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I
第1話「僕の彼氏」
しおりを挟む佐伯陸は、恋人の高瀬匠と並んで歩きながら、胸の奥が少しだけ落ち着かないのを感じていた。
放課後の駅前。
すれ違う制服姿の高校生たちが楽しそうに笑い合う中、隣にいる匠は相変わらず無表情でスマホをいじっている。
――彼氏、なんだよね。
自分にそう言い聞かせるように、陸はそっと匠の袖をつまんだ。
「ねえ、今日楽しかった?」
「……別に」
画面から目を離さずに返された短い答えに、心臓がひゅっと縮む。
匠はそういう人だ。
不器用で、優しさを言葉にできない。
分かっている。分かっているのに――不安が拭えない。
「匠って、全然『好き』って言ってくれないよな」
小声でつぶやくと、返ってきたのはまた「別に」という淡々とした声。
陸は笑ってごまかす。けれど、胸の奥に小さな棘が残る。
そのとき、後ろから明るい声が飛んできた。
「おーい、陸!」
振り向くと、幼なじみの桐生颯馬が自転車を押しながら駆け寄ってくる。
日に焼けた笑顔は、子どもの頃から何も変わっていない。
「また一緒に帰ってんのか。仲いいな」
冗談めかして言う颯馬に、陸は照れ隠しのように笑った。
匠は表情を変えず、ちらりと視線をよこすだけ。
――どうしてだろう。
隣にいてくれるのに、遠い。
笑いかけても、手を伸ばしても、届かない気がする。
陸の胸の奥に、不安という名の影がじわりと広がっていった。
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