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四十五話 殺戮を追う者たち
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「一体どうなってるんだ!あの事件が始まってからもう四年、犯人たちの目星もついている、なのに逮捕に踏み出せないとはどういうことだ!!」
その憤りをぶちまけるかのように岸野さんはコーヒー缶を握る潰し、そして乱れた心を鎮めるかのように空き缶を自らの座るベンチの傍らにそっと置く。
けれど潰されバランスを失ったカンは自らの重みを支えられずカランとその場に倒れてしまった、そんなささいなことですら気に障るのか岸野さんは大きな舌打ちをした。
「荒れていますね。せっかくの休憩時間なのにそれじゃ休めないですよ」
「荒れもする!澄乃、お前はこの状況に疑問を抱かないのか?上の奴らは明らかに犯人逮捕を渋ってる、確かに明確な証拠はないが状況的に人類浄化の会がこの事件にかかわっているのは間違いない。証拠をつかもうとして潜入した捜査員は誰も帰ってこない、おそらく彼らは殺されただろう」
がりっと木のベンチをひっかく音が響いた、それは彼自身の怒りの音なのだろう。
「家族からの捜索願も出ているというのに、俺たちに圧力をかけ上辺だけの捜査しかさせない!世間ではこの事件の模倣犯すら出ているというのに、それでもだんまりを続けている。おかしい、なぜ警察である俺たちが捜査をできないでいる?今回の事件の犯人は上が渋るほどの大物なのか?」
「もしくは、警察関係者が犯人ってこともありえますかね」
こんなことは滅多なことで言うものじゃない、仲間に不信なんて抱けば協力も破綻しそれこそ捜査が滞る、何より自分たち正義側の意義が崩れさる。
岸野さんも僕にそれ以上口にするなとはくぎを刺したが、その発言については咎めることも否定することもなかった。
「九時十二分かそろそろ戻ろう。会議が始まる」
結局、休憩らしい休憩もできずに僕らは仕事に戻ることとなった。
「昨日、三丸町郊外で発見された例の物体。いや、肉の塊、鑑識に回したところ人肉であることが判明した」
神矢局長の発表と共に部屋の中の空気が鉛を流し込んだかのように重く息苦しいものへと変化した。
それは、昨日の夕方ごろ三丸町の町はずれで発見された。
通報人は近所に住む主婦、買い物帰りに通るお寺、その鐘の下にその物体は鎮座されていた。
『あの、お寺に変なものが、何か分かりませんけどすごく臭くて。見てもらえませんか?』
それが電話の内容だった。
なにか分からない、そういった主婦の言葉は現場に行ってみて、すぐに理解できた。
「なんだ、これ・・・」
現場へと着いた僕たちが見たものは、熟れたザクロを思わせる赤黒い直径150㎝はあるかという真ん丸な物体だった。
「この臭いは」
そしてそれからは、残飯置場ぼような腐りかけ生ごみのような臭いが漂い、それに惹かれたのかカラスたちが群れその残骸を漁っていた。
「なんかミートローフみたいっすね」
「そんなうまそうなもんじゃねーだろこれ。おい、テメーらも済みではいてないで鑑識呼んで来い!」
うずくまる新米警官たちを一喝する岸野さんだったが彼の額にも大きな脂汗が浮いていた、おそらく僕も似たようなものだろう。
試みだされないわけがない。
突如として現れた謎の物体、その中心には例の断罪事件の象徴である髑髏マークが刻まれたいたのだから。
「死体はプレス機のようなもので押しつぶされ圧縮されていた。この塊の中にどれだけの人数が混ざり合っていたのかはもはやわからんが、十や二十ではないだろう。それだけの人間が殺戮された。おそらく例の印からしてこれも断罪事件の一つだろう。正式に確認されているものはこれを含めれば五件目。最後だ、これを最後の事件にする!我々の手でこの事件を終りにする!!」
会議の最後、神矢局長は皆を一喝するようにそう宣言した。
この言葉は一体どれだけ捜査員たちの胸に響いただろうか?
この言葉を一体僕たちはどれだけ聞いただろうか?
この先一体どれだけ聞けばいいのだろうか?
会議のたびに聞く似たような言葉はいまだ捜査が進んでいないことをヒシヒシと伝えてきた。
会議が終わり課に戻ってきた僕たちだがその誰もが放心したように空を見ていた。
みんな疲れ切っているのは目に見えて分かった。
なんせ、自分たちの必死の捜査もまったく実らず解決の糸口は見えず、それどころか新たな犠牲者を出してしまった。
しかも、今回は多大に、それがみんなの心をへしをってしまった。
これで捜査をやめるなんてことは許されないのでありえないが、その捜査に大きな易経を与えるであろうことは明らかだ。
このままでは、全て破綻してしまう。
逆転があるとすれば。
目を向けるのは一つの封筒、もはやこれにかけるしかない。
意を決し、岸野さんのもとへと向かう。
「どうした、澄乃?」
その声は疲れ切ってはいたが瞳には皆とは違う確かな輝きが見てとれた。
「岸野さん。例の件調べさせてください。確信があるわけじゃありません。徒労に終わるかもしれません、ですがかける価値はあると思います」
「その情報にか?感のようなものだろ」
「あの少年の感は頼りになる。今までそうでしたから」
その言葉に、岸野さんはふっと笑う。
「お前の今まで妙な情報源はアイツが元だったわけか。一般人に情報さらすな馬鹿が。いいだろ、どうせ当てはないんだお前の思うようにやれ」
その言葉にハイと返事をする。
それがいつもの自分らしからぬ大きな声だったからだろうか岸野さんは目を見開き驚き、そんな表情が面白くて僕もつい笑いそうになってしまった。
大丈夫です岸野さん、必ず手がかりは手に入れます。
そう誓う僕だったが一つ気になることがあった。
あの時少年の言った始まりの日に起きる終とは一体何のことだったのだろう?と。
その憤りをぶちまけるかのように岸野さんはコーヒー缶を握る潰し、そして乱れた心を鎮めるかのように空き缶を自らの座るベンチの傍らにそっと置く。
けれど潰されバランスを失ったカンは自らの重みを支えられずカランとその場に倒れてしまった、そんなささいなことですら気に障るのか岸野さんは大きな舌打ちをした。
「荒れていますね。せっかくの休憩時間なのにそれじゃ休めないですよ」
「荒れもする!澄乃、お前はこの状況に疑問を抱かないのか?上の奴らは明らかに犯人逮捕を渋ってる、確かに明確な証拠はないが状況的に人類浄化の会がこの事件にかかわっているのは間違いない。証拠をつかもうとして潜入した捜査員は誰も帰ってこない、おそらく彼らは殺されただろう」
がりっと木のベンチをひっかく音が響いた、それは彼自身の怒りの音なのだろう。
「家族からの捜索願も出ているというのに、俺たちに圧力をかけ上辺だけの捜査しかさせない!世間ではこの事件の模倣犯すら出ているというのに、それでもだんまりを続けている。おかしい、なぜ警察である俺たちが捜査をできないでいる?今回の事件の犯人は上が渋るほどの大物なのか?」
「もしくは、警察関係者が犯人ってこともありえますかね」
こんなことは滅多なことで言うものじゃない、仲間に不信なんて抱けば協力も破綻しそれこそ捜査が滞る、何より自分たち正義側の意義が崩れさる。
岸野さんも僕にそれ以上口にするなとはくぎを刺したが、その発言については咎めることも否定することもなかった。
「九時十二分かそろそろ戻ろう。会議が始まる」
結局、休憩らしい休憩もできずに僕らは仕事に戻ることとなった。
「昨日、三丸町郊外で発見された例の物体。いや、肉の塊、鑑識に回したところ人肉であることが判明した」
神矢局長の発表と共に部屋の中の空気が鉛を流し込んだかのように重く息苦しいものへと変化した。
それは、昨日の夕方ごろ三丸町の町はずれで発見された。
通報人は近所に住む主婦、買い物帰りに通るお寺、その鐘の下にその物体は鎮座されていた。
『あの、お寺に変なものが、何か分かりませんけどすごく臭くて。見てもらえませんか?』
それが電話の内容だった。
なにか分からない、そういった主婦の言葉は現場に行ってみて、すぐに理解できた。
「なんだ、これ・・・」
現場へと着いた僕たちが見たものは、熟れたザクロを思わせる赤黒い直径150㎝はあるかという真ん丸な物体だった。
「この臭いは」
そしてそれからは、残飯置場ぼような腐りかけ生ごみのような臭いが漂い、それに惹かれたのかカラスたちが群れその残骸を漁っていた。
「なんかミートローフみたいっすね」
「そんなうまそうなもんじゃねーだろこれ。おい、テメーらも済みではいてないで鑑識呼んで来い!」
うずくまる新米警官たちを一喝する岸野さんだったが彼の額にも大きな脂汗が浮いていた、おそらく僕も似たようなものだろう。
試みだされないわけがない。
突如として現れた謎の物体、その中心には例の断罪事件の象徴である髑髏マークが刻まれたいたのだから。
「死体はプレス機のようなもので押しつぶされ圧縮されていた。この塊の中にどれだけの人数が混ざり合っていたのかはもはやわからんが、十や二十ではないだろう。それだけの人間が殺戮された。おそらく例の印からしてこれも断罪事件の一つだろう。正式に確認されているものはこれを含めれば五件目。最後だ、これを最後の事件にする!我々の手でこの事件を終りにする!!」
会議の最後、神矢局長は皆を一喝するようにそう宣言した。
この言葉は一体どれだけ捜査員たちの胸に響いただろうか?
この言葉を一体僕たちはどれだけ聞いただろうか?
この先一体どれだけ聞けばいいのだろうか?
会議のたびに聞く似たような言葉はいまだ捜査が進んでいないことをヒシヒシと伝えてきた。
会議が終わり課に戻ってきた僕たちだがその誰もが放心したように空を見ていた。
みんな疲れ切っているのは目に見えて分かった。
なんせ、自分たちの必死の捜査もまったく実らず解決の糸口は見えず、それどころか新たな犠牲者を出してしまった。
しかも、今回は多大に、それがみんなの心をへしをってしまった。
これで捜査をやめるなんてことは許されないのでありえないが、その捜査に大きな易経を与えるであろうことは明らかだ。
このままでは、全て破綻してしまう。
逆転があるとすれば。
目を向けるのは一つの封筒、もはやこれにかけるしかない。
意を決し、岸野さんのもとへと向かう。
「どうした、澄乃?」
その声は疲れ切ってはいたが瞳には皆とは違う確かな輝きが見てとれた。
「岸野さん。例の件調べさせてください。確信があるわけじゃありません。徒労に終わるかもしれません、ですがかける価値はあると思います」
「その情報にか?感のようなものだろ」
「あの少年の感は頼りになる。今までそうでしたから」
その言葉に、岸野さんはふっと笑う。
「お前の今まで妙な情報源はアイツが元だったわけか。一般人に情報さらすな馬鹿が。いいだろ、どうせ当てはないんだお前の思うようにやれ」
その言葉にハイと返事をする。
それがいつもの自分らしからぬ大きな声だったからだろうか岸野さんは目を見開き驚き、そんな表情が面白くて僕もつい笑いそうになってしまった。
大丈夫です岸野さん、必ず手がかりは手に入れます。
そう誓う僕だったが一つ気になることがあった。
あの時少年の言った始まりの日に起きる終とは一体何のことだったのだろう?と。
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