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第四話 意思表明

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あたしは自分の進路について両親に話すタイミングを逃し続けていた。
 窓から外を見るとすっかり暗くなっていた。
 村を囲う防壁と門に規則正しく配置されたランプが次々と灯されていく。
 外灯が点いたということはそろそろ守備隊の交代時間。

 村の中央には時計台がある。その時計台は一日三回、午前六時、正午、午後六時に鐘が鳴る。
 これは守備隊が四交代制、六時間おきに守備隊員を交代する時刻を知らせるため。
 交代を知らせるという名目であるなら、深夜にも鐘を鳴らすべきだがそんな時間帯に鳴らされると、せっかく熟睡できたとしてもそれで目が覚めてしまう。
 なので、この時間帯だけは特殊で自分から交代するため現場に向かうのではなく、呼ばれるまで自宅で待機するようになっている。
 
 父さんの担当時間は午後六時からの六時間。
 守備隊は兼業となっていて、自分の担当時間以外はそれぞれ仕事をしている。
 父さんの場合は守備隊長ということもあり、隊員に訓練をつけたりなどしている。

 ここで話を切り出さなければ後日ということになる。
 今日、両親に言わないとドンドン話しづらくなりそうな気がする。というかもうすでに言いづらい。

 あたしが脳内であーだこーだ考えている間に、父さんは外出の準備を済ませていた。
 父さんはドアに手を当てると、あたしと母さんに声をかける。

「ではリーラ、リーティア。いってくる」
「いってらっしゃい、ノーザン」

 もう時間が無いと焦ったあたしは考えていた話の順序をすっ飛ばし、反射的に父さんに話しかけていた。

「あの……父さん。あたし、王国騎士になりたい」
「そうか。なら、明日から六時に起きなさい」
「朝の六時?」
「そうだ。王都までの移動を考えて、試験日の二週間前まで一日も寝坊せずにそれをしなさい。その程度のこともできないのなら王国騎士になる夢は捨てなさい」

 あたしの起床時間は大体、八時から九時の間。特別な日だとわくわくして寝つけなくなり、もう少し起きるのが遅くなることもある。
 今日が正にそれで母さんに起こされなかったら、十時を過ぎてもまだ夢の中だったかもしれない。
 来月の収穫祭あたりが少々不安が残るが、それぐらいのことをあたしにだってできる。
 あたしは父さんの目を見ながら誓いを立てる。

「分かりました。ちゃんと約束します、父さん。明日から六時に起きます」
「言葉にした以上、必ずやり遂げてみせなさい」
「はい、父さん。いってらっしゃい」
「あぁいってくる」

 父さんはそう言うと手をグッと押し込みドアを開けた。
 母さんは開けっ放しのドアの閉じるとあたしにイスに座るように促す。

 あたしは自分でも不自然だと思えるほど、背筋を伸ばしイスに座った。
 ドキドキしながら母さんの発する言葉を待っていると、母さんは対面のイスに腰を下ろし、あっけらかんとした顔で話し始める。

「何というかリーティアが王国騎士になりたいのは前から知ってたわよ。もちろんノーザンも知ってるわよ」
「えっ、知ってたの……」
「そりゃそうよ。あんたの親なんだから分かるに決まってるでしょ。まぁノーザンは想像していたよりも衝撃が強かったみたい。ドアを閉め忘れ程度にはね」

 母さんはケラケラ笑いながらドアに指を向けた。

「そういえば父さんが戸締りをせずに外に出たことなんて一度もなかった」
「でしょ~。まぁそういうことだから、リーティア頑張りなさい。明日から二か月ほど死ぬ気でね」
「あ~、はい」

 この時のあたしは両親にやっと言えたことに安堵し、母さんの『明日から二か月ほど死ぬ気でね』という言葉の意味を軽くとらえていた。
 
 ――翌朝。

 午前六時を告げる鐘が鳴り響く。昨日までのあたしなら鐘の音に耳を傾けることもなく、そのまま二度寝していたと断言できる。

 あたしはズシリと重たい体を起こし大きく背伸びをする。

「ふあぁ~、眠い……カーテン開けよう」

 あたしはベッドから起き上がりカーテンに手をかけ勢いよく開けた。
 窓から入った日差しが部屋を照らす。

「リーティア、おはよう。それにしても父さんと約束したとはいえ、あんたが一人で起きるようになるなんてねぇ~」
「母さん、おはよう。というか朝一に言うことがそれなの?」
「あんた自分の胸に手を当てて聞いてみなさい。自分の力で朝起きれた回数をね」
「それ今言わなくてもいいじゃない。でも、今日からは毎日一人で起きるんだから」
「はいはい、そうね。朝ご飯はできてるから着替えが済んだらこっちに来なさい」

 母さんはそう言い残すと部屋を出て行った。

 あたしが着る服は母さんがいつも用意してくれている。基本的にはウールで仕立てた足首まであるワンピースが多い。
 今日もきっとそれだと思っていたあたしはイスにかけられた服を見て思考停止した。
 用意されていた服にはスカート部分が無い。手に取りパッと広げてみると、父さんがいつも着ているような上下の服。それがあたしのサイズに合わせて縫われていた。

「ふ~む、サイズ感がぴったしということは母さんは間違ってこれを置いたってわけじゃなさそうね」

 着替えを済ませたあたしは母さんのもとに向かった。
 あたしの姿を見た母さんは何度も頷きながらゆっくりと近寄ってくる。

「えっなになに?」
「リーティア、ちょっと大人しくしてなさい……よし、できた。さ、ご飯食べましょ」

 母さんはあたしの髪をクシでとかした後、最後に髪留めで崩れないように止めてくれた。
 首を左右に振ってみたが全然ほどける様子がない。
 肩まであるあたしの髪は綺麗にひとまとめに固定されていた。
 
 あたしは自分の髪に触れながら母さんに質問をした。

「あのぅ~母さん。今日の服もこの髪留めもあたしはじめてなんだけど、これってどういう?」
「まぁまずはご飯を食べなさい、話はそれからよ」

 母さんに質問を華麗にスルーされたあたしは用意された朝ご飯を食べるのだった。
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