《完結済み》記憶喪失になったボク。お見舞いに来た「恋人」を名乗るギャル姉と「幼なじみ」清楚系妹の秘密を知ってしまったみたいです。

黒羽あかり

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第5話

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 ボクたちはグラウンドへ続く、トタン屋根の廊下を歩いていた。

「ど、どうしよう……」

「これで、なぎさくんとふたりきり~」

 ホノカさんを心配しているボクと違って、マリンさんは凄く嬉しそうに先導してくれる。痛いほどの力で手を握られているせいで、逃れることは出来ない。

「ようやくデートができる~。邪魔者がいなくなって良かった。これで、イチャイチャして、渚くんのハートを鷲掴わしづかみにすれば……うふふ」

 作戦が全部口から漏れているじゃないか。どうしよう、かなりヤバいことになった気がするけど……

「あ、あの……そういえば、さっき言っていたバビロンって何ですか?」

「気にしないの~」

 マリンさんに手を引かれて歩いていく。屋外は食べ物の出店がたくさん出ていた。いたるところから美味しそうな匂いが香り、ボクの食欲を誘う。
 ぐぅ~
 静かにボクのお腹が鳴る。病院食、あまり美味しくなかったからな。何か食べたい。
 ホノカさんとはぐれちゃったけど、我慢できない。

「あの、ボク何か食べたいんですけど……」

「何食べる? タコ焼きとか、焼きそばとか、お好み焼きとか?」

 全部ソースかよ。

「まぁ、何でもいいよ。アタシもお腹空いてたし。渚くんに、優しく『あ~ん♡』して食べさせてあげるから」

「け、結構です……」

「え~アタシも渚くんにしてもらいたかったのに」

「や、やめてくださいよ。恥ずかしいですから。それに、色んな人に見られるし、誤解されても困りますし……」

「見せつけちゃお?」

 ボクにそんな度胸は無い。ただでさえ、マリンさんと一緒に歩くのも恥ずかしいのに。

「……俺と一緒に学園祭、楽しもうぜ?」

 その時、制服が違う女の子にナンパしている学生を発見する。金髪でピアスをしていてチャラそう。なんか、ズボンにチェーン着けているし。それに、背も高いし、イケメンだし、モデルみたいなオーラも……ただ、やっていることがなぁ。

「あ、あの、友達と楽しむので……」

 女の子が見るからに嫌そうな表情を浮かべ、少し引き気味にお断りする。

「えっ⁉ そこをなんとかっ!」

 うわぁ……頭下げている。ダサい……というか、見ていて凄く醜い。絶対にあんな人間にはなりたくないと思わせられる。

「も、もう行くんで」

「ああっ、待って!」

 その時、立ち去ろうとする女の子の手を、彼が握りしめる。

「きゃっ‼ 来ないでください! 気持ち悪い! 変態!」

 その刹那、パンッと乾いた音が、微かに聞こえた。
 思いっきりビンタされている。見ているだけで、痛みが伝わってくる。

「ふげっ」

 男が痛そうに頬を抑える。そして、女の子が去っていき、彼だけが取り残されていた。その下を向いてただずむ姿からは、哀愁が漂う。

「はぁ、これで、25敗目か。次こそ……あっ! たかちゃん!」

 さっきのナンパに大失敗した彼が手を振って、笑顔でボクたちの方にやって来る。『たかちゃん』とか言っているし、まさかの知り合いかよ……

「びっくりしたよ。まさか、入院するなんてな~。それと、見舞い行けなくてごめんな? 生徒会が忙しくってよ……」

 彼が馴れ馴れしくボクの肩を叩く。

「あ、あの……どちら様ですか?」

「たかちゃんが敬語⁉ そんな……俺とお前は、もう親愛なるダチではなくなったのか?」

「おい、勅使河原てしがわら。渚くんを困らせるなよ。早く去れ」

「ひ、姫野ひめのセンパイ……」

 ボクの隣にいたマリンさんに気が付くと、彼が動揺しているのか目線を逸らす。

「コイツは常に欲に溺れ、女の子たちから『カス男』とゴミ扱いされ、渚くんのがんとも呼べる存在だ。絶対に関わらない方が良い」

 マリンさんが汚物をみるような目でさげすむ。どんだけ嫌われているんだ……

「ちょ、ちょっと⁉ 何てこと言うんですか!」

「なに? アタシに逆らうの?」

「は、はい……すみません」

 彼が怯えるように声を震わせ、頭を下げてマリンさんに謝る。

「あ、あの、勅使河原くん……だっけ? ボクとは、どういう関係なんですか?」

「……え?」

 頭を上げると、きょとんとした表情でボクを見てくる。

「あのね……渚くん、記憶なくなっちゃったの……だから、勅使河原は帰れ」

「しれっと、俺のこと邪魔者扱いっすか……でも、マジかよ。たかちゃん、俺としたあんなことやこんなことも一つも覚えてないのか?」

「あ、あんなことや、こんなこと?」

「やっぱり……こうなったら、一から教えてやろう。たかちゃんは俺に仕える忠実な下僕で、『クリームパンを買って来い!』と言えば、すぐに動いて……」

「嘘を吐くな」

「ぐわあああっ!」

 彼の言葉の途中に、マリンさんが彼の頭に鉄拳を振りかざす。とっさに頭を庇おうとした勅使河原くんだったが、間に合わずに鈍い音をたてて、悶絶しながら倒れこむ。

「よし。じゃあ、行こっか♡」

 さっきのことが無かったように、マリンさんが可愛らしい笑顔を一瞬向けて、ボクの手を引き暴力事件現場から立ち去ろうとする。いや、ダメだろ。周りからめっちゃ視線感じるし。

「……やっぱ、姫野センパイの拳は効きますね」

 勅使河原くんがひょいっと起き上がり、何事も無かったように話し始める。

「だ、大丈夫?」

「ああ、平気だよ。いつものことだし」

 これで平常運転だったのか。だったら、さっきのマリンさんが浮かべた笑顔も、何か裏がありそうで怖くなってきた。

「あっ、そうだ。たかちゃん、あれ出ない?」

 勅使河原くんが壁に貼られたポスターを指差す。

「腕相撲トーナメント?」

「そう。生徒会でやる出し物で、参加人数足りなくて困ってたんだよね。集まんないと、また会長に嫌味言われっから」

 勅使河原くんがボクの肩を掴んで、逃がしてくれない。ど、どうしよう……

「む、無理だよ! 退院明けに参加するものじゃないよ!」

「まぁ、確かに」

 ボクの肩から手が離れる。よかった、理解してくれたのかな。

「アタシが出よっか?」

「だ、ダメっすよ……姫野センパイが出たら、結果見えちゃうじゃないですか。それに、今回は学内の生徒だけの参加なんで。色々面倒だし」

「え~アタシの活躍、渚くんも見たいよね?」

 ボクに同意を求められても困る。

「ダメっすよ。去年のせいで、姫野センパイは出禁です」

「え~だったら、渚くん代わりに出て?」

「さっきと何も変わってないじゃないですか!」

「たかちゃん、ここに名前を記入するだけでいいから、ね?」

 勅使河原くんが不気味な笑顔を作り、参加シートとペンを見せつけてくる。そんな、怪しい勧誘みたいにしなくていいから。

「お姉ちゃん……」

「げっ、ホノカ⁉」

 2人の圧に押されて困っていると、色々探しまわっていたのか、息を切らしている。

 よ、ようやく解放される……

「あ~姫野。ちょうど良かった。あれ出てくんね? お前、力強いし」

 勅使河原くんが再度ポスターを指差す。

「え~自分で出ればいいでしょ。それより、ウチはお姉ちゃんに話があるの!」

「俺は生徒会なんだよ。だから頼む! お前にはクラスの出し物のシフト変わってやったろ? 数多の女子の誘いを断って、女装までしてやったんだぞ。それに貸しも……な?」

 勅使河原くんが必死に頭を下げる。そんなお願いにホノカさんが戸惑う。

「そ、それを言われると……わかった。出てあげる。今回だけだからね?」

「え~じゃあ、アタシも出たいな。ホノカ、ボコボコにしたいし」

 どんな姉妹だよ。仲が良いのか、悪いのかよく分からない。

「姫野センパイはダメです……じゃあ、この参加シートに名前書いて」

「はぁ……」

 ホノカさんから溜め息が漏れる。参加シートを受け取って、すらすらとペンで記入していく。

「ナギくん、お願いがあるんだけど……」

 突然、手を止めてホノカさんがボクに話しかけてくる。

「なんですか?」

「あの……ウチの時だけ、見ないで欲しいの」

「どうして? ボク、応援しよう思っていたけど」

「ど、どうしても!」

 強い口調でボクにお願いしてくる。

 きっと、すぐに負けちゃうのが恥ずかしいからかな?

「あっ、それとお姉ちゃん。さっき、志島しじまさんが探してたよ。鬼の形相で、『どこにいるんじゃ~』って。もうすぐ、ここに来るかも」

「嘘⁉ さぁ、渚くん。愛の逃避行とうひこうを進むのよ!」

 マリンさんがまたボクの手を取る。しかし、さっきと違って彼女の掴む手が震えていた。

「ど、どうしたんですか?」

「説明している暇は無いの。志島はマズい……早く逃げましょう!」

「あっ、ま、待ってくださいよ」

「もう、お姉ちゃん!」

 どれだけ振り回されるんだろ……こうしてボクはマリンさんに連れられて、校舎へと入っていった。ボク、お腹空いたんだけど……
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