《完結済》獣人王国の四男に生まれましたが、何故か人間でめちゃくちゃ愛されてます!?

MITARASI_

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第四章

第35話 銀狼の沈黙

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 式典の準備が始まっていた。
 王城の中庭には花が飾られ、
 兵士たちの動きにも張り詰めた緊張が漂っている。

 シリウスは警備の指揮にあたっていた。
 冷静に、正確に、いつも通りの声で指示を出す。
 誰も、彼の心の奥を知る者はいない。

 ――本来、これが理想の在り方だった。

 忠誠に私情を挟まぬ騎士。
 主を守る盾。
 それ以外の何者でもないはずだった。

 だが、視界の端に見える。

 中庭の噴水。
 リク王子がエルミナ嬢と並んで話している姿。
 柔らかく笑う彼の顔。
 その隣でうさぎの耳が楽しそうに揺れる。

 ――微笑ましい光景だ、と言い聞かせた。

 (国も、民も、陛下も安心する。
  この婚約こそ、誰もが望んだ“正しい形”。)

 それなのに、胸の奥がざわめく。
 どうしても、目を逸らせなかった。



 式典のリハーサル後。
 エルミナが王子に向けて小さく頭を下げた。
 「ではまた明日、お会いできますね」
 「うん。ありがとう、今日は楽しかった」

 その笑顔を見た瞬間、
 シリウスは息を止めた。
 あの笑みは、自分だけが知っていると思っていた。
 誰にも見せたことのない、
 あの嵐の夜のあとに向けられた、温かい微笑み。

 ――違う。そんなはずはない。

 彼は目を伏せ、胸の奥の痛みを押し殺した。

 「王子」
 「ん?」
 「本日の行程はこれで終了です。
  どうぞお休みください」
 「うん……ありがとう、シリウス」

 リクの声が優しく響く。
 その一言で、張り詰めていた理性が少し揺れた。

 (ありがとう、か……)

 その言葉を何度も心の中で繰り返す。
 “護衛として”の礼。
 それだけのはずなのに、
 どうしてこんなにも胸が苦しいのだろう。



 夜。
 シリウスは兵舎の一室で鎧を外していた。
 月光が差し込む窓辺に腰を下ろし、
 額を手で押さえる。

 「……このままでは、駄目だな」

 低く呟いた声が、誰もいない部屋に響いた。

 “あの夜”からどれだけ時が経っても、
 リクの面影が消えない。
 声を聞くだけで、胸が波打つ。
 触れたいという衝動を抑えるたびに、
 自分が“騎士”であることを確認してきた。

 だが――

 (あの方が誰かの隣で笑うたびに、
  私はそれを喜べる自信がない。)

 静かに目を閉じる。
 心の奥で小さな声が囁く。

 ――それでも、護ることをやめるな。

 騎士としての誓いと、
 ひとりの男としての願い。
 どちらも消せずに、
 彼は夜風の中でただ立ち尽くした。
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