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14話、アメリ視点

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「リッドさん、ごめんなさい⋯⋯私のせいで……」

 戦いから逃げ、アメリは懺悔の言葉をぽつりと零す。彼女は魔物を相手に歯が立たないのを知っていた。

 それでも、人を見捨てることを彼女は出来なかった。その結果リッドに迷惑をかけてしまったことを彼女は今、後悔していた。

「早く、早くしなきゃリッドさんが……」

 今すぐにでもリッドを助けに行きたいという気持ちがあるが、今行ったところでリッドのお荷物にしかならないことを彼女は理解している。

 魔物と一度切り結んだだけで彼女の腕は痺れ、しばらくは使い物にならない。それ程までに、アメリと魔物には明確に力の差がある。

「私が、もっと強ければ……」

 アメリは自身の震える手を見ながら歯ぎしりをした。今、アメリの心中では悲しさと悔しさが渦巻いていた。悔しさは自分が強くならないこと、悲しさは誰かを犠牲にしてしまうかもしれないということだった。

 そして、しばらく走ると二人の目に小さくだが街が見えた。それを見て、アメリの後ろを走る男は安堵の表情を浮かべる。
 
「ま、街だ。は、はひっ……助かった……」

 アメリの真後ろを必死に走っている男は、彼女の心中を余所に自分が助かったことに喜んでいる。それを見て、アメリは少しの苛立ちを覚えた。

 ──リッドさんが代わりに戦っているのに、この人は。

 自身の心に浮かんだ珍しい感情に首を横に振りながらアメリは前を見る。早く助けを呼びに行かなければリッドの身が危ない。

「あ、あの私、先に行きます!」

 アメリは男に一言声を掛け、助けを呼ぶ為に更に速さを上げようとした。その時だった──。

「ねぇ、ちょっと待ってよアメリちゃん」

「……え!? ど、どうかしましたか? ──痛っ!」

 男は急にアメリに近寄ってきたと思うと、腕を力一杯掴んで来た。急ごうとするアメリは男に止められたことに困惑した。

 男はアメリの痺れている方の腕を力強く握り締める。その顔には下卑た笑いが浮かんでいた。

「ねぇ、まだ行かないでよ! 少し話をしようよ? 感謝もしたいしさ!」

 男の態度はさっきまでと打って変わり、アメリに言い寄ろうとしている。明らかに下心が丸見えだ。それを純粋なアメリはわかっていない。

「は、離してください! 早く助けを呼びに行かないとリッドさんが!」

 アメリの心はリッド以外見えていなかった。彼を死地に赴かせたのはアメリだ、だから早く助けに行きたいと思うのは当たり前である。しかし、それを男は理解しない。

「あのおっさんなら何とかするんじゃね? 逃げる前にちらっと見えたけど、スカイディアのエースを倒した人でしょ?」

 アメリは愕然とした表情で男を見た。その身勝手な言動に彼女の心は冷えていく。

 ──いったい、この人は何を言っているのだろうか? 

 彼女は、男の心の内を理解出来ない。彼女と男は根本的なところが違っていた。それは、善と悪。今まで彼女は善にしか触れてこなかった経験が今、彼女を苦しめている。

「リッドさんは、貴方を助けようとしたんですよ!? それなのに、なんで!?」

 彼女は生まれて始めて声を荒げた。しかし男には何も伝わらない、むしろ綺麗な女の子に怒られたことを喜んでさえいた。

「はは、君に惚れたんだよ! ね、一緒にご飯に行こうよ!」

 男が鼻息を荒くして、アメリを引きずろうとする。その時ようやく、アメリは自分が置かれている状況に気付き、恐怖を覚える。腕を振りほどこうにも右腕は力が入らず抵抗出来ず、喚くことしか出来ない。

「嫌! 私はリッドさんのところに!」

「あー、リッドリッドうるさい! 黙れよ!」

 男が、アメリの口を塞ごうとしたとき、近くから女の声が聞こえてくる。それはアメリが最近聞いた事のある声だった。

「男なら女の子の気持ちくらい汲んでやりなさいよ。ほいっ、ファイヤーっと」

『アトラ・リット』で給仕をしている女が、炎の魔法を唱える。火種ぐらいの小さな炎は、男の服をチリチリと焦がしていく。

「──あついっ!」

 それに気付いた男はアメリから手を離し火を消そうとした。しかし、火は消えずどんどんと勢いを増していく。

「──ぎゃああああああ! 水! 水をくれぇ!!!」

 ついに、男は叫びながら街の方へと走って行ってしまった。アメリはその姿を見てから、ようやく助かったのだと実感し、一息を吐く。

「あらあら、あんな小さい火であそこまで騒ぐだなんてダサい男だわ」

 男の行く先を見ながら、従業員──カミラは笑い声をあげていた。今日はウェイトレスの恰好ではなく、魔法使いの恰好をして一端の冒険者のように見える。

「か、カミラさん……でしたっけ? 助けていただいてありがとうございます!」

「正解! 君、凄いわね! 名乗ってもいないのによく覚えたものね。お姉さん嬉しいわ!」

 アメリは助けてもらった礼をするため、カミラに頭を下げる。しかし、カミラの言葉を聞いて渋い顔へと変わっていく。今の彼女は表情の通り、苦い気持ちを抱いていた。

 ──カミラさんの事、怖い人って印象しかないんだよね……後、何だかもやもやする……なんだろう、これ?

 アメリはカミラに対して少し警戒した。その原因が何であるかはアメリにすらわかっていなかった。

「そうだ、それより急がないとリッドさんが!」

「ん? そんなに慌ててどうしたの? 話、聞こうか?」

 カミラはアメリの相談に乗ると言っている。それに対してアメリは少し逡巡したが、アドルフの場所を知っているかもしれないと思い、経緯を話始めた。

「実は、リッドさんがそこの草原で──」

「ほほう、それは楽しそうな──」

 二人の会話の末、リッドの予想とは違う方向に話が進んでいくことになるのだが、彼はそのことを知る由もなかった。

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