断罪

宮下里緒

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九話 はみ出た狂気

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三丸小学校は築46年にもなる今時珍しい木造校舎、古いせいか少々ホコリっぽく校舎全体に独特の香りが漂っている。

それは例えば校舎全体を支える木材の匂い、古ぼけた本の匂い、画用紙に描かれた絵の具の匂いそれらすべてが混じって不思議なほど安らかな香りを醸し出していた。

正面玄関のドアは立て付けが悪いせいか開閉するたびにぎぃーと少し不気味な音が鳴りそこを抜けると全校生徒の靴が収容されている靴箱がある。

正面から向かって一番左が一年生それから右に映るごとに学年が一年上がっていくという構図だ。

下駄箱を抜けると向かって正面に階段、右手に職員室と保健室、左手に低学年の教室がある。

階段を登れば向かって左てには音楽室や図工室などの特別教室、右てには高学年たちの教室が並んでいる。

別段古いというだけでこれといって特徴のない学校、それが長年子供たちの成長を見守ってきた三丸小学校の全容だった。

校庭には基本的な遊具の代表たち滑り台、ブランコ、鉄棒がまるで三角形を作るかの如く点々と鎮座しているのみ。

そしてその片隅には飼育小屋が設置されていた。

飼われている動物はウサギ、鶏の二種類。



そして今回の事件はその鶏小屋で発生した。



その日私は別段遅れることもいつもより早いということもなくごくごく普通の時間に学校に到着した。

学校に設置されてある壁時計を見ると時刻は八時十分、八時二十分には朝の会が始まるのであまり余裕があるとは言えないけど少しでも睡眠を多く取りたい私はいつもこの時間だ。

ほかの同学年の子達は八時前五分には学校に来ているらしいから私はだいぶん怠け者なのだろう。

親友の百合ちゃんもこの時だけはまってくれず先に学校へ行ってしまう。

そして教室で読書をしながら私が到着するとにこやかに『おはよう恵子ちゃん』と挨拶をしてくれる。

その百合ちゃんがどういったわけかきょうは教室にはおらずなぜか鶏小屋の前に立っていた。

ランドセルを背負っているあたりまだ教室に入っていないのだろう。

見れば、百合ちゃんだけではない、他のみんなも同じように小屋の周りにたむろっていた。



野次馬心を刺激された恵子は百合に近づき状況を聞いてみることにした。



「おはよー百合ちゃん。どうしたのこんなところで?」

「あっ、おはよ、恵子ちゃん。それが私が来た時にはもうこんな状況で」

困惑げな表情をする百合、どうやら彼女の状況も恵子と大した差はないようだ。

この人だかりの正体がつかめないでいる。

二人は人ごみをかいくぐりながら前進していく。

小屋に近づくにつれ生臭い空気がむわりと漂ってくる。

その臭に気分が悪くなり二人して顔をしかめる。

知らぬ間に二人して手を握り合っていた。

人だかりの隙間から見える小屋の扉、それがきしみをあげ開くと中から二年生の担任の唯床久巳と校長の赤嶋健吾が姿を現した。



「みんな、ここはいいから早く教室に戻りなさい。授業が始まるぞ」

「先生、何があったんですか?」

後ろの方で誰かが訪ねた。

「それも、ちゃんと話すから。とにかく教室に行きなさい」

唯床教諭は急かすように生徒たちを校舎の方へと追いやる。

「何一体?」

わけもわからないまま恵子と百合も流されるがまま校舎の方へと連れていかれる。

その途中小屋の方よりやってきた大志と響に合流する。

「アンタたち来てたんだ。意外と早いんだね」

「お前が遅すぎるだけでだろ。寝坊助」

朝の挨拶を交わすこともなくいきなり悪態をつく二人、いや言うならばこれこそがこの二人にとっては挨拶のようなものだった。

顔を見合わせるごとに悪態をつく、いつからこんなふうになったかはわからないけど不思議と恵子も大志も嫌な思いをすることはなかった、多分それは二人のあいだに悪意が存在しなかったからだろう。

だからこのふたりの関係が悪化するなんてことは今までなかった。

それなのに、なぜだろうか?

恵子は今日の大志の言葉からはいつものサッパリした雰囲気ではなくなんだか黒い感情がまとわりついているような気がした。

いつもの変わらない悪態のはずなのに今日のそれはものすごく不快だと感じた。



「何その言い方」

元々恵子はそう気が長くはなくむしろ短気といっていいほど沸点が低い、知らず知らずのうちに物言いが喧嘩腰になっていた。

「恵子ちゃん」

空気が不穏になってきたためか百合が静止しようとするが二人はにらみ合ったままその場を動こうとはしない。

こういったとき気の弱い響は全く頼りにならない、足に杭を打たれたかのように一歩たりともその場から動かず、それでいて上半身は見ているこっちが情けなくなるほど小刻みに動き口は何かを言いたいのだろうかパクパクさせている。

その様はまるで陸に上げられ無力と化した魚のようだ。

百合の方も似たようなもので二人を交互に見合わせながらなんと声をかけたらいいか考えている。

大志の方も眉間にしわを寄せ明らかに機嫌が悪くなってきている、このままでは二人の気性からして最悪殴り合いのケンカになるのでは?

そんな不安が百合と響の心に募る。

そんな彼らの窮地を救ったのは、偶然にも後方から歩いてきた道長慶介であった。



「なにやってるの?早く教室に戻らないと先生に叱られるよ」

「ヒ・・・道長くん。それが恵子ちゃんたちが、なんか今にも喧嘩しそうで」

「どうしよう慶介」

すがるような目で見つめてくる百合と響に慶介は内心ため息をつきたい気分になった。

面倒くさいな。

正直にそう思う。

素通りすれば良かった、後悔したが話しかけたものはもうしょうがないと諦めて、とりあえず話を聞くことにした。



「ねえ、二人共どうしたの?早く行かないと先生が」

「わかってるよそんなこと!!」

「急に怒鳴らないでよ!!!」

大志が怒鳴り恵子がさらに大きな声で怒鳴った。

「落ち着きなよ二人共、なんで喧嘩してるの?」

「喧嘩なんかしてねーよ。ただ少しムカついただけだよ」

「恵子に?」

「違うよ!」

大志はばつが悪そうにそっぽを向いた。

「太志怒りたいのはわかるけど恵子にあたっても、しょうがないよ」

「ねぇ、なにがあったの?」

「教えて、道長くん」

会話の中で冷静さを取り戻した恵子と事情がわからない百合が聞く。

「うん、多分あとから先生が話すと思うから言うけどさ、鶏たち殺されたみたい」

「え?」

「どうゆうこと?なんで」

二人は訳が分からず聞き返す。

「さぁ?僕も詳しいことは知らないよ。そこらへんのことも先生が話すんじゃないの?とりあえず教室に行こ」

朝から嫌な話を聞いてしまった。

先程まで怒りに満ちていた恵子はひどく沈んだ表情で教室へと向かった。



教室に入ると担任の昭月先生から例の鶏小屋の話がされた。

なんでも、小屋で飼っていた鶏7羽がみんな殺されていたそうだ。

どこかの変質者の仕業だと先生は言っていた。

慶介から聞かされていたことだったけど大人が話すとそれが本当の事なんだって実感できて、胃になにか重いものが落とされたみたいに心が沈んだ。



「許せねーよ。誰の仕業なんだよ」

「だから、変質者でしょ」

「だから、それが誰かって聞いてんの」

「そんなのわかんないよ」

休み時間、子供たちは各グループに分かれて話をしている。

いつもならその内容はグループごとにいや、日によって違うのだが今日に限ってはみんな同じ話題。

そう、今朝起きた鶏殺しの話題でもちきりだった。

恵子のグループもそれは例外ではなく、恵子、百合、修、太志、響、慶介の六人組は掃除用具入れの前で円になって話し合っていた。

始まりはいつもと同じように恵子と太志の口論からスタートした。

ただ、二人のあいだには今朝のような険悪さはもうない。

真剣な顔つきで今朝の事件について話している。

どうやら互いに頭が冷えたようだ。

その様子を見てまた喧嘩になるのでは?とヒヤヒヤしていた他のメンバーも安心し話に加わっていく。

「二年生の子たちかわいそうだね」

百合がそうポツリとつぶやく。

鶏小屋の担当は代々二年生の子達が担当している。

毎日のえさやりから一周間に一回の掃除、卵の世話。

休み時間などは小屋から出してやりよく校庭の砂地で遊んでいる姿を見かけた。

そんな彼らは今どれほど心が沈んでいるだろうか?

特に、同じ施設の子である浅見雄一郎。

彼は院長の事件で目に見えて憔悴していた、そんな彼が今回の事件でより心を閉ざしたりでもしたら。

そんな不安が恵子の胸をよぎる。



「けどさー犯人もうすぐ捕まるんじゃないの」

唐突に修がそんなことを言いだした。

「どうして?」

響きが聴く。

「ほら、この学校ってさ防犯とかで監視カメラつけてるやろ。あれ、ちょうど鶏小屋の前にもついててさ、多分犯人映っていると思う」

「「「おおー」」」

皆から歓声の声が上がる。

そう、この学校には防犯向上のために木造校舎には似つかわしくない監視カメラが計8台設置されている。

校門前・正面玄関・昇降口・教職員用の駐車場・体育館入口に一箇所ずつ、校庭にそれぞれ3箇所設置されていた。

そしてその校庭に設置された三つのうちに一つが鶏小屋の前に設置されていたのだ。

ちょうど小屋の入口にピントが合うように設置されておりカメラを壊すかレンズを隠すかでもしない限り侵入者は姿を隠すことは不可能だろう。

そしてその思惑通り犯人は二日とたつことなく判明した。

ただ犯人は当初予想されていた変質者などではなくて同じ学校に通う小学生の少年たちだった。

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