断罪

宮下里緒

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最終話 無情なる怪物

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「貴方たちは何でそんな風に?どうして、もっともっといろいろなことができるのに何でこんなことを?」

すがるように訴えるのは神山京香だ。

彼女は幼いころの奴らを見ている分俺達とは違った意味で問いたいことが山のようにあるだろう。

「なぜと問われましても。自分は響司のように望みがあったわけでもないですから。ですがあえて理由をつけるなら現実では決して実現しない事柄がもし本当になったら世界はどう反応するかが見たかった、でいいでしょうか。そもそも今さら理由を聞いていったい何の意味があるのでしょうか?」

表情口調こそ変わらないがまるでこちらを馬鹿にするかのような道長の言葉に神山は顔を苦悶にゆがめるが、それでも目を背けることなく二人を見つめていた。

「百合、貴女もそうなの?」

これまで一言も言葉を発していなかった金城百合はその問いに驚くように肩を上げ不安げに道長のほうを見た。

道長比べ随分人間らしい表情をする。

「話してあげなさい」

道長の許しを得て少しこちらに向き直るところを見ると二人の関係は対等だと思っていた俺の感はどうやらはずれらしい、彼女の行動もすべて道長が支配している。

だとすれば金城も道長に洗脳されているのだろうか?

「この断罪事件への思いれはないという意味でなら私にも理由という理由はありません。先生。私の行動理由はヒルのためです。ヒルが命じたから動いたそれだけです」

「洗脳、お前も道長に洗脳されてたってことか?」

金城の言葉を信じるならそうゆうことなのだろう。

だが、疑問は大いにある。

特に気になるのが金城の態度だ。

刑務所で出くわした道長に洗脳されていた言う人類浄化の会の連中は言葉も発さずどこまでも無表情でロボットのようだった。

だがこいつは不安げな表情を浮かべながら小さく聞き取りずらいが明らかに自分の意思でしゃべっている。

洗脳なんて都合のいいことを言って罪から逃げよって算段か?

俺のその問いに金城はフルフルと首を振った。

「人類浄化の会の皆みたいに意志をはく奪されていたわけじゃないの。秋保くんや司君みたいに思考誘導されてたわけでもない。私はあくまで自分の意思でここにいるの」

「一時的に罪悪感など負の感情を消す処置はしていましたよ」

道長がそう付け加えた。

「なら何でお前は道長と手を組んだ。これだけの事をしてまで道長に付き従うその理由は何だ?」

それが分からない、コイツまでも道長と同じように確固たる動機もなくこんなことをしたのか?

いや、そうは見えない。

だから問いたいいったい何がコイツを動かしたのか。

「ヒルは私にとって私の人生そのものなんです。いえ、これまでの人生がすべてヒルに与えられたもの。私のもとの人格は昔に死んだの。今から十三年前に」

十三年前、その年月にいったい何の意味があるのか?

記憶をたどってみていると答えは神山がすぐに発した。

「それは、百合が家族を失った事件の事を言ってるのね?」

金城はコクリと頷く。

「私の家はヒルの家みたいに特別な環境ってわけじゃないごく普通の家庭でした。ただ平和に暮らしていただけの。そんな日々が一変したのは一つの事故のせい」

そこまで語り彼女の顔からすっと表情がなくなった。

「一台のトラックが私の家に突っ込んできたんです。なんでそんなことになったのか当時の記憶はどうにもあいまいで理由はよく覚えていないです。たぶん居眠りかスピードの出しすぎだった気がします。その事故で唯一の家族だった両親は死に私も頭と顔に大きな傷を負い瀕死の状態になりました」

その時の傷を思い出したのか金城は自らの顔をさする。

「いつ死んでもいおかしくない私を救ってくれたのがヒルだった。ヒルはたまたま事故を見かけて重症の私の体に応急処置をして助けてくれたんです。ヒルはこの体を救ってくれました」

たまたまそこにいた?

随分と都合がいいことだと思った。

いや、むしろ今までの道長の行いを考えればその事故も道長の仕業と考えるべき。

いや、考えすぎだ当時道長もまだ五歳前後のはずそんなことできるわけない。

そう考えを否定したところで、新たな疑問がわいた。

「オイ、お前の命を救ったのは本当に道長か?」

そう、当時の道長はまだ子供。

そんな重症の人を救うような技術あるとは思えない。

疑念の目を俺から向けられた金城は少し目をそらした。

「正確には私の治療をしてくれたのはヒルの叔父さんです」

道長の叔父?

だが奴は過去の事件で家族をすべて失ったはず。

「自分の叔父にあたる人間は、医者ではないのですが人体科学の知識がありましたので治療をお願いしたんです」

「そのおかげで私は一命を取りとめました。傷ついた顔もヒルの母親に似せた整形のおかげで以前よりきれいな顔立ちにもなれました」

きれいな顔立ちになった。

そう語る金城の表情には喜びどころかより一層強い苦渋が刻まれた。

どれだけ美しくなろうとそんな自らがあずかり知らぬところで与えられた美に何の意味があるのかというように。

その美しさゆえに周囲からはたいそうもてはやされただろう、けれどしょせんそれはかりそめの自身の望まぬ称賛。

皆の称賛が彼女を苦しめたのだろう。

「その整形にも問題点はありました。自分のことを道長慶介と誤認する暗示が時間経過ともに薄れてしまったことにより、人々が少しずつ自分本来の顔を認識するようになってしまったのです。貴方方が感じていた自分の顔の変化はこれによるものです。また、金城百合と自分が似ていると認識したのも自分の本来の顔が母親似であったことが原因です」

再び補足を入れる道長だがその言葉は全く理解できないものだった。

「道長慶介はお前だろう?何を言ってる?」

意味が分からず聞き返す俺に道長は首を振る。

「いいえ。自分は道長慶介ではありません。アレはすでに殺しました。家族とともにです。自分は道長慶介の顔と立場をもらっただけですよ。それも今日で終わりです。道長慶介の役は今日でやめます」

最期の『やめる』はいったい誰に対する宣言だったのだろうか?

演じていた自分自身?

騙していた俺達?

それとも、ヒルを道長慶介と認めていた世界に対してだろうか?

とにかく、『やめる』という言葉が魔法の終わりだったのだろう。

クラリと揺れる世界、その目まいにも似た感覚。

けれど、不快感はまるでなくむしろ頭の中のもやが払われたかのような爽快感その奇妙な異変に戸惑いつつ再び道長たちに目を向けるとそこには異形なモノがいた。

ソレは頭の先からつま先まで暗幕を思わせる真っ暗なローブをかぶり、本来顔がのぞくであろう場所からは目を大きく見開いた若い男と思われる面がこちらを凝視していた。

仮面の異様さもさることながら体系すらもわからないほどゆったりとした黒いローブとのミスマッチさがよりその違和感を大きくしていた。

あの面たしか神体。

詳しくは知らないが確か神などを現す面だったはず。

けれど、その面自体も俺の知るものとは少し異なり。

肌の部分はペンキでも塗られたかのように白くその瞳は焼けるように赤かった。

あれでは神というより怪物。

もしくは死神のようだ。

何の冗談だと思う。

ついに俺までおかしくなったのかとそう思わずにはいられない中誰かが『化け物!』と叫んだ。

「この顔を見て言っているなら、これは面です。素顔は貴方方が先ほど見ていたものとは違いますが、人のものとそう変わりません」

その凶悪な外見とは裏腹の美しく、それでいて外見通りの冷たさが感じられる声は間違いなく道長慶介のものだった。

「お前道長なのか?」

「コスプレのような姿で申し訳ありません。ですが、貴方方に素顔は見せる気がないのでご了承ください。それと自分はもう道長慶介ではありません。とりあえずヒルと呼んでください」

「まったく、意味が分からない。本物の道長慶介は殺したといったな?それはいつだ?いつからすり替わっていた?」

「今から十三年ほど前なので、貴方たちと出会った時にはすでに入れ替わっています。金城百合も自分の素顔は知りません」

「いや、まてまて。それじゃ俺たちは始めっからお前に暗示をかけられてたというのか?馬鹿な。いったいどうやって」

そうだそんなことあるわけがない。

それが事実だというなら、今までコイツと出会ったすべての人間が暗示にかけられていたことになる。

そんなこと人間ができるわけない。

嘘だ嘘だと誰もが思う中、道長いやヒルはあっけらかんと言いのける。

「出来るからですよ。自分にはそれができます。ただそれだけです」

「お前人間か?」

認めたくがないゆえに、あまりに馬鹿々々しいがゆえに発言できなかった言葉を誰かが言った。

人間じゃない。

確かにコイツの行動は非人間的だだからといって人間ではないなんてことはありえない。

どれだけ信じられない事件を起こそうが、こんな死神のような恰好をしててもこいつは人間だ。

人間じゃなくちゃいけない。

なのに・・・。

「そうですね。人間じゃないです」

そんなバカげたことをまじめに返答しやがった。

「そんなことあるわけない!!」

新人警察官が叫び銃を構え直す。

「ですが、事実です」

「黙れ!」

絶叫と共に解き放たれる弾丸は見事に相手の心臓を貫いた。

そう、ヒルによって盾にされた金城百合の心臓を。

ヒルは力なく自らのほうへ倒れそうになる金城を受け止めるとゴミでも捨てるかのように俺たちのほうへと投げ飛ばした。

コンクリートでできた地面のごとりと頭から落ちた金城はうめき声さえ上げずその場に倒れたまま動かない。

どうやら即死のようだった。

「百合!!」

叫び声と共に押しのけられる体を立て直すと倒れ伏せる金城百合に駆け寄る神山の姿が見えた。

まずい、あの位置は。

そう、金城百合に近づくということはヒルに近づくのも同意、あの位置にいれば守ることなど不可能。

銃口はゆっくりと神山の頭に向けられる。

「よせ!道長!!」

銃を構え道長に一歩近づく。

もう、このまま押さえつけるしかない、そう決断したとき。

「こちらには来ないでください」

その一言で俺たち全員の足が止まる。

自らの意思じゃない、足が体が勝手に金縛りなったの如く動かなくなる。

「なんだ・・これは!」

びくともしない体に困惑していると金城の亡骸にすがっていた神山が声を荒げた。

「どうして!どうして百合を盾にしたの!貴方たちは仲間でしょ!!」

勢いこそ今にもとびかからんばかりだがその体はピクリとも動かない。

彼女も俺たちと同様に金縛りにあっているのだろう。



なぜだ、なぜ体が動かん!

この危機的な状況に頭のほうも全く回らなくなってきている。



「仲間ではありません。金城百合も響司も時見養護施設の人間たちも仲間だと思ったことはありません」

ヒルは非情にもそう言う。

「協力し合ってたんでしょ!!」

「違います。自分は願いをかなえてあげていただけです。響司には断罪事件という願いがあり、金城百合には自分の力になったのちに死にたいという願いがありそれをかなえてあげただけです」

「死にたい?百合が?」

「手術により一命をとりとめた彼女でしたが外的及び内的ショックによりアレの心は壊れてしまったのです。ですが心が壊れたままでは生きてはいけません。ですから自分が仮初の人格を与えてあげたんです、機械のように従順な無垢なる人格をです」

「そうやって金城を自分の言いなりにしたわけか」

反吐が出るような行為だ。

金城のしたことは許されるものではないが、もしすべてがコイツの掌の上だというのならある意味で彼女も被害者だ。

「いいえ。確かに、金城百合が自分に忠実になったことは否定しませんが本来の目的はそうではありません。アレに与えたのはいわば心の種です。あらゆる刺激を吸収して人格を取り戻すための、機構です。幸い記憶は損なわれていなかったので徐々にですがアレは自身の心を作っていくことができました」

「お前ならそんなまどろっこしい事しなくともはじめっから新しい心を与えることができたんじゃないのか?」

そんなことは普通ではありえないが今までのコイツの言動が本当だとするのならできないことはないはずだ。

だから俺は皮肉も込めてそう聞いた。

「はい、できます。ですがそれはやはり自分が作ったもので真の心ではありません。意味がないとは言いませんがせっかくなら偽りより本物のほうがいいと判断したんです。時間はかかるとは思っていましたがあの時見養護施設のおかげで思いのほか短時間で金城百合の心は育っていきました」

「えっ?」

はっとしたように神山が声を漏らした。

それにこたえるようにヒルもその燃え上がる仮面の瞳を神山に向けた。

あくまで銃を構えたまま。

「その施設で家族ともいえる友人を得たことで急速にアレの心は形を成してきたのです。やはり人間の成長には人間が欠かせないということですか。よかったですね神山京香貴方方職員の方針は間違っていなかったということです。事実、金城百合はあの日々を何よりも大切にしていました」

神山はその言葉に答えることはせず、いや答えることができず泣き出した。

身動きが取れないがゆえに肩を震わすこともできず泣き叫ぶ。

時折百合百合とすがるように名を呼びながら。

「ですが、心が育ったゆえの問題も発生しました。それが、自身の行いに対する罪の意識です。アレの心が育ったことは喜ばしいですが故にアレは自らの行いを悔い始め、すべてが終わった後には死を望むようになったのです。自分はその望みを叶えてあげたのです」

「そこまで追い詰められているとわかっていてお前は彼女を救わなかったのか?」

「救いなど求めていなかったので、仕方がありません」

そんな理由で、仲間の命を切り捨てられるものなのか?

わからない。

コイツのことが全く持って理解できない。

「君には感情がないの?」

しゃくり泣きをしながら訪ねる神山、その質問にヒルは首をかしげる。

「もちろんあります。貴方方の基準では測れないものですが」

この会話が一体何のきっかけだったのかはわからない、だがそう答えた後ヒルはこれで、すべてが終わったの如く引き金を引き、飛び出した弾丸は神山の頭蓋を貫いた。

先の金城と同じように力なく倒れる神山、その瞼はすでに閉じており、ちょうど額とこめかみの間から血が流れだしていた。

「お前、お前!!」

ヒルに怒りのまま叫び飛びかかろうとするも出るのは声ばかりで体のほうはやはり一ミリも動こうとはしない。

屈辱に無力感、そして怒りすら消えてしまいそうな絶望。

この訳のわからない圧倒的な存在に対してできることはなく、あまりのふがいなさに涙が出そうになる。

「皆さん激情に駆られていますね。他人のために、凄いです。ですが安心してください、動いたので撃ちはしましたが神山京香はまだ死んではいません。病院に運び適切な処置をすれば命は助かります。ですので、みなさん動いてください」

途端に軽くなる体、重力が消えたかのような浮遊感に倒れそうになりつつも後先など考えず神山のもとまで走る。

「オイ!しっかりしろ!」

呼びかけるがやはり意識はない様で、彼女の体は全く動かない。

ただ呼吸はしているようなのでとりあえず生きてはいるようだ。

同じく横に倒れている金城の脈も確認してみたがこちらはその生命活動を完全に終えているようだった。

神山の方は本当はすぐに何らかの処置をしたほうがいいのだろうが、撃たれている場所が頭だけに素人が手をうかつに出してもいいのかと躊躇ってしまう。

「動かしても大丈夫です。よほど無茶に揺さぶらない限りは今の容態を保てます」

そう話しかけるヒルはいつの間にか元いた場所より五メートルほど離れた場所に立っていた。

「動くな!そのまま手を挙げて跪くんだ!」

銃を構え、ヒルに警告する。

こんなものが役に立つのか不安になるが今はこれにすがるしかない。

「そんなことをするより早く、神山京香を病院に運ぶべきです」

「なんだ、心配か?自分で撃っておいて。安心しろ彼女はほかのメンバーが運ぶ。お前の相手は俺だけだ」

「岸野さん!それは!」

若手刑事が叫ぶ、心配してくれているのだろう。

その気持ちはうれしいが答えることはできない。

「いいからお前らは早く、神山を病院へ運べ。わかるだろう、誰かがアイツを捕まえないとならない。アイツは絶対に野放しにしてはダメなものだ。この中では俺が一番適任だ」

そう、経験的にも、立場的にも。

それに俺がこの中では一番生きてるしな。

「なら、俺も!」

「ダメだ!お前らは早く町へ戻れそしてほかの皆にも知らせろ!」

そう俺たちが言い争っていると、ヒルが冷静な声で話しかけてきた。

「岸野真人。残るのは貴方の勝手ですが、自分としては逃げることをお勧めします。気づいているのでしょう。この場に漂うオイルの匂いに」

確かに、以前は感じなかった異臭は気になっていたが。

「まさか・・・」

俺の血の気が引くのと同時にヒルは懐からライターを取り出す。

「急いで逃げないと死にます」

「逃げろ、逃げろー!!」

俺の言葉でみんな状況を察したのか、仲間たちは重症の神山を抱え上げ出口へと一目散に走りだした。

俺もその後に続く。

出口へ張る途中一度後ろを振り返った。

その時にはすでに火はつけられており炎の海の中にヒルがたたずんでいるのが見えた。





『みなさん~!!あけましておめでとうございま~す!!』

酒屋に設置されたTVから聞こえてきたのは新年を祝う声。

覗いてみれば袴を着たベテランのお笑い芸人が女性アナウンサーと共に笑顔でテレビに出ていた。

どうやら毎年恒例のお笑い番組のようだ。

「あいよ、1890円な」

主人が頼んでいた日本酒を持ってきたので俺は言われた金額を払うと店を出る。

今日は元日、新しい年の始まり。

町ゆく人たちは今年はいい年になるそう確信するかのようににぎやかだ。

そこには、三年前のあの淀んだ空気など感じさせない明るさがあった。

そう、気づけばすでにヒルの事件から三年の月日が流れていた。



あの日、例の工場に放たれた火は一晩中燃え続けた、オイルのせいで消火がなかなかできなかったためだ。

真っ黒に燃え尽きた焼け跡からは一体の焼死体が発見された。

それは検死の結果金城百合のものだということが判明した。

それ以外の遺体は発見されず、あのヒルと名乗った正体不明の殺人鬼の痕跡は全くつかむことができなくなってしまった。

今となってはアレが何だったのかは知るすべはない。

ヒルと共に同じ時間を過ごしたはずの林田、近衛、桐村そして響、彼らにも話は聞いたが道長慶介としてのヤツを知っていてもヒルとしてのヤツを知るものはいなかった。

アレの存在は今でも悪夢だと思いたいほどだ。



神山京香はあの後病院に緊急搬送された買いもあって一命はとりとめた。

しかし、脳に負ったダメージは大きく三年たった今でも意識は戻っていない。

このまま一生目を覚まさないことも十分あり得るそうだ。

今は家族の献身的な介護を受けながら三丸病院で眠りについている。

施設の子供たちもちょくちょく顔を出しているそうだ。

林田恵子とは事件の報告をした三年前以降会ってはいない。

そもそも親友二人に恩師を救えなかった俺の顔など彼女は見たくないだろうが。

彼女のが最後に見せたあの失望と怒りの顔は今も忘れることができない。

そんな彼女が来月には入籍するという話を夫になる秋瀬から聞いた。

その人生であらゆるものをなくしていった彼女がこれから先は彼と共に幸を得れる人生を築き上げれることを願うばかりだ。

桐村修、彼は恋人だった金城百合の死を長い事引きずっていたそうだが今は職も見つけ問題なく生活しているそうだ。

響司はその後司法による裁きが確定した。

彼はまだ未成年ではあったが起こした事件の大きさと事実上の主犯であるヒルが姿を消しその存在があまりにも信じがたいものであったため事件は全て響司の主導のもと行われたものとなり、死刑が確定してしまった。

彼もその判決に異議はなくすべてを受け入れるとのことだ。

『ゴミは消えるべき』その信念のもと彼は自身が消える道を選んだ。

けれど、いまだ謎が多くの頃あの事件その裁きが下されるのはまだ先になるだろう。

そして、近衛大志は今はもうこの町にはいない。

高校の卒業後、アルマゲドンを含めた自身の身辺整理を終えたのちこの町を去った。

理由は一つ、道長慶介、ヒルを探すことだという。

事情を知る誰もが止める中彼は言ってのけた。

『そうやって見放していったらアイツは本当に怪物になってしまう。アイツが人間として俺達といたことを俺たちの仲間で家族だったことを俺は知ってる。俺はあいつを探す』

そんな彼を止めることなどできるはずもなく、今もどこかでヤツを探しているのだろう。



「なんだ、前来たのは半年前なのにずいぶんきれいにされてるな。お前、家族も恋人もいないなんて言ってたが、嘘だったのか?」

先ほど買ってきた酒を開け持参してきたお猪口に入れる。

「ほらおまえの分だ。飲みに行こうって約束しながら結局行く機会がなかったからな、今日は俺のおごりだ」

一気に酒をあおると少し甘いフルティーな味わいが口に広がった。

うん、なかなかいい酒のようだ。

「次はお前のおごりだぞ。そっちに酒なんかあるか知らないが、無理でも用意しろ。上司からの命令だ」

そんな冗談を交わし俺は一人笑う。

「ここは寒いな澄乃。一人だけこんな場所に置いてきてすまないな。・・・すぐに行くわけにはいかないが俺もいずれ。それまでは精一杯生きるつもりだ、たとえどんなことがっても。今ここにいるんだから」

遠くからは町ゆく人の笑い声がかすかに聞こえる。

楽しそうなうれしそうなそんな声が。

人々のそんな声を聴きながら俺はもう一口酒をあおるのだった。





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