《完結済み》記憶喪失になったボク。お見舞いに来た「恋人」を名乗るギャル姉と「幼なじみ」清楚系妹の秘密を知ってしまったみたいです。

黒羽あかり

文字の大きさ
5 / 17

第5話

しおりを挟む
 ボクたちはグラウンドへ続く、トタン屋根の廊下を歩いていた。

「ど、どうしよう……」

「これで、なぎさくんとふたりきり~」

 ホノカさんを心配しているボクと違って、マリンさんは凄く嬉しそうに先導してくれる。痛いほどの力で手を握られているせいで、逃れることは出来ない。

「ようやくデートができる~。邪魔者がいなくなって良かった。これで、イチャイチャして、渚くんのハートを鷲掴わしづかみにすれば……うふふ」

 作戦が全部口から漏れているじゃないか。どうしよう、かなりヤバいことになった気がするけど……

「あ、あの……そういえば、さっき言っていたバビロンって何ですか?」

「気にしないの~」

 マリンさんに手を引かれて歩いていく。屋外は食べ物の出店がたくさん出ていた。いたるところから美味しそうな匂いが香り、ボクの食欲を誘う。
 ぐぅ~
 静かにボクのお腹が鳴る。病院食、あまり美味しくなかったからな。何か食べたい。
 ホノカさんとはぐれちゃったけど、我慢できない。

「あの、ボク何か食べたいんですけど……」

「何食べる? タコ焼きとか、焼きそばとか、お好み焼きとか?」

 全部ソースかよ。

「まぁ、何でもいいよ。アタシもお腹空いてたし。渚くんに、優しく『あ~ん♡』して食べさせてあげるから」

「け、結構です……」

「え~アタシも渚くんにしてもらいたかったのに」

「や、やめてくださいよ。恥ずかしいですから。それに、色んな人に見られるし、誤解されても困りますし……」

「見せつけちゃお?」

 ボクにそんな度胸は無い。ただでさえ、マリンさんと一緒に歩くのも恥ずかしいのに。

「……俺と一緒に学園祭、楽しもうぜ?」

 その時、制服が違う女の子にナンパしている学生を発見する。金髪でピアスをしていてチャラそう。なんか、ズボンにチェーン着けているし。それに、背も高いし、イケメンだし、モデルみたいなオーラも……ただ、やっていることがなぁ。

「あ、あの、友達と楽しむので……」

 女の子が見るからに嫌そうな表情を浮かべ、少し引き気味にお断りする。

「えっ⁉ そこをなんとかっ!」

 うわぁ……頭下げている。ダサい……というか、見ていて凄く醜い。絶対にあんな人間にはなりたくないと思わせられる。

「も、もう行くんで」

「ああっ、待って!」

 その時、立ち去ろうとする女の子の手を、彼が握りしめる。

「きゃっ‼ 来ないでください! 気持ち悪い! 変態!」

 その刹那、パンッと乾いた音が、微かに聞こえた。
 思いっきりビンタされている。見ているだけで、痛みが伝わってくる。

「ふげっ」

 男が痛そうに頬を抑える。そして、女の子が去っていき、彼だけが取り残されていた。その下を向いてただずむ姿からは、哀愁が漂う。

「はぁ、これで、25敗目か。次こそ……あっ! たかちゃん!」

 さっきのナンパに大失敗した彼が手を振って、笑顔でボクたちの方にやって来る。『たかちゃん』とか言っているし、まさかの知り合いかよ……

「びっくりしたよ。まさか、入院するなんてな~。それと、見舞い行けなくてごめんな? 生徒会が忙しくってよ……」

 彼が馴れ馴れしくボクの肩を叩く。

「あ、あの……どちら様ですか?」

「たかちゃんが敬語⁉ そんな……俺とお前は、もう親愛なるダチではなくなったのか?」

「おい、勅使河原てしがわら。渚くんを困らせるなよ。早く去れ」

「ひ、姫野ひめのセンパイ……」

 ボクの隣にいたマリンさんに気が付くと、彼が動揺しているのか目線を逸らす。

「コイツは常に欲に溺れ、女の子たちから『カス男』とゴミ扱いされ、渚くんのがんとも呼べる存在だ。絶対に関わらない方が良い」

 マリンさんが汚物をみるような目でさげすむ。どんだけ嫌われているんだ……

「ちょ、ちょっと⁉ 何てこと言うんですか!」

「なに? アタシに逆らうの?」

「は、はい……すみません」

 彼が怯えるように声を震わせ、頭を下げてマリンさんに謝る。

「あ、あの、勅使河原くん……だっけ? ボクとは、どういう関係なんですか?」

「……え?」

 頭を上げると、きょとんとした表情でボクを見てくる。

「あのね……渚くん、記憶なくなっちゃったの……だから、勅使河原は帰れ」

「しれっと、俺のこと邪魔者扱いっすか……でも、マジかよ。たかちゃん、俺としたあんなことやこんなことも一つも覚えてないのか?」

「あ、あんなことや、こんなこと?」

「やっぱり……こうなったら、一から教えてやろう。たかちゃんは俺に仕える忠実な下僕で、『クリームパンを買って来い!』と言えば、すぐに動いて……」

「嘘を吐くな」

「ぐわあああっ!」

 彼の言葉の途中に、マリンさんが彼の頭に鉄拳を振りかざす。とっさに頭を庇おうとした勅使河原くんだったが、間に合わずに鈍い音をたてて、悶絶しながら倒れこむ。

「よし。じゃあ、行こっか♡」

 さっきのことが無かったように、マリンさんが可愛らしい笑顔を一瞬向けて、ボクの手を引き暴力事件現場から立ち去ろうとする。いや、ダメだろ。周りからめっちゃ視線感じるし。

「……やっぱ、姫野センパイの拳は効きますね」

 勅使河原くんがひょいっと起き上がり、何事も無かったように話し始める。

「だ、大丈夫?」

「ああ、平気だよ。いつものことだし」

 これで平常運転だったのか。だったら、さっきのマリンさんが浮かべた笑顔も、何か裏がありそうで怖くなってきた。

「あっ、そうだ。たかちゃん、あれ出ない?」

 勅使河原くんが壁に貼られたポスターを指差す。

「腕相撲トーナメント?」

「そう。生徒会でやる出し物で、参加人数足りなくて困ってたんだよね。集まんないと、また会長に嫌味言われっから」

 勅使河原くんがボクの肩を掴んで、逃がしてくれない。ど、どうしよう……

「む、無理だよ! 退院明けに参加するものじゃないよ!」

「まぁ、確かに」

 ボクの肩から手が離れる。よかった、理解してくれたのかな。

「アタシが出よっか?」

「だ、ダメっすよ……姫野センパイが出たら、結果見えちゃうじゃないですか。それに、今回は学内の生徒だけの参加なんで。色々面倒だし」

「え~アタシの活躍、渚くんも見たいよね?」

 ボクに同意を求められても困る。

「ダメっすよ。去年のせいで、姫野センパイは出禁です」

「え~だったら、渚くん代わりに出て?」

「さっきと何も変わってないじゃないですか!」

「たかちゃん、ここに名前を記入するだけでいいから、ね?」

 勅使河原くんが不気味な笑顔を作り、参加シートとペンを見せつけてくる。そんな、怪しい勧誘みたいにしなくていいから。

「お姉ちゃん……」

「げっ、ホノカ⁉」

 2人の圧に押されて困っていると、色々探しまわっていたのか、息を切らしている。

 よ、ようやく解放される……

「あ~姫野。ちょうど良かった。あれ出てくんね? お前、力強いし」

 勅使河原くんが再度ポスターを指差す。

「え~自分で出ればいいでしょ。それより、ウチはお姉ちゃんに話があるの!」

「俺は生徒会なんだよ。だから頼む! お前にはクラスの出し物のシフト変わってやったろ? 数多の女子の誘いを断って、女装までしてやったんだぞ。それに貸しも……な?」

 勅使河原くんが必死に頭を下げる。そんなお願いにホノカさんが戸惑う。

「そ、それを言われると……わかった。出てあげる。今回だけだからね?」

「え~じゃあ、アタシも出たいな。ホノカ、ボコボコにしたいし」

 どんな姉妹だよ。仲が良いのか、悪いのかよく分からない。

「姫野センパイはダメです……じゃあ、この参加シートに名前書いて」

「はぁ……」

 ホノカさんから溜め息が漏れる。参加シートを受け取って、すらすらとペンで記入していく。

「ナギくん、お願いがあるんだけど……」

 突然、手を止めてホノカさんがボクに話しかけてくる。

「なんですか?」

「あの……ウチの時だけ、見ないで欲しいの」

「どうして? ボク、応援しよう思っていたけど」

「ど、どうしても!」

 強い口調でボクにお願いしてくる。

 きっと、すぐに負けちゃうのが恥ずかしいからかな?

「あっ、それとお姉ちゃん。さっき、志島しじまさんが探してたよ。鬼の形相で、『どこにいるんじゃ~』って。もうすぐ、ここに来るかも」

「嘘⁉ さぁ、渚くん。愛の逃避行とうひこうを進むのよ!」

 マリンさんがまたボクの手を取る。しかし、さっきと違って彼女の掴む手が震えていた。

「ど、どうしたんですか?」

「説明している暇は無いの。志島はマズい……早く逃げましょう!」

「あっ、ま、待ってくださいよ」

「もう、お姉ちゃん!」

 どれだけ振り回されるんだろ……こうしてボクはマリンさんに連れられて、校舎へと入っていった。ボク、お腹空いたんだけど……
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

俺をフッた幼馴染が、トップアイドルになって「もう一度やり直したい」と言ってきた

夏見ナイ
恋愛
平凡な大学生・藤堂蓮には忘れられない過去がある。高校時代、告白した幼馴染の星宮瑠奈に「アイドルになるから」とこっ酷くフラれたことだ。 数年後、瑠奈は国民的アイドル『LUNA』として輝いていた。遠い世界の住人になった彼女との再会なんて、あるはずもなかった――そう、変装した彼女が俺の前に現れ、「もう一度やり直したい」と泣きつくまでは。 トップアイドルの立場を使い強引に迫る元幼馴染と、過去の傷。揺れ動く俺の日常を照らしてくれたのは、俺の才能を信じてくれる後輩・朝霧陽葵の存在だった。 俺をフッた幼馴染か、俺を支える後輩か。過去の清算と未来の選択を描く、ほろ苦くも甘い、逆転ラブコメディ、開幕。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

10年引きこもりの私が外に出たら、御曹司の妻になりました

専業プウタ
恋愛
25歳の桜田未来は中学生から10年以上引きこもりだったが、2人暮らしの母親の死により外に出なくてはならなくなる。城ヶ崎冬馬は女遊びの激しい大手アパレルブランドの副社長。彼をストーカーから身を張って助けた事で未来は一時的に記憶喪失に陥る。冬馬はちょっとした興味から、未来は自分の恋人だったと偽る。冬馬は未来の純粋さと直向きさに惹かれていき、嘘が明らかになる日を恐れながらも未来の為に自分を変えていく。そして、未来は恐れもなくし、愛する人の胸に飛び込み夢を叶える扉を自ら開くのだった。

【完結】好きって言ってないのに、なぜか学園中にバレてる件。

東野あさひ
恋愛
「好きって言ってないのに、なんでバレてるんだよ!?」 ──平凡な男子高校生・真嶋蒼汰の一言から、すべての誤解が始まった。 購買で「好きなパンは?」と聞かれ、「好きです!」と答えただけ。 それなのにStarChat(学園SNS)では“告白事件”として炎上、 いつの間にか“七瀬ひよりと両想い”扱いに!? 否定しても、弁解しても、誤解はどんどん拡散。 気づけば――“誤解”が、少しずつ“恋”に変わっていく。 ツンデレ男子×天然ヒロインが織りなす、SNS時代の爆笑すれ違いラブコメ! 最後は笑って、ちょっと泣ける。 #誤解が本当の恋になる瞬間、あなたもきっとトレンド入り。

Blue Bird ―初恋の人に再会したのに奔放な同級生が甘すぎるっ‼【完結】

remo
恋愛
「…溶けろよ」 甘く響くかすれた声と奔放な舌にどこまでも落とされた。 本宮 のい。新社会人1年目。 永遠に出来そうもない彼氏を夢見つつ、目の前の仕事に奮闘中。 なんだけど。 青井 奏。 高校時代の同級生に再会した。 と思う間もなく、 和泉 碧。 初恋の相手らしき人も現れた。 幸せの青い鳥は一体どこに。 【完結】 ありがとうございました‼︎

まずはお嫁さんからお願いします。

桜庭かなめ
恋愛
 高校3年生の長瀬和真のクラスには、有栖川優奈という女子生徒がいる。優奈は成績優秀で容姿端麗、温厚な性格と誰にでも敬語で話すことから、学年や性別を問わず人気を集めている。和真は優奈とはこの2年間で挨拶や、バイト先のドーナッツ屋で接客する程度の関わりだった。  4月の終わり頃。バイト中に店舗の入口前の掃除をしているとき、和真は老齢の男性のスマホを見つける。その男性は優奈の祖父であり、日本有数の企業グループである有栖川グループの会長・有栖川総一郎だった。  総一郎は自分のスマホを見つけてくれた和真をとても気に入り、孫娘の優奈とクラスメイトであること、優奈も和真も18歳であることから優奈との結婚を申し出る。  いきなりの結婚打診に和真は困惑する。ただ、有栖川家の説得や、優奈が和真の印象が良く「結婚していい」「いつかは両親や祖父母のような好き合える夫婦になりたい」と思っていることを知り、和真は結婚を受け入れる。  デート、学校生活、新居での2人での新婚生活などを経て、和真と優奈の距離が近づいていく。交際なしで結婚した高校生の男女が、好き合える夫婦になるまでの温かくて甘いラブコメディ!  ※特別編7が完結しました!(2026.1.29)  ※小説家になろうとカクヨムでも公開しています。  ※お気に入り登録、感想をお待ちしております。

クラスで3番目に可愛い無口なあの子が実は手話で話しているのを俺だけが知っている

夏見ナイ
恋愛
俺のクラスにいる月宮雫は、誰も寄せ付けないクールな美少女。そのミステリアスな雰囲気から『クラスで3番目に可愛い子』と呼ばれているが、いつも一人で、誰とも話さない。 ある放課後、俺は彼女が指先で言葉を紡ぐ――手話で話している姿を目撃してしまう。好奇心から手話を覚えた俺が、勇気を出して話しかけた瞬間、二人だけの秘密の世界が始まった。 無口でクール? とんでもない。本当の彼女は、よく笑い、よく拗ねる、最高に可愛いおしゃべりな女の子だったのだ。 クールな君の本当の姿と甘える仕草は、俺だけが知っている。これは、世界一甘くて尊い、静かな恋の物語。

陰キャ幼馴染に振られた負けヒロインは俺がいる限り絶対に勝つ!

みずがめ
恋愛
★講談社ラノベ文庫新人賞佳作を受賞しました!  杉藤千夏はツンデレ少女である。  そんな彼女は誤解から好意を抱いていた幼馴染に軽蔑されてしまう。その場面を偶然目撃した佐野将隆は絶好のチャンスだと立ち上がった。  千夏に好意を寄せていた将隆だったが、彼女には生まれた頃から幼馴染の男子がいた。半ば諦めていたのに突然転がり込んできた好機。それを逃すことなく、将隆は千夏の弱った心に容赦なくつけ込んでいくのであった。  徐々に解されていく千夏の心。いつしか彼女は将隆なしではいられなくなっていく…。口うるさいツンデレ女子が優しい美少女幼馴染だと気づいても、今さらもう遅い! ※他サイトにも投稿しています。 ※表紙絵イラストはおしつじさん、ロゴはあっきコタロウさんに作っていただきました。

処理中です...