28 / 52
第三章
第27話 銀狼の誓い
しおりを挟む夜の回廊は冷えていた。
城壁の外を見下ろすと、月明かりが石畳を白く照らしている。
シリウスは一人、槍を壁に立てかけたまま、風の音を聞いていた。
――また同じ夢を見た。
雨の森、崩れた小屋。
濡れた髪を撫でる指、震える声。
「離れたくない」と言ったのは、確かに自分だった。
そして、王子の手が自分の頬に触れた。
その温もりが今も消えない。
(あの夜を、なかったことにはできない)
けれど、忘れなければならない。
騎士として。
王に仕える者として。
王子の護衛は、一歩でも線を越えてはいけない。
それが分かっていたのに――
あの瞬間、自分は“誓い”よりも“想い”を選んでしまった。
胸の奥が痛む。
痛みは罰のように静かで、長い。
執務室の前で、父王ライネルの声がした。
「シリウス、入れ」
「はっ」
中に入ると、王は机の前に立っていた。
「リクが無事に帰ってきたとき、お前が血まみれだったと聞いた。
よく守った。――だが」
「……陛下」
「王子の護衛である以上、過剰な情を持つな」
シリウスは息を詰めた。
「陛下、それは――」
「わかっている。お前が誠実な男であることも。
だが、リクにとってお前は守る壁でなければならん」
言葉が刃のように胸に刺さる。
頭を下げ、静かに答える。
「肝に銘じます」
部屋を出ると、手が冷たくなっていた。
――やはり、これでいい。
距離を置くことが、彼のためになる。
夜、執務の合間に届けた短剣の修理品。
それを机に置いた時、手が少しだけ震えた。
手紙を書く筆先が滲む。
“感謝”という言葉を選んだのは、
本当は“愛している”と書きたかったから。
(あの夜を、王子が後悔しないように)
(自分は、彼の心を乱す存在であってはいけない)
封を閉じた瞬間、心の奥で何かが崩れた。
でもそれでいい。
これが、王家に仕える者の“銀狼の誓い”だ。
シリウスは立ち上がり、窓を開けた。
冷たい風が頬を打つ。
その痛みが、まだ生きている証のように感じられた。
「……リク」
名を呼ぶ声は風に消えた。
胸の奥で、焦がすような想いだけが残った。
94
あなたにおすすめの小説
魔王を倒した勇者の凱旋に、親友の俺だけが行かなかった理由
スノウマン(ユッキー)
BL
スラム育ちの少年二人は、15歳になり神の祝福でスキルを得た事で道をたがえる。彼らはやがて青年となり、片方は魔王討伐に旅立つ勇者として華々しい活躍をし、もう片方はただ彼の帰還を待つ相変わらずスラム暮らしの存在となる。
これは何も持たない青年がただ勇者の帰りを待つ日常を描いた作品です。
無自覚両片想いの勇者×親友。
読了後、もう一度だけ読み直して頂けると何か見える世界が変わるかもしれません。
完結·氷の宰相の寝かしつけ係に任命されました
禅
BL
幼い頃から心に穴が空いたような虚無感があった亮。
その穴を埋めた子を探しながら、寂しさから逃げるようにボイス配信をする日々。
そんなある日、亮は突然異世界に召喚された。
その目的は――――――
異世界召喚された青年が美貌の宰相の寝かしつけをする話
※小説家になろうにも掲載中
過労死で異世界転生したら、勇者の魂を持つ僕が魔王の城で目覚めた。なぜか「魂の半身」と呼ばれ異常なまでに溺愛されてる件
水凪しおん
BL
ブラック企業で過労死した俺、雪斗(ユキト)が次に目覚めたのは、なんと異世界の魔王の城だった。
赤ん坊の姿で転生した俺は、自分がこの世界を滅ぼす魔王を討つための「勇者の魂」を持つと知る。
目の前にいるのは、冷酷非情と噂の魔王ゼノン。
「ああ、終わった……食べられるんだ」
絶望する俺を前に、しかし魔王はうっとりと目を細め、こう囁いた。
「ようやく会えた、我が魂の半身よ」
それから始まったのは、地獄のような日々――ではなく、至れり尽くせりの甘やかし生活!?
最高級の食事、ふわふわの寝具、傅役(もりやく)までつけられ、魔王自らが甲斐甲斐しくお菓子を食べさせてくる始末。
この溺愛は、俺を油断させて力を奪うための罠に違いない!
そう信じて疑わない俺の勘違いをよそに、魔王の独占欲と愛情はどんどんエスカレートしていき……。
永い孤独を生きてきた最強魔王と、自己肯定感ゼロの元社畜勇者。
敵対するはずの運命が交わる時、世界を揺るがす壮大な愛の物語が始まる。
呪われた辺境伯は、異世界転生者を手放さない
波崎 亨璃
BL
ーーー呪われた辺境伯に捕まったのは、俺の方だった。
異世界に迷い込んだ駆真は「呪われた辺境伯」と呼ばれるレオニスの領地に落ちてしまう。
強すぎる魔力のせいで、人を近づけることができないレオニス。
彼に触れれば衰弱し、最悪の場合、命を落とす。
しかしカルマだけはなぜかその影響を一切受けなかった。その事実に気づいたレオニスは次第にカルマを手放さなくなっていく。
「俺に触れられるのは、お前だけだ」
呪いよりも重い執着と孤独から始まる、救済BL。
となります。
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします
み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。
★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★
銀狼様とのスローライフ
八百屋 成美
BL
激務に心身を病み、逃げるように田舎へ移り住んだ佐伯湊。
ある雨の日、彼は庭先で銀色に輝く巨大な狼を拾う。
それは、人間に追われ傷ついた神獣、リュカだった。
傷の手当てをきっかけに、湊の家に居座ることになったリュカ。
尊大で俺様な態度とは裏腹に、彼は湊が作ったご飯を美味しそうに食べ、寒い夜にはその温かい毛並みで湊を包み込んでくれる。
孤独だった湊の心は、リュカの無償の愛によって次第に満たされていく。
しかし、平穏な日々は長くは続かなかった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる