないか。それとも、一つ上の先輩である金平 玲奈の差金か。高等部1年の代では常に魔法専攻で主席を取っていた彼女ならあり得ると思っていた美香。
「完全に一からの勉強なんだよね?」
「そうだな。全くわからん」
「私が教えてあげようか?」
「えぇ?!いいんすか?!」
「ま、まぁ、私魔法専攻だから、全然、教えれますけど…」
まさかの幼馴染が魔法専攻だったとは、レッチだけでなく、茶竹さんにまで協力してもらえるなんて。思ったより勉強は捗りそうだ。
「でも、今向かってるのって魔導史学の教室だよな?なんで、取ってんの?」
「そ、それは、ひ、暇だったからよ///単位に余裕があってつい」
「魔導史学なんかかったるい講義を暇だからで取る人はいないと思うけどねぇ~~(笑)」
「もう~うるさいなぁ透~」
美香は透に茶化され透を追いかけて走っていく。
「お、おいちょっと待てよお前ら!!(俺教室しらねぇ~ってぇ~)」
湊は決して二人に構ってもらいたいのではなく、ただただ教室が分からないのと、未だに慣れないこのだだっ広いカレッジを迷いたくなかったために、二人を走って追いかけるのだった。
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『で、あるからして~龍歴1234年に魔導研究者優暗夢=照明日は、初めてハーピィ族と従属関係を築いたのでした。その印として、このハーピィを従える"ハーピィの縦笛"があるわけですね。』
朝9時から1限の魔導史学の講義に出ていた湊、透、美香の3人。ルミナリエ魔術学院は、大学の履修登録同様に、好きな時間に好きな講義を受けられる単位制を導入している。
ーー毎度この世界の英人の名前はどうなってんだ…。めちゃくちゃすぎないか?
「ハーピィの縦笛ねぇ。」
「興味あるの?」
「いやぁ。似たような名前のカードがあったなぁ~って」
「へぇ~湊ってカードゲームとかやるんだ。昂が知ったら喜ぶだろうね」
「そうなのか?」
「昂ってお小遣いの全部を趣味に費やしてるから。カードとか、アイドルとか、ゲームなんかにね」
ーーふーーん。現実世界の俺と似てるんだなぁ。
「にしても、湊にそんな趣味があったなんて意外だね」
「そうか?まぁでもこっちで何が流行ってんのか知らねーんだよなぁー。」
「本当魔導学の事しか興味なかったんだね」
「湊は昔っから魔導学の難しい本ばっか読んでたからね」
こっちの世界のことがあまり詳しくなかった光。それを怪しまれように付与された湊の魔導学オタクという属性。
「じゃあ今日の放課後出かけようよ!」
ユグドラシル大陸の現在の流行りや廃り、男や女で違う趣味趣向に全く無頓着な湊のために、美香は放課後デートなるものを誘う。
「でも今日はレッチと勉強なんだよなぁ~」
「「レッチ?!」」
ーーやべ、つい癖で愛称で呼んじまった。
「レッチって誰よ!」
「まさか…最近噂の金平先輩のことかい?」
「噂?!どんな?!」
「ストームシェード寮でイチャイチャしてるんだってね。」
「「イチャイチャ?!?!」」
思わず湊だけでなく美香も驚いてしまう有様。
全くの冤罪だと言いたいところだが、思い当たる節が無いとは言えない。玲奈に胸元の開いたパジャマ姿で誘惑された事実がある以上、一線は越えてないにしろイチャイチャはしていたかもしれない。
「湊…それは…本当なの…」
「いや、いやいやいや、断じてイチャイチャなど」
「火のないところに煙は立たないよ!!」
『そこ!!!うるさくするなら出て行きなさい』
ギクッ!
講義中に思いの外大きな声で私語をしてしまったことで、教授に注意されてしまい、湊と美香は反省する。
「(勉強くらい私が教えてあげるわよ)」
「(先約なの!仕方ないだろ。)」
美香は机に両手をつき、前屈みに伏せて下から湊の顔を覗き込む。
ーーてか近いし、なんか色々とデケェし。あれがイチャイチャに入るならこれも十分イチャイチャだろ。
「あっ、そういえば…湊がこの前一緒に食事した彼女、浅葱さん。あの子も魔法専攻だったはずだよ」
「やっぱ魔法専攻って多いの?」
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透から、浅葱が魔法学を専攻していた事や学年の専攻割合を聞いた湊。もし浅葱が協力的なら、魔法学の勉強はより捗ることになる。それぞれの自由な時間もあるし、先生は多いに越したことはない。
ただ、浅葱の名前が出た途端、露骨に不機嫌になる美香。
「美香はどうしてそんなに不機嫌なんだい?」
「透が余計なこと言うからでしょ」
ーーフフッ、やっぱり分かりやすいね。
美香の何事にも素直すぎる姿勢についつい笑ってしまう透だった。
魔法学の授業も終わり、二コマ目が空きだった湊は、学食が混む前に済ませてしまおうと、清潔感とフードの種類が多い、北棟1階にある外壁全面がガラス張りの学食、『リズナブール』に来ていた。
ーーリズナブールって、もしかしてリーズナブルから取ってたりすんのかね。
湊が見つめる食券には、30種類以上ものフードメニューが書かれたボタンが並べられ、その多くが300カッパー、つまりは金貨3枚程度で頼める品ばかりだった。
「さすがにハヤシライスがナインティワンのレギュラーダブルの半額って安すぎるよな…」
湊が興味をそそられたのは"デミグライス"という名前のメニューで、カレーライス、ハヤシライスと似たように、ハンバーグなどにかけるデミグラスソースがルーの役目を果たしたメニューだった。
「これがもし美味かったら革命が起こるぞ」
ピッ!!
「あっ…」
あっという間に湊のお金で食券機のボタンを押す少女の影。一体誰なのか、湊は右を向くと、そこには白髪の肩まで伸びた髪に眼鏡をかけた女生徒が立っていた。
「デミグライスでしょ…柊木。」
「あぁ…そうっすけど」
その女生徒は、デミグラスの食券を持ったままカウンターへ足を運んでいく。
「ちょ、ちょっと~食券返してよ~」
ーーえぇ?…普通にパクられただけじゃね?。ちょ、えぇ、ちょっと。
女生徒を追いかけるべきか、もう一枚買って後で請求すべきか、そもそも本当にパクる気だったのか、相手の心理を全く読めずにたじろぐ湊は、結局もう一枚のデミグライスを購入して、女生徒を追いかける。
先にデミグライスをよそわれ、席についていた女生徒の対面に座る湊。
「おい、さっきのデミグライス代返せよ」
ギロッ!!
ーーひぃ?!。ひぃじゃねーよ。犯罪しといて睨みつけてくるとはどういう了見だ!
「はい…これ…」
ーーうん!うん!。案外素直に返すじゃねーか…ってハッ?
「何これ」
湊はその女生徒に、左端をホチキスで止められた3枚ほどのペーパー資料を渡される。
「東部戦線の資料…。気になると思って…まとめておいた。」
女生徒から渡されたのは東部戦線の資料というもので、多くのデータがまとめられており、さらには、湊が倒れた要因であろうこともまとめられていた。
「ドラゴンの…毒性?」
「そう。柊木が倒れた理由は多分"バスティーユ・ポイズンテール種"の赤ちゃんに毒素を喰らったんだと思うよ。」
「バスティ…え?何て」
「"バスティーユ・ポイズンテール種"自分で倒したクイーンでしょ」
ーー倒したかどうかはさておき、あのドラゴンはバスティーユ・ポイズンテール種というのか。ポイズンテール…毒ってわけか。そう言えば何か変な色のガスを吐かれて…吸っちゃったような気がしたっけか。
何の理由もわからずに吐血し、衰弱しながら倒れたわけを今やっと理解する湊。
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「え?」
「まるで30歳のおじさんみたいだよ」
ーーなっ?!なっ?!なにぃいいいいい?!?!お、お、お、お、俺のことを30歳のおじさんだと?!な、な、な、な、何で…いやいや、バレてないだろ。バレるわけがない。
「な、何を馬鹿な…」
「動悸が激しくなってるね…。何か怖れてる?」
「怖れてる?!ハッ!何をいうか」
「じゃあこれも耐えられるよね」
スッ。
女生徒は黒いローブから一本の杖を取り出し、湊の目の前に突きつける。
ーー何?!何?!何?!やめ…
「"クリアレパーメント"」
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スルルルルルルルッ!!
女生徒の放つ魔法に目を瞑って耐える湊。再び目を開け、手足や顔、何も異常がないかを確認する。
ーー特に…代わり無しかな?腕もついてるし、目も鼻も口も…。
「おい、お前!俺に何したんだよ」
「クリアレパーメント…。解呪呪文だよ。どんな魔法でも解除しちゃう…。てっきり誰かの成りすましかと思ったんだけど…勘違いだったみたい」
クリアレパーメント。女生徒は湊の顔や体型をそっくり真似た別人か、湊の体を魔法で乗っ取った者じゃないのかと疑いの目を向け、どんな魔法でも解ける解呪呪文をかけるも、湊の体には何の変化も無し。疑いの目は晴れる。
ーーどんな魔法でも解けるって?ハッタリじゃねーか。俺が湊の体を乗っ取っても解けやしないんだから…。それとも、もはや俺と湊は同化とか融合でもしたのかね。それなら乗っ取りとは別だし、解呪とやらも出来ないのでは…。
「ねぇ、柊木…」
「ん?」
「魔法は好き?」
「あぁ、絶賛興味津々さ」
「あっそ…」
ーーやっぱり柊木じゃないかもね…。
「ご馳走様…」
「早、いつの間に」
ほぼ同じタイミングでデミグライスを食べ始め、湊が資料を読んでいる間に全て平らげた女性はお盆を下げに立ち上がると、湊は急いでポケットからスマホを取り出す。
「なぁ、LAIN、友達になってくんない…」
「へぇ~。スマホ買ったんだ。いいよ」
謎の白髪メガネ少女の正体、LAINの登録名は『白波 百合(15)』だった。
ーーシラナミさんかぁ。なんか根暗で不思議ちゃんぽそうだけど、この資料といい、俺が倒れたことを調べてたり、何だかんだで関係は持っといた方が良さそうだよな。それに何を根拠か、俺の正体を的確に言い当てやがったからな。目を離した隙に変な噂立てられても困るぜ。
こうして湊は謎の白髪メガネ少女・白波 百合と友達になり、その動向に注意することにした。自分の正体の一端に触れたその少女を放っておけなかった。
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髙橋ルイ
ファンタジー
「クラス全員で転移したけど俺のステータスは使役スキルが異常で出会った人全員を使役してしまいました」
気がつけば、クラスごと異世界に転移していた――。
しかし俺のステータスは“雑魚”と判定され、クラスメイトからは置き去りにされる。
「どうせ役立たずだろ」と笑われ、迫害され、孤独になった俺。
だが……一人きりになったとき、俺は気づく。
唯一与えられた“使役スキル”が 異常すぎる力 を秘めていることに。
出会った人間も、魔物も、精霊すら――すべて俺の配下になってしまう。
雑魚と蔑まれたはずの俺は、気づけば誰よりも強大な軍勢を率いる存在へ。
これは、クラスで孤立していた少年が「異常な使役スキル」で異世界を歩む物語。
裏切ったクラスメイトを見返すのか、それとも新たな仲間とスローライフを選ぶのか――
運命を決めるのは、すべて“使役”の先にある。
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※表紙のイラストはAIによるイメージです
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