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第二章
第13話 放課後の風庭
しおりを挟むその日の授業が終わると、リクは教室の窓の外を眺めた。
学院の裏手に広がる中庭――「風庭(ふうてい)」と呼ばれる場所がある。
四方を白い回廊で囲まれた静かな空間で、中央には大きな風車の柱がそびえている。
穏やかな風が絶えず吹き抜け、学生たちが休憩や練習に使う場所だ。
「ねえ、リク。行ってみようよ」
隣で声をかけたのはルーアだった。
入学してまだ数日なのに、彼はもうすっかりリクに馴染んでいた。
その明るさと人懐っこさが、風のように周りの空気を柔らかくする。
「いいけど……人、多くない?」
「大丈夫。あの辺は静かだよ。ほら、あっち」
二人は並んで中庭へ向かった。
放課後の陽射しが傾き、芝の上を淡い金色に染める。
風車の回転音が心地よく響き、花の香りが混ざって流れていた。
「ここ、すごく落ち着くね」
「でしょ? うさぎ族は風と土が好きなんだ。ここにいると、心が軽くなる」
「……ぼくも、そんな気がする」
リクは両手を伸ばし、吹き抜ける風を受けた。
髪が揺れ、頬を撫でる感触が優しい。
ふと、ルーアが口元をゆるめた。
「リク、最初の授業のとき……本当にかっこよかった」
「えっ……あの、失敗したときの?」
「うん。でも、言い返したでしょ。“ぼくは風を感じてる”って。あれ、すごかった」
リクは少し照れくさそうに笑った。
「そんなに……格好よくはなかったよ」
「いや、あれ見て思ったんだ。リクはちゃんと“この国の風”と話してるんだって」
ルーアの声は穏やかで、真っ直ぐだった。
誰も信じてくれなかった“人間の王子”という存在を、
この少年は当たり前のように受け入れている。
「……ありがとう、ルーア」
「どういたしまして」
ルーアが笑うと、耳がぴくりと動く。
その仕草があまりにも自然で、リクは思わず見とれた。
「そういえば、リオルには気をつけたほうがいいよ」
「リオル?」
「うん。あいつ、負けず嫌いなんだ。いつも自分が一番じゃないと気がすまない」
「……そっか」
「でも、悪いやつじゃない。ちゃんと話せば、きっと分かると思う」
リクはその言葉を胸に刻んだ。
偏見の中でも“分かり合える”という希望を捨てたくなかった。
風が二人の髪を揺らし、花びらが舞う。
リクはそっと目を閉じて呟いた。
「風って、優しいね」
「うん。俺たちをちゃんと見てるよ」
その言葉に、リクは微笑んだ。
――この学院に来てよかった。
そう思える瞬間が、確かにここにあった。
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