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『第一章』勇者召喚に巻き込まれてしまった件について。
マスターとの戦い、決着。
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「行くぞ、坊主! そらぁっ!」
マスターは小振りの剣を俺に向かって投げつけてくる。それを俺は左右のステップで回避した。
目にも止まらぬ速さで飛来した剣は、地面を大きく抉り取る。
「おっさん、それ当たったら俺死ぬけど……捕まえにきたんじゃないの?」
俺はマスターへ挑発気味に言葉を投げかけてみる。それで少しでも攻撃の手が緩むなら儲けものだ。
「だれがおっさんだ! 坊主が逃げるなら殺すに決まってるだろ。あの鳥が来たら逃げられかねないしな」
どうやらマスターはネロの事を警戒しているようだ。ギルドの惨状を見ればネロがどれだけの力を持っているかこの人なら把握できるんだろうな。
「どうした、足が止まっているぞ!」
俺が考えたその一瞬で、マスターの姿が消える。そのスピードは想定内だ!
『レイ! おっさんの位置を常に教えてくれ!』
俺は上空にレイを配置していた。先程の索敵もレイはこなしてくれた。それに、能力で姿を消していれば常にレーダー替わりになるはずだ。
『お兄様、左!』
剣を拾いに行くと思い後ろを警戒していたせいで、一瞬反応が遅れてしまう。そちらへと視線を向けると、マスターの攻撃態勢はもう完了している。俺は咄嗟に左手の甲をそちらへと向ける。
「うらぁ!」
「ぐっ!」
俺は手甲でマスターの拳を受ける。それと共に腕から嫌な音がした。それもそうだろう。地面を抉る程の力を持った怪物が俺を殴ったのだ、こうなるのも当然の事。
「ぎぃっ!」
生まれて初めて感じる痛みに俺の喉から変な声が上がり、額からは嫌な汗が出てくる。
『ゼロ! 俺に憑依をしろ! 痛みをカット!』
『無茶だ、兄貴! そんなのやったことない!』
俺の無茶ぶりにゼロが非難の声を上げる。その声に俺は自分の言った言葉を認識した。
(違う、俺は何を言っているんだ)
ゼロの使いどころはここじゃない。痛みによって自分の立てた作戦を全部パーにするところだった。『超回復』で死ななければ大丈夫と思っていたのはどこの誰だ。なら痛みくらい飲み込みやがれ!
音を上げてしまいそうな自分を奮い立たせた。左手には力が入らない。でも、これも織り込み済み。無傷で勝てるとは思っていない。
『すまないゼロ、今のは無しだ。お前への指令は、あのおっさんが動きを止めた瞬間、おっさんに憑依してくれ』
『動きを止める? どうやって?』
『大丈夫だ、もう見えてる』
「何笑ってんだ、坊主?」
俺の口はいつの間にか口角を上げていた。戦いをすることへ高揚感を覚え始めている。
「さて……な!」
守ってばかりじゃ勝ち目はない。俺はマスターへと攻撃をしに行く。
「『ストライク』!」
「おせぇ!」
俺の渾身の一撃は呆気なく回避される。やっぱり身体能力の差はどうしようもない。
「くそっ! これが当たれば勝てるのに!」
ブラフをばら撒いておく。これに引っかかれば楽なんだけどな。
「嘘つけ」
バレていた。さすがに演技が棒すぎたか。
「坊主、どうした。お前の本気で来ないと死ぬぞ?」
「おっさん、バトルジャンキーかよ」
戦いの最中に俺との会話を楽しむくらいだ。実力の差がありすぎる。
「あー、仕方ない……これを使うか……」
俺は、頭の中で獣の印を解き放つ。辺りを黒いオーラが包み始め、俺の右手は黒く染まり始めた。
これは、ゼロを完全に従える時に使った技だ。これが何なのか俺にもよくわかっていない。わかることは魔王に連なる能力ということだけだった。
(スキル欄にも乗ってないんだよな、これ)
そもそも魔物支配のスキルも謎だ。魔物を支配する能力じゃなくて、支配した後の事しか書いてないんだよな。
「ようやく本性を見せてきたか。いいぞ、そうでなくちゃ!」
「はは、俺のこの姿を見たいだなんて、おっさん、あんた相当変わり者だよ!」
完全に黒く染まった右手を相手に突き出し、それっぽく言葉と表情を選ぶ。やっていることは完全に演劇である。
さぁ、マスターは俺の能力を確かめにくるだろう。そこに勝機がある。最後までやり抜こう。
「変わり者で結構、では改めて……ハジ・ゲイロード。行かせてもらう! 『オーバーロード』!!!」
スキル名を叫んだマスターの身体から大量の気が漏れ出した。それは、辺りの家を吹き飛ばす。荒れ狂う竜巻、それが見たままの感想だ。
(あ、これ想定よりやばっ……)
そう考えた瞬間、竜巻は迫り俺の身体は地面からおさらばする。当たり前だ、自然に人間が勝てるはずがない。
全身に激痛が走り、意識を失いそうになる。多分、ほとんどの骨が折れるか粉砕しているのだろうな。それでもまだ駄目だ、この瞬間を逃すな。
『お兄様!』
『兄貴!』
ゼロとレイ、二人の声が俺の脳内に響く。俺は大丈夫だ。だから、これで終わりにする。
『かげ、そう、さ』
俺はかろうじて、声を出し影を動かす。俺は今、マスターの上を飛んでいる。なら俺の影はマスターを全て覆っているはずだ。
『マル、チ、スキル』
影を操作しながら、もう一つのスキルを使うためにマルチスキルを挟み込む。これが俺の切り札だ。
『こ……く……う』
最後の力を使い、マスターに虚空を使う。それが、俺の考えた勝利方法。
マスターを倒す為じゃない。マスターをここから消すのが俺の作戦だった。
「な、なんだこれは!?」
影がマスターにまとわりつき飲み込んでいくのが見えた。しかし、影の飲み込む速度はそれ程早くない。下手すればマスターに逃げられてしまう。
『ゼ⋯⋯ロ⋯⋯』
『兄貴、後は任せろ!』
俺は最後の詰めをゼロに託した。はは、魔王なのに人ひとり倒せないなんてな。
「それ、でも……俺の……勝ちだ」
「ぐわああああああああ!!!」
マスターの絶叫が聞こえてくる。今、ゼロが内部からマスターへの思考へと攻撃を加えているのだろう。
(着地、しなきゃ⋯⋯)
しかし、頭も身体も動かない。マスターを倒すのに全てを使い切ったからか、今の俺の状況では何も出来ない。このままじゃ地面に墜落するのがオチ。
(死ぬ⋯⋯な、これ⋯⋯)
「お兄様!」
レイの声が耳元で聞こえる。ごめんな、せっかく仲間になってもらったのに……
「仕方ないな~ご主人様は~」
そんな声が聞こえたと思うと、俺の身体はふわりと何か柔らかなモノに包まれる。
(だれ、だ……)
暖かく柔らかいモノに包まれながら、俺の意識はゆっくりと闇に落ちていった。
マスターは小振りの剣を俺に向かって投げつけてくる。それを俺は左右のステップで回避した。
目にも止まらぬ速さで飛来した剣は、地面を大きく抉り取る。
「おっさん、それ当たったら俺死ぬけど……捕まえにきたんじゃないの?」
俺はマスターへ挑発気味に言葉を投げかけてみる。それで少しでも攻撃の手が緩むなら儲けものだ。
「だれがおっさんだ! 坊主が逃げるなら殺すに決まってるだろ。あの鳥が来たら逃げられかねないしな」
どうやらマスターはネロの事を警戒しているようだ。ギルドの惨状を見ればネロがどれだけの力を持っているかこの人なら把握できるんだろうな。
「どうした、足が止まっているぞ!」
俺が考えたその一瞬で、マスターの姿が消える。そのスピードは想定内だ!
『レイ! おっさんの位置を常に教えてくれ!』
俺は上空にレイを配置していた。先程の索敵もレイはこなしてくれた。それに、能力で姿を消していれば常にレーダー替わりになるはずだ。
『お兄様、左!』
剣を拾いに行くと思い後ろを警戒していたせいで、一瞬反応が遅れてしまう。そちらへと視線を向けると、マスターの攻撃態勢はもう完了している。俺は咄嗟に左手の甲をそちらへと向ける。
「うらぁ!」
「ぐっ!」
俺は手甲でマスターの拳を受ける。それと共に腕から嫌な音がした。それもそうだろう。地面を抉る程の力を持った怪物が俺を殴ったのだ、こうなるのも当然の事。
「ぎぃっ!」
生まれて初めて感じる痛みに俺の喉から変な声が上がり、額からは嫌な汗が出てくる。
『ゼロ! 俺に憑依をしろ! 痛みをカット!』
『無茶だ、兄貴! そんなのやったことない!』
俺の無茶ぶりにゼロが非難の声を上げる。その声に俺は自分の言った言葉を認識した。
(違う、俺は何を言っているんだ)
ゼロの使いどころはここじゃない。痛みによって自分の立てた作戦を全部パーにするところだった。『超回復』で死ななければ大丈夫と思っていたのはどこの誰だ。なら痛みくらい飲み込みやがれ!
音を上げてしまいそうな自分を奮い立たせた。左手には力が入らない。でも、これも織り込み済み。無傷で勝てるとは思っていない。
『すまないゼロ、今のは無しだ。お前への指令は、あのおっさんが動きを止めた瞬間、おっさんに憑依してくれ』
『動きを止める? どうやって?』
『大丈夫だ、もう見えてる』
「何笑ってんだ、坊主?」
俺の口はいつの間にか口角を上げていた。戦いをすることへ高揚感を覚え始めている。
「さて……な!」
守ってばかりじゃ勝ち目はない。俺はマスターへと攻撃をしに行く。
「『ストライク』!」
「おせぇ!」
俺の渾身の一撃は呆気なく回避される。やっぱり身体能力の差はどうしようもない。
「くそっ! これが当たれば勝てるのに!」
ブラフをばら撒いておく。これに引っかかれば楽なんだけどな。
「嘘つけ」
バレていた。さすがに演技が棒すぎたか。
「坊主、どうした。お前の本気で来ないと死ぬぞ?」
「おっさん、バトルジャンキーかよ」
戦いの最中に俺との会話を楽しむくらいだ。実力の差がありすぎる。
「あー、仕方ない……これを使うか……」
俺は、頭の中で獣の印を解き放つ。辺りを黒いオーラが包み始め、俺の右手は黒く染まり始めた。
これは、ゼロを完全に従える時に使った技だ。これが何なのか俺にもよくわかっていない。わかることは魔王に連なる能力ということだけだった。
(スキル欄にも乗ってないんだよな、これ)
そもそも魔物支配のスキルも謎だ。魔物を支配する能力じゃなくて、支配した後の事しか書いてないんだよな。
「ようやく本性を見せてきたか。いいぞ、そうでなくちゃ!」
「はは、俺のこの姿を見たいだなんて、おっさん、あんた相当変わり者だよ!」
完全に黒く染まった右手を相手に突き出し、それっぽく言葉と表情を選ぶ。やっていることは完全に演劇である。
さぁ、マスターは俺の能力を確かめにくるだろう。そこに勝機がある。最後までやり抜こう。
「変わり者で結構、では改めて……ハジ・ゲイロード。行かせてもらう! 『オーバーロード』!!!」
スキル名を叫んだマスターの身体から大量の気が漏れ出した。それは、辺りの家を吹き飛ばす。荒れ狂う竜巻、それが見たままの感想だ。
(あ、これ想定よりやばっ……)
そう考えた瞬間、竜巻は迫り俺の身体は地面からおさらばする。当たり前だ、自然に人間が勝てるはずがない。
全身に激痛が走り、意識を失いそうになる。多分、ほとんどの骨が折れるか粉砕しているのだろうな。それでもまだ駄目だ、この瞬間を逃すな。
『お兄様!』
『兄貴!』
ゼロとレイ、二人の声が俺の脳内に響く。俺は大丈夫だ。だから、これで終わりにする。
『かげ、そう、さ』
俺はかろうじて、声を出し影を動かす。俺は今、マスターの上を飛んでいる。なら俺の影はマスターを全て覆っているはずだ。
『マル、チ、スキル』
影を操作しながら、もう一つのスキルを使うためにマルチスキルを挟み込む。これが俺の切り札だ。
『こ……く……う』
最後の力を使い、マスターに虚空を使う。それが、俺の考えた勝利方法。
マスターを倒す為じゃない。マスターをここから消すのが俺の作戦だった。
「な、なんだこれは!?」
影がマスターにまとわりつき飲み込んでいくのが見えた。しかし、影の飲み込む速度はそれ程早くない。下手すればマスターに逃げられてしまう。
『ゼ⋯⋯ロ⋯⋯』
『兄貴、後は任せろ!』
俺は最後の詰めをゼロに託した。はは、魔王なのに人ひとり倒せないなんてな。
「それ、でも……俺の……勝ちだ」
「ぐわああああああああ!!!」
マスターの絶叫が聞こえてくる。今、ゼロが内部からマスターへの思考へと攻撃を加えているのだろう。
(着地、しなきゃ⋯⋯)
しかし、頭も身体も動かない。マスターを倒すのに全てを使い切ったからか、今の俺の状況では何も出来ない。このままじゃ地面に墜落するのがオチ。
(死ぬ⋯⋯な、これ⋯⋯)
「お兄様!」
レイの声が耳元で聞こえる。ごめんな、せっかく仲間になってもらったのに……
「仕方ないな~ご主人様は~」
そんな声が聞こえたと思うと、俺の身体はふわりと何か柔らかなモノに包まれる。
(だれ、だ……)
暖かく柔らかいモノに包まれながら、俺の意識はゆっくりと闇に落ちていった。
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