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受けの誕生日に攻めがおねだりする話
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しおりを挟む風呂から上がると兎麻は既に上がっていて、夕食の膳を整えていた。
すみません。と謝ると、今日は智が主役だよ、と優しい声で言われた。
最初に勧められたのは、飲み口の優しいレモンの発泡酒。
「お、わ」
普通にジュースのようだ、と思ったら後味から耳がボワッとなった。
「すご、これがアルコール?」
「智、本当に初めて?」
「ええ、はい。」
すごいな、家でも飲んでなかったの?と不思議そうに笑われた。
兎麻の家は芸能一家で、一つの流派の束ねている。
来客も多く、大きな会や季節ごとの行事では会食もあり、時々無礼講的に相伴させられるのだそうだ。
ジュースと間違えて飲んでたよ、と笑ったが、こんなものを間違えるはずない。
「兎麻さんは、強いんですか?」
「弱くはないと思うよ。ふつうに酔っ払うけどね」
ふつうに酔っ払うってどういうことなんだろ?首を傾げた。
「脱いだり泣き出したりしないってこと。記憶を無くしたこともないし、シラフみたいな顔して、実は酔ってましたってこともないよ」
ふーん、とよくわからないまま、頷くと、ふふふ、と超絶に色っぽい笑いをされた。
恥ずかしくなって困って目を逸らすと、ぐい、と体を寄せて来た。
「とも、めちゃくちゃ可愛い」
「な、に、言って」
「赤くなって。あんまり強くないのかもね。酔っ払い、見たことないの?ご両親はあまり飲まない?」
「家の中ではあんまり。お正月ぐらいかな」
「晩酌とかしないんだ。うちはね、母親の方が強いんだ。
会食の時は母親は裏方だからあまり飲まないけど、家族の行事の時におつまみ作るのは父親の方なんだよ」
へえ、と驚いた。女の人がお酒が強いなんて思わなかった。
「一人一人呼んで説教されるからけっこう大変なんだよ」
「兎麻さんもされるんですか?」
「僕はあんまりね。兄弟で逃げ損ねたやつが僕を呼ぶから、とばっちりは受けるけど」
と言いながら、また注いでくれた。
とばっちり、とか、どういうことなんだろ?
一人っ子の智には想像もつかない。
「兎麻さんのおうちは、いつも賑やかなんですね」
「そうだねぇ、人の出入りも多いし、兄弟も多いしね。弟なんかは家を出ちゃったけど、妹たちは高校生だし、女の子2人いると賑やかだよ。いつもいつも」
楽しそうに笑いながら兎麻が言った。
京の周りは賑やかだ。
「だから、智のお家の静かな感じ、落ち着いて好きだよ」
柔らかく頭を撫でながら言われて、ふと、思い出した。
んー、と少し目を瞑って、記憶を探した。
「えー、と、ユウくん」
びく、と兎麻の手が止まった。
「お隣の、幼馴染ですよね」
以前、智に似てる、と愛おしそう言っていた。
きっと彼が初恋なのだ、と智は思った。
話に聞いた彼は智と少し境遇が似ていた。
家で一人でいる彼を放っておけなかった、と兎麻が話してくれた。
その時に気づいてしまった。
ああ、彼が初めて懐にいれて守りたいと思ったのは。
今でも隣に住んでいるけど、仲がいいのは兎麻の弟だという。
交際してるのかどうかわからないけど、ユウくんが選んだのは兎麻ではなく弟で。
苦くて切ない思いがあるのだろうな、と思った。
なんとなく、彼の境遇は自分と似ていて。
家に帰ると1人になるから、兎麻の家に入り浸っていたり、料理が少しできたり。
彼の影の上に、智を重ねているような気がする。
兎麻の好みというのは自分じゃなくて彼なのでは。
「その方の、お家に似てるんですよね」
少し笑っていった。気にしてない、と装って。
「兎麻さんの、初恋のひと?」
ちょっとだけ踏み込みたくて、そんなことを言った。
傷つけたいわけじゃない。
ちょっとだけ。
ほんのちょっとだけ、兎麻のことを知りたかった。
たとえそれが、自分を傷つけることであっても。
コツン、と兎麻が持っていた杯を置いた。
あ。
智は首を竦めた。
だめだったんだ。
やっぱり踏み込んではいけなかった。
ごめんなさい、と言おうとして、唇が震えた。
「違うよ」
硬い声で言われて、兎麻を見た。
「家族以外で初めて大事にしたいと思ったのは、そうだけど。だけど恋じゃない」
笑いのない平坦な声で言われて、智は怯えて目線を下にずらした。
「こんな恋を知っちゃったら、あんな気持ちが恋なんて言えない」
兎麻は智を、そう言って抱き寄せた。
「好き。智。大好き」
熱に浮かされたように兎麻は言った。
「もっと疑っていいよ。僕のこと。その度にこうやって言える。どんなに大事か。どれだけ特別か」
「もっとわがままになって。もっと困らせて。どうやったら、智の想いに応えられるのか、もっと僕を悩ませて。四六時中智のことだけ考えていたい。やっちゃいけないのは、僕の隣を誰かに譲ることだ。想像するだけでもダメだよ。もし、僕の隣が自分じゃなければ、なんて」
見透かされているようで心臓が縮んだ。いつもどこか頭の片隅にある思い。
あのころ、自分が現れなければ。
追いつけない、世界が違う、と打ちのめされるたびに何度でも思う。
もし、なんて仮定の話。
それでも、兎麻が選んだのは自分だったのだから。こうやって胸に抱きすくめて、縋り付くように愛を囁かれるのは自分なのだから。
ああ、と思って、彼の背中を握りしめた。
ずっとこうしていたい。
この静かな家で、静かな山の中で、2人きりで過ごせたら、誰の目も気にしなくていい。
ありのままの自分と、ありのままの兎麻だけで。
お互いを見つめ合って過ごせるのに。
兎麻が優しく、背中を撫でてくれた。
無言の仕草が智の思いを掬い上げてくれる。押し寄せて来た不安と切なさの波が引くと、ふ、と力が抜けた。
「僕も、大好き」
ちょっとだけで眉を寄せて、切なそうに兎麻が微笑んでくれた。
「こういう智、大好き。言葉にできなくて、それでもちゃんと伝えてくれる。言葉なんて軽くて、智の気持ちに比べたら嘘みたいに軽い」
伝わっていたことが気恥ずかしく、嬉しくて俯いた。
「でも、僕は言葉で伝えたいんだ。嘘っぽく聞こえるのに、言葉にしたい。
ほんとはね。もっともっと言いたい。
学校でも家でも。僕の恋人はめちゃくちゃ可愛くてエロくて、不器用だけど一生懸命で、そういうところがかっこよくて、凛としてるけどエロいんだって」
エロが多い。
それは言ってほしくない。
兎麻のエロ眼鏡がかかりすぎて、ドン引きだ。
「僕のものになってくれてありがとう。智。生まれてきてくれてありがとう」
ああ、なんて、この人は。
こんなふうに包み込んでくれるのだろう。誰も慈しんでくれる人なんていなかったのに。それがふつうだと思って、愛されないことに、邪険にされることに慣れようとしていたのに。
思わず涙が出て、手の甲で抑えた。
「見せて」
兎麻が智の手首を握って顔を覗き込んだ。
「泣いてるね、可愛い智」
ちゅ、と涙を吸われた。
「僕のことばが嬉しかったの?」
うん、と頷くと、
「はあ、食べちゃいたい」
と熱いため息と共に言われた。
どうせ、食べるくせに。
「でも、今日はまだ、我慢。まだ食べ始めたばっかりだし、やりたいこといっぱいあるし」
珍しく我慢を自分に強いる兎麻だった。
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