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第四章
第36話 夢の残響
しおりを挟む夜明け前。
リクは静かな寝息の中で、夢を見ていた。
見たことのない街並み。
石畳ではなく、灰色の舗道。
鉄の箱が走り、
空を切るような奇妙な音。
(――ここ、どこだろう)
胸の奥がざわつく。
知っているようで、思い出せない。
そして、そこにいた。
黒いコートを羽織った青年。
銀ではなく、灰がかった髪。
耳も尻尾もない。
けれど、その瞳だけは――間違えようがなかった。
「……シリウス?」
青年は振り向いた。
少し驚いたように、
それから静かに微笑んだ。
「リク……じゃないな。君は――」
言葉の途中で、世界が歪んだ。
強い風。車の音。
街の灯りが遠ざかっていく。
リクは伸ばした手を掴めなかった。
声を出そうとした瞬間、光が弾けた。
「――っ!」
目を開けると、天井が見えた。
心臓が早鐘のように打っている。
夜明けの光がカーテンの隙間から差し込んでいた。
「夢……だったの?」
額の汗を拭う。
呼吸を整えようとしても、胸が苦しい。
今のはただの夢じゃない。
はっきりと覚えている。
街の匂い、風の音、
そして――あの声。
(耳も、尻尾も、なかった……)
けれど、確かに“彼”だった。
シリウスの声、
シリウスの目。
リクはベッドの上で膝を抱えた。
胸の奥がざわざわと痛い。
――あの世界を、知っている。
幼いころ、転生してからすぐに薄れていった前世の記憶。
それが、まるで誰かに呼ばれたように甦った。
(僕と、シリウス……前にも、どこかで?)
考えれば考えるほど、胸が熱くなる。
あの夢の中の彼は、
この世界の“銀狼”ではなく、
まるで“僕と同じ人間”だった。
風が窓を揺らす。
夜が明けていく。
でもリクの心は、まだ夢の中に取り残されていた。
――彼は、いったい誰なんだろう。
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