断罪

宮下里緒

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四十二話 彼らの動機

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私が人類浄化の会に入って一か月程たったある日のこと、この会の会長を務めるアクセルが重大な話があるといい会員たちを大広間へと呼び寄せた。

人類浄化の会は会員の一人である天咲鈴鹿という中年女性の自宅を拠点としている。

彼女はもともと大手会社の社長夫人で夫と息子それに娘と家族4人で都会の方で暮らしていたらしいのだが、馬鹿な若者たちが浅はかな考えのもと彼女の家に押し入り彼女以外の家族は全て殺された。

目的は金だったらしい。

目の前に大量の金があるんだとらない方が馬鹿ってもんだ、それが若者たちの言い分だったらしい。

そんなふざけた理由で彼女は家族を奪われ代わりに遺産として莫大な金を手に入れた。

そのあとの足取りは不明だが、彼女はその後この会に所属しその莫大な遺産のすべてを投資したという。

おそらくこの豪邸もその金で建てられたものだろう。

この会に所属する人間のほとんどはこの場所で共同生活を営んでいる、なんでも互いのことを深く知り支えあうためだとかヒルは言ってた。

最初は見知らぬ他人との共同生活なんて長い間人との関わりを絶っていた私からすれば窮屈極まりないと思っていたがいざ始めてみると、そこは安らぎに満ちた世界だった。

誰もが互いをいたわり心配しあう素晴らしい世界、外の腐った世界とは違う安らぎに満ちた場所。

ああ、私が求めた全てがここにはあった。

そしてこの安らぎはおそらく地球上の誰もが望むもので、この世になくてはならないもの、そう思い私たちは断罪事件を起こしたのです。

この世から、悪を根絶するため人々に悪を憎む心を植え付けるために。



広間にはすでに大勢の会員が集まり私が来た時には皆が壇上に向かい成立していた。

床全てを覆いつくさんとする人たちは壇上の上から見るとまるで黒い海のようにも見えただろう。

けれどその光景を見れるものは壇上に立つことがこの楽園の頂点に立つことが許された者たちだけ。

あかるい光に照らされた壇上にはヒルが微笑を浮かべその間にアクセルが無表情で私たちに視線を向けていた。

ちなみに、この会では特別な呼び名などはなく互いに名前で呼び合っているのだが立場上の例外としてヒルとリリそしてアクセルだけは偽名を使っている。

名前の由来はヒル、リリの方は自分たちの本名を少し変えたもので、アクセルの方は昔見ていたTV番組のタイトルからきていると言っていた。

本名を語らない彼らを不審に思うものなど誰もいない、なぜなら彼らは私たちを楽園へと導いた英雄、いや神なのだから。



「みんな、今日はそろってくれて感謝する」

私たちを見渡しながらアクセルが静かな口調で語り始めた。

「こうして、改めてみるとだいぶん会員が増えたことを実感するな。僕がこの会を設立したのが今から三年ほど前だから君たちとは長いようで実際はそれ程、長くないたかだか高校生がクラスメイトと過ごす日々ほどの時間しかたっていないことか。あまりにもいろんなことがありすぎてもう十年ほど一緒に居る感覚だな」

懐かしむように目を細めるアクセルは普段の彼からは想像できないほど穏やかな顔つきだったが、それもすぐに全てを拒絶するかのような増悪に満ちた怒りのそれに戻る。

「君たちのおかげで僕の理想、悪のいない世界を小さいながらも実現することが出来た。しかしそんな小さな世界で満足しているよじゃ、駄目だ。それはただ現状に甘んじているだけでしかない。誰もが悪にならない世界、その世界を真に作り出さなければこの理想がかなったことにはならない。ならば、どうすればこの世界から悪を消すことが出来るのか?

答えは簡単だ悪人を消せばいい、そうすればこの世にはおのずと善人しか残らなくなる。そんな簡単なことで世界は優しくなれるんだ」

それは至極簡単な答えだった悪人がいなければ悪事は行われない、なら悪人が消えれば悪事も自然と消える、それだけのことで誰もが笑える世界が出来上がる。

理想の楽園が出来上がるんだ、それがアクセルが皆に分け与えた理想の世界の形だった。

「悪人を消すことにためらいをもったらいけない、奴らはこの社会に巣食う癌細胞だ!いちゃいけないゴミかすなんだ。それを駆除する僕たちは社会の掃除屋、ワクチンなんだ。僕たちはみんなのために悪を滅する使命を全うしなくちゃいけない、それが悪による痛みを知る僕たちの存在意義なのだから!」

アクセルの力強い演説に反応するかのように皆が雄たけびをあげる、私も腹の底から叫んでいた。

それは、自身のやり場のない怒りを撃鉄として正義心をはね起こさせるための儀式だった。

叫ぶごとにこみ上げる悪への怒り、返せ返せ家族を返せというやり場のない思いがこの体を食い破り漏れ出しそうになる。

「みんなも同じ気持ちのようだな、その心に触れられて僕は安心する。これで僕の最後の計画をみんなに話せるのだから。断罪事件、世間でそう呼ばれてる僕たちの起こしたゴミ掃除、けれどあんなゴミの一つや二つ消したところで世界は何も変わらないそれほどまでに悪はこの世に根深く浸透してしまっている、変えるにはもっと大きな一石を投じる必要がある。この世界という大きな水面を割るほどの!この世界を震撼させるほどの!!みんなにはその石になってもらいたい。石となり、水面の底に沈んでもらいたい。この計画に参加したものはどうあっても破滅する、それは偽りない事実だ。だが、たとえ自身が砕けようとも悪に裁きを!その信念のもと最後の断罪についてきてほしい!!これは僕からの皆への願いだ、ともにこの世界を変えるための犠牲になってほしい」

壇上から落ちるほど身を乗り出しかきむしるかのように手を胸に置き吠えるアクセル、その顔は今にも泣きだしそうなほどに崩れていた。

きっと辛いのだろう彼自身こんなことを言うのは。

「けど、強制はしない。これは強い信念を持ったものしかできないことだからな。だから君たちに問う。僕についてくるものはこの部屋にとどまり、無理だと思うものはこの部屋から出て行ってくれ。どんな、ことになろうと正義を尽くす、その信念のあるものだけここにいてほしい。もちろん出ていくものを咎めはしない君たちは良く今までやってくれた、あとは僕たちのこれからを見守り理想の世界を生きてくれ、それが僕の願いだ。さぁ、決断を」

ギィーと開く部屋の両隣の扉、そこにはいつの間に移動したのかヒルとリリが立っていた。

どうやら出たいものはここから出て行けという意味らしい。

動くものはまだいない、みんな一様に周りの顔色を確認している。

いや、何人かはもはや確固たる意志が確立されているのだろう、わき見などせずまっすぐにアクセルを見返していた。

だがそんなのは数人だけ、ほとんどの連中はどうしたものかと顔を身わせている。

私もそのうちの一人だ。

最後の断罪事件、どうあってもかかわったものは破滅する、その言葉が心に重くのしかかる。

今まで正義のために悪人たちをさばいた私達、それはみんなの為であり世界の平和の為、そしてその先には必ず明るい未来が待っていると思っていた。

事実、警察たちも私たちをとらえることは出来ていない、このまますべてがうまくいき、いずれ皆が私たちのことを認めもてはやす、この人たちは理想郷を作り上げたとそんな夢を見ていた矢先に告げられた滅び。

今この場を逃げ出すなんていうアクセルに対する裏切りはしたくない、けれど自身の安全を確保したいという防衛本能がどうしても壁がどうしても断罪への道をふさごうとする。

誰も動けない中、スタスタと天咲鈴鹿が皆の輪の中から出てゆき、壇上の前、私たちの前まで歩み出ていった。

その体は小刻みに震えている、いままでこの会に大きく貢献した彼女もやはり見えない破滅は怖いのだろう。

もしかしてアクセルに作戦に参加できないことを伝えるつもりだろうか?

そう思った矢先、天咲さんはアクセルの方にではなく私たちの方へと向き直った。

その形相は理性という仮面の剥がれ落ちた本能がむき出しのまさに獣、鬼女のような悪魔的顔だった。

「いいかげんに、いい加減に!いい加減に!!しろー!!!」

それは、雷を思わせるほどの怒号、私たちは彼女のその声に身を震わせます。

「いつまでもいつまでもいつまでも!グズグズなやんで!こっちはもう覚悟を決めてここにいんだ!なくすものなんてもうない、あるのは悪に対する憎しみだけ、それすら否定して自身の保身を考える奴は目障りださっさと消えな!破滅がどうした、私たちはすでに破滅を経験してるだからここにいる!それなのに、せっかく築いた私たちの理想まで保身のために破滅させるつもりかぁぁぁあ!!」

歯をむき出しに、もはや彼女がかつての社長夫人などというのが信じられないほどの態度。

そしてその姿と言葉を聞いた私はガツンと一発鈍器で頭を殴られたかのように目が覚めた。



そうだ、確かに彼女の言う通りだ。

家族を失い、社会との折り合いも捨て、ただただ生きていただけの日々。

あんなのは人間の生き方じゃない、あれは植物と一緒だ、ただそこにいるだけの静的な生き方、それを終わらせて聞くれたアクセル、私に再び人間としての生き方を示してくれたアクセルを、そんなアクセルが夢見た世界を失わせるわけにはいかない。

そう思った瞬間、私の前にそびえたっていた壁は崩れさりアクセルと共に行くべき道が綺麗に開けた。

決意の固まった私はまっすぐにアクセルを見据える、何人かは『ついていけないと』部屋を後にしていったがもはや、そんなことはどうでもよかった。

そう自分が選んだ道だ、他人がどう思おうと関係ない、私は彼と共に行く。





結局その場に残った人間は私を含め七名だけだった。

その中には先ほどまで吠えていた天咲鈴鹿さんの姿もあった。

あれだけの身動きもとれないほど密集していたのが嘘だったようにガラリとした部屋、しかしなぜだか心細さはみじんもなかった、それは他の六人も同じようで皆一様に壇上のアクセルを見据えている。

「ありがとう。ここに残ってくれた君たちの勇気は賞賛に値する。君たちの強い意志に答えられる様に僕も、この身を削るつもりだ。誰にも邪魔はさせない、誰も僕たちの理想は止められない。さぁ、世界への断罪を始めよう」

それが、新たな世界を創る狼煙。

私も他の誰もが皆、大きく吠え上がる。

これから始まる世界の為に、今までの腐れた世界に別れを告げるために。


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