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三十六話 惨劇再び
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『よ!七川さん。不破だけど覚えてる?唐突なんだけどさ、今、慶介とメールしてたらアイツ。この嵐の中出かけてるんだってさ。相手、七川さんだろ?悪い、聞き出した。この嵐だからさ、律儀に約束守ろうとしているアイツが馬鹿なんだけど、もし君がまだ慶介とあってないなら連絡くらい取ってやってくれ。それじゃ!』
きっかけは成久からのメールだった。
そのメールを受け取った浅利はすぐに慶介に電話をかけたが通じず、あせった末に今までにない強引さで母を押しのけ一時的な平穏を取り戻した外へ飛び出してきた。
彼女が向かう先は決まっていた、そこは三丸記念図書館。
そこが二人が約束した場所だった。
待ち合わせ場所としてはあまりふさわしくないかもしれないが、本好きの彼らしい選択だった。
彼曰く、物語というのは作者の頭の中をのぞき込むことが出来る、その人がどんな考えをもちどんな世界を望んでいるのかを知ることが出来る、人の心のかけらに触れることが出来る、だから面白い。まぁ、結局はただの暇つぶしの一つなんだけど。
とのことだった。
「アレで結構ロマンチストなのかな?」
あの時、やけに饒舌に自分のことを語った慶介、その彼の物珍しい姿が今でも印象的だった。
「って、物思いにふけってる場合じゃないよ。早くいかなきゃ、もうずいぶん待たしてるよね。本でも読んで暇つぶしてくれてたらいいんだけど」
いつもとは違う彼女のめずらしいプラス思考、それは彼が自分を待ってくれているという喜びを根底にしたものだった。
この灰色の空とは対照的までに晴れ渡った自身の心、今ならなんだってできるそんな気持ちさえ湧き上がってくる。
いつもより軽やかな足取りでなじみ深い道を進んで行く凪沙、そんな彼女の視界の隅から
なにか黒い影が飛び出してきた。
ドンと、強くその陰とぶつかり浅利はたまらずその場にしりもちをついた。
最初は自身の身になにが起こったのかわからず。
次の一秒で、右わき腹に熱した鉄棒を押し当てたかのような熱い痛みを感じ。
次の二秒で、自分の白いパーカーが右わき腹から赤黒く染まるのを視覚。
次の三秒で、血に染まったナイフを手に笑う少年の姿を確認して。
最後の四秒目でやっぱり自分に何が起きたのかが分からなかった。
「うはぁ!マジで来たよドンピシャ。ヒルの言う通りだ。あの人マジ予知能力でもあるんじゃね!くはぁ」
「えっ・・なに?痛い、痛いよ・・血、出てるなんで?」
訳の分からないことを喚く見知らぬ少年の言葉など耳には全く入らず、手で押さえても決して止まることのない自身の命の必死で押しとどめようとしていた。
別に考えての行動じゃない本能が彼女をそう動かしたのだ。
「や、やだ止まらない。どうしよう、どうしよう。」
涙を流しながら傷口を押さえる浅利、そんな彼女の腹部を少年はもっとその中身が見たいと蹴り飛ばす。
「ぁー」
声にならない叫び、それに気を良くしたのか少年は浅利の腹部を何度も蹴り続けた何度も何度も傷口から臓物を押し出そうとするように蹴り続ける。
「ありゃ、さすがにこれくらいの傷じゃ無理か。まぁ、刺しただけだし当たり前か。さてと」
倒れこんでいる浅利の太ももに新たな一撃を突き立てる。
「いい!いいよ!マジでいい!なにこれ何この感触!!この纏わるつくような肉感たまんねぇ!しかも、すっげー血出てきてるし。オイオイどんだけ出るんだよなぁ!!!」
面白い面白いと少年は今度は体中無差別に何度もナイフを突き立てる。
足、腕、腹、胸、喉、顔、頭とそれはもう全身まるで黒ひげ危機一髪でもしているかのように次ぎ次ぎと浅利の体を穴だらけにしていく。
白い肌がどんどん赤黒い液に浸食されていく。
それはまさに死の具現、浅利の目の前にナイフが振り落とされ彼女の視界が照明を落としたかのごとく黒くなりそのままその闇に彼女の命そのものが消え去って行ったのだった。
「ふー気持ちよかった、男は女を刺すと気持ちいいって聞いてたけどマジじゃん。これマジ最高!女も刺されるのはいいんだろ?なぁどうだった?」
全身を赤黒い雨に打たれ恍惚の表情をうかべる勝生。
そのさまはまるで全身にワインを浴び酔いしれてるかのような妙な色気があった。
「さて、終わっちゃったし帰るかな」
最後に手元のナイフを振りかざし全力で少女の眉間へと突き立てる勝生、さすがに頭蓋骨は堅いのか刃は半分もめり込むことなく止まってしまった。
けどそれで問題ない、彼は単に最後に花を咲かせてやりたかったのだこの肉塊に、このまま終わったら彼女の死はあまりに醜悪なままになってしまう。
けれどここにこの美しい銀の花を咲かせることで少しはその醜悪さも減るというものだろう。
なにより自分の初めての殺人がただ汚いまま終わるのはなんかプライドが許せなかったのだ。
「これで少しは綺麗になったと!へへ、オレに感謝しろよ、お姉さん」
浅利の血をすすり綺麗に咲く一輪の銀花、そのさまを見届け勝生はその場を離れるのだった。
空が再び雲に覆われ、嵐が町に舞い戻ろうとしている頃、道長慶介は一人、三丸図書館で待ち人の到着を待っていた。
彼が手に持つのはとある童話、王に捨てられた王子が自らの身分を隠し自らの国、父に復讐するというどこぞの国の話だった。
ぱたりと本を閉じ机に置く慶介はこの話の主人公に憐れみを感じていた。
彼の悲劇は、父に捨てられたことでも国を追われたことでも、ましてや復讐を誓ったことでもない。
彼は生みの親に見放され、そんな彼を誰また助はせず、彼自身も最後には自らの世界を己の手で滅ぼすことを願った。
その時点でいや、そうなる前に気付くべきだったんだ自分はこの世界から必要とされていない存在なんだということを。
それに早いうちに気付けたらもっとはずれ者なりの楽しい生き方もあっただろうに。
それに復讐というのがいただけないそれでは目的をなしては物語が終わってしまう、それは残念なことだから。
「物語は続かないと面白くないのにな」
ゆったりと椅子に風吹きあられる外の世界を見る。
「ここは、静かだな」
これだけの静寂ならどれだけ待たされようと気持ちよく相手を迎えられることが出来そうだ。
そんな穏やかな気分の中、隔絶された世界と外界をつなぐ慶介の携帯が周囲にこだました。
「もしもし、どうした、成久」
「おー慶介。どうだもう、浅利ちゃんと出会えた?」
やけに明るい成久の声はこの場の雰囲気にはそぐわない気がした。
「唐突だな、成久。唐突すぎて何のことかわからないんだけど」
「あれ、変だな、七川さんから連絡きてない?」
「いや、何も」
要点がまるで分らない、慶介の声はまるでそう語るように音量を絞られる。
「いや、お前から七川さんが来てないって聞いた後、俺も七川さんに連絡したんだよ。アイツのことだからお前のとこに向かったかと思ったけど」
「成久、お前が七川に連絡したのは何時ごろだ?」
「確か、十二時くらいだったかな?」
即座に図書館の時計で現時刻を確認する。
「今は、二時八分。約二時間前か」
「あー、さすがに家族にでも止められたんかな?」
「ならいいけどな。悪い成久、いったん切るぞ。本当に七川が家を出たんだとしたらあまりにも遅れすぎだ、少し様子を見てくる」
「見てくるって、今もうすごい嵐だけど」
「どうせ家に帰るにはこの嵐の中を通るんだ気にすることじゃないさ。それじゃ、なにか分かったら連絡する」
「きーつけてな」
気のぬける成久の声に見送られ図書館を出る慶介、傘は役に立たないのでその身には透明なカッパを身に着けていた。
「さて」
どうしたものかと、とりあえず高台の方へと移動し町の様子を眺めてみる。
町のあらゆるものを洗い流すかのごとくふきあられる雨風、人間も汚れと共に流されたかのように人ほとり見当たらない。
「まぁ、無難なところから探してみますか」
全体図から確認できないなら、自らの足でその場に赴くしかない。
まず向かう先は七川の自宅だろう、そこに彼女が何事もなくいればそれで問題は解決なのだから。
携帯には何回連絡を入れても応答する様子はなく、もう自らの足で探し回るしか手段はないだろう。
とりあえずは長い階段を下り丘の上から民家の方へと向かう。
階段を降りるとそこからは道が三つに分かれる。
三丸中学へと向かう右手の道、三丸山へと向かく直進の道、そして駅へと向かう左手の道。
七川の家は駅近くという話をこの前海に行ったとき恵子から聞いていた慶介は迷うことなく左手の道へと進む。
歩き出して、しばらくたつがやはり外には人っ子一人いなく、みんな安全策として家に引きこもっているようだった。
この分だと、やはり七川も家にいるのかもしれない、そう思ってきた頃、シャワーでもあてているかのような暴風雨を顔に浴びながらそれを拭おうともしない慶介の目に、はたと薄暗い路地裏が目に入った。
そういえば、恵子から教えてもらった七川の家の位置、この路地裏を抜ければだいぶんショートカットできるな、そのことを思い出し慶介は進路を変更し路地裏へと足を踏み入れた。
そしてその足はすぐに止まることになる、路地裏に咲く一輪の銀花を前にして。
きっかけは成久からのメールだった。
そのメールを受け取った浅利はすぐに慶介に電話をかけたが通じず、あせった末に今までにない強引さで母を押しのけ一時的な平穏を取り戻した外へ飛び出してきた。
彼女が向かう先は決まっていた、そこは三丸記念図書館。
そこが二人が約束した場所だった。
待ち合わせ場所としてはあまりふさわしくないかもしれないが、本好きの彼らしい選択だった。
彼曰く、物語というのは作者の頭の中をのぞき込むことが出来る、その人がどんな考えをもちどんな世界を望んでいるのかを知ることが出来る、人の心のかけらに触れることが出来る、だから面白い。まぁ、結局はただの暇つぶしの一つなんだけど。
とのことだった。
「アレで結構ロマンチストなのかな?」
あの時、やけに饒舌に自分のことを語った慶介、その彼の物珍しい姿が今でも印象的だった。
「って、物思いにふけってる場合じゃないよ。早くいかなきゃ、もうずいぶん待たしてるよね。本でも読んで暇つぶしてくれてたらいいんだけど」
いつもとは違う彼女のめずらしいプラス思考、それは彼が自分を待ってくれているという喜びを根底にしたものだった。
この灰色の空とは対照的までに晴れ渡った自身の心、今ならなんだってできるそんな気持ちさえ湧き上がってくる。
いつもより軽やかな足取りでなじみ深い道を進んで行く凪沙、そんな彼女の視界の隅から
なにか黒い影が飛び出してきた。
ドンと、強くその陰とぶつかり浅利はたまらずその場にしりもちをついた。
最初は自身の身になにが起こったのかわからず。
次の一秒で、右わき腹に熱した鉄棒を押し当てたかのような熱い痛みを感じ。
次の二秒で、自分の白いパーカーが右わき腹から赤黒く染まるのを視覚。
次の三秒で、血に染まったナイフを手に笑う少年の姿を確認して。
最後の四秒目でやっぱり自分に何が起きたのかが分からなかった。
「うはぁ!マジで来たよドンピシャ。ヒルの言う通りだ。あの人マジ予知能力でもあるんじゃね!くはぁ」
「えっ・・なに?痛い、痛いよ・・血、出てるなんで?」
訳の分からないことを喚く見知らぬ少年の言葉など耳には全く入らず、手で押さえても決して止まることのない自身の命の必死で押しとどめようとしていた。
別に考えての行動じゃない本能が彼女をそう動かしたのだ。
「や、やだ止まらない。どうしよう、どうしよう。」
涙を流しながら傷口を押さえる浅利、そんな彼女の腹部を少年はもっとその中身が見たいと蹴り飛ばす。
「ぁー」
声にならない叫び、それに気を良くしたのか少年は浅利の腹部を何度も蹴り続けた何度も何度も傷口から臓物を押し出そうとするように蹴り続ける。
「ありゃ、さすがにこれくらいの傷じゃ無理か。まぁ、刺しただけだし当たり前か。さてと」
倒れこんでいる浅利の太ももに新たな一撃を突き立てる。
「いい!いいよ!マジでいい!なにこれ何この感触!!この纏わるつくような肉感たまんねぇ!しかも、すっげー血出てきてるし。オイオイどんだけ出るんだよなぁ!!!」
面白い面白いと少年は今度は体中無差別に何度もナイフを突き立てる。
足、腕、腹、胸、喉、顔、頭とそれはもう全身まるで黒ひげ危機一髪でもしているかのように次ぎ次ぎと浅利の体を穴だらけにしていく。
白い肌がどんどん赤黒い液に浸食されていく。
それはまさに死の具現、浅利の目の前にナイフが振り落とされ彼女の視界が照明を落としたかのごとく黒くなりそのままその闇に彼女の命そのものが消え去って行ったのだった。
「ふー気持ちよかった、男は女を刺すと気持ちいいって聞いてたけどマジじゃん。これマジ最高!女も刺されるのはいいんだろ?なぁどうだった?」
全身を赤黒い雨に打たれ恍惚の表情をうかべる勝生。
そのさまはまるで全身にワインを浴び酔いしれてるかのような妙な色気があった。
「さて、終わっちゃったし帰るかな」
最後に手元のナイフを振りかざし全力で少女の眉間へと突き立てる勝生、さすがに頭蓋骨は堅いのか刃は半分もめり込むことなく止まってしまった。
けどそれで問題ない、彼は単に最後に花を咲かせてやりたかったのだこの肉塊に、このまま終わったら彼女の死はあまりに醜悪なままになってしまう。
けれどここにこの美しい銀の花を咲かせることで少しはその醜悪さも減るというものだろう。
なにより自分の初めての殺人がただ汚いまま終わるのはなんかプライドが許せなかったのだ。
「これで少しは綺麗になったと!へへ、オレに感謝しろよ、お姉さん」
浅利の血をすすり綺麗に咲く一輪の銀花、そのさまを見届け勝生はその場を離れるのだった。
空が再び雲に覆われ、嵐が町に舞い戻ろうとしている頃、道長慶介は一人、三丸図書館で待ち人の到着を待っていた。
彼が手に持つのはとある童話、王に捨てられた王子が自らの身分を隠し自らの国、父に復讐するというどこぞの国の話だった。
ぱたりと本を閉じ机に置く慶介はこの話の主人公に憐れみを感じていた。
彼の悲劇は、父に捨てられたことでも国を追われたことでも、ましてや復讐を誓ったことでもない。
彼は生みの親に見放され、そんな彼を誰また助はせず、彼自身も最後には自らの世界を己の手で滅ぼすことを願った。
その時点でいや、そうなる前に気付くべきだったんだ自分はこの世界から必要とされていない存在なんだということを。
それに早いうちに気付けたらもっとはずれ者なりの楽しい生き方もあっただろうに。
それに復讐というのがいただけないそれでは目的をなしては物語が終わってしまう、それは残念なことだから。
「物語は続かないと面白くないのにな」
ゆったりと椅子に風吹きあられる外の世界を見る。
「ここは、静かだな」
これだけの静寂ならどれだけ待たされようと気持ちよく相手を迎えられることが出来そうだ。
そんな穏やかな気分の中、隔絶された世界と外界をつなぐ慶介の携帯が周囲にこだました。
「もしもし、どうした、成久」
「おー慶介。どうだもう、浅利ちゃんと出会えた?」
やけに明るい成久の声はこの場の雰囲気にはそぐわない気がした。
「唐突だな、成久。唐突すぎて何のことかわからないんだけど」
「あれ、変だな、七川さんから連絡きてない?」
「いや、何も」
要点がまるで分らない、慶介の声はまるでそう語るように音量を絞られる。
「いや、お前から七川さんが来てないって聞いた後、俺も七川さんに連絡したんだよ。アイツのことだからお前のとこに向かったかと思ったけど」
「成久、お前が七川に連絡したのは何時ごろだ?」
「確か、十二時くらいだったかな?」
即座に図書館の時計で現時刻を確認する。
「今は、二時八分。約二時間前か」
「あー、さすがに家族にでも止められたんかな?」
「ならいいけどな。悪い成久、いったん切るぞ。本当に七川が家を出たんだとしたらあまりにも遅れすぎだ、少し様子を見てくる」
「見てくるって、今もうすごい嵐だけど」
「どうせ家に帰るにはこの嵐の中を通るんだ気にすることじゃないさ。それじゃ、なにか分かったら連絡する」
「きーつけてな」
気のぬける成久の声に見送られ図書館を出る慶介、傘は役に立たないのでその身には透明なカッパを身に着けていた。
「さて」
どうしたものかと、とりあえず高台の方へと移動し町の様子を眺めてみる。
町のあらゆるものを洗い流すかのごとくふきあられる雨風、人間も汚れと共に流されたかのように人ほとり見当たらない。
「まぁ、無難なところから探してみますか」
全体図から確認できないなら、自らの足でその場に赴くしかない。
まず向かう先は七川の自宅だろう、そこに彼女が何事もなくいればそれで問題は解決なのだから。
携帯には何回連絡を入れても応答する様子はなく、もう自らの足で探し回るしか手段はないだろう。
とりあえずは長い階段を下り丘の上から民家の方へと向かう。
階段を降りるとそこからは道が三つに分かれる。
三丸中学へと向かう右手の道、三丸山へと向かく直進の道、そして駅へと向かう左手の道。
七川の家は駅近くという話をこの前海に行ったとき恵子から聞いていた慶介は迷うことなく左手の道へと進む。
歩き出して、しばらくたつがやはり外には人っ子一人いなく、みんな安全策として家に引きこもっているようだった。
この分だと、やはり七川も家にいるのかもしれない、そう思ってきた頃、シャワーでもあてているかのような暴風雨を顔に浴びながらそれを拭おうともしない慶介の目に、はたと薄暗い路地裏が目に入った。
そういえば、恵子から教えてもらった七川の家の位置、この路地裏を抜ければだいぶんショートカットできるな、そのことを思い出し慶介は進路を変更し路地裏へと足を踏み入れた。
そしてその足はすぐに止まることになる、路地裏に咲く一輪の銀花を前にして。
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