断罪

宮下里緒

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二十八話 それぞれの時

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「オイ!そんなところに座っているとあぶねぇーぞ」

その言葉に反応するようにそいつはゆっくりと振り返り修側の大地に足をおろした。

「こんなところで会うなんて意外だね、シュー」

「お前こそ、こんなとこで何やってんだよ司」

その問に司は少し照れくさそうにはにかむ。

「なにって、少し調べ物にね。それぐらいだろここに来る用事なんて、あと僕、ここの風景が好きでね。たまに思い立ってはくるんだ」

「おー、いい感じだもんなここ。って、俺は今日初めて来るんだけど」

へへっと笑う修につられるように司の口も自然と笑をこぼす。

「ここからだと、街が一瞥できるからね。小さな街を見ていると、まるで自分が雲の上にでも立っているようで気持ちがいいんだ」

「はは、雲の上ってお前、まるで神様みたいだな」

「神様?神様か、いいね。本当にそんなのになれたら」

「へ?」

「だって、もし僕が神様だったら絶対にこの世界を優しく正しい世界にできるもん」

「やけに自信たっぷりだな、オイ」

「ああ、だって僕はいい人だからね」

まるでセリフを読んだかのような棒読み。

全く奥目もないその態度に修は心底嘘くさいと思う。

その時修は感じるのだった、ああ、またこいつはひとつ向こう側にいると。

ひとつ向こう側、それはまるで自分と司のあいだには見えない境界線が張ってあり、境界線のこちら側にいる自分と向こう側の司とでは見ているもの感じているものが同じようで何かが違う、だからこうして話していてもなんだか変に司の言動が演技っぽく見えてしまう。

まるで本当の自分を見られないように取り繕っているような必死さ。

こんな違和感を司に対して感じるようになったのはいつからだろうか?

それはきっとあの施設が燃えてしまった直後からだった気がする。

あの事件を境に司はみんなとつるむのをやめひとりでいることが多くなった、あれだけ仲の良かった大志とも距離を置くようになって・・・。



「なぁ、司。太志は?最近アイツにあったりしたか?」

先程までの笑は消し少し改まり聞く。

近衛太志、数年前までは修たちのリーダーだったその少年は司と同時期に皆の輪から離れていき皆が気づいた頃にはこのあたりの不良たちの頂点にまで上り詰めていた。

前に一度、恵子が授業にも出なくなった太志を咎めに行ったことがあったが結局、そのあと恵子は一人暗い顔立ちで帰ってきた。

その時二人のあいだに何があったかは当人たちしか知らない、ただあの後恵子のつぶやいた『私って、その程度だったんだ』あの言葉が修の頭から今も離れないでいる。

そしてその日を境に少なくとも修の知る限り誰も大志に近づかなくなってしまった。

そう、誰も。



「シューも知っているでしょ。彼、学校来ないし僕も会ってないよ。何で今更?」

「いや、昔お前ら仲良かったじゃん。だから、もしかしたら何か知ってるのかと思って」

「変なの。仲が良かったのはみん内緒じゃないか。別に僕に限ったことじゃない。ああでも、最後に会ったとき彼言ってたな・・・」

「言ってたって何を?」

ぴくりと体が興奮気味に震える修を見て司はどうどうと、馬を静止させる調教師のごとく振舞う。

「えっと、確か『俺が変える、変えてやる。だから黙ってろ』だったけ」

「なんだよそれ?どうゆうことだ?」

「さぁ、僕もあの時はあまりのことで面食らってしまって、聞き返せなかったんだ。まぁ、ようは何かやりたいことができたんでしょ。彼はさ」

「やりたいことって何さ?」

「さぁね、よくわからないよ僕には」

「そうか」

まるでどうでもいいとでも言うようなそっけない返答に、修は何か胸が締め付けられるような悲しみを覚えた。

「ところで、シューこそなんでここに?君の性格からしてこんなところに自分で来るとは思えないんだけど」

「うおぉい!失礼だなお、お前!っと言いたいところだが、実際その通りだからなんにも言えないな。恵子達に誘われて。いや、無理やり連行されて課題張り付け刑に処せられている」

「はは、なんだよ張り付けって。それ言いすぎだから」

「いや、マジなんだって。あいつは鬼だよ鬼」

「ひどいな、君は。こんなことケーコちゃんが知ったらそれこそ張り付けにされるよ」

「うっ、それは勘弁」

イヤイヤと首を振る修に司は目の前の柵に止まり鳴くセミを見ながらアドバイスを送る。

「なら、もう戻ったほうがいいかもね。どうせ抜け出してきたんだろ、ケーコちゃんは気が長いほうじゃないからね、早く行かないと本当にそうなるかも」

「お、おう。そうだな。司、久しぶりに話せて良かったよ」

くるりと踵を返し図書館の方へと駆け足で戻っていく修、司はそんな彼の方は見ず、ただ永遠とまるで、周りの音をすべて飲み込むように鳴くセミに意識を集中させている、やがて修の姿が見えなくなった頃、司はそのセミをグシャりと蹴り潰した。

「ウザイんだよ。今、話してただろうが!この、ゴミクソが!!」

横暴にして尊大、そして圧倒的な自尊心それがぐちゃぐちゃに混ざり合いながら成長した形、それが今の響司という少年の表には見せれない中身だった。





「あーくそ!まだイテーよ」

図書館からの帰り道、修は自分のデコを撫でながら文句をたれていた。

触れた箇所にはピリリと鈍痛が走る。

小さいがどうやらたんこぶまで出来ているようだ。

「なぁーこれ傷害罪じゃね?裁判したら勝てるんじゃね?」

「さあね、試しにやってみれば?どうなるか気になるといえばなるし」

「ちょ!慶介!!変なこと言わないでよ。大体あれは勉強すっぽかした週が悪いんでしょ」

思わぬ慶介の便乗に焦る恵子、しかも慶介の方はなにげに本気な部分もあるので恐ろしい限りだ。

とはいうものの、これは修が戻ってきた瞬間に『遅い!この馬鹿!!』なんて叫びながら国語辞典を投げつけた恵子が十中八九悪いのだが。

「しかし、見事に決まったよな。スコーンって。俺ぁ、漫画でも見ている気分だったよ」

「でも、騒いだから追い出されちゃったね」

「修くん。だいじょーぶ?」

少し興奮気味の成久に、苦笑を漏らす浅利、修の心配を唯一する凪紗も前方三人に続きながら歩いていく。

先程まで晴天だった空は、いつの間にか曇天へと変わっていき、今にも雨がこぼれ落ちそうになっていた。

ヒューとひときわ大きな風があたりを吹き抜ける。

夏の熱気を根こそぎ奪い去るかのような冷風はみんなの体温も奪っていく。

「さむ」

腕をさすりなが恵子が一言。

「ほんと、さっきまでの暑さが嘘みたいだねー」

「これ、冷房の効いた部屋より涼しくねぇーか?」

「雨も降りそうだね」

「おっ!じゃあ、ここでお開き!?」

希望にあふれた冴え渡るような笑顔で聞く修に恵子は冷たく、

「馬鹿じゃないの?アンタはこれからあたしンちで勉強の続き」

と、冷たく言い放った。

「ふぇ!まさかふたりっきりで!?」

「おいおい!そりゃまずくねぇ?」

今現在、恵子が寮で一人暮らしをしていることは周知の事実、いくら幼馴染といえど中学生の男女が密室でふたりっきりというのはどうだろう?

そのいきなりの誘いに浅利と成久は目を白黒させる。

「まさか。凪沙がついてきてくれんの。ね!」

「白岩凪紗、恵子ちゃん宅に初訪問しちゃいます!」

ビシッと敬礼のポーズをとる凪沙を見ながら修は『はぁー』と深い溜息をつく。

「結局、俺は解放されないってオチですか」

「当たり前!結局課題全然終わってないじゃん。アンタ、今日のノルマ終えるまで帰さないから。そのつもりでヨ・ロ・シ・ク」

今はもう雲に隠れた青空のようにサッーと青ざめる。

「い、いやだ。イヤー!!」

その叫びは虚しく空にこだまするのであった。



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